スバルBRZ STI Sport(FR/6MT)/レガシィB4リミテッド(4WD/CVT)
六連星のアイデンティティー 2017.10.25 試乗記 より走りに磨きをかけた「BRZ」の新グレード「STI Sport」と、このほどマイナーチェンジを受けた旗艦車種「レガシィ アウトバック/B4」。スバルの2つの最新モデルには、走りの方向性は違えど、このメーカーならではの確かなアイデンティティーが感じられた。舞台はまっさらな新設テストコース
スバルがこのたびジャーナリストおよびメディアを対象に、「スバル テックツアー」と称して大規模なイベントを開催した。
そのメニューを簡単に説明すると、スバルの研究実験センターである「美深テストコース」までのおよそ2時間をマイナーチェンジした「レヴォーグSTI Sport」で走り、試乗車の乗り味と長距離移動に際しての「アイサイト・ツーリングアシスト」の利便性を体感。現地ではテストコースの見学と、今回の主題であるレガシィのマイナーチェンジ仕様およびBRZ STI Sportの試乗を行った。
ちなみに、この美深試験場はこれから加速するであろう高度運転支援技術のためにテストコースが刷新されており、今年の11月から運用が開始される。それをいち早くわれわれに公開するあたりにも、スバルの意気込みがうかがえた。
さて、肝心な2車種のテストドライブは、テストコースのメイン周回路(約4km)を使って行われた。この周回路は合流箇所を除けばどのコーナーも125R以上と極めて緩やかな高速コーナーで構成されており、そのまま速度を乗せていけば、かなりの速度レンジを試すことができる。
しかし許された周回はたったの2周だったので、フラットアウトしてしまえば行程もあっという間。というわけで正直消化不良な感は否めないのだが、なにせ当日はチャーターバス3台ものメディアが押し寄せるという状況だったのでやむを得まい。ここは予選アタックのつもりで見極めてやろう! と、筆者もちょっとだけ気を引き締めた。
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キモはさらなるリニアリティーの向上
最初に乗り込んだのはスポーツモデルであるBRZ。STI Sportとしての改良ポイントは、昨年のビッグマイナーで磨きがかかったベースモデルにさらなるリニアリティーを与えることが目的で、スバルは「誰がどこで乗っても気持ち良く、ドライバーの意のままに動き」、さらに「運転がうまくなるクルマ」とこれを説明していた。その位置づけは「GT」の上位となり、実質カタログモデルの最上位グレードとなる。また“走行性能順”としては、300台の限定車である「tS」よりもライトな仕様になるという。
STI Sportを名乗るに当たって追加された装備は「フレキシブルVバー」と「フレキシブルドロースティフナー」の2点。いずれもtSに用いられるパーツであり、STIとしても単独販売しているものである。
前者はアッパーマウントに付けられる「フロントアッパーサスペンショントーカウルブレース」(要するにアッパーマウントの支持剛性を上げるプレートだ)を起点に、バルクヘッド方向へとハの字に伸びたバーで、操舵時に生じるエンジンコンパートメントのねじれを抑制し、ヨー応答性や横G発生の時間を短縮するのがその狙いとなっている。またそれぞれのバーにはピロボールが挟み込まれ、これが振動を受け流すことで雑味のないハンドリングを実現しているという。
後者はボディーとフロントのクロスメンバーを斜めにつなぐロッドで、最初からテンションをかけておく(プリロードする)ことで、やはり操舵に対する応答遅れを低減する。ちなみに、このパーツを装着するにあたり、車体側には専用の取り付けマウントが追加されているとのことだった。
さらに、このSTI Sportに限らずBRZ全車を対象に、フロントではトーボードの「V貫通穴」が形状変更され、リアバルクヘッドの板厚も増やされた。
また、内外装ではフロントグリルにSTIバッジ、フロントフェンダーオーナメントにもSTIプレートを装備。インテリアではメーターがSTI仕様となり、セミバケットタイプのシートはヘッドレストおよびサポート部分がボルドーカラーの本革仕様となっている。
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若々しく、ハツラツとしている
「トヨタ86」での言い方に倣えば“後期型”にあたるBRZに剛性部材を増強したSTI Sportは、ひとことで表せば若々しくハツラツとした乗り味だった。操舵レスポンスは確かに素早く、しかしその乗り心地にカドがないのはイマドキな感じ。そしてこれを勢いよく切り返しても、素早くヨーモーメントを反転させることができる。その際、リアタイヤがスキール音さえ発さず、急激な入力に対してもきちんと接地性を確保できていたのは、リアセクションの剛性をアップした効果だろう。
そしてここに、前回のマイナーチェンジで気持ち良く吹け上がるようになった自然吸気のボクサーエンジンと、コクコクと決まる6段MTの操作性が加わるのだから(試乗車にはATもあったが)、その第一印象はすこぶる良好であった。
コースには途中2カ所のジャンピングスポットがあったが、ここでもBRZは上手に四肢を伸ばしてくれた。よって2度目の通過以降は自信をもってアクセルを踏み込むことができたのだが、着地(といってもジャンプはしていないと思うが)でサスペンションが急激に圧縮された時のアライメント変化の少なさと、瞬間的に衝撃を減衰し、すぐさままっすぐ駆け抜けてくれたそのボディーバランスには、スバルならではのタフネスさが感じられた。
コーナリング時に気になる“反発感”
もちろん気になる部分もある。全体的な車体剛性は確かに上がっており、その目標通りにステア応答性も高まっている。しかし入力に対するその反応に、ゲインがやや高すぎるように感じたのも事実。よって筆者はこれを、“若々しい”と表現した。
