第470回:怒涛の“アメ車愛”が炸裂!
プチオーナー体験で感じた新型「カマロ」の魅力を語り尽くす
2018.01.15
エディターから一言
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怒涛(どとう)の大排気量V8エンジンを搭載したアメリカンマッスルカー「シボレー・カマロSS」がwebCG編集部にやってきた! 自身もアメリカ車を所有するwebCGほったが、1泊2日のプチオーナー体験で得た感想を、シボレーに対する愛をぶちまける。
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問答無用でカッコイイ
読者諸兄姉の皆さんは、「排気量6.2リッターのアメリカンマッスルカーを1泊2日好きにしていいよ」と言われたら、どうしますか? 記者は、ワンポンドのステーキを食いに行きます。
……冒頭から、いきなり読者置き去りでぶっ飛ばし気味な点については、シグナルグランプリでケツを振らずにはおれないアメ車乗りの性(さが)だと思ってお許しください。何が言いたいかというと、要するに「1泊2日乗ってていいから、シボレー・カマロで何か書いたって」と言われたので、ホントに沼津にワンポンドステーキを食いに行ったのだ。なんでワンポンドステーキなのかについては、おいおい。
品川のゼネラルモーターズ・ジャパン(GMJ)で受け取ったシボレー・カマロは、佐野弘宗氏がリポートを寄せた黒の「カマロSS」そのもの。ちなみに、あの記事も、その後に掲載された「コンバーチブル」の記事も、取材・編集を担当したのは誰あろうこのワタクシである。脳内で「いやはや、私たち縁がありますね」なんてごあいさつしつつ、あらためて実車を矯めつ眇(すが)めつ。うーん、ちきしょう。カッコイイな。こういうクルマを造らせたら、つくづくビーフが主食の連中にはかなわん。
にらみの利いたヘッドランプに、自己主張の激しいボンネットのパワーバルジ、ドアパネルの後ろでキックアップしたショルダーラインと隆々と盛り上がるリアフェンダー。サイドビューは往年のマッスルカーの伝統を受け継ぐ正統派2ドアクーペのそれで、「空気抵抗なぞ貧弱野郎の語ることヨ」ってなスタイリングをしていながら、トランクフードにはちゃっかりリアスポイラーが載っかっている。おいおい、そんな女の子のスカートみたいなもんくっつけてたら、隣んちのウォルト(映画『グラン・トリノ』の主人公。気になる人はとにかく見るべし)にしかられるぜ?
このカマロを前にすると、「ダッジ・チャージャー」の試乗記で桐畑恒治氏が使った、「蛇に睨(にら)まれた蛙」というフレーズを思い出す。遠慮のないスゴみの前には、新しい提案だの○○へのオマージュだのといったヘリクツなんぞ全部吹っ飛ぶ。ウンチクでは語れないものこそホンモノだ。
街中を走っているだけでも楽しい
もちろん、つぶさに見ていけばカマロのディテールにはいくらでも語れるトピックはある。しかし紙面の都合と意味のなさから、そんなもん割愛。とにかく「実車を見ろ」である。それに、あんまりビルのエントランスで写メしていると、警備員さんにしかられるかもしれないしね。そんなわけで、キーを受け取ったらそうそうに退出。そのまま編集部に戻っても芸がないので、ちょいと台場方面へと繰り出すことにする。
ここ最近は、スタート時にひと吠(ほ)えカマすのが高性能車のトレンドなようで、このカマロもなかなかにドスの利いた雄たけびを聞かせてくれる。違うのはその先で、アイドリング中はいかにも「デカいエンジンがデカいフライホイールを回してまっせ」といった横揺れと音が、ぶっとい筒のなかを大量の空気が吐き出されていく感覚が(音じゃないのよ)伝わってくる。なんというか生き物である。「なんだよこれ、エンジン回ってんだろうな?」と不安になるよそさまのクルマとは、全然違う。
そこからグイっとスタートすると、意外や走りだしは穏やか。恐らくは、同じパワープラントを積む「コルベット」との差別化を図っているのでしょう。早開き&ダイレクト原理主義の制御に慣れた人には拍子抜けかもしれないけど、そもそもカマロはスポーツカーじゃない。これがいいし、これが自然。相田みつをも言ってるじゃないの。「トルコンだもの」。違うか。
下道を流している分にはカマロは至って快適で、でもやっぱり動物っぽく、アクセルを踏むと遠くからエンジンのうなりを聞かせてくる。しかし窓を開けてみると、この状態でも意外や排気音は“イイ感じ”で、ラテン系どもの爆音とは一味違う、控えめだけど、低くスゴみの利いた音を周囲にサーブ中である。この、ある種の脈動感を感じさせる「ろんろん、ずろろろ」という音は、まさしく大排気量V8ならではのもの。寒いけど、ちょっと窓を開けていたくなる。
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プライスタグにも歴史は宿る
まったりと風情たっぷりな下道ドライブを堪能すること30分、路肩でひと休憩しつつ、ついでにスペックシートでクルマの詳細をおさらい。ふむふむ、車両そのものは645万8400円ですか。思い切ったものですね、GMJも。
正直、「アメ車となると真っ先にコスパの話」という安直なリポートはあんまり好きではないのだが、それでもやはり、このクルマを語る上ではそれに触れないわけにはいかないでしょう。だって奥さん、650万円ですもの。絶対的には安くはないけど、他にこのお値段で買える“450ps”が日本にありまして?
