BMW i3s(RR)
これがビーエムの生きる道 2018.01.06 試乗記 デビューから4年を経たBMWの電気自動車「i3」に、新グレードの「i3s」が登場。よりパワフルなモーターと専用チューニングの足まわりが採用された電動スポーツモデルの出来栄えを、BMWの電動化戦略の現状とともにお届けする。ブランディングにおける貢献は小さくない
2017年におけるBMWグループの販売台数の内訳において、電動化車両が10万台を突破する見込みになったと発表されたのは先日のこと。これを記念してミュンヘンの本社ビルは、その有名なシリンダー形状を逆手に取って、プロジェクションマッピングによって電池柄にライトアップされた。これは昨今の自動車業界を取り巻く“電動化”ムーブメントを象徴するような光景として、先々述懐されることになるかもしれない。
とはいえ、その内訳の多くを占めるのはBMWとMINIで扱われるプラグインハイブリッドだ。iブランドのみでの数字は定かではないが、2016年のi3の世界販売台数が「日産リーフ」の半分程度、2.5万台余と聞けば、10万台に対しての比率は正確ならずもある程度予想できる。フォルクスワーゲンやダイムラーに先駆けて立ち上げた電動化モデル専用ブランドは、徐々に数を伸ばしているとはいえ、商業的にはまだまだ辛抱は続くということだろう。
明確に言えるのは、iブランドがサスティナブルという人類が強く意識すべき生活観を、モビリティーを通して実だけでなく質の面でも強く志向していることだ。それは後述する車体の造作的な話のみならず、その素材や製法、使用するエネルギーにも及んでいる。もちろんカーボンニュートラルとはいかないが、その方向性をもって従来とはまったく違うプレミアム性を表現しようという姿勢は、BMW本体のブランドイメージにも相当ポジティブに働いているはずだ。
4年を経ても色あせない斬新さ
iブランドはその発表から6年が経過し、そしてi3とi8も登場から4年前後がたとうとしている。ここで商品のテコ入れを通し、再びそのアピアランスを高めようとしているようだ。i8は先日のロサンゼルスモーターショーでマイナーチェンジを発表。これに伴い、電動ソフトトップを持つロードスターが追加された。それに先駆けてフランクフルトモーターショーで発表されたのが、i3のマイナーチェンジだ。
とはいえ、その外観上の変更点は前後バンパーフェイシアと補助灯の形状が変わり、よりスポーティーな印象になった程度。内装ではインフォテインメントシステムが最新のバージョンに置き換わったくらい……と、5年目を迎えてのマイナーチェンジの割にはその“変わりしろ”は小さくみえる。
それでも十分に思えるのは、i3の印象がまだまだ斬新で既視感が小さいからだろう。「アトリエ」「ロッジ」「スイート」と名付けられた3つのトリムラインにも変更はないが、プラスチックバッグやペットボトルなどの再生樹脂材、化学物質を用いず天然オリーブ油でなめした革表皮、薄いサテン仕上げで表面の開気孔を生かした木目バネルなどが組み合わされる内装の印象は、乗る者の心持ちをもエシカルな側へと高めてくれる。ともあれイマ的なリッチさをここまで先鋭的にみせてくれているクルマは他にないだろう。
新グレードはまさかのスポーツモデル
マイナーチェンジに伴うメカニズムの大きな変更はない。というのも、i3は2016年に搭載されるサムスンSDI製リチウムイオンバッテリーの大幅な刷新を受けており、発売当初より同体積における蓄電能力を50%向上。33kWhの容量により、JC08モードで390kmの航続距離を実現している。とはいえ、この数字を額面通りに見積もれないのはお察しの通り。日本での実用的航続距離は200〜250km程度でみておくべきだろう。もちろん650ccの発電用エンジンを積む「レンジエクステンダー」も健在だ。
そして、今回試乗したのはこのマイナーチェンジから新たに加えられたi3sというモデル。「s」はもちろんスポーツ的なところを意味しているわけだが、そのパワートレイン、ドライブトレインのハードウエアに変更はなく、エネルギーマネジメント等のキャリブレーションで14ps&20Nm増しの力を得ている。足まわりはコイル、ダンパーそしてスタビライザーが専用設定となり、車高は10mmダウン。タイヤは前後異幅の20インチとなり、銘柄は変わらずブリヂストンの“オロジック”……というのがその成り立ちだ。これによる動力性能の変化は、0-100km/h加速で基準車比0.4秒減の6.9秒、最高速は10km/h増の160km/hとなっている。
曲がるのがこれほど楽しいクルマはない
軽量強固なボディー構造に、RRの駆動レイアウト、力強いトルクのモーターという組み合わせもあって、i3はちょっとしたスポーツカーをしのぐほどにダイレクトなレスポンスが味わえるモデルだ。加えて、強力な回生ブレーキを用いてのワンペダルドライブという個性、言い換えれば特有のクセもある。これらを駆使しながら、いかに電池残量を大事にしつつ走らせるかを考えるのも知的なら、コーナリングで適切な荷重移動を行い、細いタイヤから旋回力を引き出して出口で一気にダッシュするという筋書きを組み立てるのも知的と、ともあれ頭を使うことが楽しいクルマだ。
さらにi3sでは、ワイドトレッドの専用サスによる横力耐性が加わったことで、本格的なホットハッチにも比する運動性能を得ることになった。そこにEVならではの加速力も加わってみれば、ともあれ曲がることが本当に楽しい。極端な話、パイロンジムカーナを走る上でこれ以上痛快なクルマを見つけるのは難しいかなと思うほどである。乗り心地や居住性ではリーフにかなわずとも、走りの個性においては絶対に譲らない。EVなのに元も子もないと言われればそれまでだが、「それがBMW」と言われればぐうの音も出ないのもまた確かだ。
i3sは残念ながら今のところ、日本導入の予定はないという。もちろんEVの社会性やこの特殊なモデルをユーザーに届ける販売現場の苦労を鑑みれば、そこにクルマ好きの意向がくまれる余裕はないのかもしれない。そしてこのモデルなくしてi3の本質的なメッセージが伝わらないということでもない。が、そこに加わるピリッとしたエッセンスが絶妙にi3ならではのうま味を引き出していたのも確かだ。何かの間違いで導入されることになったらいいなぁとは、僕の身勝手な思いである。
