第68回:「沁みるような走りだ」
2017.11.21 カーマニア人間国宝への道生産時の取り付けミス!?
赤い玉号の激軽ステアリングは、30年前の生産段階における、ステアリングシャフトの取り付けミスだったのかもしれない。
もちろん断定はできない。当時も今もフェラーリの新車は、かなりの距離をテスト走行した末に出荷しているので、テストドライバーがこのカルカルに気付かないはずはない……とも思うが、最初からだと考えた方がなんとなくウレシイ。
30年前のフェラーリなんてそんなもんッスよ~! だってワイン飲みながら作ってたんだから~! そう言ってみたいので。
実は、ワイン飲みながら作っていたのは、「ビトゥルボ」時代のマセラティだそうです。それを見た北方謙三先生は、「オレのマセラッティのパワーウィンドウがしょっちゅう故障するのは、コイツらのせいか!」とおっしゃったというが、フェラーリもそんなもんだった……という方が話としてオモシロイ。オモシロイと人間ハッピーになれる。じゃハッピーな方を選びましょう、いまさら誰も傷つかないし! そんな感じです!
ホント言うと、当時のフェラーリとマセラティとじゃ、品質レベルに大差があると思いますし、フェラーリの工員の皆さまが年中酔っ払ってたって話は聞いたことないですけど。
次はリフトアップだ!
とにかく、赤い玉号の激軽ステアリングは直った。しかしいまだ万全とはいえない。
帰路、東名の料金所からフル加速を試みたところ、以前よりは断然イイものの、やっぱり頼りなさは残っていた。10年前に乗っていたヨーコ様こと黒い「328GTS」のような、いつでもどこでも全開オッケー、ブッチギリだぜ~うおおおお! 感からはまだ遠い。
しかし赤い玉号はこの後、「跳ね馬を2000台直した男」にアライメント調整を行っていただく予定になっていた。それがちょうどいい具合に最後の仕上げになるはずだ。
数日後。赤い玉号は、第三京浜港北インター近くのアリアガレージ工場に向かった。
せっかく足まわりを調整するので、車高も少し上げていただくつもりである。本来328は車高調整はできないのだが、我がマシンにはいずれかの段階で車高調サスが入れられており、車高が激低いのだ。
ノーマルのフェラーリは意外と車高が高く、フェンダーとタイヤのすき間が大きめだ。よって私は、自分が乗ってきたすべてのフェラーリで、少し車高を落としてきた。前愛車の「458イタリア」も20mmほど落とし、ベストな見た目とハンドリングを得ていた(と信じる)。
が、フェラーリ歴24年にして、その心境に変化が訪れました。
少なくとも328は、ノーマルくらいの車高が上品ではないか? もうコーナリング性能なんて求めないし、ちょっと車高が高いくらいの方が、やんごとなき感じでステキじゃないか!? そんな心境になったのです。ヨボヨボ。
目指すは沁みるような走り
自分のフェラーリの車高を上げる。下げるんじゃなくわざわざ上げる! これは私にとって大革命。人間革命だ! 人間革命といえば創価学会。それは関係ありませんが、とにかく赤い玉号は、クラシックからモダンまですごいマシンで溢(あふ)れ返ったアリアガレージ工場に入庫し、『フェラーリ メカニカル・バイブル』の著者である平澤雅信氏に委ねられたのである。
平澤氏は赤い玉号の車高を見て、「これはノーマルより30mm以上低いと思います」とおっしゃった。
平澤「車高を上げるためには、スプリングのプリロードを上げないといけませんから、ちょっと乗り心地が硬くなりますけど、いいですか?」
身も心も軟弱になっている私は、「乗り心地が硬くなる」と聞いてちょっとドキドキしたが、それより見た目を重視したい! ホントはフニャフニャがいーけどガマンします! めったに乗るクルマじゃないし! 最後はタイヤを「レグノ」にするテもある!
昔々、ブリヂストンのレグノのCMに、名優ショーン・コネリーとともに328が登場していたのですよ。「308」かもしんないけど。
328だか308は、なぜかダートを激走しパーティー会場へ! 降りてくるタキシード姿のショーン。シブい声でナレーションが流れる。「沁(し)みるような走りだ……」
カックイ~~~~~!
とりあえずはダートを走れるように車高を上げよう。ダート走んないけど。んで最後はレグノで沁みるような走りにすれば良し。その方向性でいこう!
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。