第2回:杜の都・仙台へ 東北道でIntelliSafeを試す
出しゃばらないのがボルボ 2017.12.05 徹底検証! ボルボXC60 世界で一番売れているボルボ、「XC60」が、新プラットフォームの採用でよりスタイリッシュに進化。その走りや運転支援システムの仕上がりを、杜(もり)の都・仙台へのロングドライブで確かめた。ミニマルでありながら個性あるデザイン
待ち合わせ場所にひとり佇(たたず)んでいると、最新のボルボXC60は滑るようにして私の目の前に現れた。日曜日の早朝、大手町のビル群を背景にしたシルバーのXC60は怜悧(れいり)な輝きを放っていた。
トーマス・インゲンラートが描き出した最新ボルボデザインの魅力を説明するのは、それほど難しいことではない。最小限のデザイン要素で、シンプルかつ個性的なスタイリングを描き出す。ただし、ひとつひとつのラインと面は徹底的に磨き抜かれているので、無個性に陥りがちなミニマルデザインでありながら「静謐(せいひつ)な緊張感」とでも表現したくなる独特の味わいを醸し出している。これは北欧家具などに見られるスカンジナビアンデザインと共通の手法といっていいだろう。くわえて、北欧神話に登場するトールハンマーをモチーフにしたT字ストライプをヘッドライトに埋め込むなどして、スウェーデン生まれであることも強調している。インゲンラート自身は先ごろボルボのチーフデザイナーから子会社であるポールスターの代表へと異動したが、最新の「XC90」「S90」「V90」には、いずれも彼が生み出したデザイン言語がはっきりとした形で息づいている。
それは、ここで紹介するXC60もまったく同様。しかし、XC90とXC60は、同じデザイン言語を用いていながら、XC60では軽快感や躍動感がより強く描かれている。同じデザインファミリーでも、そこで表現される世界観は大きく異なるのだ。「どのモデルをとっても同じデザイン」というプレミアムブランドにありがちなジレンマを鮮やかに乗り越えたインゲンラートの手腕は、称賛されてしかるべきだろう。
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インテリアに心が華やぐ
「スウェーデンらしさ」はインテリアデザインにも貫かれている。いや、インテリアのほうがより明確にそのコンセプトが表れているといってもいいくらいだ。
明るい色調を基本としたキャビンは、そこに身を置いただけでも心が華やぐような魅力にあふれている。流木の自然な風合いを生かした“ドリフトウッド”という名のフェイシアからもなんともいえないぬくもりを感じる。ブロンドと呼ばれるオフホワイトのナッパレザーは室内にソフトな雰囲気をくわえている。いずれも、乗員の居心地のよさを最優先にデザインされたように思えて仕方がない。
音楽好きの私にとってうれしいのが、ホームオーディオ用スピーカーで有名なBowers & Wilkinsが仕立てたプレミアムサウンドシステムが用意されていることだ。高音が美しく澄み切っているのは音のひずみが少ない証拠。おかげで、どれだけ長時間聞き続けても聞き疲れすることがないのだが、クリアなサウンドにありがちな冷たさを感じさせないのがBowers & Wilkinsの個性であると同時に大きな魅力でもある。また、固く引き締まった低音はウッドベースの音程を正確に再現できるほど質が高いもの。これだけクオリティーが優れたカーオーディオであれば通常は70~80万円はするはずだが、XC60の場合は42万円でオプション購入できる。絶対的には高額でも、その内容を考えればお買い得といって間違いない装備だ。
そんな居心地のいいXC60に乗って、東京から400kmほど離れた仙台まで1泊2日の小旅行に出掛け、ロングクルーザーとしての資質を明らかにしようというのが本企画の趣旨である。実をいうと、出発する前から心が浮き立ってしょうがなかったのだが、果たしてどんな旅になったのか。駆け足で報告させていただこう。
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運転支援システムが余裕を生む
大手町を出発したXC60は、首都高を経由して東北道に入り、北を目指した。運転支援装置が大好きな私は、東北道に入るなりアダプティブクルーズコントロールとパイロットアシストをオン。これで速度制御はクルマ任せ、引き続きステアリング操作の主体はドライバーとなるもののクルマにも助けてもらうクルージング態勢が整ったことになる。
これは皆さんも聞き飽きたことかもしれないが、現在、日本で市販されている自動運転技術はいずれもレベル2止まりで、事故が起きた際に責任はすべてドライバーが負う。クルマに搭載されたシステムは、あくまでもドライバーが運転の主導権を握っていることを前提に設計されたもので、すべての運転状況をカバーできるものではない。とはいえ、ふとした拍子に車線からはみ出しそうになると、クルマ自身がステアリングを微調整して元の車線に戻そうとしてくれるので、とても心強い。この、わずかなドライビングエラーを救ってもらえるだけでもドライバーの心には大きな余裕が生まれるし、疲労度も大幅に軽減される。とはいえ、システムの手助けで生まれた心の余裕はさらなる安全の配慮に振り分けられるべきであって、よそ見やスマホ操作に使ってはいけないことはご存じのとおり。この点は、皆さんの安全のためにもぜひ、守っていただきたいところだ。
福島県白河市の近くまできたところでランチタイムとなった。この土地で生まれた白河ラーメンがどうやら人気らしい。そこで東北道を降りて腹ごしらえ。体が温まったところでまた北を目指すことにした。
