シボレー・カマロSS(FR/8AT)
困っちゃうくらいデキがいい 2017.12.09 試乗記 アメリカ伝統のスペシャリティークーペ「シボレー・カマロ」が6代目にフルモデルチェンジ。新世代のプラットフォームを得て、走りはどう変わったのか? パワフルな6.2リッターV8エンジンを搭載した「SS」で、その実力を確かめた。“正規”で買える唯一のマッスルクーペ
「マスタング」のフォードは日本から撤退して、FCAジャパンも「ダッジ・チャレンジャー」を手がけるそぶりすら見せない今、シボレー・カマロは日本で唯一正規入手可能なアメリカンマッスルクーペである。
知っている人も多いように、カマロは4代目が生産終了した2002年にいったん姿を消すも、マスタングが6代目でレトロデザインでヒットを飛ばすと、同様に初代カマロを思わせるデザインをまとった5代目が2010年モデルで復活した。この新型カマロはそれに続く通算6代目にあたる。
新型カマロのエクステリアデザインも、ご覧のとおり5代目の正常進化版といったところだが、中身は完全に新しい。基本骨格の「アルファアーキテクチャー」は「キャデラックATS」や「CTS」のそれと共通。そして、エンジンにもATSやCTSと同じ2リッター4気筒ターボが用意されるが、カマロが4気筒を積むのは史上初だそうである。
本国ではV6やV8スーパーチャージャーも選べるカマロだが、2017年11月からの発売となった日本仕様のエンジンはひとまず2機種。今回試乗したのは自然吸気V8エンジンを積むSSで、この上級カマロは日本ではクーペのみのラインナップとなる。
V8を積むアメリカンクーペということで、カマロを日本の環境に不向きな巨大なクルマと信じて疑わない人もいるかもしれないが、それは大誤解である。
カマロは約8年の空白の後に復活した5代目で全長は4代目より短くなり、この新しい6代目では、全長全幅全高、そしてホイールベースも含めて、すべてが5代目よりさらに小さくなった。というわけで、4780×1900×1340mmという新型カマロのスリーサイズは、たとえばドイツの有名クーペでいうと、全長は「Eクラス クーペ」と「Cクラス クーペ」の中間の長さしかなく、全高はどちらと比較しても圧倒的に低い。全幅だけはEクラスより少し広いものの、その差は40mm程度である。日本でも意外なほどあつかいやすいサイズなのだ。
ドラポジはピタリと決まるが……
さらに、新型カマロの基本骨格であるアルファアーキテクチャーは、前記のようにキャデラックATSやCTSにも使われる。……ということは、GMが本気でグローバル市場に問う最新設計である。
カマロは1にも2にもアメリカ人のためのアメリカンクーペ……といった風情だが、この最新モデルのシートやステアリングの調整幅は大きく、しかもレイアウトにアメリカの方言的なクセは皆無である。身長は日本人として低くないのに(178cm)、手足が短い典型的日本人体形の筆者でも、真面目でアップライトなドラポジがピタリと決まって、また腕や指が短くてもスイッチ類の操作性にまるで問題はない。この点は、お世辞ぬきで日欧スポーツカーに遜色ない。
ただ、日本人体形の私がドラポジを決めるとダッシュボードを見下ろす視線になるのはいいとして、その角度から見るインテリアデザインが、ビミョーにおさまりが悪いのも事実である。中央タッチパネルの角度は手前に倒れすぎているし、ジェット戦闘機の噴射口のごとき空調アウトレットが、やけに低い位置にあるのも気になる。
カマロのインテリアデザインは、やはり、長身で手足も長い西洋人が座って、低く遠い位置からながめてこそ、すべてがカッコよく見える設計なのは明らかだ。……といった口惜しさは少し残るものの、カマロのパッケージレイアウトは国際的な最新スポーツクーペのそれとしてほぼ文句のない完成度である。絶対的に大きくないだけでなく、車両感覚が把握しやすい点も、新型カマロの美点だ。
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エンジンが、加速が気持ちいい!
