シボレー・カマロSS(FR/10AT)
速い 安い キモチイイ! 2019.04.08 試乗記 最新の10段ATや“ラインロック”機能付きのローンチコントロールなど、さまざまな新機軸が取り入れられた2019年モデルの「シボレー・カマロSS」。パワフルな6.2リッターV8 OHVを積んだ現代のマッスルカーは、どのような進化を遂げたのか?日本ではデビューから満1年だが……
日本上陸からわずか1年でマイナーチェンジを受けることになってしまったカマロだが、その理由は現行カマロの日本発売がアメリカ本国より遅れたせいである。本国での現行カマロは、この2019年モデルでデビューから満3年の4年目となる。
カマロの車体骨格やパワートレインは同じGMのキャデラック名義で販売される「ATS」や「CTS」のそれと共通部分が多い。つまり、そのメカニズムはまだまだ最新の部類であり、この6代目カマロも本国で2015年に発売されたばかり。今回のマイナーチェンジは、おそらく発売当初から計画されていた恒例行事といっていい。
よって、その内容も大規模なものではなく、先日ここで報告させていただいた2リッター4気筒ターボの「LT RS」などは、基本的にフェイスリフトと内装備品のアップデートにとどまる。視覚的なイメチェン効果はけっこう大きいのだが、その変更範囲はバンパーやグリルなどの樹脂部品と灯火類にかぎられて、外板のプレス部品はボンネットフードのみ。……となると、自動車業界の定義では、やはり、あくまで“マイナー”なチェンジである。
ちなみに、日本仕様ではその車体形式が1種類となるために単純に「コンバーチブル」と呼ばれる屋根開きカマロも、装備や内外装トリムなどの仕様内容はおおむねクーペのLT RSと共通だ。
そんなLT RSやコンバーチブルと比較すると、今回連れ出したV8のカマロ=SSの変更範囲はもう少し広い。内外装のデザインや装備品の変更は基本的にLT RS/コンバーチブルに準じるが、アルミ製ボンネットフードは形状のみならず、SS専用のエア抜きもより大きく、ヌケのよさそうな形状になった。
注目の10段ATと走りにまつわる新機能
ただ、それ以上に注目すべきはトランスミッションと、GMジャパンがいうところの「パフォーマンス装備」である。この2つの新機軸は、今回はSS限定の変更となる。
なかでも最大の変更点となるオートマチックトランスミッション(AT)は、これまでの8段から10段となった。その10段ATは「ハイドラマチック10L80」という。ハイドラマチックはGMのATに使われる愛称で、10Lとは“10段の縦置き(=L)”の意味。末尾の2ケタは許容トルク容量を示す記号である。今のところ、10L80のほかにさらに容量の大きい「10L90」もあり、6.2リッターV8スーパーチャージャー(最大トルク868Nm!)を積む「カマロZL1」(日本未導入)にはその10L90型が使われている。
GMといえばトルクコンバーター(トルコン)式オートマチックを初めて実用化して、その後も一貫して自社生産してきた歴史をもつ。この10L80もその伝統どおりミシガンにあるGMパワートレイン工場で生産されるが、その開発はフォードと共同でおこなわれた。「いかにも対抗意識バリバリっぽい2社が共同開発」というところに日本人は引っかかるかもしれないが、両社のトランスミッション協業はこれが初めてではない。これ以前にも横置き6段ATが共同開発されているし、両社はこの縦置き10段ATと同時に、横置き9段ATの共同開発にも合意していた。縦置き10段のほうはすでにGMのみならずフォードでも使われはじめているが、GM主導で開発された横置き9段をフォードは後になって「やっぱりイラネ」といいだした……なんて報道も出ているが……。
新しいカマロSSのもうひとつのキモは、ローンチコントロール(=パフォーマンス装備)の機能強化である。ローンチコントロールそのものは以前から備わっていたが、今回は発進時のエンジン回転数や後輪のスリップ率を選択できる“カスタム”機能や、前輪をロックして駆動輪のバーンアウト(ホイールスピンをさせてタイヤの温度を上げ、グリップ力を最大限に引き出す)がおこなえる“ラインロック機能”を追加した。
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相変わらずすばらしい「LT1」の心地よさ
それにしても、このV8……すなわち「コルベット」と基本的に共通となるスモールブロック「LT1」ユニットといったら、何度味わってもチビりそうになるくらい気持ちいい。
