アウディA8L 55 TFSIクワトロ(4WD/8AT)/A8L 60 TFSIクワトロ(4WD/8AT)
再定義された“技術による先進” 2017.11.07 試乗記 第4世代に進化したアウディのフラッグシップセダン「A8」。その内容は、量産車としては初となるレベル3の自動運転システムを導入するほか、総合的な電動化が進められた駆動システムを搭載するなど、まさにブランドスローガンの“技術による先進”を体現するものとなっている。スペイン・バレンシアで試乗した。レベル3の自動運転を導入
第4世代を迎えたアウディA8。正式デビュー前から、“レベル3”=条件付き自動運転システムやハイブリッドメタルからなるスペースフレームボディー構造、新たなインターフェイスを導入したインフォテインメントシステムなど、その技術的なハイライトが続々と明かされ、話題を集めてきた。A8は、“技術による先進”(Vorsprung durch Technik)をスローガンとするブランドのフラッグシップカーであり、それゆえ最新技術の見本市であることを義務づけられたクルマだから、当然のことであろう。
それゆえ、技術の話から始めだすと話はどうにも尽きないわけだけれども、たとえ後席重視のフラッグシップサルーンであっても、また、自動運転システムの働きぶりに注目するクルマであっても、そのドライバビリティーが肝心であることに違いはない。人間がちゃんとドライブできないクルマを“自動”にしたところで、快適な移動手段になるとは思えないからだ(少なくとも、この過渡期においては)。
それに、レベル3ができる、とメーカーが言うからには、できて当たり前というものだろう! ちなみに、日本ではまだ先の話。シフトセレクター前にあるAIボタンを使って楽しめるのは、従来通りの追従&レーンキープ支援と自動パーキング程度のものである。
というわけで、新型アウディA8のドライブフィールを確かめに、スペインはバレンシアで開催された国際試乗会に向かった。
出力に応じたグレード名を採用
港に面した会場に用意されていたのは、3グレード、すなわち「55 TFSI」「50 TDI」「60 TFSI」で、それぞれにノーマルとロングホイールベースの2ボディータイプの用意があった。ちなみにアウディは今後、グレード分けを、パワートレインの出力に応じて2桁の数字で代表させることにした。参考として、以下にグレード分けの方法を掲載しておこう。電気モーターの活用をはじめパワートレインの多様化に対応するためだ。
- 「30」=109~128ps(81~96kW)
- 「35」=147~160ps(110~120kW)
- 「40」=167~201ps(125~150kW)
- 「45」=226~248ps(169~185kW)
- 「50」=281~308ps(210~230kW)
- 「55」=328~368ps(245~275kW)
- 「60」=429~455ps(320~340kW)
- 「70」=536+ps(400+kW)
会場には「70 TFSI」、つまり6リッターW12ツインターボを積む最上級グレードも展示されていたが、4リッターV8ツインターボの60 TFSIとともに、市場への導入はもう少し後になるもよう。欧州市場ではまず、50 TDIと55 TFSIのいずれも3リッターエンジン仕様から導入された。また、日本へのA8そのものの導入も2018年半ばあたりとなりそうで、その際には55 TFSIと60 TFSIの2グレードからとなる。しばらくは、見慣れぬ2桁数字に頭が混乱しそう……。
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アクティブサスの有無でここまで変わる
筆者が試乗したグレードは、55 TFSIと60 TFSIの、いずれもロングボディーだった。
まずは60 TFSIの後席に乗り込む。460ps(338kW)の4リッターV8ツインターボを積んだ4座の贅沢(ぜいたく)仕様だ。モダンファニチャーのようなリアシートは、見栄えはもちろん、触り心地・座り心地もよく、なにより眺めが“シンプル贅沢”で、ちょっとうきうきとしてしまった。運転席の“同業”にはショーファー扱いすることを謝って、助手席を前へとずらし、その背面に備わる電動フットレストを使って、広大なレッグルームを楽しむ。マッサージも強めにフル稼働。シート角度の調整が、まるでルフトハンザ機内みたいにもどかしかったが、落ち着いてしまえばゴクラクだ。アッという間に居眠りモード。
