燃費向上のために重要なCd値

流線形を追求していくと、居住性や後方視界、積載スペースの使い勝手に問題を抱えることになる。テールを長くしたほうが空気抵抗を減少できると考えられていたが、際限なく全長を伸ばすことはできない。ジレンマを解決したのが、ドイツのウニバルト・カムだった。彼は流線形の後部を切り落としても空気抵抗がほとんど変わらないことを実証し、ヤーライの流線形よりも実用的なカム・フォルムを提唱した。「アルファ・ロメオSZ」の丸いテールを切り落とした「SZ2」が空力性能を向上させたように、この方法で多くのスポーツカーがデザインされるようになる。

スピード時代の幕開けとともに、エンジニアは意識的に空気抵抗の少ない形を追い求めるようになった。指標となるのは、Cd値と呼ばれる数値である。空力6分力のひとつで、空気抵抗係数を表す。前面投影面積にCd値をかけた値が空気抵抗の大きさだ。1920年の自動車は、平均するとCd値が0.8ほどだった。これが1925年には約0.6、1930年には約0.55と、着実に下がっていく。各地で高速道路が建設されるようになり、空力研究の重要性が高まっていった。

別の指標がクローズアップされた時代もあった。1950年代には高速走行時の安定性が重視され、揚力係数(Cl値)に関心が集まった。同時に、走行風を積極的に利用して安定性を高める手法も注目されるようになる。GMのデザイン部長ハーリー・アールが推進したテールフィンは、ジェット機の垂直尾翼がモチーフとなっていた。ただ、実際には高速安定性にほとんど効果はなかったようで、フィンが巨大化していったのはデザインの派手さを競うためだった。

1970年代以降は燃費を向上させるためにCd値を下げることが重要な課題になった。コンピューターによるシミュレーションや風洞試験の方法も進歩し、トラックやバスでもCd値が0.5を下回るようになってきた。現在では、乗用車でCd値が0.3を切るモデルも珍しくない。空力を考慮することはデザインの前提となっており、フラッシュサーフェイス化も普通のことで、ミラー形状の工夫やAピラーまわりの整流など、細かい部分での改善が続けられている。エアフローが提起した空気との戦いは、自動車にとって永遠のテーマなのだ。

(文=webCG/イラスト=日野浦 剛)
 

1934年に登場した「タトラ77」。ボディーの後端を伸ばして絞り込むヤーライの空力デザインは、同車のようなリアエンジンのクルマには適していたものの、その他の駆動レイアウトのモデルでは、効率的な荷室や乗車スペースとの両立が難しいものだった。
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2015年のブレーメン・クラシック・モーターショーの会場より、“SZ2”こと「アルファ・ロメオ・ジュリエッタSZ」の後期モデル。丸いテールエンドが特徴だった前期モデルに対し、リアのオーバーハングを延ばしつつ、後端を切り落としたようなデザインとなっている。
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トヨタ博物館が収蔵する1959年型「キャデラック・エルドラド」。巨大なテールフィンは空力性能というよりは、見た目の派手さを競うためのものだった。
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空気抵抗の低減は燃費性能に直結する重要な課題。2015年12月に登場した4代目「トヨタ・プリウス」では、Cd値は0.24に抑えられている。
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