マツダCX-8 XDプロアクティブ(4WD/6AT)/CX-8 XD Lパッケージ(FF/6AT)
最上級の賛辞を贈りたい 2017.12.18 試乗記 マツダから3列シートの新型SUV「CX-8」が登場。既存のミニバンに代わる多人数乗車モデルであるとともに、「アテンザ」と並ぶ同社のフラッグシップという役割も課せられたニューモデルの実力をリポートする。課せられた使命は多い
CX-8はマツダのなかで、いくつもの側面をもたされた新商品である。
マツダはCX-8の登場に合わせるカタチで、「プレマシー」と「ビアンテ」の生産を本年度末までに終了させることを認めている。これでマツダからミニバンが姿を消すことになり、国内でのマツダの3列シート需要はCX-8が一手に引き受けることになる。
「ミニバンといえば日本ではスライドドアが必須だが、スライドドアでは最新の衝突安全性を確保しつつ、今のマツダが目指す走り(≒重量や剛性)を実現できない」というのが、マツダがミニバンから撤退する公式見解である。ただ、それは建前だろう。
ミニバンは世界的に土着化が進んでいる。ミニバンそのものは世界各国で販売されているのに、単一車種で国際市場をカバーするグローバルミニバンはほとんど存在せず、日本で売れるミニバンは海外で売れず、海外で売れるミニバンは日本では売れない。よって「中途半端な少量生産になるしかないミニバンに投資するのは、今のマツダでは無駄が多すぎ」というのが、彼らの本音と思われる。そういえば、これと同時期にスバルも「エクシーガ クロスオーバー7」の生産を終了するというから、これも時代の必然だろうか。
また、今のマツダは新世代商品群の第1号だった「CX-5」のユーザーを多く抱えている。彼らが「家族も増えたし、新しい趣味もできたので、CX-5よりもう少し“使いで”のあるクルマがほしい」となったときの受け皿が、これまでのマツダにはなかった。CX-8にはそんな役割も期待されている。
さらに、CX-8の4.9mという全長はマツダの国内モデル最大にして、300万円台前半~400万円強という価格レンジは、同じマツダではアテンザと同等。つまり、CX-8は国内では事実上のフラッグシップでもある。実際、今後はマツダの小飼雅道社長のメイン社用車としても複数台のCX-8が配備されるという。
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大きな「CX-5」というよりは……
このように、CX-8に期待される役割は世間でいわれている“ミニバンにかわる新3列シート車”だけではない。“CX-5でつかんだユーザーの囲い込み”に“国内フラッグシップ”、そして“お偉いさん向けの運転手付きグルマ需要”といった、スカイアクティブ以降の新世代マツダが積み残していた小さい(けれど、無視できない)スキ間を一気に埋めるための戦略商品でもあるわけだ。
まあ「それがCX-8みたいなSUVでいいのか?」という疑問もなくはない。しかし、どんなビジネスでも新商品はやってみなければ分からないし、これらのニーズを1台で満たすには、なるほど3列SUVというチョイスはありえる手段のひとつではあるだろう。
マツダの3列SUVといえば、海外向けの「CX-9」を思い出すマニア筋も多いだろう。現行CX-9は2世代目だが、2016年デビューの完全スカイアクティブの新世代商品である。ただ、CX-9は5m超の全長に2m近い全幅の巨体。あくまで北米や豪州、ロシアといった大陸市場を想定したクルマで、日本導入予定はない。
対するCX-8の全幅はそれより100mm以上小さい1840mm。4900mmという全長もマツダが“日本の交通インフラの最大値”と定義するギリギリだそうで、開発陣も“CX-8はあくまで日本市場を想定した商品”と明言する。将来的に海外市場で売る可能性ももちろんなくはないが、現時点では日本専用車だ。
1840mmという全幅はCX-5とも同寸だから、CX-8の設計的な成り立ちを“CX-5のロング版”と考える向きも多いだろうが、それは正確ではない。7人乗車の大荷重を想定したCX-8の高強度厚板フロアはCX-5とは別設計で、2930mmというホイールベースや大荷重対応リアサスペンションも含めて、プラットフォーム部分にはCX-9との共通点が多い。よって“CX-9のナロー版”と表現したほうが、このクルマの実体に近い。
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ちゃんと座れる3列目シート
コックピットの基本意匠はCX-5そのままだが、CX-5より明らかに幅広で立派なセンターコンソールや、一部にあしらわれた本木目パネルによる“フラッグシップ感”の演出は意外なほど巧妙。とくに幅広コンソール効果は写真で見る以上で、これだけでCX-5に乗っているときより明確にエラくなった気分になるのだから、人間の感覚なんてチョロいものだ。
