BMW X3 xDrive 30d(4WD/8AT)/X3 M40i(4WD/8AT)
“上質”が詰まっている 2017.11.09 試乗記 BMWのミドルサイズSUV「X3」がフルモデルチェンジ。キープコンセプトの見た目とは裏腹に、3代目となる新型は注目すべき新機軸にあふれていた。ポルトガル・リスボンからのリポート。ボディーサイズはわずかに大型化
一見した限りでは、「コンサバそのもの」というのが正直な印象。が、そんなエクステリアとは裏腹に、実は骨格まで完全に刷新されているのが、2003年に発表された初代モデルから数えて3代目、2017年9月のフランクフルトモーターショーでベールを脱いだ新しいX3だ。
前述のように、従来型から「あまり代わり映えしないナ」というのは、目にした多くの人に共通する印象でもあるはず。全長とホイールベースはわずかに伸びたものの、ほんの10mm拡幅されて全高は不変……と、そのサイズも大きく変わっていない。
ただし、SUVの特徴でもある見下ろし感をより強調したいという意図から、「フロントシートの前後の搭載位置は従来同様とした一方、着座点はやや高くレイアウトした」というのが、国際試乗会で同席した、担当エンジニア氏から聞いたコメント。
狭隘(きょうあい)路でのすれ違いや並列駐車の機会が多い日本での使い勝手を考えれば、あと1cmで1.9mに届く全幅は、個人的には“過大”ともいいたくなるもの。昨今、コンパクトSUVを名乗る輸入モデルの多くがこの程度の幅で出そろいつつあるが、実は販売サイドからは「車庫証明が取得できない立体駐車場が少なくなく、売りづらい……」といったハナシも漏れ伝わってくる。
一方で、全長×全幅が4910×1940mmという兄貴分の「X5」に比べれば、これでも随分と“平和的な大きさ”と感じられるのもまた事実。
ということで、ここまで便宜上「SUV」という表記を用いてきたが、BMWではこのカテゴリーに“Sport Activity Vehicle”、すなわち「SAV」なる記号を用いているのは相変わらずだ。
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“BMWの良心”を感じる操作系
一方、一見しただけでフルモデルチェンジのご利益(?)を実感させられるのが、グンとモダンで先進的、かつ全体の質感も大きく向上したインテリア。最新BMW車の流儀にのっとって、丁寧につくり込まれたこの部分は、新型X3のひとつの“見せ場”でもある。
「ジェスチャーコントロール」を筆頭に「これまでは『7シリーズ』や『5シリーズ』にのみ装備されていた」とされるインフォテインメントシステムの採用は、率直なところ「クルマにここまで多くのコンテンツが必要なのか」と、個人的にはどうしてもそんな思いが拭いきれない。しかし、昨今はこうした分野もライバルたちとの重要な競争ポイントとあらば、もはや“やるしかない”というのは理解できる。
少なくとも、そんな多機能の多くを、昨今流行の「スマホライク」なタッチ式だけでなく、操作時の画面注視が不要な「iドライブコントローラー」で扱うことができるように設計されているのは、安全面からも“BMWの良心”だと解釈したい。
後席使用時の550リッターから、40:20:40に分割可倒できる後席のシートバックをアレンジした際には、最大で1600リッターにまで拡大可能なラゲッジスペースを含め、そのパッケージングは大人4人がそれぞれ相当な量の荷物を持ち込んで、長時間を過ごすにも不満のないもの。
ちなみにX3は、現時点ではすべての車両が従来型同様にアメリカ工場製。「2018年からはそこに中国工場と南アフリカ工場製も加わる予定」と発表されたが、少なくとも今回テストドライブを行ったモデルに、“ヨーロッパ製ではないこと”に由来する懸念を感じさせる仕上がり部分は、一切見当たらなかったことを付け加えておきたい。
プレミアムなディーゼルモデルの30d
国際試乗会の基点となった、ポルトガルはリスボン郊外のホテルに用意されたテスト車両は、最高出力265psを発生する3リッター直列6気筒ディーゼルエンジンを搭載した「xDrive 30d」と、シリーズトップの360psを発生する3リッター直列6気筒ガソリンエンジンを搭載し、「X3で初めての『Mパフォーマンス』モデル」と紹介される「M40i」の2タイプ。ちなみに、すべてのエンジンはターボ付きで、いずれも8段ステップATと組み合わされる。
まずステアリングを握ったのは30d。ただし、今回のプログラムではM40iがオンロード、30dがオフロードと基本的に走行可能なルートが指定済み。残念ながら30dでオンロードの走りを試せたのは、特設されたオフロードコースの入り口までのごくわずかな“リエゾン区間”に限られた。
