アルファ・ロメオ・ジュリア ヴェローチェ(4WD/8AT)
クセがあるから面白い 2018.01.24 試乗記 いよいよ日本にも導入されたファン待望のスポーツセダン「アルファ・ロメオ・ジュリア」。そのラインナップのなかから、今回は280psを発生する「ヴェローチェ」の4WDに試乗。その走りの特徴を、アルファの4WDの歴史とともに紹介する。量産モデルとしては約25年ぶり
新型ジュリアは、しばらく空席になっていた「BMW 3シリーズ」クラスのアルファ・ロメオの復活である。それと同時に、10年ほど前に限定販売された「8Cコンペティツィオーネ」を例外とすれば、これは1990年代初頭に生産終了した「75」以来、約25年ぶりとなる量産FRアルファでもある。
アルファがフィアット傘下におさまったのは1986年のことで、当時のフィアット系はすでに全車がエンジン横置きのFF車になっていた。また、アルファにもそれ以前からFFコンパクトカー(アルファスッド)の経験はあった。それでも“ちょっと高級”や“スポーツ”といった同社の伝統的イメージからすると、75の後継機種は縦置きFRレイアウトが好ましかったのだろうが、当時のクルマ技術からすると、それも現実的ではなかった。
というわけで、実際にフィアット傘下で企画・開発されたアルファの量産機種は、基本的にすべてが横置きFF車となった。
しかし、時代は変わり、技術も進化する。
グループ内でアルファに車格が近かったランチアは今や絶滅寸前。現在は欧州の一部市場で「イプシロン」がかろうじて残っているだけで、とてもアルファと兄弟車戦略を展開できる状況ではなくなった。同時に、フィアットはいつしか米クライスラーと一体となり、それを足がかりに、アルファを20年ぶりに北米市場に再参入させることにした。2014年のことだ。
こうしたもろもろの現実や思惑から、今のアルファはマセラティとのつながりを強めている。前記の8Cやミドシップの「4C」はマセラティ工場での生産である。また、現在はクルマづくりの技術も進化して、以前のようなプラットフォームの大規模共用化を必要としない。そうした最新技術とマセラティとの共闘戦略があったからこそ、今回のジュリアでマニア待望の“アルファ量産モデルの縦置きFR化”が実現したというわけだ。
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こだわりの詰まったアルファ製4WDの歴史
……とか書きつつも、今回のジュリアは、厳密にはFRではなく4WDである。新型ジュリアで4WDが用意されるのは、3種類あるエンジンのうちで真ん中にあたる280ps仕様である。このハイチューン型4気筒ターボを積むジュリアは「ヴェローチェ」と呼ばれる。発売当初のヴェローチェは今回の4WDのみだったが、先日から後輪駆動も選べるようになった。
ジュリアのFRを“アルファ待望”とかいった舌の根も乾いていないのだが、アルファはスポーツ4WDの名門でもある。親会社(フィアット)の都合でFF化を余儀なくされた初作品の「164」から、彼らはトップモデルに4WDの「Q4」を設定した。当時からラリー界ではすでに4WDが常識となっていたが、アルファのそれはあくまで舗装路用。ましてこの種の高級セダンと4WDの組み合わせはまだレアケースで「本当はFFなんかやりたくねえんだよ!」という彼らの心の叫びが聞こえてきそうでほほ笑ましかった。実際、164 Q4に使われていた「ビスコマチック」は前後輪の回転差だけでなく、ステアリング角その他の膨大なパラメーターから積極的にトルク配分するもので、当時は世界で最も複雑にして、超最先端4WDのひとつだった。
続いて、ふたたびアルファ独自の4WDが登場したのが、ジュリアの前身にあたる「159」と、そのスポーツカー版の「ブレラ/スパイダー」だった。ともに2000年代の発売だったから、スポーツ4WDもめずらしい存在ではなくなっていた。しかし、アルファのそれは常時四輪駆動の真正フルタイム式で、しかも後輪に多めのトルクを配分する回頭性重視型。さらにセンターにトルセンデフを使って積極的に差動制限するこだわりの機構をもっており、“舗装路でとにかく曲がる4WD”という意味では、164 Q4の正統後継機種といってよかった。
マニアックな“ちがい”にうれしくなる
……といった長い前置きをもとに、ジュリア ヴェローチェの4WDを見てみる。