そのフィーリングにはある種の重みとタメがともなっており、軽々しく回るタイプではない。ただ、意を決して踏み込んでいくと、4000rpmくらいから明らかに音が変わり、そこからは絞り出すような高音で歌い上げながら、レブリミッターが介入する6600rpm(回転計表記は6500rpmからレッドゾーン)まで一気に吹ける。その音はスロットルオフ時でもきちんと演出が入っており、手元の「ドライブモードセレクター」で日常づかいを想定した穏やかな「ツーリング」モードにしても、加減速を繰り返すとパンパンッというアフターファイア音が吐き出される。
新しい10段ATは、1速が明確に低くなったり、あるいはトップギアでの回転数が飛躍的に低下したわけでない。ローエンドとハイエンドのレシオは従来と大きく変わらず、その中間をよりきめ細かく刻む設定といえる。それと同時に、大容量型の10L90型を搭載するカマロZL1では「パドルシフトでは、あのポルシェのPDKより変速が速い!」とうたうほどのキレ味自慢でもある。
ドライブモードセレクターには前記のツーリング(=ノーマル)のほか、「スポーツ」「トラック(=サーキット向け)」「雪/凍結」という4つのモードが備わるが、10段ATもモードに応じて自動変速時のプログラムだけでなく、変速スピードも変わるようだ(AT制御にかぎるとツーリングと雪/凍結は共通)。
体感的にもツーリングとスポーツの差はあまり大きくないが、トラックではダウンシフト時の空吹かしも盛大となり、変速のキレは明らかに鋭くなる。
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明らかに改善された変速マナーとレスポンス
ただ、少なくとも今回のカマロSSにかぎると、本国のZL1が豪語するほどの鋭い変速は感じられなかった。おそらくSS用の10L80型とZL1の10L90型では、ハードウエアだけでなく制御もちがうのだろう。いずれにしても、今回のSSでは最速のトラックモードに入れても、その変速はよくも悪くも戦闘的なキレ味よりも、トルコンATらしい滑らかさのほうがはるかに印象に残った。
ただ、各ギアの刻みが細かくなったことで変速時のエンジン回転の変動も減少し、変速がよりすみやか、滑らかになったのは明白である。だから、今回の10段化による変速スピードの向上も、サーキットやワインディングロードで青筋を立ててパドル操作するときより、Dレンジに放り込んで、ごく普通に日常づかいしているときの効果のほうが大きい。
もっとも、ワインディングでの変速所作も、あくまで「豪語するほどでは……」であって、新オートマの効能は十分にあるといっていい。マイナーチェンジ前のカマロSSを試乗した際には「ボトルネックになるのが変速機で、V8エンジンとシャシーが織りなすリズム感に8段ATの作動が追いついていない感がハッキリとある」と書かせていただいたが、今回は箱根その他を存分に走り回っても、そう感じることが一度たりともなかったからだ。
前記のとおり、今回の新機軸にはもうひとつ、進化したローンチコントロールもある。これについては、後輪から大量の白煙を上げるアメリカンマッスルらしいプロモーション動画を見れば分かるとおり、新機能のラインロックが最大のアピールポイントである。また、多種多様な車両情報が表示できるメーターディスプレイにもGメーターやラップタイマーとならんで“タイヤ温度”のページも用意されるところが、いかにも気分を盛り上げる。
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ローンチコントロールのカスタム機能が面白い
自慢のローンチコントロールはまずカマロSSの隠し機能ともいうべき「コンペティティブドライビングモード(CDM)」を起動させて初めて使うことができる。
CDMはトラクションコントロールと横滑り防止装置をスポーツ走行用に制限する機能で、スポーツモードかトラックモードの状態で、トラクションコントロールのボタンを2度押しすると起動する。もちろん、安全装置が完全に切れるわけではないので、その機能さえ分かっていれば公道でも十分に使えるものだ。しかし、カマロの取扱説明書には、このCDMについてもローンチコントロール同様に「運転技量に絶対の自信があって、サーキットなどのクローズした場所で、あくまで自己責任で使う以外には絶対にスイッチに触るな!」という趣旨の脅迫めいた表記がなされるところが、なんとも訴訟大国のアメリカらしい(笑)。
ただ、路面に盛大なブラックマークを残すことが許される場所が簡単に見つかるわけもなく、今回は残念ながらラインロックによるバーンナウトを試すことはできなかったが、もうひとつのカスタム機能がなかなか面白いことは分かった。これはエンジン回転とスリップ率を調整することで、スタートダッシュの勢いや滑り具合を状況に合わせてセッティングできるというもの。これを使いこなすには経験とセンスが必要だが、なんとも奥が深い。