(文=渡辺敏史/写真=BMW/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
BMW i3s
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4006×1791×1590mm
ホイールベース:2570mm
車重:1265kg(DIN)
駆動方式:RR
モーター:交流同期モーター
最高出力:184ps(135kW)
最大トルク:270Nm(27.5kgm)
タイヤ:(前)175/55R20/(後)195/50R20(ブリヂストン・エコピアEP500)
一充電最大走行可能距離:280km(NEDCモード)/235-245km(WLTCモード)
交流電力量消費率:14.3kWh/100km(約7.0km/kWh、NEDCモード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
※数値は欧州仕様のもの。
テスト車の年式:2017年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh
拡大 |

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
日産リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2026.2.11 フルモデルチェンジで3代目となった日産の電気自動車(BEV)「リーフ」に公道で初試乗。大きく生まれ変わった内外装の仕上がりと、BEV専用プラットフォーム「CMF-EV」や一体型電動パワートレインの採用で刷新された走りを、BEVオーナーの目線を交えて報告する。
-
ホンダN-ONE RS(FF/6MT)【試乗記】 2026.2.10 多くのカーマニアが軽自動車で唯一の“ホットハッチ”と支持する「ホンダN-ONE RS」。デビューから5年目に登場した一部改良モデルでは、いかなる改良・改善がおこなわれたのか。開発陣がこだわったというアップデートメニューと、進化・熟成した走りをリポートする。
-
日産キャラバン グランドプレミアムGX MYROOM(FR/7AT)【試乗記】 2026.2.9 「日産キャラバン」がマイナーチェンジでアダプティブクルーズコントロールを搭載。こうした先進運転支援システムとは無縁だった商用ワンボックスへの採用だけに、これは事件だ。キャンパー仕様の「MYROOM」でその性能をチェックした。
-
無限N-ONE e:/シビック タイプR Gr.B/シビック タイプR Gr.A/プレリュード【試乗記】 2026.2.7 モータースポーツのフィールドで培った技術やノウハウを、カスタマイズパーツに注ぎ込むM-TEC。無限ブランドで知られる同社が手がけた最新のコンプリートカーやカスタマイズカーのステアリングを握り、磨き込まれた刺激的でスポーティーな走りを味わった。
-
インディアン・チーフ ヴィンテージ(6MT)【海外試乗記】 2026.2.6 アメリカの老舗、インディアンの基幹モデル「チーフ」シリーズに、新機種「チーフ ヴィンテージ」が登場。このマシンが、同社のラインナップのなかでも特別な存在とされている理由とは? ミッドセンチュリーの空気を全身で体現した一台に、米ロサンゼルスで触れた。
-
NEW
トヨタbZ4X Z(FWD)【試乗記】
2026.2.14試乗記トヨタの電気自動車「bZ4X」が大きく進化した。デザインのブラッシュアップと装備の拡充に加えて、電池とモーターの刷新によって航続可能距離が大幅に伸長。それでいながら価格は下がっているのだから見逃せない。上位グレード「Z」のFWDモデルを試す。 -
核はやはり「技術による先進」 アウディのCEOがF1世界選手権に挑戦する意義を語る
2026.2.13デイリーコラムいよいよF1世界選手権に参戦するアウディ。そのローンチイベントで、アウディCEO兼アウディモータースポーツ会長のゲルノート・デルナー氏と、F1プロジェクトを統括するマッティア・ビノット氏を直撃。今、世界最高峰のレースに挑む理由と、内に秘めた野望を聞いた。 -
第860回:ブリヂストンの設計基盤技術「エンライトン」を用いて進化 SUV向けタイヤ「アレンザLX200」を試す
2026.2.13エディターから一言ブリヂストンのプレミアムSUV向けコンフォートタイヤ「アレンザLX100」の後継となるのが、2026年2月に発売された「アレンザLX200」。「エンライトン」と呼ばれる新たな設計基盤技術を用いて開発された最新タイヤの特徴を報告する。 -
三菱デリカミニTプレミアム DELIMARUパッケージ(前編)
2026.2.12あの多田哲哉の自動車放談イメージキャラクターの「デリ丸。」とともに、すっかり人気モノとなった三菱の軽「デリカミニ」。商品力の全体的な底上げが図られた新型のデキについて、元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんが語る。 -
ホンダアクセスが手がけた30年前の5代目「プレリュード」に「実効空力」のルーツを見た
2026.2.12デイリーコラムホンダ車の純正アクセサリーを手がけるホンダアクセスがエアロパーツの開発に取り入れる「実効空力」。そのユニークなコンセプトの起点となった5代目「プレリュード」と最新モデルに乗り、空力パーツの進化や開発アプローチの違いを確かめた。 -
第948回:変わる時代と変わらぬ風情 「レトロモビル2026」探訪記
2026.2.12マッキナ あらモーダ!フランス・パリで開催されるヒストリックカーの祭典「レトロモビル」。客層も会場も、出展内容も変わりつつあるこのイベントで、それでも変わらぬ風情とはなにか? 長年にわたりレトロモビルに通い続ける、イタリア在住の大矢アキオがリポートする。












































