アウディRS 5クーペ(4WD/8AT)
新しい時代のスーパースポーツ 2018.01.11 試乗記 アウディから、最高出力450ps、最大トルク600Nmの高性能スポーツクーペ「RS 5クーペ」が登場。最新のV6ツインターボエンジンとフルタイム4WD機構を組み合わせたハイパフォーマンスモデルの、数値的なパフォーマンスだけにとどまらない魅力をリポートする。クーペっていいな
アウディRS 5クーペが1257万円から。対して標準仕様の「アウディA5」は686万円から。これだけの価格差がありながら、アウディRS 5 クーペの佇(たたず)まいは基本的にはA5から大きく変わらないエレガントなもの。その価格差や性能の違いを「どないだー!」とギンギラギンにアピールすることは、アウディというブランドの流儀に反するようだ。
真っ先にお金の話をする下品な人間と違って、アウディと、このブランドを支持する方々は奥ゆかしいのだ。ミニバンにしろSUVにしろ、最近はフロントマスクのアピール力がインフレ気味。街の雰囲気が悪くなったように感じるほどだから、アウディRS 5 クーペを見た時にはなにかほっとした。
よくよく見れば、むっちりとした筋肉を思わせるリアフェンダーのふくらみとか、空気取り入れ口を大型化したフロントフェンダーなど、ディテールには高性能バージョンらしい演出が施されている。けれども全体のフォルムをひと言で表現するにあたっては、「気品がある」という言葉を選びたい。このクルマの造形美にふれたことで、クーペというスタイルの成り立ちに思いはせたくなるほどだった。
ご存じの方も多いように、クーペの語源は「切る」という意味のフランス語。馬車の時代にキャビン(客室)の後半部分を切って、乗車定員は少ない一方で、パーソナルで機敏に動くぜいたく仕様を仕立てたことに由来する。
で、いざ使ってみると、アウディRS 5 クーペというモデルは、「クーペ(と暮らす生活)っていいな」と思わせる見事な仕上がりだった。
ギョーカイ風にいうと“トルクのツキがいい”
RS専用に仕立てられたスポーツシートは、RS 5というモデルのエクステリアと同様、これ見よがしなところはない。けれども一度腰をおろせば、よく使い込んだ野球用のグローブにボールがすっぽり収まるように、ドライバーの体を包むようにホールドしてくれる。ステアリングホイールに巻かれたアルカンターラの手触りのよさにうっとりしながら、エンジンスタート。地図画面のほか、現在発生しているトルクやパワーといった情報も呼び出せるアウディバーチャルコックピットは、いまもって新鮮だ。しかも視線の移動を最小限に抑えて地図が確認できるから、疲れない。
新型RS 5 にあって、まず注目すべきポイントはエンジンだ。先代RS 5は、排気量4.2リッターのV型8気筒NA(自然吸気)エンジンを搭載していた。それが新型では、2.9リッターのV型6気筒ツインターボエンジンに取って代わっている。V8NAエンジンの濁りのない音や、抜けるような回転フィールがどう変化しているのか、または変化していないのか。
発進から3m、5m、10mまでは、その力強さに圧倒される。強くアクセルを踏まなくても、関取が軽く四股を踏んでも秘めたるパワーを感じさせるように、力に余裕があることを肌で感じる。
最高出力を比べると、V6ツインターボとV8NAは450psで同じだ。ただし最大トルクは430Nmから600Nmへと大幅に増強されている。しかも、その最大トルクを1900-5000rpmと幅広い回転域で生むから、扱いやすい。そしてただ運転しやすいだけでなく、アクセルを微妙に踏み増した時にも繊細に反応するから、操縦していて気分がいい。自動車業界用語で「トルクのツキがいい」と表現するけれど、アクセル操作に対する反応がいいから、ただ速いだけでなく楽しいのだ。優秀な機械を自分がコントロールしているという実感と、機械と自分が一体化したような快感の両方を味わえる。
その存在を声高に主張する部品ではないので見過ごしがちではあるけれど、素早く丁寧な仕事をするトランスミッション、8段ティプトロニックもドライブフィールに好印象を抱く一因だ。
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汗臭さもオイル臭さも感じない
あるいは、V8NAエンジンの甲高い排気音や、高回転に向かって盛り上がるパワー感に郷愁を覚える方もいるかもしれない。まず音に関していえば、V6ツインターボは鼓膜を震わせるというよりずっしり腹に響くタイプ。そして皮肉なことに、低回転域から十二分な力があることで、高回転域まで回しても特にうまみが出るわけでもない。
踏み込めば周囲の景色がコマ送りで後ろに吹き飛ぶほどの怒濤(どとう)の加速を見せるけれど、昔のスポーティーなエンジンのように1500rpmと5000rpmでは音もパワー感も別物、というドラマは感じられないのだ。
でも、運転を続けていると、この電気自動車を思わせるエンジン特性が、RS 5というモデルの性格に合っていることがわかる。例えばコーナリング。ステアリングホイールを切り込むと、狙った通りのラインを寸分たがわず通過する。少なくとも、ドライバーはそう感じる。その曖昧さのないオン・ザ・レールのコーナリングは、一糸乱れずと表現したくなる類いのもの。タイヤが正しい角度で路面と接していることが伝わってくる。