さて、先述のとおり、今回乗った新型カマロは日本では上級モデルとなるSSである。エンジンはV8。車体形式は現時点ではクーペのみとなる。
カマロのV8は6153ccの排気量からもわかるように、「コルベット」や「エスカレード」にも積まれるおなじみのOHVユニット……すなわち「LT1」である。ただ、カマロSSのそれは日本仕様のコルベットより出力/トルクが控えめなチューンで、車重もカマロのほうがはっきり重い。しかし、1.7t強の車体に6.2リッターの組み合わせは、いかなる基準をもってしても過剰動力であることは明白。カマロSSもその気で踏めばのけぞるほど速く、そしてトップエンドで絞り出すように昇華していく排気音は、これまたチビリそうなくらいの快音である。
さらに、カマロのLT1がコルベットより明らかに軽快(というより軽薄?)に吹け上がるのは、意図的な演出だろう。それに気をよくしてアクセルペダルを気軽に踏み込んでも、そのエンジンパワーがほぼムダなく推進力に変換されるのは、新型カマロの走りにおける大きな美点といっていい。
もちろん、トランスアクスルのコルベットほど強力なキック力ではないものの、少しばかり強引な加速でも、鮮明な接地感を伝えつつ、エンジンパワーを横に逃がさず、きちんと推進力に振り向けるトラクション性能は素直にたいしたものである。
そういえば、先日「日産フェアレディZ」にひさびさに乗る機会があったが、このトラクション性能はぜひZにも見習ってほしいものだ……なんてことを思ったら、カマロはシボレーにおけるZなのだな……と気がついた。
全身が本気のカタマリであるコルベットはさしずめGMの「GT-R」であって、Z≒カマロはそこまで本気でないが、それが物足りないのではなく、そこが独自の魅力である。さらにいえば、コルベットやカマロがキャデラックではなくシボレーである点も、GT-RやZが(インフィニティでなく)日産なのと同じだ。まあ、それぞれに固有の歴史理由もあるのだが、客観的な事実としては似ている。
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走行モードを問わず素晴らしい“アシさばき”
閑話休題。カマロV8にはGMの高性能車が好んで使うリアルタイム可変ダンパー「マグネティックライド」が標準装備である。で、そのフットワークの完成度は、お世辞ぬきで素晴らしい。
カマロの可変ダンパーもコルベット同様に、最柔の「ツーリング」、中間の「スポーツ」、そして最硬の「トラック」という3種のモードがあって、それぞれがパワステやパワートレインの制御を統合して切り替えるようになっている。
ツーリングモードで流すカマロの乗り心地は、思わず眉毛が「ハ」の字になってしまうほど快適。高速ではわずかに路面から浮いているんじゃ……と錯覚しそうなくらいのフラットライド。昔のアメ車的な曖昧さは皆無だが、といってタイトすぎないサジ加減は見事。路面感覚も身のこなしもマイルドそのものなのに、ムダな動きがまるでない。
日本での一般用途では、おそらくツーリングモード一択でなんら不都合はない。ただ、山坂道でちょっと気合を入れるには、その上のスポーツモード、さらにはトラックモードにしたほうが扱いやすい場面が増える。もちろん、ツーリングのままでも状況に応じて減衰が引き締まるので、いかなる路面でも、だらしなく腰砕けになるようなことはまずない。だが、ターンインでの反応がよくも悪くも穏やかになるので、最初から減衰が高くて俊敏なスポーツモードやトラックモードのほうが、やはり曲がりの運転はストレスが少ないのだ。もっとも硬いトラックモードで荒れた路面を走っても、跳ねまくって……とならないのが、カマロのクルマとなりを示す好例であり、同時にカマロのデキのよさの証左でもある。
一般公道でも、ツーリングよりスポーツ、スポーツよりトラック……にいくほど、カマロは高機動状態であつかいやすいクルマになっていく。ただ、同時にパワステも目に見えて重くなる点は一考の余地があろう。トラックでのパワステは瞬間的に「壊れた?」と錯覚するほど重くなり、小柄な女性ではあつかいきれない可能性がある。
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フィジカルの強いヤツ
それを含めても、本気で乗るときは少なくとも可変ダンパーはトラックモードがベストのケースが大半だが、接地感ではスポーツモードに分があり、心理的にはスポーツのほうが身を任せやすい。しかし、キレ味は圧倒的にトラックだし、いや、そもそもツーリングモードだって十分……と、考えれば考えるほど各モードの使い分けがビミョーになってしまうのは、新型カマロの基本フィジカルがそれだけ高度だからだ。結局のところ、どのモードでもそれなりに走ってしまう。
ただ、こういう話になってくると、新型カマロでボトルネックになるのが変速機で、V8エンジンとシャシーが織りなすリズム感に8段ATの作動が追いついていない感がハッキリとある。GMの8段ATは単体では文句なしのキレなのだが、新型カマロの基本フィジカル性能は、その上をいってしまっている。
それにしても、新型カマロはハンディーな車体サイズに、走るほど小さく感じさせる素晴らしい車両感覚があり、6.2リッターを普通のFRレイアウトのまま御しきる基本フィジカル性能もある。さらにこのSSでは官能的なエンジンと絶品のフットワークが追加される。
最初に編集部のH君から「新型カマロに乗ってください。V8ですよ、ケケケ」との依頼を受けたとき、自分自身は「アメリカンV8クーペなんだから、カタいこと抜きで、ドロロロロ~!」と書き飛ばそうと決意していたのだが、いやはや、実際の新型カマロに乗せられたら、そうはいかなくなった。
クルマのデキがよすぎると、それを紹介する原稿は不出来につまらなくなりがち……というのは、この業界の「あるある」である。というわけで、こんなつまらない原稿に最後までお付き合いいただいて恐縮するほかない。ごめんなさい。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
シボレー・カマロSS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4780×1900×1340mm
ホイールベース:2810mm
車重:1710kg
駆動方式:FR
エンジン:6.2リッターV8 OHV 16バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:453ps(333kW)/5700rpm
最大トルク:617Nm(62.9kgm)/2000-4800rpm
タイヤ:(前)245/45ZR20 95Y/(後)275/35ZR20 98Y(グッドイヤー・イーグルF1アシンメトリック3)
燃費:シティー=17mpg(約7.2km/リッター)、ハイウェイ=27mpg(約11.5km/リッター)(米国EPA値)
価格:645万8400円/テスト車=665万8200円
オプション装備:フロアマット(4万8600円)/電動サンルーフ(15万1200円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:2303km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:673.3km
使用燃料:102.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.6km/リッター(満タン法)/14.1リッター/100km(約7.1km/リッター、車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。