2列目以降は日本ではCX-8だけの光景となる。セカンドシートそのものはベンチタイプと独立キャプテンタイプの2種類だが、キャプテンシートに普通のウオースルー型のほかに“社長車グレード”ともいうべき大型固定式コンソール付き仕様がある。
つまり、セカンドシートのアレンジには計3種の選択肢があるのだが、どのシートを選んでもシート本体の座り心地、あるいはシート位置やスライド量などの基本レイアウトに本質的な差異はない。ただ、昨今の上級SUVで常識装備(CX-5にも一部搭載される)となりつつあるリアシートヒーターが、ハイエンドの社長車グレード(=Lパッケージ)にしか用意されないのは、個人的にかなり残念。その最大の理由は「コンソール以外にスイッチの置き場がない」というものらしいが、リアシートヒーターは恩恵を一度でも味わうと、もはやそれなしでは満足できない体になってしまうタイプの装備なのだから、フラッグシップでその言い訳はないだろう(笑)。
サードシート空間も外観から想像するより広い。設計的には3列目乗員を170cm程度まで……と割り切ったというが、身長178cmの筆者が乗車しても、ヒザや頭、肩などが不自然に当たることなく座ることが可能。着座姿勢も筆者ではわずかにひざ裏が浮いてしまうものの“体育座り”というほど罰ゲーム的でもない。少なくとも着座時の快適性は本格ミニバンのビアンテを上回っており、プレマシーとの比較なら広さでも着座姿勢の快適性でもCX-8に軍配があがる。
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上級モデルにふさわしい走りと乗り心地
CX-8の走りはひとことでいうと、素晴らしい。CX-5より1、2クラス上級の高級SUVであることが、見た目以上に乗り味で表現できている。
過給圧その他の手直しで、出力・トルクともに明確に向上した2.2リッターディーゼルは今回が初出の最新チューンで、乗った瞬間からパワフルになったことが体感できる。単純に速くなっただけでなく、とくに2000~3000rpm付近の、なんともスムーズで静か、そして伸びのある加速感はちょっと感動的ですらある。
もちろんピーク性能の引き上げにともない、このおなじみのディーゼルは、可変ジオメトリーターボや新形状ピストン、超高反応インジェクターなどハードウエアも細部まで新しくなっている。数値以上に体感的な高級感が強まっているのは、このあたりの改良も奏功しているのだろう。
今回の試乗は横浜周辺の市街地と都市高速にかぎられたが、そうした場所でのCX-8の操縦性と乗り心地は、重厚にして穏当。アシを突っ張らせすぎず、CX-5より長くて重い車体を柔らかく上下させながらも、フラットに安定させるサジ加減は文句なしの絶妙さだ。首都高速の目地段差やウネリなども、ゆったりと飲み込むようにクリアしていく。
また、最新のCX-5でも静粛性に驚かされたが、CX-8はそれに輪をかけて静かで高級感に富む。いやホント、首都高速を2000rpm以下で巡航するCX-8は、エンジン音も、ロードノイズも、風切り音も、キツネにつままれたくらいに静かなのだ。
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上品な運転が似合うクルマ
シャシー関連ハードウエアでのCX-8とCX-5の明確なちがいには、ステアリングレシオもある。左右いっぱいまで回したロック・トゥ・ロックで3.2回転……というCX-8のステアリングは、今どきとしてはかなりスローな設定だが、これがなんともいい味を出している。
シツコイようだが、CX-8はフラッグシップSUVであると同時に、新世代マツダ唯一の3列シート車だ。「MPV」やビアンテ、プレマシーで培ってきた「3列シート車はどう走らせるべきか?」についてのマツダ独自のノウハウは、CX-8にもあますところなく注入されていると開発エンジニアも語っている。このスローなステアリングもそんな見識のひとつなのだろう。
最近はステアリングをちょっと操作しただけでキュンキュン反応するSUVも多いが、CX-8はその正反対。ステアリングだけで漫然と走ろうとすると、その反応は今どきのクルマとしては明らかにオットリ系。最近のキュンキュン系に慣れきった体だと、交差点やカーブで切り遅れてしまいがちだ。
かといって、CX-8はステアリングの利きが悪いとか、反応が鈍いクルマではない。スローながらもきっちり正確に反応しており、アクセル操作でわずかな荷重移動をからめると、クルマと人間の一体感はさらに増す。