ジュリアの日本仕様は後輪駆動だと右ハンドルだが、4WDだけは左ハンドルとなる。縦置きエンジン車では縦置きの変速機の横に4WDトランスファーを抱えるために、前席の左右どちらかの足もとが出っ張ってしまう。で、その出っ張りが多くの場合で右側になっているのは、世界的に圧倒的に左ハンドル市場が多く、助手席側を出っ張らせるほうが影響が少ないからだ。ただ、右ハンドル車ではその出っ張りが邪魔になりがちで、今回のジュリアのように「4WDの右ハンドルはあきらめる」という選択がされるケースも少なくない。
リアのトランクリッドに伝統の“Q4”というバッジが貼られる以外に、内外装に一見して4WDと判別させる仕掛けはない。あからさまにロングノーズ&ショートデッキを強調したシルエットは喜々として「FRでございます」と主張(今回は4WDだけど)。ダッシュボードに2眼メーターをはじめとして円形のモチーフが多用されるのも、昔からサブメーターなどを多用したアルファの伝統的な意匠をモチーフにしているからだろう。
横じまステッチのシート表皮もいかにもイタリア風。ステアリングホイールの一等地に置かれた円形ボタンも重要な視覚アクセントになっているが、それが頻繁に操作する必要のないエンジンのスタート&ストップボタンであることは、最初にデザインありきのムリヤリ感があってほほ笑ましい。
こうして細部にも4WDの独自部分はとくにない……と思ったら、唯一、後輪駆動ではエンジンを問わずに前後異幅となる18インチタイヤが、4WDだけは前後同サイズにされることに気づいた。4WDの操縦性に対する並々ならぬ思い入れがうかがえてうれしくなる。
資料によると、ジュリア用Q4システムのハードウエア重量は約60kgと書かれているが、実際の車両重量は同じヴェローチェ同士だと、後輪駆動との差は40kgしかない。しかも、この「ジュリアQ4」の車検証記載の前後軸重配分が“50.3:49.7”という、なんとも絶妙なところに落とし込まれている点に感心した。
モダンなパワープラントとして上々の出来栄え
ヴェローチェのエンジンは、素のジュリアが積む2リッターのまま過給圧を上げて、280ps/400Nmを絞り出すハイチューン型である。スロットルを踏み込むと、ごくわずかな間の後に、お尻を蹴っ飛ばされたかのような加速力が訪れるところは、さすがの高過給圧エンジンらしい。
最高許容回転が6000rpmと低めなのは最新の過給エンジンならではだが、往年の「アルファ・ツインカム」に憧れた世代にはいかにも物足りない。ただ、トップエンドまでトルクはほとんど落ち込まず、スコーンと回り切るキャラクターは、昨今の同種エンジンのなかでも悪くないデキではある。
自慢の「D.N.A.ド.ライビングモードシステム」を標準の「ニュートラル」モードにするとわずかな過給ラグが看取できるものの、変速機ともどもレスポンス重視型となる「ダイナミック」モードにすると、まさにドンピシャ。このモードでは、エンジンの吹け上がりが強力なキック力にふさわしい鋭さとなり、8段ATはダウンシフトで空吹かしをかましてツインクラッチと見まがうばかりの変速スピードとなる。これなら、かさばるコラム固定型の大型シフトパドルをわざわざ採用したかいもあろうというものだ。
18インチタイヤを履いたフットワークは、低速でこそ少しコツコツするものの、サスペンションそのものは滑らかにストロークしている実感がある。そのコツコツは50km/hを超えると気にならなくなり、高速で80km/hに達するころには絵に描いたようなフラットライドに変貌して、日本特有の目地段差も見事に優しく吸収してみせる。
過敏な挙動、軽くてデッドな操作フィール
このように、ジュリアの本質的な乗り味はいかにも基本フィジカルが高いクルマのそれなのだが、操作系の表向きの味つけは、今風にいうと、ちょっと、クセがすごい(笑)。
ジュリアのパワステやペダルは操作力がとても軽い。例のD.N.A.システムでパワステの手応えを少しだけ変化させることは可能だが、絶対的に軽いことには変わりない。しかも、その反応がとてもシャープである。
ステアリングもロック・トゥ・ロックで2回転ちょっと(!)のクイックレシオ。これより少しおとなしいはずの「ジュリア スーパー」ですら、清水草一さんが「コブシ1個分切っただけで、隣の車線まで吹っ飛ぶようなこのクイックさ!」と表現するように、あまりに軽薄かつ大げさに動かしすぎる調律には、悪ノリ感がなくはない。
いっぽうで、左ハンドルということもあって、ジュリアの美点であるタイヤ位置をつかみやすい車両感覚はさらに研ぎ澄まされており、クルマを実際以上に軽く、小さく感じる。それがジュリアのスポーツ表現のひとつといえば、そうなのだろう。ただ、アシスト強めの操作系は路面感覚にもデッド感がある。低速域でどうしても過剰になりがちな挙動バランスも含めて、少しばかり子供っぽい味つけなのは否定できない。
