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フランクフルトショー2017で見た
“EVシフト”の実情と行方

2017.09.18 デイリーコラム 鈴木 ケンイチ

わずか2年で変わった潮目

2017年のフランクフルトショーが9月12日に開幕した。今年は、プレスデーの2日だけでなく、トレードデーの9月14日も居残って、3日かけてショーを見て回った。

取材2日目の朝、宿泊先のホテルにて手にした日経新聞の朝刊には、「EV(電気自動車)シフト鮮明」というフランクフルトショーの速報が掲載されていた。なるほど、確かに今回のショーでは、めぼしい自動車メーカーのほとんどがEVコンセプトを用意した。メルセデス・ベンツはコンパクトハッチバックの「EQA」、BMWはスポーティーな「iビジョンダイナミクス」、アウディはレベル5自動運転車の「アイコン」、フォルクスワーゲンは上海でデビューした「I.D.CROZZ」の進化版にあたる「I.D.CROZZ II」だ。また、日本勢でいえばホンダがハッチバックの「アーバンEVコンセプト」を出品。また、ルノーも完全自動運転車「SYMBIOZ(シンビオズ)」を持ち込んだ。会場のどこを歩いても、EVだらけという雰囲気だった。

しかし、忘れてはならないのは、ドイツ勢は、ほんの2年前までEVシフトに慎重だったこと。先にEVに手をつけたのは、日産と三菱自動車だ。三菱は2009年に「i-MiEV」、日産は2010年に「リーフ」というEVをリリースしている。ドイツ勢では唯一、BMWが2013年に「i3」を発売。しかし、迅速に動いた自動車メーカーはそこまでだった。

日系メーカーを見ても、いくつかのコンセプトやリース販売の限定車を除けば、トヨタやホンダも正式なEVのリリースはいまだ実現していない。しかしドイツ勢はさらに腰が重く、「環境対策はディーゼルで。次のステップはマイルドハイブリッドの48V。EVはまだまだ先」というスタンスであった。ちなみにマイルドハイブリッドの48Vシステムは、スズキの「S-エネチャージ」と同様に、オルタネーターを発電だけでなく加速アシストにも使うというアイデア。二次電池などの電圧を48Vにすることで、スズキの12Vのシステムよりも高効率を期待できるというものだ。

フランクフルトショー2017でメルセデスが世界初公開した、電気自動車のコンセプトモデル「コンセプトEQA」。
フランクフルトショー2017でメルセデスが世界初公開した、電気自動車のコンセプトモデル「コンセプトEQA」。拡大

充実していた“EV以外”の展示

ところが、2年前のフランクフルトショーの直後に、フォルクスワーゲンのディーゼル不正が発覚。翌年のパリモーターショー2016では、突如としてフォルクスワーゲンとメルセデス・ベンツがEVシフトを表明する。その後、あちこちの政府から「将来はガソリンエンジン車の販売を禁止」との声明が出、結果として今年のフランクフルトでは、ほとんどのブランドがEV積極派へのくら替えを鮮明にした。パタパタパタと、オセロで一気に黒が白に変わるような形勢逆転劇が目の前で展開したのだ。ちなみに、日系の慎重派だったホンダがEVコンセプトを出品したことで、ビッグネームの中では唯一、トヨタだけがEV慎重派に残されてしまった。

しかし、それでも今回のフランクフルトショーは“EVシフトが鮮明化した”だけのショーではなかった。魅力的な内燃機関の新型モデルが、数多くデビューしたショーでもあったのだ。フォルクスワーゲンからは、コンパクトクロスオーバーの「T-ROC」が登場。欧州だけでなく、アメリカや日本、アジアでも人気の出そうなモデルだ。ドイツ勢のEV急先鋒(せんぽう)であるBMWは、3列シートを持つ「コンセプトX7」をはじめ、「コンセプトZ4」「コンセプト8シリーズ」など大量の“ワールドプレミア”を持ち込んだ。メルセデス・ベンツも、ピックアップトラックの「Xクラス」に、「Sクラス クーペ/カブリオレ」の改良モデルを発表。つまり、EVコンセプトだけではなく、しっかりとビジネスになる内燃機関のクルマも用意されていたのだ。

一方で、サプライヤーのブースを見て回ると、「電動化」「コネクテッド化」「自動運転」の3つをテーマにした最新技術が数多く展示されていた。こうした次世代技術はもちろんEVシフトの土台となるものだが、そのほとんどは「明日には量産可能」というより「今、こんなアイデアがあって、量産に向けて準備している」というものだ。さらには、先述のマイルドハイブリッドの48Vシステムに関する展示もあちこちで見かけた。普通に車両に搭載するというだけでなく、自転車やバイクなどに流用するというアイデアで、電動ターボとの統合というものもある。急激なEVシフトが喧伝(けんでん)される一方で、48Vシステムも捨てられることなく、進化発展が期待されているのだ。

“ワールドプレミア”(世界初公開)の大量投入で大いに沸いたBMWだが、市販化を示唆するモデルのほとんどは内燃機関車だった。
“ワールドプレミア”(世界初公開)の大量投入で大いに沸いたBMWだが、市販化を示唆するモデルのほとんどは内燃機関車だった。拡大

過熱報道を利用するぐらいのしたたかさを

こうした展示から感じ取れるのは、EVシフトの鮮明化は正しいのだが、現在はそのシフトが始まったばかりで、完了はまだまだ先だろうということだ。

考えてみれば、日産リーフや三菱i-MiEVがデビューした2009年前後の日本も、ブームのようにEVへの期待が高まった。しかし2017年現在の日本におけるEVの普及は、まだまだ限定的だ。国土が狭く、都市化の進んでいる日本は、どちらかといえばEVに向いている。インフラの整備も進んでいるし、街でEVを見かけるのも珍しくなくなった。しかし、それでもEVが少数派であることは否めない。それを考えれば、いきなり欧州でEVがブレイクするとは考えにくい。日本と同じように、欧州でも普及はじわじわと進んでいくのではないだろうか。

ただし、ひとつ感心したのはドイツ勢のブランディングのうまさだ。EVへのシフトに際して、メルセデス・ベンツは「EQ」、フォルクスワーゲンは「I.D.」、BMWは「i」という専用のブランドを打ち立てたが、これは従来の内燃機関車とは別物であることをアピールする良い手だと思う。もちろんお金も手間もかかるが、最終的には、かけたコスト以上のものが返ってくるだろう。

日系メーカーは、それなりに高いEV技術力を備えていると思うが、こうしたブランディング戦略が依然として苦手である。「良いモノさえ作れば売れる」というほど、世の中は甘くない。今回のフランクフルトショーの“EVシフト鮮明”という過熱報道に、日系ブランドは乗り遅れた感がある。なんとか、もう少し上手にアピールをしてほしいと願うばかりだ。

(文=鈴木ケンイチ/編集=堀田剛資)

電動パワートレインに特化したブランドとして「BMW i」を擁するBMW。こうした取り組みは、今後欧州メーカーの間で広がっていくと思われる。
電動パワートレインに特化したブランドとして「BMW i」を擁するBMW。こうした取り組みは、今後欧州メーカーの間で広がっていくと思われる。拡大
鈴木 ケンイチ

鈴木 ケンイチ

1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。

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