また、例のG-ベクタリングコントロールも効いているのか、地にアシがついたグリップ感も濃厚。「キッカケは早めに」という操作タイミングのコツさえつかめば、これほど上品に運転しやすい国産車もまれである。
それにしても、このゆったりとした乗り心地と、スローなのに正確無比の操縦性……という組み合わせは、フランス車好きの筆者としては「あんたはハイドロ時代のシトロエンか?」という最大級の賛辞を贈りたくなる。
ちなみに、今回は2WDと4WDの両方をチョイ乗りできたが、総じて4WDのほうがわずかに好印象だったのは、2WD比で70kgほど増える重量が乗り心地でいい方向に作用しているのか、あるいはCX-9由来のリアサスと4WDの相性がいいのかもしれない。また、さらに強大になったエンジントルクを4本のタイヤに分散させる4WDのほうが、いろいろな場面で姿勢がくずれにくく、運転しやすい……という利点もある。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
マツダCX-8 XDプロアクティブ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4900×1840×1730mm
ホイールベース:2930mm
車重:1900kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:190ps(140kW)/4500rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/2000rpm
タイヤ:(前)225/55R19 99V/(後)225/55R19 99V(トーヨー・プロクセスR46)
燃費:17.0km/リッター(JC08モード)/15.4km/リッター(WLTCモード)、12.5km/リッター(市街地モード:WLTC-L)、15.3km/リッター(郊外モード:WLTC-M)、17.5km/リッター(高速道路モード:WLTC-H)
価格:376万9200円/テスト車=403万9200円
オプション装備:ボディーカラー<ソウルレッドクリスタルメタリック>(7万5600円)/ルーフレール+パワーリフトゲート+リアドアウィンドウサンシェード(11万8800円)/360°ビューモニター+フロントパーキングセンサー<センター、コーナー>(4万3200円)/CD/DVDプレーヤー+地上デジタルチューナー<フルセグ>(3万2400円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1748km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
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マツダCX-8 XD Lパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4900×1840×1730mm
ホイールベース:2930mm
車重:1830kg
駆動方式:FF
エンジン:2.2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:190ps(140kW)/4500rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/2000rpm
タイヤ:(前)225/55R19 99V/(後)225/55R19 99V(トーヨー・プロクセスR46)
燃費:17.6km/リッター(JC08モード)/15.8km/リッター(WLTCモード)、12.7km/リッター(市街地モード:WLTC-L)、15.7km/リッター(郊外モード:WLTC-M)、18.0km/リッター(高速道路モード:WLTC-H)
価格:395万8200円/テスト車=416万8800円
オプション装備:ボディーカラー<マシーングレープレミアムメタリック>(5万4000円)/360°ビューモニター+フロントパーキングセンサー<センター、コーナー>(4万3200円)/BOSEサウンドシステム+10スピーカー(8万1000円)/CD/DVDプレーヤー+地上デジタルチューナー<フルセグ>(3万2400円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1786km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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