スズキ・クロスビー 開発者インタビュー
長く愛されたい! 2018.01.25 試乗記 スズキ株式会社四輪商品第一部チーフエンジニア
髙橋正志(たかはし まさし)さん
スズキの新型車「クロスビー」の開発にあたって重視したポイントとは? 姿のよく似た“弟分”「ハスラー」の開発にも携わった、チーフエンジニアの髙橋正志さんに話を伺った。
軽自動車の枠ではできないデザイン
2017年に行われた第45回東京モーターショーのスズキブースで、ひときわ大きな人だかりができていたのがクロスビーの展示だった。一応コンセプトモデルとしての出展だったが、完成形なのは明らか。ドアを開けるとタイヤの空気圧を表示したシールまで貼られていて、市販モデルそのものだということはバレバレである。すぐに手に入れることができそうだということで、待ち望んでいた自動車ファンは熱狂した。2013年の「ハスラー」発売直後から湧き起こっていた「コレの小型車版が欲しい!」という声に、ついに答えが出たのだ。
――“ハスラーの兄貴分”と言われていますが、実物を見ると印象はかなり違いますね。
やはり、軽自動車の枠ではできないものがありました。ブリスターフェンダーなんて、絶対ムリですから。丸目のモチーフは同じですが、ハスラーのかわいらしさとは違うものにしたかった。デザインの方向としては小型車らしさを出したい。ワゴンのパッケージにはしたいけれど、四角にはしたくない。ボンネットラインで力強さを見せるなど、デザイナーがこだわって線を引いたんです。
――ハスラーは好評でしたが、軽自動車はイヤだというユーザーも多かったように思います。すぐに小型車版を出そうという話になっていったんですか?
確かに、お客さまからの声はありましたね。私はまずアシスタントチーフエンジニアとしてハスラーに関わりましたから、反響の大きさは感じていました。軽自動車に新しいジャンルを作ったわけですからね。ただ、本当に出す価値があるのか、じっくり検討しました。需要がありそうだといっても、一部の声なのかもしれません。本格的に開発が始まったのは3年くらい前でしょう。
スタイリッシュさより居住空間
――開発が始まった3年前に比べると、コンパクトSUVのマーケットは大幅に広がりましたね。日本だけでなくヨーロッパからもさまざまなモデルが入ってきています。
みんな鋭い目をしていますよね。スタイリッシュさを押し出していて、カッコいいのが多い。クロスビーはちょっと違って、丸目で親しみやすい表情です。女性も含めて長く愛されるフォルムにしました。クーペのようなスタイリッシュさを目指すと、どうしても後席ではガマンしなければならなくなる。クロスビーは、「ソリオ」で高い評価をいただいている居住空間の広さを受け継いでいます。ハスラーの使い勝手も残していて、スタイリングと使い勝手を組み合わせて特徴が出ると思いました。
――結構大きく見えますが、全長は4mを大幅に切っていますね。
「イグニス」よりは長いんですが、3760mmですからね。デザインの工夫で、実際より大きく見えるようです。東京モーターショーでお客さまの話を聞くと、これより大きい方がいいと言う人はほとんどいませんでした。初代「エスクード」に乗っている方は、これまで乗り換えるクルマがなかったと話していましたね。私も会社に入って最初に買ったのが「ノマド」だったんですが、ちょうど運転しやすいサイズなんです。
――形はSUVだし、4WDモデルもあります。カタログでは“遠くに出掛けよう”と呼びかけていますが、実際のところ走破性能はどの程度なんでしょう?
基本的には、悪路はダメです! クロスビーの4WDはビスカスカップリングですから、あくまでも通常の生活の範囲内で乗っていただきたいと思います。ラフロードを本気で走りたい方には、「ジムニー」やエスクードがありますからね。最低地上高が180mmありますし、ソリオの4WDモデルよりタイヤサイズが大きいので、障害物を乗り越えやすいのは間違いないでしょう。スノーモードやグリップコントロール、ヒルディセントコントロールも付いていますので、特殊な天候になっても安心して乗ってもらえます。
自動ブレーキは当然の装備に
フルチェン、マイチェンを問わず、新モデルが出ると必ずと言っていいほど新しい先進安全装備が用意される。クロスビーにもバック時に機能する予防安全技術が新たに取り入れられた。
――見た目の派手さでは全方位モニターの3Dビューですが、危険回避に役立つのは後退時ブレーキサポートと後方誤発進抑制機能ですね。
今では自動ブレーキは当然だと思われています。販売店での商談の時、お客さまから付いているのか聞かれますね。後ろ側にも安心機能をいち早く装備するということです。年配の方と女性は気にする方が多いんです。若い男性の中には、「俺はそういうのいらないから安くしてよ」とおっしゃる方もいらっしゃいますが(笑)。
――前方を監視するセンサーにはいろいろな種類がありましたが、同時期に発売された「スペーシア」とクロスビーは同じ方式を採用していますね。
単眼カメラとレーダーを組み合わせたユニットです。これまで4種類もあったんですが、「ワゴンR」からこの方式になっています。なにしろ進化のスピードが速いので、その時に最適なシステムを選んでいます。これに統一すると決まったわけじゃないんですが、多すぎるのも効率が悪いので考え方を合わせていく必要がありますね。作る側としては、システムを1つに絞って標準化してもらうと助かるんですが(笑)。
――アダプティブクルーズコントロール(ACC)は付けられなかったようですが……。
遠くまで行くクルマですから、本当はACCがあった方がいいんですけどねぇ……。
売れすぎるとハスラーに影響が?
――ついでにもうひとつ聞くと、後席はどうして6:4でなく5:5分割なんですか?
弊社は5:5分割が多いんです。ソリオもそうですね。6:4分割という議論もあって、海外展開も考えるとそういう選択肢はありますね。
――イヤなことばかり聞いてすみません……。でも、クロスビーは間違いなく売れると思いますよ。目標月販販売台数が2000台というのは少なすぎませんか?
私としては、販売台数はもっと上でもいいと思っていますよ(笑)。
――売れすぎると、ハスラーの販売が減ることになりませんか? イグニスやソリオも影響を受けるかも……。
4m以下のクルマのラインナップが増えたということだと思います。それぞれにまったく違う特徴があります。ソリオは圧倒的に実用性の高いスライドドアを備えていますし、遊び心のあるイグニスに魅力を感じる方もいるでしょう。スタイリングにこだわるなら、クロスビーを選んでいただけると思います。走りの「スイフト」も加えれば、いいバリエーションがそろいました。
――そういえば、本命視されていたスイフトが日本カー・オブ・ザ・イヤー2017を取りそこないましたね。今年はクロスビーでリベンジするつもりですよね!
……(笑)。
――いや、ジムニーのフルモデルチェンジがあると、スズキとしてはそっちを推しますか?
私からは何もお答えできません(笑)。
ダメもとでいろいろ聞いてしまったのは、スズキが魅力的なラインナップをそろえているから。振り切ったモデルを作って商売になっているのが素晴らしい。同席したデザイナーが「仕事をしていて楽しいです!」と満面の笑みを浮かべていたのが印象的だった。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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