“生粋のスポーツカーを除く”という、厳密な意味での「マッスルカー」という言葉の語源には諸説あるけど、その始まりが「ポンティアックGTO」に代表される1960年代のスペシャリティーカーだったことは間違いない。雑な説明で恐縮だが、安価なインターミディエイトやコンパクトのボディーに強力なエンジンを押し込んで、若者でも走りを楽しめるクルマに仕立てたのだ。その伝統は最新のカマロSSにもちゃんと受け継がれていて、コルベットのエンジンを積んでいながら、われらパンピーでも夢を見られる価格帯にどうにか踏みとどまっている。多くのメーカーが「パワー=プレミアム」という構図で利益を上げる中、「そうは言ってもウチはシボレーだし」と頑張っているのだ。クルマ好きを自負する御仁なら、ぜひこの価格設定にも歴史とロマンと心意気を感じてほしいものである。
まあ、だからこそ1000万円級のクルマにはかなわない部分もあるわけで、なかなかにかっこいいインテリアは総革張りとはいかないし、ADASもどちらかといえばシンプル。マーケ的には、オプションでもいいからACCは付けるべきだったと思う。……というのは、ギョーカイの末席を汚す者としての建前。本音を言うと「いるかよンなもん」だ。このブイハチとガスペダルさえありゃACCなんていらん。むしろMTをください。男は黙ってスティックシフト。
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エンジンがすごい、シャシーもすごい
そんなこんなで2日目。16時までにGMJにクルマを返さなければいけないので、撮影および肉との格闘も考慮し、朝5時半に武蔵野を出発することとする。ルートとしては東名高速で御殿場まですっ飛ばしてしまうのが楽だけど、それだと芸がない。ちょっと寄り道して、ターンパイク経由の箱根越えを挟んでみましょう。
さてさて。こういうクルマのリポートで高速道路といえば、料金所ダッシュがお約束である。場所は東京料金所。走行モードで「スポーツ」を選び、いつも以上の低速でETCゲートをクリアしたら、やおらアクセル全開をかます。吠えるLT1、飛び出す1.7t。ペダルを押し込む右足がビビる。
平静を装いつつ実況させていただくと、その加速はパーンと飛び出すパチンコ型ではなく、わずかな間にずわっとスピードを乗せていくタイプ。サウンドもその加速と連動していて誠にキモチがよろしい。最近はやりの「スピーカーで流したV8」とはワケが違う、本物のV8だ。ウチの「バイパー」もそうだけど(隙あらば愛車自慢)、一発一発がでかい大排気量エンジンで味わう回転の高まりには、「ああヤバいことしているかも」という、ある種の怖さが伴う。世のジャーナリストさんが言う「ゾクゾクする」という表現は、たぶんこういう感覚を指すのでしょう。
そのままレブカウンターに当たるまでエンジンの高まりを確かめてやろうと思ったのだが、バックミラーを見たら、シルバーの“クラウンさん”がそっと後ろについていたので、今回はここまでにする。それにしても、こんな早朝に覆面さんに会ったのは初めてかもしれない。朝も早うからご苦労さまです。
引き続き、ターンパイクでは上りのワインディングロードを満喫。極端に飛ばさない記者の運転もあるのだろうけど、ターンパイク程度の曲がりの繰り返しだと、走行モードが「ツーリング」のままでもカマロは涼しい顔で、スパー、スパーとコーナーをクリアしていく。応答遅れというか、ボディーの動きにテンポのズレを覚えることもない。普段走りでの乗り心地の良さといい、新型カマロのシャシーは実にゴキゲンである。
V8をあがめよ