ただ、カマロSSのローンチコントロールは、クルマにすべてお任せのオートモードでも優秀……というか、エンターテインメント性が高い。まずは車両をCDM状態として、メーター内のローンチコントロール画面を呼び出し、ブレーキを床まで踏みつけながらスイッチをオンにすると、エネルギーをためこむかのような数秒のタイマー作動時間を経て、ローンチコントロールが使用可能になる。
いよいよ足をブレーキから足を離すと、リアタイヤがこの種の装置としてはちょっと多めに空転したかと思えば、リアエンドがむずがるように左右に揺れつつ、背中から蹴り飛ばされた! ああ、この瞬間がアメリカ~ン!! そのスキール音とヒップの動きはなんともセクシー!!!(笑)。
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この内容で、このお値段はお買い得
4気筒のLT RSに対して、よりハードなバネと連続可変ダンパーの「マグネティックライド」、そして前後異サイズのハイエンドスポーツタイヤ(ただしランフラット)が与えられるSSのシャシーは、相変わらず優秀だ。とくにロール方向にハードな水平基調の調律はいかにもアメリカンっぽいが、正確なステアリング、そして最大617Nmというすさまじいトルクをきっちりと推進力に変換するトラクション性能は、欧州の名門FRモデルに引けを取らない。
ダンピングとパワステはドライブモードをツーリング、スポーツ、トラック……と引き上げるにつれて硬く、そして重くなっていくが、トラックでのパワステが「非力な人に回せるか?」と心配になるほど重い以外は、どのモードでも極端なものではない。だから、少なくとも公道限定なら、ハイグリップ高速コーナーも柔らかいツーリングモードで普通に攻められるし、説明書ではしつこいくらいに「サーキット専用」をうたうトラックモードでも、荒れたせまい峠道でもてあますことはない。
最終的にTPOと乗り手の好みや精神状態によって最適なモードは変わるだろう。それはカマロ自体の基本フィジカルがちゃんとしているので、末端のチューニングが少しばかり変わったところで、本質となる操縦安定性は揺るがないという意味でもある。まあ、ぜいたくをいえば、リアの接地感が同日に試乗・撮影した「BMW 330i Mスポーツ」に匹敵するくらいリアルで鮮明であればカンペキ……とも思ったが、逆にいうと、明らかなツッコミどころはその程度しかない。
新しいカマロSSはツルシでもサンルーフ程度しかオプションのないフル装備状態で680万4000円。マイナーチェンジ前よりおよそ35万円高だ。
カマロは1台のスポーツクーペとしてのデキも素晴らしいが、なによりこれだけありがたいオーラを放つブイハチさま(=LT1)を、ご神体として間近にあがめられるだけで価値がある。カマロSSは輸入V8車として最安であるうえに、(国内で正規販売される)日本車にV8はもはやレクサスを含むトヨタにしか存在せず、しかもレクサスのV8はすべてカマロより高価だ。トヨタを含めても、これより安価に手に入るV8は「ランドクルーザー」しかない。いやこれ、マジで安い。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
シボレー・カマロSS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4785×1900×1345mm
ホイールベース:2810mm
車重:1730kg
駆動方式:FR
エンジン:6.2リッターV8 OHV 16バルブ
トランスミッション:10段AT
最高出力:453ps(333kW)/5700rpm
最大トルク:617Nm(62.9kgm)/4600rpm
タイヤ:(前)245/40ZR20 95Y/(後)275/35ZR20 98Y(グッドイヤー・イーグルF1アシメトリック3)
燃費:--km/リッター
価格:680万4000円/テスト車=700万3800円
オプション装備:電動サンルーフ(15万1200円)/フロアマット(4万8600円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:2074km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:402.1km
使用燃料:67.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:5.9km/リッター(満タン法)/6.4km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。