第71回:カトパンと結婚したいかぁ!!
2017.12.12 カーマニア人間国宝への道原点回帰へ!
赤い玉号はついに仕上がった!
確認のため、東名経由で箱根のワインディングを走ったが、中立付近のステアリングインフォメーションが皆無で、何が何だかサッパリわからなかったハンドリングは、まったく正常になっていた。
ここではあえて“正常”という言葉を使い、最高とか無上とかの形容詞は避けたが、それは掛け値なしの“正常”だった。
つまり、金髪リーゼントの酒井君や、フェラーリを2000台直したメカニックの平澤さんがいかにいい仕事をしてくれても、「328」らしいハンドリングの難しさや曖昧さが消え、キレッキレの「458イタリア」のようになるわけはなく、それはあくまで328だったということ。しかしそれこそ私が望んでいた姿だ。
ハンドリングはフツーで十分。フツーといっても、うまく走らせるには相当レベルのコツやスキルが必要だが、いまさら速く走りたいわけじゃないし、カンタンすぎたら逆につまんないし、それで何の問題もない。
もう私は、脳振とう寸前の超絶加速や、UFOの如(ごと)き直角ターンは卒業して、まったり走ってとろけるような快音を発する、ただ美しいだけの自動車芸術へと、原点回帰を果たしたのだ!
それは、個人的には、22年前に出版された『そのフェラーリください!』(三推社レッドバッジカーライフシリーズ:もちろんとっくに絶版)の世界である。
すべては「テスタロッサ」から始まった
『そのフェラーリください!』は、冒頭部、自らのフェラーリ初体験をこのように描いている。
私は意を決して、テスタロッサのステアリングを握り、アルミの削り出しのシフトゲートの左下の部分に、シフトレバーを入れ、発進した。(中略)
ドルルルリャリャリャリャバリャバリャリャ!
どっひゃあああああああ!
こ、これは……。
世の中にこんなモノがあったとは! 回転数はたかだか3000rpmくらい。しかしそれで充分だった。
昭和ヒトケタの私の父は、子供の頃、初めて肉ダンゴを食べた時、「世の中にはこんなに旨(うま)いモノがあったのか!」と叫び、「大人になったら腹いっぱい食ってやる」と思ったそうだ。
私にとって、テスタロッサの水平対向12気筒エンジンは、まさしく強力無比地上最速の肉ダンゴだった。
脳髄の内部は、テスタロッサの発進一発で、曼陀羅(まんだら)状態と化したのだった。
そして走り終えた頃には、菩提(ぼだい)樹の下で悟りを開きそうになってしまった私だった。ちょっと懐かしい言葉で言うと、最終解脱ということになろうか。
フェラーリ様は、ゆっくり走るだけでパンチドランカーになってしまうような、芸術的な快楽発生装置として私の目の前に現れた。その後紆余(うよ)曲折あったが、四半世紀後、そこに戻ったということだ。
キモチよくなりたい!
再度、『そのフェラーリください!』の冒頭部に戻らせていただく。
フェラーリは、「速く走る」なんていう、世俗的な目的のために生まれてきたんじゃない。
ズバリ言おう。
フェラーリには目的がない。
うおおおお、なんというスゴい言葉だろうか。自分で感動してしまった。
すべての動植物が、互いに頼り、連鎖し、地球の生態系は保たれている。同じように、すべての自動車は、それぞれ役割を分担し、頼り合って生きている。フェラーリを除いて。フェラーリだけは、生態系からポツネンと独立しているのだ。
神に似ている。
うおおおお、なんという危険な言葉だろうか。汗がダラダラ出てきた。
我が赤い玉号ことフェラーリ328GTSには、目的がない。正確には、世俗的な目的はない。つまり、役に立たない。
が、それは間違いなく人間の情念のカタマリだ。「キモチよくなりたい!」という。
人が生きる目的は、キモチよくなるため。ご飯を食べればキモチイー。異性と愛し合ってキモチイー。お金が儲(もう)かればキモチイー。病気が治ればキモチイー。故障が直るのもキモチイー。
そして、フェラーリを我が物にして、その美しすぎるボディーを独占し、快音を思う存分楽しめば、それに勝るキモチイーことはそうない。これ以上にキモチイーのは、カトパンと結婚することくらいだろう。
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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