ランボルギーニ・ウラカン ペルフォルマンテ(4WD/7AT)
完全無欠のスーパースポーツ 2017.10.10 試乗記 「ランボルギーニ・ウラカン」シリーズの頂点に君臨する「ウラカン ペルフォルマンテ」。640psまで強化された5.2リッターV10自然吸気エンジンをはじめ、エアロダイナミクスや軽量化など、同社が誇る数々の先進技術が投入された“完全無欠のウラカン”の走りを、富士スピードウェイで試した。ピークパワーが640psへ
イタリアンクラシコを地で行く「アヴェンタドールS」に対して、最新の「ウラカン クーペ」をさらにスープアップしたペルフォルマンテは、非の打ちどころのない極めてスマートなスーパースポーツに仕上がっていた。筆者はワインの銘柄に詳しくないのだが、たとえるならそれは、前者がどっしりとしたフルボディーの赤ワインで、後者が爽やかかつ飲めば確実に酔っ払ってしまう上等なスプマンテやプロセッコといった感じだろうか?
車名のペルフォルマンテとは英語でいう“パフォーマンス”の意味である。「アウディR8」とコンポーネンツを同じくするその成り立ちは、カーボンファイバーとアルミを用いたハイブリッドシャシーに、5204ccの排気量を持つV型10気筒を搭載するミドシップ4WDという構成をとる。
そのネーミングが示す通り、エンジンはベースモデルであるウラカン クーペの610ps/560Nmから、一気に640ps/600Nmにまで高められた。これはエンジン内部のパーツを軽量化して排気圧損失を見直すことによって達成されたというが、この時代において大排気量の自然吸気エンジンをさらに性能向上させたことには、アヴェンタドールSともども本当に驚かされる。
しかしながら、このペルフォルマンテに乗ってうならされたのは、エンジンというよりもむしろこれだけのエンジンパワーをまるっと飲み込んでしまうシャシーの方だった。特に空力性能によるスタビリティーの向上幅はすさまじく、今のランボルギーニにとってエアロダイナミクスの投入、およびその強化がトレンドであることがよくわかる。
エアロベクタリングを採用
その要となるのがALA(エアロダイナミカ・ランボルギーニ・アッティーヴァ)と名付けられた電子制御式の空力制御だ。これはボディーの前後に仕込まれた可変フラップを制御することで、適宜必要なダウンフォースを得るシステムだが、ことのほか感動的だったのは車体後部の空力デバイスである。
主翼上面にステーを取り付けることで、下面の面積を稼ぐスワンネックタイプのリアウイングはフォージドコンポジット製で、なんと中空構造になっている。そしてここにエンジンルームから導いた空気を通し、ウイングを可変させることなくダウンフォースをコントロールしてしまうのである。
具体的にはストレートでその空気孔を開き、下面の空気を剥離(はくり)させてダウンフォースを減少、ストレートスピードを向上させる。逆にコーナーではこれを閉じ、ダウンフォースを増加させるだけでなく、必要によってはイン側のみフラップを閉じて、内輪接地まで上げてしまうというのである!
ちなみにリアバンパーの制御はF1でいうところの「ブロウンディフューザー」と同じ効果がある。またウイング制御は「Fダクト」を通り越して先鋭化された。そしてランボルギーニはこれを「エアロベクタリング」と呼んだのである!
感激的なダウンフォース
すごい。すごすぎる。外乱要素に左右される空力性能を、市販車にこれほど積極利用するのもどうなのか。その是非は正直、計りかねるのだが、ともかくこれらはレーシングカー直系の技術であり、「カーブで高いダウンフォースを得て、ストレートで空気抵抗を減らす」ことはエンジニアの理想だった。これなら世界のGTレースで、ウラカン ペルフォルマンテは無敵じゃないか!
ただそれは早合点というものである。こうした電子制御デバイスは、競争激化を防ぐためにレースでは禁止されている。つまりこの空力性能は、今のところランボルギーニオーナーにだけ許された特権ということになる。
果たしてその走りは、現在のランボルギーニを象徴するかのようだった。低回転ではドスの利いたマルチシリンダーサウンドをバラバラとまき散らすV10ユニット。アクセルを踏み込んで高回転まで引っ張れば、そのトーンはきれいにそろう。7段DCT(デュアルクラッチトランスミッション)の変速はシングルクラッチを用いるアヴェンタドールSのやんちゃさがまるでうそであるかのようにスムーズで、変速するたびに力強く伸びていく車速に、ただただ感激しながらパドルを引いていける。
もっとも、富士スピードウェイの1コーナーやBコーナーシケインでのフル制動に対しややリアがふらつくのはアヴェンタドールと同じ傾向のようで、これさえなくなれば完璧だと思う。しかし垂直方向に10%、ロール方向に15%その剛性を高めたにすぎないサスペンションのスプリング、およびスタビライザーはしなやかに動作し、こともなげにペルフォルマンテの向きをクイッ! と曲げてしまう。
これぞランボルギーニの走り!
富士スピードウェイのメインストレートでは、パナソニックアーチでアクセルを閉じたにもかかわらず、ストレートでの終速は270km/hを超えた。また、先導車から許されなかったので100Rコーナーでこそ試せなかったが、セクター3ではそのミドシップらしいヨー旋回モーメントの発生の素早さと、ホイールベースや4WD、そしてエアロベクタリングがもたらす安定性によって、高いレベルのニュートラルステアが味わえた。
タイヤ依存度がかなり高いのは事実だが、これだけのパフォーマンスを発揮するスーパースポーツならそれも当然のことだ。逆に市販タイヤでこれほどのグリップを、そして柔和な過渡特性を実現したピレリとランボルギーニには、もはや感嘆するしかない。
その駆動トルク配分や出力特性を段階制御するドライビングモード切り替え機構のANIMA(アニマ)は、これまで「スポーツ」がオーバーステア的で、「コルサ」がタイムアタック基調の弱アンダーセッティングとされてきたが、ペルフォルマンテではコルサでも微妙な領域のコントロール幅があって、集中するほどにドライビングを堪能できた。これこそが、空力性能を主軸としたシャシー性能向上の成果なのだろう。
ここまでシャシー性能が高まると、前述したエンジンマウントや足まわりも、もっとソリッドにして運動性能を高めたくなってしまうのは事実。しかしそれは今後のお楽しみなのかもしれないし、少なくとも現状ペルフォルマンテの走りは、ランボルギーニのフィロソフィーを最も反映した一台となっていた。
それは極めて快適で、速く、刺激と快楽に満ちたスーパースポーツだ。その勇ましい姿も含めて、その“パフォーマンス”は十二分に発揮できていると思う。
(文=山田弘樹/写真=田村 弥/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
ランボルギーニ・ウラカン ペルフォルマンテ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4506×1924×1165mm
ホイールベース:2620mm
車重:1382kg(乾燥重量)
駆動方式:4WD
エンジン:5.2リッターV10 DOHC 40バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:640ps(470kW)/8000rpm
最大トルク:600Nm(61.2kgm)/6500rpm
タイヤ:(前)245/30ZR20 90Y/(後)305/30ZR20 103Y(ピレリPゼロ コルサ)
燃費:13.7リッター/100km(約7.3km/リッター 欧州複合モード)
価格:3416万9904円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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