引っ張り方向の強度を積極的に使うことで、細いロッドでも高い効果を発揮するドロースティフナーだが、それゆえにGTベースの足まわりには、やや入力が“瞬発的”すぎるのではないか。ジワーッと荷重を掛けるのではなく、ピン! と押したり引っ張ったりしているように感じるのである。
操舵に対するタイヤのキャパシティーは保たれており、なおかつレスポンスが高まったのだから「何が悪いの?」と言われるかもしれない。しかし長く横Gが掛かるような高速コーナーでの操舵感には、タイヤに一定の荷重をかけ続けられない感触が少しだけあり、限界の高さばかりが目立つのである。
この反発感はもしかしたら、装着タイヤである「ミシュラン・パイロットスポーツ4」の特性も関係しているのかもしれない。限定車であるtSではこうした印象は持たなかったことから、タイヤと足まわりの両方でこれを合わせ込めば、もっと穏やかな手応えを与えられるのではないか? と思うのだが、これについてはもう少しきちんと試乗してから結論づけることとしよう。第一印象では、86の方がどちらかというと老練で、今回のSTI Sportを含め、BRZの方が目指すものがヤング(死語ですな……)だと感じた。
さすがはスバルのフラッグシップ
一方レガシィB4は、スバルのフラグシップを名乗るにふさわしい、包容力のある乗り味が魅力的だった。渡された資料には「サスペンションのチューニング」として極めて簡素な内容しか書かれていなかったが、これまでレガシィに感じていた車体慣性マスの大きさや、ロール時の応答性の鈍さ、ひいてはいかにも「北米好み」な、そのふんわりと大味な乗り心地が変わったと感じた。
資料のイメージグラフを見ると、従来型に対してマイナーチェンジ版は、一定横Gにおける時間に対するロール角の発生および増加が緩やかになっている。最大ロール角は最終的に両者で一致するから、これはスプリングレートを上げたのではなく、ダンパー減衰力を高めたことでロールスピードをコントロールしたのだろう。
結果として、テストコースの高いGに対しても急激にサスペンションが底づきしたり、車体がぐらついたりすることもなく、高い速度域で快適に走らせることができた。また、一番曲率が小さなコーナーではフロントタイヤからスキール音こそ発生したが、その接地性の変化は穏やかで、音程は高め安定。タイヤが限界を迎えつつも、乗り手側としては安心していられた。
新世代シャシーに頼らずとも
こうした減衰特性を得ながらも、ダンパーのフリクションは従来型より低減させることができたようだが、乗り心地に関しては試乗路が極めてフラットで、ほんの一部がザラついた低級路舗装となっていただけだったので判断できなかった。
またそのハンドリング応答性がリニアになった理由には、電動パワーステアリングの改良も効果を発揮しているようだ。
加えて、新型「インプレッサ」と同様に、リニアトロニックのチェーンピッチもショート化されており、確かにパーシャルスロットル時におけるアクセルレスポンスも自然だった。そして全開時においても、CVT特有のラバーバンドフィールを強く意識することはなかった。
こうした走りの磨き上げに対して、外観面ではフロントグリルにエンブレムから伸びる太めのホリゾンタルラインが追加され、フォグランプ周りのデザインもこれまでのシンプルなものから、少しゴツめの今時なものに変更された。それが空力的に効果を発揮しているのかどうかは定かではないが、これで確かにB4はより若返り、アウトバックはSUVテイストをより高めることができたと思う。
これはレヴォーグのときにも感じたことだが、たとえ新型プラットフォームを用いずとも、今のスバルはそのハンドリングと乗り心地を極めてすっきりとまとめることができていると思う。きっとスバルの開発陣は、その動的質感の向上に、何らかのアイデンティティーとなるテイストをつかんでいるのだろう。実に短い試乗ではあったが、BRZの若々しさとレガシィの豊潤さ、その両方にスバルらしさがきっちりと練り込まれていることがわかった。
(文=山田弘樹/写真=スバル/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
スバルBRZ STI Sport
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4240×1775×1320mm
ホイールベース:2570mm
車重:1250kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:207ps(152kW)/7000rpm
最大トルク:212Nm(21.6kgm)/6400-6800rpm
タイヤ:(前)215/40R18 85Y/(後)215/40R18 85Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:11.8km/リッター(JC08モード)
価格:353万1600円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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スバル・レガシィB4リミテッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4800×1840×1500mm
ホイールベース:2750mm
車重:1540kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:175ps(129kW)/5800rpm
最大トルク:235Nm(24.0kgm)/4000rpm
タイヤ:(前)225/50R18 95W/(後)225/50R18 95W(ダンロップSP SPORT MAXX 050)
燃費:14.8km/リッター(JC08モード)
価格:324万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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