ボルボXC60 T5 AWDインスクリプション(4WD/8AT)
すべての中心に人がいる 2017.12.04 試乗記 デザインはもちろん、走りにおいてもライバルとは趣を異にする新型「ボルボXC60」。シャシーのチューニングから運転席まわりのインターフェイスに至るまで、すべてが丁寧に作りこまれたこのクルマの特徴をひとことで言い表すと……。他とは一線を画す“引き算”のデザイン
小さいのから大きいのまで、スポーティーなタイプからラグジュアリーなやつまで、SUVは百花繚乱(りょうらん)。どれを選ぶか、亡くなったおばあちゃんから固く禁じられていた“迷い箸”をしてしまいそうになるけれど、この秋から日本への導入が始まったミドルクラスのSUV、ボルボXC60については、ほかのSUVと迷ったりしないのではないかと推測する。
まず、姿形が違う。「オラオラ!」とか「どけどけ!」といったマッチョな雰囲気を感じさせない、穏やかで頭の良さそうなたたずまいがこのクルマの持ち味だ。
ライバルとの差別化を図るために、各社とも押し出しを強める“盛る”方向の造形になっている。対してボルボXC60は、一歩下がった“引き算”のデザイン。
建築家の安藤忠雄さんは著書『建築手法』のなかで、北欧デザインの特徴をこんなふうにお書きになっている。
「極寒の地にある緊張感の中で、徹底した無駄を排しながらも、その光の扱い、素材のディテールと、空間造形において、常に人間的視点を中心に据えた、それらの建築のつくられ方に、強い感銘を受けた」
パッと見た印象はシンプルでありながら、じわじわと心に染みる美しさ。モンスターではなくフレンドだと感じさせる温かみ。こうしたXC60の造形を見ながら、安藤さんの一節を思い出した次第。
とはいえ、ただ引き算をしただけの造形でもない。後席ウィンドウのもうひとつ後ろ側の窓、いわゆるリアクオーターウィンドウの後端をキュッと引き上げてスポーティーさを演出したり、前後ドアの下部にサッと彫刻刀を走らせたようなラインを入れて躍動感を与えたり、細部まで気が利いている。控えめながら繊細な、趣味のいいデザインだ。
面白いのは、いざ走らせてみると、ステアリングホイールやアクセルペダルを介して感じるフィーリングが外観と共通していることだった。
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この乗り心地は特筆に値する
ボルボXC60のパワートレインのラインナップは4種類。2リッターガソリンターボの「T5」(254ps)、2リッターガソリンのツインチャージャー「T6」(320ps)、2リッターのディーゼルターボの「D4」(190ps)、そしてプラグインハイブリッドの「T8ツインエンジン」。トランスミッションはどれも8段ATと組み合わされ、日本仕様はすべてがAWDとなる。
今回試乗したのはT5の上級仕様にあたる「T5 AWDインスクリプション」で、オプションのエアサスペンション(30万円)が装着されていた。
兄貴分にあたる「XC90」と同じだという、掛け心地のいい運転席に収まる。そこから見えるインテリアのデザインは、外観と同じく「気分を高揚させる」ことを第一の目的にしていない。
流木をイメージしたというウッドの使い方や、色艶やステッチが美しく手触りがしなやかなレザーは、落ち着いた気分といいモノに囲まれる満足感を与えてくれる。
走りだしてまず感銘を受けるのが、上質なカシミヤのようにふんわり軽い乗り心地だ。ふんわり軽いと同時に、液体の上を走っているような湿り気を感じさせるところが面白い。大げさにたとえると、なぎの日に鏡のような海面を進む船のようで、「レンジローバー ヴェラール」と並んで、「乗り心地・オブ・ザ・イヤー2017」に推したい。
すでに報道されているように、XC60はXC90とはプラットフォームが同じで、コンポーネンツも共通するものが多い。昔ながらの自動車ヒエラルキーでいえば、XC60のほうが安いモデルということになるはずだ。けれども、XC60とXC90の関係は古い慣習にはのっとっていないようだ。
並盛りと大盛りの違いはあるけれど、使っている素材や調理方法は同じ。「小さい=安い」でないあたりに、ボルボというブランドの誠実さを見た気がする。
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ドライブフィールに見る丁寧な仕事ぶり
といったように街中をおしゃれに走ったり、高速道路をクルーズしたりする使い方では上品なボルボXC60であるけれど、ぴしっとムチを入れると性格が変わる。
粛々と仕事をしている2リッターのガソリンターボは、きっちり6500rpmまで回って、回転の上昇とともに力感がみなぎり、レスポンスも鋭くなってドライバーを喜ばす。ドライバーの耳を喜ばせるような音のよさには欠けるものの、逆に言えば足りないのはサウンドだけで、十分にスポーツドライビングに耐えるエンジンだ。