それゆえに当初から神経を集中(?)させてテストしてみると、なかなかの好印象が得られた。乗り味はしなやか、かつ、バネ下の動きも予想以上に軽快。さらに、特筆レベルで小さなロードノイズを筆頭に、静粛性も予想と期待以上だった。結果として、従来型とは比べ物にならないほど上質な走りのテイストを味わわせてくれることになったのだ。
前述の理由から、パワーパックが備えるポテンシャルを満喫するには至らなかったものの、走りだした瞬間から力強いトルク感と、6気筒ゆえの滑らかな回転フィールに、その実力の一端を垣間見ることができた。「プレミアムなディーゼルモデル」とそのキャラクターを紹介できそうな30dである。
まさしくドライバーズカーのM40i
一方、市街地からワインディングロード、そして高速走行と、オンロードでひと通りのチェックを行うことができたM40iは、「さすがのトップパフォーマー」だった。
実は、このモデルで最初に腰を下ろしたのはリアシート。加速態勢では低音が強調された排気音が耳障りだワ、オプション装着されていた「アダプティブMサスペンション」でコンフォートモードを選択しても揺すられ感が強いワ……と、正直なところ“ゲスト”として乗せられている時点での印象は、あまり好感が持てるものではなかった。
ところが、ドライバーズシートへと移動して自らステアリングを握り、アクセルペダルを踏み込んでみると、そんなネガティブな印象はたちまち霧散。0-100km/h加速が4.8秒とうたわれているとおり、加速はダイナミックそのもの。後席で気になった排気のこもり音は、こちらのポジションでは明らかに小さく、乗り味もよりフラットなテイストが濃厚に感じられた。
逆に、直6エンジンならではの緻密なフィーリングが何とも心地良く思えたのだから、BMWはやはり“ドライバーズカー”を作らせたら天下一品と教えられることになったのである。
実は、日本に導入される新型X3は、2リッターのガソリン4気筒エンジンを搭載する「20i」と、同じく4気筒ディーゼルエンジンを搭載する「20d」が主体で、今回テストドライブを行ったものとは異なる仕様が導入されるという。
が、そんな“未知”のモデルたちも、きっと作り込みや乗り味の上質さという点では共通しているはず。
見た目はちょっと地味なフルチェンジながら、中身は間違いなく最新世代へとアップデートされている……。そんな新しいX3なのである。
(文=河村康彦/写真=BMW/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
BMW X3 xDrive 30d
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4708×1891×1676mm
ホイールベース:2864mm
車重:1820kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:265ps(195kW)/4000rpm
最大トルク:620Nm(63.2kgm)/3500rpm
タイヤ:(前)245/45R20 103W /(後)245/45R20 103W(ブリヂストン・アレンザ)
燃費:6.0-5.7リッター/100km(約16.7-17.5km/リッター、欧州複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
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BMW X3 M40i
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4716×1897×1676mm
ホイールベース:2864mm
車重:1810kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:360ps(265kW)/5500-6500rpm
最大トルク:500Nm(50.1kgm)/1520-4800rpm
タイヤ:(前)245/40R21 100Y XL/(後)245/40R21 100Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:8.4-8.2リッター/100km(約11.9-12.2km/リッター、欧州複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。