アルファ・ロメオ・ジュリア ヴェローチェ(4WD/8AT)/ジュリア スーパー(FR/8AT)
実に見事な復活劇 2017.11.20 試乗記 フィアットが50億ユーロを投資して復活させたアルファ・ロメオ。その第1弾である「ジュリア」の走りには、われわれがアルファ・ロメオと聞いて想像するものが確かにあった。これは実に見事な復活劇だ! 4WDの「ヴェローチェ」と、FRの「スーパー」に試乗した。やればできるじゃないか!!
510psを誇る「クアドリフォリオ」が見果てぬ夢のスーパーフラッグシップモデルだとしたら、このヴェローチェは、がんばれば手が届くプレミアムDセグメントセダンとでも言えるだろうか。
座った瞬間からしっくりとカラダに馴染(なじ)むシート。大きすぎず小さすぎず、まさにスポーツセダンとしてはドンピシャなサイズのステアリング。彫刻のような立体感のあるインパネと、それを取り囲む適度にタイトな室内空間。
この操作環境における“着心地”の良さは、ジュリアの運動性能そのものを表している。
……やればできるじゃないか!!
アルファ・ロメオよ、なんて素晴らしいスポーツセダンを作り上げたんだ。
今回試乗したのは、筆者がイタリアでジュリアを試乗した当時はまだその存在を知らされていなかったヴェローチェと、2リッターのベーシックモデルを18インチタイヤやウッド調のインテリアトリム等の豪華装備でグレードアップしたスーパーの2台。ここではまず皆さんに、ヴェローチェのインプレッションからお届けすることにしよう。
その名の通り「ヴェローチェ」は速い
イタリア語で「速い」を意味するヴェローチェは、文字通りジュリアのハイパワーバージョンである。エンジンはベースモデルと同じ2リッターの直列4気筒直噴ターボで、その出力は200ps/330Nmから、280ps/400Nmへと高められている。またその駆動方式はFRをベースに、アクチュエーター付きフロントデフを内蔵するアクティブトランスファーケースで前輪を駆動させる、シリーズ唯一の4WDとなっている。
ちなみにこのヴェローチェという名前は、初代「ジュリア スプリントGT」の高性能版が名乗った由緒正しきネーミング。4ドアセダンという観点から言うと、「TI」(ツーリング・インターナショナル)やスーパーが適当というファンもいると思うが、スーパーは既に豪華版の名前として使われてしまっているし、ここは単純に「速いバージョン」ということで納得するところなのだろう。
そして実際に、このヴェローチェは速い。ただしそれはクアドリフォリオのようなアドレナリンだだもれ系、思わず「タウリン3000mg配合!」と叫んでしまいたくなるような速さではなく、プレミアムDセグ・セダンと呼ぶにふさわしい、上質感を軸とした速さである。
直噴ターボとなったそのフィーリングには、残念ながら往年の名機“ツインスパーク”やV型6気筒といった自然吸気エンジンたちのような高揚感や恍惚(こうこつ)感はない。しかしながらそのブースト制御が非常に巧みなおかげで、どこから踏んでも不足ないトルクがリニアに立ち上がるのがとても気持ち良いのである。またアクセルの微妙なオン/オフに対してスナッチが起こらないのも、そのドライバビリティーを大きく高めている。
このリアサスは奥が深い
また筆者はワインディングでもこのヴェローチェを走らせたのだが、その路面に吸い付くような足さばきには、本当にほれぼれした。
アルファの可変制御システムであるDNAダイヤルを「D」(ダイナミック)に入れる。するとエンジンのレスポンスは一段俊敏になり、電動パワーステアリングは少しだけ重さを増す。サスペンションは適度にロールを規制しながらもそのダンピングに一切の硬さや抵抗感がなく、高い速度域に対してしっとりとその挙動を安定させる。
操舵に対してはフロントが俊敏にノーズを入れるというよりも、リア足を上手に伸ばしながらクルマ全体で姿勢を変えていくタイプ。そしてこのしなやかなクルマの動きに対して、エンジンが同じテイストでスピードを上乗せしていく。速さで乗り手を圧倒するのではない。どこまでも気持ち良く、そして速く、これを走らせていく。
4WDの制御がどのように働いているのかはわからない。ただ感覚的にはそのほとんどをFRで走っているのではないか? と思うほどその体さばきは自然である。
思うに一番パワフルなクアドリフォリオがFRで走れるのだから、280psのヴェローチェがそれで走れないわけがない。だからヴェローチェに4WDを用意したのは、ヨーロッパの冬を想定したからではないかと思う。ともかくこのアルファリンクと呼ばれるリアサスは、そうとうに懐が深い。
「スーパー」ぐらいがちょうどいい
これだけヴェローチェの走りが素晴らしいと、一番ベーシックなエンジンを搭載するスーパーがかすんでしまいそうだが、その心配はまったくない。
