アウディRS 5(4WD/7AT)【試乗記】
スーパースポーツの新人類 2012.12.15 試乗記 アウディRS 5(4WD/7AT)……1280万6000円
“スポーツクーペの理想形”をかかげる、アウディの4シータークーペ「RS 5」に試乗。その走りは、どのようなものなのか?
ファーストタッチで「死角がない」
「さすがに街中では(アシが)かってぇな〜」と思ったけれど、そうだと思い出して、アウディドライブセレクトを「DYNAMIC」から「COMFORT」へ切り替える。するとクルマ全体に張り詰めていた緊迫感が、いいあんばいにふっとほぐれる。
乗り心地は硬いには硬いけれど、それは脳天に響くようなイヤな硬さではない。路面からは小さくないショックが伝わるのに「スポーツカーらしい」と納得できるのは、がっちりとした車体が一発で衝撃を受け止めるからだろう。「トン!(という衝撃)」→「はい終わり!」という、スポーツマンらしい潔さがいい。その「トン!」も、絶妙に角が丸められていて、とがった感じがない。これもイヤな感じを受けない理由だ。
しかし乗り心地も問題ないとなると、いよいよ死角がないクルマだ。2年前に登場した「アウディRS 5」は、マイチェンを受けてさらに煮詰まっていた。
狭い道に入ると意外と横幅があることに気付くけれど、スーパーカーとしては扱いやすいサイズのボディー。低回転域では裏方仕事をしっかりこなし、回せば華やかなスターの役回りも演じる4.2リッターのV8エンジン。荷物置き場としてではなく、きちんと座席として使える後席。フルタイム四駆システム。
こうやって要素を挙げていくと、どうしても「ポルシェ911カレラ4」と比べてしまう。値段はRS 5(7AT)が1222万6000円で、カレラ4(7MT)が1265万円。0-100km/h加速の公表値はRS 5が4.5秒で、カレラ4が4.9秒。
30歳代のクルマ好きと話をしていると、実はアウディRS 5とカレラ4で悩んだりはしないようだ。「RS 5もクールだけれど、新しい『ゲレンデ』もゴツくてインパクトがある」的な比較検討がイマ風らしい。でも、旧世代なのでどうしてもRS 5とカレラ4のどっちにしようか、的な視点から試乗してしまう。とは言いつつ、自分の場合は憧れのクルマがポルシェ911なので、以下、×1.4ぐらいの“ポルシェ係数”をさっぴいてお読みください。
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見せびらかさないスーパーカー
ここで外観を比べるのはアウディがちょっとかわいそう。約50年の時間をかけて磨きこまれたポルシェ911のあの形は、カッコいいとか好き嫌いという次元を超えた存在感がある。
ただしアウディRS 5のデザインには、街中で気配を消せるという長所がある。カレラ4だとどんなにクルマに興味がない人でも「あっポルシェだ」と思うだろうし、同時に「羽振りがいいすね〜」的な視線にさらされる。
けれど、アウディRS 5の場合は、「クワトロGmbHが……」と言ってもわかる人にしかわからない。クルマに興味がない人の前にRS 5と「A3スポーツバック」を並べて“どっちが高いか当てクイズ”をやったら、正解率は70%ぐらいではないか。
ま、これだけの超高性能スーパーカーなのに、こんなにたたずまいがアンダーステートメントなクルマはほかにない。そこがアウディRS 5のデザインの魅力だ。
「RS 5」というロゴが刻まれた、RSモデル専用の滑らかな手触りのレザーシートに腰掛けると、インテリアもこの種のクルマにしては控え目だということがわかる。「どないだー!」と高性能や豪華さをアピールするのではなく、落ち着いたデザインとクオリティーの高いパーツで黙って勝負するタイプだ。
走っていると、NA(自然吸気)のV8エンジンにシビれる。市街地では、2000〜2500rpm程度の低い回転数からじわじわとタイヤに力を伝える。このぐらいの回転域だと、ドロロッというV8っぽさもかすかに感じさせる。
ところが回転を上げるにつれ「ドロロッ」は消え、カッキーンと金属的な手応えとともに突き抜けるように回る。そんなはずはないのだけれど、「カッキーン」を際だたせるためにわざと「ドロロッ」を感じさせる演出なのではないかと勘ぐりたくなるほどだ。
味わうほどに新しい
トランスミッションはおなじみのデュアルクラッチ式。キレ味鋭く、しかもショックなしにシフトする。この電光石火のシフトと、「カッキーン」というエンジンのフィーリングが合わさって、新しいスポーツカーだという雰囲気がさらに強まる。
ちなみに最高出力450psは、8250rpmという超高回転で発生する。こんなに回る自然吸気の大排気量V8エンジンはこれからどんどん減るはずだから、在庫があるうちに買いだめしておくのも手かもしれない。
ワインディングロードで少しヤル気を出す程度だと、オン・ザ・レールでコーナーをクリアし続ける。ここでつい、「オン・ザ・レール=乗せられているようでツマラン」と考えてしまうけれど、RS 5の場合は違う。自分がきっちりドライブしているから狙い通りのラインを走っているのだ、と思えるのだ。
しっかりとインフォメーションを伝えるステアリングフィール、強力かつリニアに効くブレーキ、ノーマルの「A5」より20mm車高を低めたスポーツサスペンション、レスポンスに優れるパワートレインなどが相まって、「オン・ザ・レール=クールで新しいファン・トゥ・ドライブ」だと感じさせる。
そう感じる裏では、ハイテクがフル稼働している。クワトロシステムは、通常だと前40%:後60%のトルク配分になっている。それが状況によっては前70%:後30%から前15%:後85%にまでトルク配分を変える。
また、内輪にブレーキをかけることで状況に合ったトルクを4輪に配分するエレクトロニック・トルクベクタリング機能や、左右後輪間でトルクを配分するリアスポーツディファレンシャルも、“楽しめるオン・ザ・レール”の実現に貢献しているはずだ。
ということで、見て乗って走ってみると、アウディRS 5はいろんなところで「こっちのほうが新しいかも」と思わせるのだった。スーパースポーツの新人類でしょう。
(文=サトータケシ/写真=小林俊樹)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。