実をいうと、この試乗車には、アクティブシステム付きのアダプティブエアサスペンションが備わっていた(日本仕様には多少遅れて、18年秋ごろに装備可能になるという)。それがおそろしく優れものだった。
もっとも、後席に座って運ばれていたときには、ただただ快適に感じていたにすぎない。驚いたのは、同じロングボディーで非アクティブサスの55 TFSIのリアシートに座ったときだった。ちなみにこちらは5座だが、リアシートそのものの座り心地に変わりはない。車体が動きだし、数十mほど走っただけで、もう降りたくなってしまったのだ! 乗り心地がまるで違う。人間、一度贅沢を知ってしまうと、わずかな差でも戻れないもの。非アクティブサスモデルのリアシートは、路面の状況をよりダイレクトに伝えてくる。ゴツゴツもするし、ガツンとくることもある。それだけならまだしも、常に微細な振動がある。それに耐えられなかった。もっとも、知らぬが仏である。乗り比べることさえなければ、ノーマルのエアサスでも十分、気持ちよかったのかもしれない。
軽さが際立つドライブフィール
肝心の、ドライバーズカーとしての評価はどうか。パワートレインに関して言えば、55 TFSIでも、さほど文句はなかった。ゼロ発進時や全開追い越し時など、“ちょっとかったるいかな”と思う瞬間もあったけれども、そういう使い方をするクルマでもないだろう。軽くアクセルを開けて、するすると力に余裕をもって前進してくれればいいし、その先の加速でも車体が意のままについてくる感覚さえあれば文句はない。さすがに60 TFSIともなれば、当たり前だけれどもパワフルで、低回転域から大きなトルクを足裏に感じることができるし、スポーツカーのように走らせることも可能だったが、正直に言って、エクストラコストを払ってまで買いたいと思わせるほどではない。
そういう意味では、アウディは正直だ。車名で言っても、55と60。さほど変わらないじゃないか!
市街地から、ワインディングロード、そして高速道路と、ひととおりのシチュエーションで試乗することができた。全域にわたって強調しておくべきは、ボディーの強さと車体の軽さを意識できること、に尽きる。アルミニウムに加えて、ハイテンやCFRP、マグネシウム合金までをも適材適所に配置した新スペースフレーム構造は、確かに新型A8の走りの根幹、よりどころであった。
ドライブモードをどれにあわせてもシチュエーションに合わせてキャラクターが変わるだけで、ステアフィールをはじめとする各ドライバビリティーは、常にドライバーの手中にあって、意のまま感が絶えることはない。引っかかりのないクリーンな軽やかさは、ボディーの大きさを忘れさせるに十分で、5分も走れば車体の動きのリズムを自分のものにできるという感覚もある。
ロングボディーであっても、リアステア(最大5度)のおかげで、長さを忘れて走っていける。重厚で懐の深い乗り味という点で「メルセデス・ベンツSクラス」に一歩及ばないし、FR独特のキレ味さわやかなハンドリングという点でも「BMW 7シリーズ」に譲るが、アウディA8には両ライバルにはない、ドライバーズカーとしての“粋な軽快さ”が備わっていた。
ちなみに、アクティブサス付きモデルのドライブフィールは、好き嫌いがハッキリ分かれそうだ。筆者は“自然なフラットライド”フィールにとても好感をもった。以前のアクティブサス採用モデルに比べて、気持ち悪く思うことがほとんどなかったからだ。フラットに徹するわけだから、違和感はもちろんあるのだけれど、人間の感覚が“ついていける”範囲の絶妙なチューニングとなっている。“新しい世界”をのぞいてみたいという方には、ぜひ、アクティブサス付きモデルを試してみてほしい。
(文=西川 淳/写真=アウディ/編集=竹下元太郎)
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テスト車のデータ
アウディA8L 55 TFSIクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5302×1945×1488mm
ホイールベース:3128mm
車重:1945kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8AT
最高出力:340ps(250kW)/5000-6400rpm
最大トルク:500Nm(51.0kgm)/1370-4500rpm
タイヤ:(前)235/55R18 104Y/(後)235/55R18 104Y
燃費:7.5リッター/100km(約13.3km/リッター、EU複合サイクル)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。