これはうがった見方であるけれど、スタイリングや乗り心地を体験した後だと、あえて華やかだったり派手だったりする音の演出をしなかったようにも思える。
8段ATは、穏やかに走る時は黒子に徹する一方で、ヤル気になった時には切れ味鋭く変速する。ふたつの顔を持つ男。
ふたつの顔を持っているのは足まわりも同様で、街の中ではおしとやかだったのに、山道に入ると意外とおてんば。コーナーの連続で、鮮やかに身を翻す。おてんばではあっても、じゃじゃ馬だとは感じないのは、乗り心地のよさは失われないから。育ちのいいおてんば娘で、特に「ダイナミック」モードに入れるとステアリングホイールの手応えが一段重みを増して、ロールが減って身のこなしが俊敏になる。さすがに鋭い突起状の路面の不整ではバタつくけれど、良好な乗り心地と好ハンドリングが高次元でバランスしているのは間違いない。
ボディー骨格の設計からタイヤの選定、サスペンションのセッティングまで、細部まで吟味に吟味を重ねて、トータルでまとめた丁寧な仕事っぷりが心に残る。ちなみにタイヤ銘柄はミシュランのSUV用タイヤのなかでもスポーティーな「ラティチュードスポーツ3」だった。
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人間との距離が近い
ACC(アダプティブ・クルーズコントロール)に代表される運転支援システムは、「レベル2」とか「レベル4」といった難しい話は抜きにして、「使えるレベル」から「疲労を低減してくれるレベル」へと進化していた。
加速も減速も、上手なドライバーと同レベルの滑らかさで、ただ機能するというだけでなく、安心して身を委ねることができる。だから安心だし、疲れを減らしてくれる。
車線維持支援機能の「パイロットアシスト」もそうだが、通常のACC起動時における、車線を維持するためのステアリング操作のアシストも、「ドライバーに操舵させる」と「車線から逸脱しないようにサポートする」の絶妙の案配。こちらは自動運転ではなく安全運転の補佐役ですよ、というスタンスが明確で、これはこれで誠実だという印象がある。
もうひとつ挙げると、ひとつのアクションか、多くてもふたつのアクションでACCなりの設定ができるインターフェイスのよさからも、作り手の良心が感じられる。
インターフェイスといえば、タッチスクリーン式のインフォテインメントシステムも直感で扱える、操作性に優れたもの。デザイン、使い勝手、乗り心地など、すべてにおいて人間との距離が近いのがボルボXC60の特徴で、冒頭の安藤忠雄さんの言葉を借りれば「常に人間的視点を中心に据えた」ということがひしひしと伝わってくる。
クルマが主役ではなく人間と生活が主役。そんなことをしみじみと感じさせるSUVは、ほかにランドローバーがあるくらいか。ボルボXC60のライバルになるようなSUVは少ない。
(文=サトータケシ/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ボルボXC60 T5 AWDインスクリプション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1900×1660mm
ホイールベース:2865mm
車重:1860kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:254ps(187kW)/5500rpm
最大トルク:350Nm(35.7kgm)/1500-4800rpm
タイヤ:(前)235/55R19 105V/(後)235/55R19 105V(ミシュラン・ラティチュードスポーツ3)
燃費:12.6km/リッター(JC08モード)
価格:679万円/テスト車=794万9000円
オプション装備:ボディーカラー<ブライトシルバーメタリック>(8万3000円)/チルトアップ機構付き電動パノラマガラスサンルーフ(20万6000円)/Bowers & Willkinsプレミアムサウンド・オーディオシステム<1100W/15スピーカー>サブウーファー付き(42万円)/電子制御式4輪エアサスペンション+ドライビングモード選択式FOUR-Cアクティブパフォーマンスシャシー(30万円)/テイラード・ダッシュボード(15万円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:2594km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:353.7km
使用燃料:35.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.9km/リッター(満タン法)/9.6km/リッター(車載燃費計計測値)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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