端々に感じるレスポンスへの執念
ジュリアのQ4は、アルファとしては初のFRベースの4WDになる。油圧多板クラッチを電子制御して、フルグリップ状態では完全な後輪駆動で走りながら、前後左右のGセンサー、舵角センサー、ヨーレートセンサーなどのあらゆるパラメーターから積極的に前輪に(最大60%の)トルクを配分する……という基本構造は、FRベース4WDの最新トレンドそのものだ。
ただ、そのトルク配分の説明に「空転を予測して……」とか「前後アクスル間で2.5%のズレを感知すると即座に再配分」いった文言があることを見ると、ハイレスポンスへの執念は、164で世に出た初代Q4当時から、なんら変わっていないように思える。
実際、4WDのジュリアの4WDの安定性はとても高度で、安心感は絶大。そしてなにより、素晴らしく曲がる! 通常は後輪駆動が基本なので、すさまじいばかりの高速安定性はジュリアの基本能力によるところも大きそうだが、ワダチや横風にもビクともしない強固な直進性にはQ4の恩恵もあるだろう。しかし、山坂道でこそその真価を如実に体感できるのが、歴代Q4に共通する美点であり、マニアの琴線に触れるところだ。
スロットルワークで曲げるべし
400Nmのトルクだから、FRならテールブレークさせるのも容易だが、ジュリアのQ4はそんな“兆候”があらわれる直前から最適に前輪にトルクを吸い出してくれる。適度な荷重移動とスロットル操作にだけ気をつかえば、結果として、わずかにテールを振り出した理想的な旋回姿勢をキープしたまま、ねらった走行ラインにグイグイと引っ張り込まれる。
このときにD.N.A.システムもダイナミックモードにしておくと、横滑り防止装置の介入もこれまた絶妙なところまで制限されて、なんとも具合がいい。また、ジュリアQ4は、いったんヨーが発生してしまえば、あとはスロットル操作だけで自由自在に曲がる。極端にいってしまえば、ステアリング操作はヨーを発生させるキッカケにすぎないから、Q4が真価を発揮する領域になると、過敏でデッドなステアリングもあまり気にならなくなる。逆に他社のクルマと同じようにステアリングだけで曲がろうとすると、ジュリアのステアリングは、過敏であるうえに反応も一定ではなく、なんとなく一体感に欠けるのだ。
こうして「らしく」走らせるコツを体得すると、すべてが見事に調和していくクルマづくりは、さすがアルファである。そうしてズバリと決まったときのコーナリング姿勢で思い出すのは、やはり164 Q4や、159/ブレラのQ4なのである。
FFベースとFRベースのちがいはあれど、目指している走りの姿、そして「クルマはこう走らせるべし」という本質は、今も昔も変わっていないように思う。いや、少なくとも曲がり性能にかぎれば、後輪駆動ベースでより自在な姿勢をつくれるようになった最新のジュリアQ4こそ、彼らの理想にさらに近づいている。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
アルファ・ロメオ・ジュリア ヴェローチェ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4655×1865×1435mm
ホイールベース:2820mm
車重:1670kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8AT
最高出力:280ps(206kW)/5250rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2250rpm
タイヤ:(前)225/45R18 91W/(後)225/45R18 91W(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:12.0km/リッター(JC08モード)
価格:597万円/テスト車=602万2380円
オプション装備:Alfa RomeoオリジナルETC(1万1340円)/フロアマット プレミアム(4万1040円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:7185km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:608.5km
使用燃料:75.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.1km/リッター(満タン法)/8.5km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。