んでもやっぱり、記者はここでもV8について語りたい。とにもかくにも余裕があるから、トルクレスポンスは上々。上り坂でのじんわりとしたスロットル操作にも、その通りに応えてくれる。その状態でメーターを見れば、エンジン回転数は1200rpm(!)。このままトルクに任せて大観山まで流すもよし、ちょいとアクセルを踏んでLT1と戯れるもよしである。
佐野さんのリポートはもちろん、同じ「アルファアーキテクチャー」を使用する「キャデラックATS」や「CTS」の試乗記を見ればご理解いただけるでしょう。新型カマロは、シャシーだけでも語れるクルマだ。でもやっぱり、「SS」ではこのエンジンこそが主役。webCGデスク竹下風に言うと、「エンジン・ザ・スーパースター」である。同じようなハイアウトプットのエンジンの中でも、大排気量NAの回り方には過給機でドーピングした連中にはないありがたみがある。止まっているときも、流しているときも、ぶっ飛ばしているときも、同クラスのエンジンでこんなに表情豊かなものはほかにない。ありがとうLT1。ありがとう、ナマの453ps。
……ん? 453ps? 453といえば、確か1ポンドは453gではなかったか?
というわけで、都合約3700ワードにわたる壮大な前フリは終了。記者はこんな大喜利みたいな理由で、カマロで沼津までワンポンドステーキを食いに行こうと思い立ったのだ。
ちなみに、ワンポンドステーキといえば同じ静岡でも伊東にそのスジで有名なお店があるのだが、調べたところ供される肉の量は420g。それではLT1の偉大さを表現するには足りないので、今回は沼津まで足を伸ばすことと相成った。場所は沼津市役所からほど近い某ステーキ店。以前に知人と連れ立ってのツーリングで訪れたことがあり、その際、メニューにワンポンドステーキがあることを確認していたのだ。
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ああこの瞬間がカマロだね
で、実際に相まみえた感想は、「ああ、これ全然いけますね」。挑む前は「450gって結構な量だよな」と戦々恐々としており、最悪の場合に手助けを乞えるよう同僚の折戸氏にも声をかけていたのだが、実際に手合わせしたらなんてことはなかった。途中、テーブルの調味料で味を変える必要もなく、飽きずにしょうゆだけでぜんぶ食ってしまった。
とはいえ、さすがに食後は体がグッタリ。朝5時起きで山越えし、450gの肉に加えて米もポテトサラダも胃に押し込んだんだからご理解いただきたい。そして、そんな状態だったからこそ、帰路では走りだしのおおらかなカマロのトルコンATが、染みるようにありがたかった。ダイレクト感上等のトランスミッションだったら、御殿場ICにたどり着く前にうんざりしていたと思う。
いんや。トランスミッションだけじゃなくて、ゆったりとしたエンジンの回り方も、“スポーツカー”とは一線を画す乗り味も、トーチカのような守られ感を覚えさすウィンドウの切り方も、ぜんぶそう。世にグランドツアラーと称するクルマは数あれど、かように懐の深いのは、やっぱりアメリカのスペシャリティーカーだけだと思う。あとは、ちょいと古いメルセデス・ベンツとかね。
人間、常にドライバーズシートで背筋をピンと伸ばしてはいられないし、ウィンドウの縁に肘を置き、ずぼら運転したいときだってあるはずである。そんなとき、「いや、ワタクシのことはこう運転してください」とドライバーに強要するクルマより、一緒にだらだら走ってくれるクルマの方がワタクシは好きだ。そして記者以外にも、「実はそういうクルマの方が好き」という人は多いのではなかろうか。
なにせほら、相田みつをも言ってるぐらいですからね。「にんげんだもの」。
(webCG ほった)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。