第465回:ランボルギーニの新章が始まる
新型SUV「ウルス」の発表会に参加して
2017.12.28
エディターから一言
![]() |
ランボルギーニは2017年12月5日、新型SUVの「ウルス」をイタリアの本社で発表した。披露パーティーには世界中から800人の関係者が招かれ、イタリア首相も祝福に駆けつけるなど、1モデルの発表会としては異例ともいえる盛り上がりを見せた。その模様をリポートする。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
正統な“言い訳”がある
子供の頃のヒーローは、たしかに「カウンタック」や「ベルリネッタボクサー」だった。けれども、たとえばプラモデルやラジコンでスーパーカーを楽しんだという記憶が筆者にはほとんどない。プラモなら国産GTを造ってはレース車両風(暴走族風?)に改造していたし、ラジコンならポルシェやF1といったレーシングカーで遊んでいた。スーパーカーが“実戦向き”ではないことを、子供心にうすうす感じていたのだろうか。
けれども1台だけ、例外もあった。それは、いかにも軍用車風のキャメルカラーに塗られた四輪駆動車だったが、名前だけは立派にスーパーカー。「ランボルギーニ・チーター」だ。70年代も後半に差し掛かっていた。
それが、たった1台しか造られなかった、悲運のプロトタイプカーであったことを知ったのは、ずいぶん後のこと。というのも、筆者が大学生の頃、80年代の後半に、ランボルギーニ社は突如、「LM002」という大型SUVを発表し、そのときになって初めて、チーターが「LM001」であったことを知ったのだった。
われわれスーパーカー世代にとっては、だから、LM002も何となくチーターと呼びたくなってしまう。実をいうと、チーターとLM002には、共通点などほとんどない。前者がクライスラーV8をミッドに積んだ軍用向けプロトであったのに対して、後者はランボV12をフロントに積むラグジュアリーな大型SUVだった。高級SUVのハシリであると言っていい。
随分と前置きが長くなったが、何が言いたかったのかというと、ランボルギーニにはSUVを造る正統な“言い訳”があるということだ。
今やSUVはスポーツカービジネスを左右する存在に
2012年の北京ショー。以前からウワサのコンセプトカーがランボルギーニブースに飾られていた。その名は「ウルス」。ピュア・スーパーカーブランドによる野心的なSUV戦略に、「ランボルギーニよ、お前もか!」と世間は一様に驚いたが、ランボルギーニファンにとって、それはほとんど既定路線のように思えたものだった。
歴史は繰り返す。高級SUVが売れに売れまくるという市況を見れば、誰だって、参入したくなる。特に、ヘリテージに“それがある”のなら、なおさらに。
実際、ランボルギーニ社がSUVもしくは4人乗りのスーパーカーを計画していることは、公然の秘密だった。たとえば、筆者も、ボードメンバーを囲んだディナーの席で当時の社長、ステファン・ヴィンケルマン氏から、「SUVと4シーターGTのどちらが欲しい?」と、聞かれたことがある。その場ですぐに思い浮かんだのが「エスパーダ」だったから、「4シーターGTだ」と答えたが、社長の反応がちょっと渋かったことをいまさら思い出す。
ちなみに、話は少し脇に逸(そ)れるが、2018年はエスパーダの50周年にあたっている。2017年9月にスイスで行われたコンクールでは、特に“エスパーダクラス”を設けて、盛り上げを図ろうとしていた。それはほとんど「ミウラ」と同じ扱い。ウルス披露の年ゆえ、LM002にも単独クラスがあった。そのあたりの事情を深読みすれば……。
「911」を造り続け、「ボクスター」で裾野を広げ、「カイエン」や「パナメーラ」で事業をいっそう拡大し、その利益をもとに、既存のスポーツカーはもとより「918スパイダー」といった超高性能限定車を開発する。グループ企業であるポルシェが実践したスポーツカービジネスのひな形を、ランボルギーニもまた、なぞろうとしているのかもしれない。
発表会を本社で開催
2017年12月5日。ランボルギーニファンにとっては、歴史的な日がついにやってきた。コトの大きさは、ウルス市販モデルのワールドプレミア、というだけに収まらない。この日をもって、ランボルギーニという会社は、人も組織も工場面積も生産台数も、すべてが一気に倍の規模となったのだ。それがいかに挑戦的なことであるかは、経営者、なかでもモノ造りに携わる方々ならば、容易に想像がつくだろう。
それゆえ、発表会も力が入っていた。そもそも、ランボルギーニが市販モデルのワールドプレミアを、ジュネーブショー以外で行うのは珍しい(「アヴェンタドール」も「ウラカン」もジュネーブだ)。それを本社のあるサンターガタ・ボロネーゼで行うと、半年以上前からアナウンスしていた。これは単なる新車発表会ではなさそうだ。“新生ランボルギーニ”のお披露目になることは、誰の目にも明らかだった。
肥沃(ひよく)なエミリア・ロマーニャの大地が果てしなく広がり、そこに夕日が差していた。バスに揺られること、ボローニャ市内からおよそ1時間。行ったことがない人には、にわかには信じられないほどの田舎に、ランボルギーニの本社工場はある。おなじみの正門が見えてきた。と、バスがそこを通り過ぎた。何十回と訪問しているが、こんなことは初めてだ。いったん、正面玄関を通り過ぎ、大きく迂回(うかい)して、工場のちょうど裏手を目指している。
真新しく、大きなビルが見えてきた。まわりには、これまた巨大な平屋がいくつか新設されている。それが、新しいランボルギーニ社だった。
イタリア首相も祝福に駆けつける