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足まわりはスポーティー
猪苗代湖周辺で撮影しようと言い出したのは、編集部Kだったか、それともカメラマンのKだったか。ふたりのイニシャルが同じで紛らわしいが、撮影前に降り始めた小粒な雪は、次第に大粒に変わっていった。これはどうやら積もりそうな気配だ。そんな路面コンディションの変化をカメラマンのKはずいぶん心配しているようだったが、私は気にもとめていなかった。XC60が履いているのはサマータイヤだから、万一雪が積もれば慎重に走る必要はあったものの、多少の雪であれば4WDゆえ立ち往生することはないだろう。実際、Kが素早く撮影を切り上げてくれたおかげで、難なく猪苗代周辺から脱出。再び東北道を北に進んでいくことができた。
XC60 T5に搭載された2リッター直4ターボエンジンは254psと350Nmを発生。1.8tほどのボディーを軽々と加速してくれる。燃費は終始10km/リッターほどだったが、前面投影面積の大きなSUVでハイウェイクルーズをするなら、決して悪い数値ではなかろう。
サスペンションはやや硬めでスポーティーなハンドリングが楽しめるが、それだけに軽いゴツゴツ感がないわけでもない。また、足まわりに大入力があったときのボディーの振動伝達も、もうちょっとダンピングが効いていたほうが快適だと思う。
でも、そんな重箱の隅をつつくような話よりも、私はXC60の居心地のいいキャビンと充実した運転支援装置を積極的に褒めたい。また、ボルボのパイロットアシストはシステムがステアリングを動かす力が強引すぎて好きになれないという声をたまに聞くが、私はシステムが動作していることが明確に感じられてむしろ好ましいと思う。この辺のドライバーとシステムのコミュニケーションは、運転の主体を人と機械が分け合うことになる今後の自動運転機能では特に重要となるはずだ。
静かに見守り、しっかり守る
目的地の仙台には夕暮れ時に到着。この日は狙いをつけていた牛タン屋さんが定休日だったため、国分町の焼き肉屋さんで腹を満たし、旅の疲れを癒やした。
翌日は仙台城址などで撮影ののち、編集部Kがどうしても食べたいと言い続けていた“はらこ飯(鮭やいくらを載せた炊き込みご飯の一種)”をランチでいただいた後、東北道を南下。夕方には難なく都内に戻ってくることができた。
なんだか食事の話題ばかりになったが、その合間にKカメラマンがバリエーション豊かな写真を撮影してくれたことは、この記事をご覧になった皆さんであればお気づきのとおり。しかも無事に旅を終えられたのだから、まったくもって文句なしというべきだ。
旅を終えたいま、思い返されるのはXC60の車内で過ごした時間がこのうえなく快適だったことと、かつての同僚でもある編集部Kと自動車と自動車メディアの未来についてアレコレと議論したことくらいか。議論といっても他愛(たあい)のない話題ばかりで、あえてここに記すほどのことはない。
「クルマの試乗記」なのにクルマ自身のことをあっさりとしか書かなかったのは、XC60が「私こそが主役」と強く訴えかけてくるタイプではないことと深い関係がある。静かに人々を見守りながら、いざというときにはしっかりと守ってくれる。それが“For Life”を身上とするボルボの神髄であり、XC60の真骨頂なのだ。
(文=大谷達也/写真=小林俊樹/編集=近藤 俊)
テスト車のデータ
ボルボXC60 T5 AWDインスクリプション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1900×1660mm
ホイールベース:2865mm
車重:1860kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:254ps(187kW)/5500rpm
最大トルク:350Nm(35.7kgm)/1500-4800rpm
タイヤ:(前)235/55R19 105V/(後)235/55R19 105V(ミシュラン・ラティチュードスポーツ3)
燃費:12.6km/リッター(JC08モード)
価格:679万円/テスト車=794万9000円
オプション装備:電子制御式4輪エアサスペンション+ドライビングモード選択式FOUR-Cアクティブパフォーマンスシャシー(30万円)/Bowers & Wilkinsプレミアムサウンドオーディオシステム<1100W、15スピーカー、サブウーハー付き>(42万円)/チルトアップ機構付き電動パノラマガラスサンルーフ(20万6000円)/メタリックペイント<ブライトシルバーメタリック>(8万3000円)/テイラードダッシュボード(15万円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:8005km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(9)/山岳路(0)
テスト距離:911.3km
使用燃料:82.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.1km/リッター(満タン法)/10.9km/リッター(車載燃費計計測値)
→徹底検証! ボルボXC60【特集】
→「ボルボXC60」のオフィシャルサイトはこちら
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大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。
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