タイヤを滑らせながらコーナリングしたかつての高性能車がアナログな感触だったとすれば、こちらはデジタルの感覚。クールに静かに速い。で、この走行フィールには、電気モーターを思わせるV6ツインターボがしっくりくるのだ。汗臭さもオイル臭さも感じさせない、新しい時代のスーパースポーツだ。
曖昧さのないコーナリングは、いくつかのハイテクから生まれる。まずアウディ自慢の四駆システム「クワトロ」が高出力を前後軸に正しく振り分ける。そしてリアのスポーツディファレンシャルが左右のトルク配分をコントロール。井の頭公園の池のボートで、右手でオールをこぎ、左手で抵抗を与えるとその場でクルッと回る、あの感じだ。さらにもうひとつ、DRC(ダイナミック・ライド・コントロール)を備えるスポーツサスペンションが、車体の姿勢を正しく保つ。
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“愛馬”とされる資格がある
不思議に感じるのは、大パワーをばしっと受け止めてコーナリングする一方で、のんびり走っている時には乗り心地が快適なことだ。「高出力車の割には」というエクスキューズなしに、乗り心地はフラットでしなやかなのだ。この乗り心地は、普段はやわらかく伸縮するのに、力を入れるとパンと張って力を発揮する、アスリートの質のよい筋肉を思わせる。
先日試乗した、354psを発生する高性能SUV「アウディSQ5」でも同じことを感じたから、アウディは高性能と快適性を高次元でバランスさせるコツを自家薬籠中のものにしたのだろう。舗装がよくなったんじゃないかと感じるくらいスムーズな乗り心地も、アウディRS 5が新しい時代のスポーツカーだと感じさせる理由のひとつだった。
乗り心地のほかに、ステアリングホイールの手応えのよさも心に残る。冒頭でアルカンターラの手触りのよさにふれたけれど、手応えもいい。街中を流している時でも、コーナーを攻め込んだ時も、常にタイヤがどのように地面と接しているか、路面がどのような状況かを詳しく、明快に伝えてくれるのだ。
そうやって細かく見ると、アクセルやブレーキの踏み応え、スイッチ類のクリック感など、手や足で触れる部分のフィールが洗練されていることに気付く。べらぼうな超高性能車なのに、手に負えないモンスターではなく、操作に正確に応えてくれる知的な相棒だと感じさせるのだ。アウディには「五感の官能評価チーム」的な部署があるとのことだけれど、実にいい仕事をしている。
渋滞でアクセル、ブレーキの他にステアリング操作もアシストしてドライバーの疲労を低減してくれる「トラフィックジャムアシスト」を筆頭に、自動運転系の運転支援装置は最先端のものが備わる。ただし古典的なクルマ好きとしては、こうしたアシスト装置よりも、身体がとろけそうになる走行性能に心を打たれる。もちろん、クルマ(社会)は自動運転に向かって、自分で運転するクルマは乗馬場のように限られた場所で楽しむものになるのだろう。もし運転がいまの乗馬のように高尚な趣味の位置付けになっても、アウディRS 5には“愛馬”としてかわいがられる資格が十分にある。
(文=サトータケシ/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
アウディRS 5クーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4725×1860×1365mm
ホイールベース:2675mm
車重:1760kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.9リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:450ps(331kW)/5700-6700rpm
最大トルク:600Nm(61.1kgm)/1900-5000rpm
タイヤ:(前)275/30ZR20 97Y XL/(後)275/30ZR20 97Y XL(コンチネンタル・スポーツコンタクト6)
燃費:8.7リッター/100km(約11.5km/リッター 欧州複合モード)
価格:1257万円/テスト車=1464万円
オプション装備:アシスタンスパッケージ<パークアシスト+サラウンドビューカメラ>(8万円)/ヘッドアップディスプレイ(14万円)/Audi exclusive RSスポーツエグゾーストシステム(17万円)/Audi exclusiveセラミックブレーキ<フロント>(84万円)/Audi exclusive RSデザインパッケージ(21万円)/Audi exclusiveカーボンスタイリングパッケージ<マットアルミニウム、カーボンエンジンカバー含む>(63万円)
テスト車の年式:2017年型
テスト車の走行距離:1960km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:279.6km
使用燃料:38.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.3km/リッター(満タン法)/7.7km/リッター(車載燃費計計測値)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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