メディア一行を乗せたバスが、その名も“リネアウルス”(ウルスライン)と名付けられた工場の前に停車する。ウラカンから「チェンテナリオ」まですべての最新モデルと、総生産台数わずかに300有余台のLM002全バージョンが整列して、われわれ招待客を出迎えた。タイムトンネル仕立ての入り口を抜けると、すでにカクテルパーティーが始まっていた。広報マンに聞けば、サプライヤーや世界各国のディーラー関係者、VIPカスタマー、プレス、合わせて800人程度が招かれているという。
まずは、主役のウルス、登場だ。ミウラやカウンタックが、先のタイムトンネルを走り去ったあと、巨大なLM002の姿が見えたかと思うと、2台のウルスが駆けぬける。ウルスは、単なるSUVではない。ピュアスーパーカーのDNAをもつ、スーパーSUVであるという、それは宣言のようにも見えた。
いよいよウルスの全貌(ぜんぼう)が明らかになる、と、その瞬間、音響システムがすべてダウンしてしまった。誰がどうみても演出などではない。進行がストップしてしまった。会場がざわつき始めると、「しばらくお待ちください」というアナウンスまで流れる始末。焦るスタッフの気持ちがしのばれて、こちらの胃も痛くなりそうだ。
窮地を救ったのは、社長になって1年半、ウルスプロジェクトを引き継ぎ成功させることを託された、ステファノ・ドメニカリCEOその人だった。
彼はすべての演出をいったんキャンセルし、ウルスを自ら舞台へ堂々と導いた。祝福に駆けつけたイタリア首相も、予定外の長い演説でその場を大いに盛り上げる。ウルス披露の初舞台が次第に熱を取り戻していく……。
いろんな意味で、ウルスの成功と、ランボルギーニの成長を確信した瞬間であった。
どこからどう見てもランボルギーニ
ウルスの詳細については、すでに多くの情報が伝わっていることだろう。650psの4リッター直噴V8ツインターボエンジンを積むスーパーSUVである、と聞けば、誰もがその走りに期待する。とあるエンジニアによれば、カイエンや「ベントレー・ベンテイガ」とは全く別もののドライブフィールであり、まさしくスーパーカーらしい動きをみせるらしい。ランボ市販モデル初のターボカーでもある。早く試してみたいものだ。
ちなみに、顔つきが2つあることをご存じだろうか。ボディーカラーがロワーグリルやチンスポイラーに及んでいるマスクと、アゴにメタルのガードが備わるマスクの2種類だ。後者がいわゆる“オフロードパッケージ”で、より顔つきがシャープに尖(とが)ってみえる。個人的には、圧倒的に、後者の顔が気に入った。スーパーカーの顔は、尖っていてナンボだ!
コンセプトカーのイメージを上手に残せたエクステリアもさることながら、インテリアのフィニッシュレベルが驚くほど高かった。外観と同様に、どこからどう見てもランボルギーニの内装だが、いっそうラグジュアリーで、かつ、機能的にも見える。特にダッシュボードセンターのギアセレクターまわりのデザインは秀逸。基本は5シーターだけれども、前席にスポーツシートを選ぶと、後席を独立の2シーター仕様にすることも可能だ。ファミリーユースのスーパーカー、とはいうものの、どうせなら4シーターの格好良さを選びたいもの。
新しい工場での組み立ては、最大で日産20台になるという。ちなみに、アヴェンタドール6台/日、ウラカン12台/日だから、スーパースポーツの希少性は保たれるので、心配は無用だ。日本での価格は税込みで約2800万円から。デリバリー開始は2018年初夏。すでに予約が殺到しているらしく、18年中生産分は世界的にほぼ完売状態だという。
(文=西川 淳/写真=ランボルギーニ/編集=竹下元太郎)

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
-
第842回:スバルのドライブアプリ「SUBAROAD」で赤城のニュルブルクリンクを体感する 2025.8.5 ドライブアプリ「SUBAROAD(スバロード)」をご存じだろうか。そのネーミングからも想像できるように、スバルがスバル車オーナー向けにリリースするスマホアプリである。実際に同アプリを使用したドライブの印象をリポートする。
-
第841回:大切なのは喜びと楽しさの追求 マセラティが考えるイタリアンラグジュアリーの本質 2025.7.29 イタリアを代表するラグジュアリーカーのマセラティ……というのはよく聞く文句だが、彼らが体現する「イタリアンラグジュアリー」とは、どういうものなのか? マセラティ ジャパンのラウンドテーブルに参加し、彼らが提供する価値について考えた。
-
第840回:北の大地を「レヴォーグ レイバック」で疾駆! 霧多布岬でスバルの未来を思う 2025.7.23 スバルのクロスオーバーSUV「レヴォーグ レイバック」で、目指すは霧多布岬! 爽快な北海道ドライブを通してリポーターが感じた、スバルの魅力と課題とは? チキンを頬張り、ラッコを探し、六連星のブランド改革に思いをはせる。
-
第839回:「最後まで続く性能」は本当か? ミシュランの最新コンフォートタイヤ「プライマシー5」を試す 2025.7.18 2025年3月に販売が始まったミシュランの「プライマシー5」。「静粛性に優れ、上質で快適な乗り心地と長く続く安心感を提供する」と紹介される最新プレミアムコンフォートタイヤの実力を、さまざまなシチュエーションが設定されたテストコースで試した。
-
第838回:あの名手、あの名車が麦畑を激走! 味わい深いベルギー・イープルラリー観戦記 2025.7.5 美しい街や麦畑のなかを、「セリカ」や「インプレッサ」が駆ける! ベルギーで催されたイープルラリーを、ラリーカメラマンの山本佳吾さんがリポート。歴戦の名手が、懐かしの名車が参戦する海外ラリーのだいご味を、あざやかな写真とともにお届けする。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。