ホンダ・フリード ハイブリッド モデューロX Honda SENSING(6人乗り)(FF/7AT)
乗れば乗るほど 2018.01.20 試乗記 ホンダのコンパクトミニバン「フリード」に、走りの質を高めるチューニングが施されたコンプリートカー「モデューロX」が登場。「N-BOX」「N-ONE」「ステップワゴン」と、すべてのモデューロX車をテストしてきた河村康彦が、その出来栄えを報告する。特別仕立てのホンダ車
純正用品メーカーであるホンダアクセスが開発した専用のカスタマイズパーツを、ベース車と同じ工場で装着したコンプリートカー。そう紹介されるホンダ車がモデューロXである。新車としてディーラーで購入可能で、保証なども通常モデルと同様に適用されながら、一方では“特別仕立てのホンダ車”とも表現できる。その最新バージョンが今回のテスト車、2017年末に発売されたフリード モデューロXだ。
さすがに純正用品メーカーの作品らしく、パーツの後付け感など皆無のエクステリアは、実はフロントバンパーやサイドとリアのスカート、ルーフスポイラーなど、多くのディテールパーツが専用デザイン。フロントにLED式フォグライトを採用するのも、フリードシリーズの中ではこのモデルのみとなる。
インテリアの基本デザインは“普通のフリード”と共有するものの、ダッシュボードやステアリングホイールの一部にピアノブラック調のパネルをあしらったり、ブラックとモカ色のコンビネーションによるシート地を採用したりするのはこのモデルのみ。
さらに、フロアマットにも「Modulo X」の文字が刻まれたアルミ製エンブレムが誇らしげに光り、ナビゲーションシステムのスタート画面にも専用のグラフィックが映し出されるなど、なかなか芸の細かいところを見せている。
全4種類のワイドなラインナップ
しかし、モデューロXの名が与えられたモデルの真骨頂は、実はそのフットワークにこそある……。というのは、2012年にローンチされた従来型のN-BOXを皮切りに、2015年のN-ONE、そして2016年のステップワゴンと、すでに3モデルを数えるこのシリーズのすべてをテストドライブしてきたからこそ言える経験則!
「揺れの収まりが良く、全席で快適な走りを感じられるよう追求した」と、ミニバンらしいフレーズ(?)で控えめに表現されるフリードの専用サスペンションだが、そのチューニングにひとかたならぬこだわりが注ぎ込まれていることは、経験上容易に想像できる。
一方で、これまでのモデューロX各モデルと異なるのは、6シーターと7シーターという2つのシーティングレイアウトに対応し、1.5リッターの直噴エンジン仕様と、同じく1.5リッターエンジンにモーター付きのトランスミッションを組み合わせたハイブリッド仕様という、2つのパワーユニットも用意するといったワイドなバリエーション展開。
ホンダ・フリードといえばトヨタの「シエンタ」と並ぶ、日本ならではのいわゆる“コンパクトミニバン”を代表するモデル。特別仕立てでありつつも、ここまでの選択肢を用意するのは、「それだけの需要が想定できる」という自信の表れでもあるはずだ。
ただし、駆動方式については、現状はFWD仕様のみの設定にとどまっている。ここまでくると、今度は「モデューロX初の4WD仕様」を望む声も出てくるに違いない。
さすがのフットワークに感服
そんな多彩な選択肢の中から今回テストドライブを行ったのは、2列目にキャプテンシートを装備した6人乗りのハイブリッドバージョン。およそ22万円で用意される9インチの多機能ナビゲーションシステムを加えた総額は340万円弱。スタート価格が188万円からというフリードシリーズの中にあっては、飛び切りの高価格モデルであることは確かだ。
しかしいざ走り始めれば、その高価である理由が「分かる人にはすぐ分かる」のもモデューロX各車に共通する特徴でもある。
ヒタヒタと路面を正確に捉えながら、高いフラット感を演出して走行する感覚は、およそコンパクトミニバンらしからぬ上質さ。
側面が垂直に近いボディー形状に加えて、全高が全幅を上回るというアスペクト比ゆえ、横風などの外乱に弱いという印象は否めないものの、コーナリング時のロール感やブレーキング時のノーズダイブのリニアさにも大いに好印象が持てた。
そもそも“見た目重視のチューニング”を追ったのであれば、その足元はより太く薄いタイヤへと履き替えられ、サスペンションにも明確なローダウンが施されていたはず。
ところがシューズサイズはベースグレードと同様で、サスペンションにも目立ったローダウン化は報告されていない。かくして、性能本位で“太くないタイヤ”を採用したに違いないこのモデルは、5.2mという日常シーンで扱いやすい最小回転半径も、オリジナルのフリードと同様なのである。
そんなこんなで、フットワークの仕上がり具合はやはり「モデューロXならでは」という期待を裏切らなかった。率直なところ、すでにこの時点で“価値ある340万円”と思えたということだ。
対価に納得できる仕上がり
こうしたフットワークの好印象をさらに引き立てることになったのは、同様にフィールに優れた動力性能でもあった。
最高110psのパワーと最大134Nmのトルクを発するエンジンに、29.5psと160Nmのモーターを組み合わせた加速力の絶対値は、日常シーンでは十分である一方、格別に強力と評価するほどでないのは事実。高速道路上で登坂車線が現れるような区間では、思いのほか早いタイミングでキックダウンが行われ、正直「モアパワー」を求めたくなるシーンもなくはなかった。
けれども、ホンダ独自のDCTを用いたハイブリッドシステムがもたらすテイストそのものは、加速Gがシームレスに連続すると同時に、トルクの伝達感がすこぶるタイトで、“スポーツハイブリッド”と言っても過言ではない。
あえて欠点を挙げるとすれば、アクセル操作に対する応答がややリニアリティーに欠けることと、せっかくの7段ギアの持ち主なのにシフトパドルが用意されないことくらいだった。
一方で、ハイブリッドモデル固有の表示が加わることもあって、ダッシュボード上段に位置する、ワイドなクラスター内のメーターグラフィックが、何とも煩雑で理解しにくいところには、ちょっと辟易(へきえき)とさせられた。
そもそも、表示項目を欲張ったカラフルなグラフィックそのものが“スポーティーな気分”ではないし、それでいながらタコメーター機能がないというのも物足りない。
基盤から開発するとなればコスト的にも大変ではあろうが、専用デザインのバーチャルメーターを設定するなどして、こうした部分でも「モデューロXであること」をアピールしてもらいたいと思う。
コンパクトミニバンで300万円を超える価格は、確かに多くのユーザーには敷居が高いはず。けれども、乗れば乗るほどその対価に納得できるというのが、フリード モデューロXなのである。
(文=河村康彦/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ホンダ・フリード ハイブリッド モデューロX Honda SENSING(6人乗り)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4290×1695×1710mm
ホイールベース:2740mm
車重:1440kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:110ps(81kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:134Nm(13.7kgm)/5000rpm
モーター最高出力:29.5ps(22kW)/1313-2000rpm
モーター最大トルク:160Nm(16.3kgm)/0-1313rpm
タイヤ:(前)185/65R15 88S/(後)185/65R15 88S(ダンロップ・エナセーブEC300)
燃費:--km/リッター
価格:313万0920円/テスト車=338万2560円
オプション装備:ボディーカラー<ホワイトオーキッドパール>(3万2400円)/9インチ プレミアム インターナビ(21万9240円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:786km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:276.5km
使用燃料:17.5リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:15.8km/リッター(満タン法)/15.9km/リッター(車載燃費計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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