第439回:8月に雪上をテストドライブ!?
アストンマーティン・オン・アイスに参加して
2017.09.16
エディターから一言
紳士淑女ぞろいのオーナーに交じって、塩見 智がニュージーランドの雪上で最新のアストンマーティン各車の限界性能をテスト。ドリフトが決まれば気分はもう“007”!?
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君のはどのモデル?
アストンマーティン・ラゴンダ社が2016年に始めた「アストンマーティン・オン・アイス」が2017年も開催された。真冬のニュージーランドの雪上にアストンマーティンの現行モデルを集め、世界各地から集結したアストンオーナーたちが、各モデルの高い運動性能を引き出すプログラムを楽しむイベントだ。今回、幸運にもメディア枠で参加できるというので、8月にもかかわらずスーツケースにフリースウエアやダウンジャケットを詰め込んで成田空港をたった。
ニュージーランド南島・南部のクイーンズタウンという街に到着。リゾート地で、この季節はスキーを楽しむ観光客でにぎわっている。アストンマーティン・オン・アイスが開かれるのは「サザン・ヘミスフェリカル・プルービング・グラウンド(SHPG)」。広大(感覚的にはひと山)でフラットな雪上面や氷上面に加え、雪上ハンドリングトラックや雪上サークルなど、全部で16のテストエリアが備わる。6~9月に雪上、氷上での走行テストが実施できる場所は北半球には存在しないため、毎年この時期、多くの自動車メーカーやタイヤメーカーが走行実験を実施する場所だ。
前夜祭。他の参加者から合言葉のように「君のはどのモデル?」と聞かれる。つまりオーナー同志の会話のとっかかりとしてどのアストンマーティンを持っているのかを尋ねられているわけだ。その度に「Actually I'm~(実は、私は……)」とメディアであることを説明するのがやや切ない。私が参加した日はオーストラリアやシンガポールなど、近隣国のオーナーたちが参加する日だった。国籍、民族的にどうあれ、アストンオーナーは落ち着いた紳士ばかり(同伴の奥さま方もしかり)でギラついた感じがない。けれど普段はアンダーステートメントなアストン各モデルがひと皮むけば(ドライバーが望めば)どう猛な走りを見せるように、彼らもここぞという時には攻めの経営で知られる人たちなのだろうか……と関係ないことを考えながら、翌日の走行に思いをはせた。
緊張よりも楽しさが上回る
試乗当日。だだっ広くフラットな圧雪路面に並べられた「ヴァンキッシュS」「ラピードS」「ヴァンテージ」、そして「DB11」の姿は壮観だ。『007 ダイ・アナザー・デイ』でピアース・ブロスナン演じるジェームズ・ボンドが駆るかつての「ヴァンキッシュ」が「ジャガーXKR」と繰り広げたバトルを思い出す。が、われわれは悪党と戦っているわけではないので、インストラクターの指示にしたがってパイロンスラロームなどをこなす。すべてのアストンにスパイクタイヤが装着されていた。そのほとんどはウインタータイヤの「ピレリ・ソットゼロ」だったのだが、スタッフが独自にスパイクを1輪あたり300個ほど打ち込んでいた。鬼グリップなのかなと想像していたがさにあらず。氷上では最新のスタッドレスタイヤよりややグリップするかなという程度。ほどよくグリップしてほどよく滑り、けっこうしっかり止まる。氷上を楽しく安全に走らせるにはベストかもしれない。
走行はまずヴァンキッシュSから。シートベルトを締め、シート位置を合わせ、アンチスピンデバイスの類いをオフ(にできるものはすべてオフ)にしてから特徴的なスイッチ式のATセレクターでDを押す。オーナーを対象としたプログラムのため、長々と基礎的な内容をこなしてからお楽しみというわけではなく、ほとんど最初からドリフトアングルを保つプログラムだ。最高出力588psのV12エンジンを搭載するスーパースポーツでの氷上ドリフト練習に最初こそ緊張するのだが、徐々にヴァンキッシュSを思い通りにコントロールできるようになると、緊張よりも楽しさが上回り、自然と笑顔になる。
どうしてこんなにコントローラブルで意のままに扱えるのか考えてみたが、当然といえば当然で、ドライバーをシビアな領域へ連れていくハイパフォーマンスカーこそ、コントローラブルでなければ危険だ。高い限界域でこそミスが許されない。この後に乗った他のモデルも、総じて操作に対し忠実な挙動を味わうことができた。物理の原則として、低ミュー路でのクルマの振る舞いは、そうなるスピードが違うだけで、ドライ路面でも同じ挙動となってあらわれる。アストンの低ミュー路面での扱いやすさは、間接的にドライ路面をハイペースで走らせた場合の扱いやすさを証明している。
500psを大きく超えるハイパフォーマンスカーのなかには、パワーを効率よく路面に伝えるべく4WDを選ぶブランドも少なくないが、アストンマーティンは少なくとも現時点では4WDに興味を示していない。FRにこだわる姿勢はしばしば古典的とされる。が、今回氷上でアストンマーティンを振り回してみて、古典的というよりもただ基本性能が高いのだと気付かされた。車体中心に近いフロントミドにエンジンを置くFRは総合的に考えると最も運転しやすいと思う。
日本で開催される日も遠くない!?
レースを戦うならまた違った選択肢もあるのだろうが、どのレベルのドライバーであっても安心してハイペースで走らせ、曲げたいように曲げられるのはFRなのだろう。いや長年ルマンのGTクラスでアストンマーティンと「シボレー・コルベット」が優勝争いを繰り広げていることを考えれば、レースであってもFRに理があるのではないか。ラピードSでの8の字スラロームを褒められたから言っているわけではない。ドライ路面ではおいそれとは確かめられない、アストンマーティンの限界付近での挙動を、氷上で安全に楽しく確かめられ、純粋に感銘を受けたのだ。
翌日。山を降りると8月でも快適な気温と天候のクイーンズタウン。宿泊したミルブルックリゾートは周囲にいくつものコースが広がる、というよりもコース内にあるホテルなので、ゴルフをしてもよかったのだが、日本でできないことをしようと市街を散策することにした。地元のアカルアワインを飲み、チーズを食べ、地元アーティストの小さな美術館を訪れたり、街のシンボルであるワカティプ湖を眺めたり。優雅な時間を過ごした。
さまざまなブランドのオーナー向け走行イベントにもいろいろあって、サーキットで数日間にわたってひたすら走行するイベントもあれば、グランドツーリングを展開するイベントもある。アストンマーティン・オン・アイスは“走行”と“観光”と“食事を通じた他のオーナーとの交流”の、どれかがメインで残りがサブということではなく、それらすべてをひっくるめてひとつの体験として味わうことができ、この旅こそがアストンマーティンでのカーライフのメインイベントとなるようプログラムされているような気がした。同伴者でも楽しめるイベントという言い方もできるかもしれない。アストンマーティンはニュージーランド以外での開催も検討しており、日本もその候補だという。期待しているオーナーは日本にも海外にも少なくないはずだ。
(文=塩見 智/写真=アストンマーティン/編集=藤沢 勝)

塩見 智
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