第182回:細かいことは忘れよう!
2020.06.30 カーマニア人間国宝への道希代の名車に異変アリ
現行「マツダ・ロードスター」といえば、世界に誇る希代の名車。「希代の名車」という称号は、通常は絶版後に与えられるものですが、ロードスターには生前に授与したい! いや誕生と同時に授与させていただきました!
そのロードスターも、誕生からはや5年。その間、何度かマイナーチェンジを受けました。
実は、昨年暮れの地味なマイチェンで、サスペンションのフィーリングが大きく変わったと感じております。マツダのリリースには、一切記述はないのですが……。
ロードスターといえば、ソフトすぎるほどよく動く足のおかげで、そこらを流すだけで姿勢変化を楽しむことができるという、この低速交通時代に超絶マッチしたスポーツカーだった。特に初期型の「S」は笑っちゃうくらいソフトで、それでいてバランスが取れていた。サーキットでは、あまりの姿勢変化のデカさにビビったけど、それでもバランスは崩れない。公道を流して楽しむには、ノーマルのロードスターSが世界最高と思っておりました。
2017年暮れのマイチェンでは、リアサスの改良を受け、足は多少硬められ、ロールが若干抑えられた。それによって完成度はさらに高められたと感じたのであります。
ところが2019年暮れのマイチェン後は、明らかに足が突っ張るようになって、あのたおやかなロールは姿を消し、ゼブラ舗装のような路面の凹凸で、車体がズゴゴンゴンと跳ねるようになったのであります。
その時乗ったのはSの6ATなのですが、足がハードになった分、ステアリングの初期応答がシャープになり、むやみやたらに向きが変わる。ところが全体のバランスが取れてないので、簡単にリアが滑って車両安定化装置が介入しまくり!
完全無欠だった希代の傑作が、いったいどうなってしまったんだ!? 機会があったらもう一度確認しなきゃ! と思ってました。
そのロードスターにリベンジ試乗。今回はS(6MT)をベースにした「シルバートップ」という特別仕様車(すでに受注終了)です。
DB11に勝る美しさ
実車を前にして、ちょっと息をのんだ。う~ん、メチャメチャカッコいい……。ロードスターのデザインはもともと世界最高峰だけど、新色のポリメタルグレーメタリックとシルバートップの組み合わせが、あまりにもシックでオシャレさん。まさに大人のダンディズム!
走りだすと、やっぱり足はかなり硬くて、路面からの突き上げがかなりクル。決してガチガチじゃないんだけど、バネはそのままでダンパーだけが妙に突っ張ってるような。
首都高に乗り入れて、いつものレインボーブリッジ往復コースを走ってみると、カーブで狙い通りのラインが取りづらい。ステアリングがシャープなクルマは大好きなんだけど、このロードスターはどこか心技体がバラバラで、ピタッとはまらない。ちょっとした路面の凹凸で姿勢が乱れて進路も乱れ、その修正も決まらない。「初期で突っ張るけど絶対的にはソフトな足」のせいだろうか? すべての操作が、悪いほうに出やすいと申しましょうか。このクルマ、狙い通りに走らせるのがムズカシイ……。
あんなに完全無欠だったロードスターを、なぜこんな風にしてしまったんだ! 最近のマツダはどこかおかしい。「マツダ3」も足がヤケに突っ張って、カーマニアの高すぎる期待を裏切ったけど、ロードスターも道連れか!
ただ、聖地・辰巳PAに止めて眺めれば、シブすぎるボディーカラーのせいもあり、ロードスターが「アストンマーティンDB11」に見えてきた。いや、アストンより美しい……。
私は、世界の現行モデルの中で、デザインナンバー1がロードスターで、ナンバー2がDB11だと思っているのですが、今回の試乗車はボディーカラーが妙にアストンっぽいので、「300万円で3000万円に勝利!」感も高まる。
しかもロードスターは、幌(ほろ)を閉じたデザインのほうが、オープンよりもバランスが良くて美しいことを再認識。ああ、なんというデザインの完成度。やっぱりロードスターはあまりにも素晴らしい!
ロードスターに見る崩しの美学
ただ走りに関しては、何がどうなったのかいまひとつわからず、夜になってもう一度、首都高に出撃してみた。
すると、今度は「そんなに悪くないかも」と感じ始めたのです。
確かに足は突っ張るけれど、それほど大きな問題じゃない。あまりにも完璧に出来上がっていたロードスターという偶像を、多少崩されたのが我慢できなかっただけかもしれぬ。狙ったラインをトレースするのは、以前より難しいけれど、これまた逆の見方をすれば、その分チャレンジングで、やることがあるともいえる。
実は2017年末のマイチェンモデルは、渡辺敏史氏とオッサン2名で仲良く試乗して、「あまりにも完成度が高すぎて、やることがない」「清楚(せいそ)すぎて、夜の首都高に出撃したいという男汁が出ない」といった難クセをつけたのでした。
でもこのロードスターは、完成度がイマイチ。つまり、あの時の注文通りともいえる。
エンジンサウンドもステキになっている。3000rpm以上では「コワ~~~ン」という心地よいサウンドが響いて、少しだけフェラーリっぽい。これなら夜の首都高に出撃したくなる。実際いま出撃してるし。
結局のところ、ロードスター シルバートップを駆り、6MTを駆使して首都高を流せば、「これ以上のスポーツカーは、この世に必要ないかもしれない」という思いがもたげるのでした。
今回のマイチェンについて、マツダ広報に一応確認したところ、足の仕様変更はなく、ロードスターのSは「原点回帰を端的に表現したエントリーモデル」との公式回答でした。何かは変わってると思うけどまぁいいや、細かいことは忘れよう!
(文と写真=清水草一/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。