それは8段まで多段化されたATによって、常用域のほぼ全域で330Nmのトルクが引き出せるからだ。イタリアでこの2リッターターボに乗ったとき筆者は、実はそのトルクの薄さに物足りなさを感じていた。しかし1年半という歳月を経てそのマッピングに微妙な修正が施されたのか、それとも速度域が低くストップ&ゴーが多い日本の使用環境でこのエンジンのマッチングがよいのか、今回はまったくそれが感じられなかった。原因は不明だが、ともかくよいことだと思う。
そしてヴェローチェと同じくDモードに入れて走らせれば、スーパーはしっかりと期待に応えてくれる。圧倒的な加速感こそないものの、そこにはベーシックなアルファ・ロメオらしい“踏み倒す楽しみ”が残っていて、むしろこのくらいの動力性能にこそ、“らしさ”を感じるアルフィスタは多いのではないかと感じた。
フロント225幅・45偏平に対してリア255幅・40偏平の乗り味は、そのタイヤがランフラットということもあって低速だと少々コツコツ感があり、いわゆる素のジュリア(前後225/50R17)がもたらす快適な乗り心地を出し切れていないのは少しもったいない。これはスタビリティーというよりはカッコを優先した結果だと思うし、せめて前後同径にしてくれたら……と思った。とはいえ、スーパーを選ぶことで得られるレザートリムやウッド調パネルの質感は捨てがたいし、ここがグレード選びの悩みどころである。
まずは乗ってみてほしい
まとめると、ヴェローチェはいわゆるDセグメントのセダンとして素晴らしい一台に仕上がっていたと筆者は思う。ただその素晴らしさは、内装の立て付けや塗装の質感といった、日本人たちが大好きで、なおかつちょっとでもクオリティーが粗いと目くじらを立てる部分にではなく、そのほとんどが“走りの質感”に注がれているから、クルマに運転の喜びを求めない人にはもったいないかもしれない。逆を言えば、乗ってさえもらえればその良さがわかると思う。
そしてスーパーは、2番目に安価なグレードとして、何の遠慮もなく選べる素晴らしい一台だ。クアドリフォリオが夢のまた夢でも、ヴェローチェにはちょっと手が届かなくても、これ1台で十二分に愛車との幸せな時間が過ごせるはずだと筆者は思う。
それはアルファ・ロメオが、ベース車両をドーピングして上級グレードを作ったのではなく、クアドリフォリオを基軸にグレードを構成していったたまものである。
フィアットが50億ユーロを投じて復活させたアルファ・ロメオ、その第1弾は見事な結果を出したと筆者は思う。この良さが、ひとりでも多くのユーザーに伝わってほしい。
(文=山田弘樹/写真=田村 弥/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
アルファ・ロメオ・ジュリア ヴェローチェ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4655×1865×1435mm
ホイールベース:2820mm
車重:1670kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8AT
最高出力:280ps(206kW)/5250rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2250rpm
タイヤ:(前)225/45R18 91W/(後)225/45R18 91W(ピレリ・チントゥラートP7 ランフラット)
燃費:12.0km/リッター(JC08モード)
価格:597万円/テスト車=597万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
アルファ・ロメオ ジュリア スーパー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4645×1865×1435mm
ホイールベース:2820mm
車重:1590kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8AT
最高出力:200ps(147kW)/5000rpm
最大トルク:330Nm(33.7kgm)/1750rpm
タイヤ:(前)225/45R18 91W/(後)255/40R18 95W(ピレリ・チントゥラートP7 ランフラット)
燃費:13.6km/リッター(JC08モード)
価格:543万円/テスト車=543万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

山田 弘樹
モータージャーナリスト。ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。