第473回:豪快な“どろんこ遊び”で実感!
本場が鍛えたトーヨー製オフロードタイヤの実力
2018.01.25
エディターから一言
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トーヨーのオフロードタイヤ「OPEN COUNTRY」シリーズが、いよいよ日本にも本格導入されることに。アメリカで根強い人気を誇る“本場モノ”の実力を、特設のオフロードコースと一般道での“チョイ乗り”で試した。
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本場アメリカで鍛えられたオフロードタイヤ
東京モーターショーと並ぶ日本の自動車ビッグイベントとして、すっかり定着した「東京オートサロン」。例年同様、年明け早々に3日間の会期で開催された2018年のプログラムも、軽く30万人を超える人々を動員するなど、成功裏に終了したことが報告されている。
幕張メッセの全ホールを使用して大々的に行われた今年のオートサロン。そこに出展した多数のタイヤブランドの中にあって、ちょっと異彩を放っていたのがトーヨータイヤのブースだった。そこでは、おなじみの市販タイヤやレースタイヤなどと共に、日本ではなじみの薄いオフロードタイヤが大々的に展示されており、オートサロンでは珍しい、文字通り“泥臭さ”が漂うブースとなっていたのだ。
実はこれ、従来アメリカ市場を中心に展開してきたこの種のアイテムを、今年からは日本市場にも本格投入することを踏まえてのプロモーション活動なのだ。日本ではあまり知られていなかったものの、トーヨータイヤはこのカテゴリーでは際立つ強さの持ち主。北米では20インチ以上のピックアップトラック/SUV用ライトトラック・タイヤにおいて、約40%というトップシェアを誇るのだという。
ユーザーの嗜好に合わせて複数の製品を開発
そもそも、トーヨータイヤがこうしたカテゴリーのタイヤを本格的に手がけるようになったのは2000年代の初頭。それは北米マーケットでオフロード走行を楽しむ人々が目立ちはじめ、リフトアップしたピックアップ車などの需要が急速に成長するだろうという予測に対応したものだったという。
さらに、そうしたユーザー層の嗜好(しこう)を調査・分析すると、実際にハードなオフロード走行に挑む人々と共に、ふだんはオンロードでの快適な走りを求めつつ、週末には軽いオフロード走行を楽しんだり、まずはオフロード車にふさわしい足元の見栄えを期待したりする“準オフロード派”とも呼ぶべき層が存在することも明らかになった。
そこで開発されたのが、高いトラクション性能やブレーキ性能と共に、耐石がみ性能や排土性も引き上げるなど、究極のオフロード性能を付与したアイテムと、オンロード性能の高さも重視したアイテムという、性格の異なる2種類のオフロードタイヤ。OPEN COUNTRYと名付けられたオフロード用シリーズの中で、前者には“Mud Terrain”に由来する「M/T」、後者には“All Terrain”に由来する「A/T」の記号が与えられ、販売されてきた。
さらに、トーヨータイヤが「自身だけの独自カテゴリー」と紹介するのが、この2種類のすき間を埋める性格の持ち主として開発された、「R/T」と名付けられた商品。ちなみに、その名称は“Rugged Terrain”に由来していた、ショルダー部分にM/T、中央部分にA/Tのパターンを採り入れたそのトレッドは、まさに前出2種のタイヤの“ハイブリッドデザイン”であることが大きな特徴だ。
そんなトーヨータイヤの自信作を、二輪モトクロス用をベースとした特設オフロードコースと、会場周辺の一般道とで軽くチェックした。
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2種類のタイヤを2つのシチュエーションで試す
テストしたのは、OPEN COUNTRYシリーズ中でも最高峰のオフロード性能をうたうM/Tと、前述のように“オフ”と“オン”の双方を狙ったR/Tの2タイプ。前者はフォードのフルサイズピックアップトラック「F-150」の高性能モデル「ラプター」で、後者はオフロードセッションをノーマルのF-150で、オンロードセッションを「トヨタ・ランドクルーザー」で試走することとなった。
用意された特設オフロードコースは、ドライ路面を中心に、深い水たまりや散水されて歩くのも大変そうな泥濘(でいねい)路面などを交えたもの。いずれのタイヤでも4WDモードで走行する限りスタックする気配はなかったものの、泥濘路面では前走車が築いたワダチの中を何とか進むことができるという状況である。ステアリングを操作してもそれを乗り越えることは困難で、時には前輪と後輪が異なるワダチに入り込んで、直線でありつつも“斜行”という場面に遭遇することになった。
R/Tを履いたF-150でそうした路面を走った後、フラットなドライ路面に差し掛かると、しばらくの間はひどいアンダーステアに見舞われることになった。グルーブ内に泥が詰まって、“スリックタイヤ”のようになってしまうことによる現象だ。
一方、同タイヤを装着したランドクルーザーで一般路に乗り出すと、さすがに標準装着のタイヤよりもパターンノイズは明確で、直進性もやや劣る印象。このあたりは乗る人の価値観によって評価が分かれそうだが、基本的には「わざわざこうしたタイヤに履き替える人ならば、十分納得できそう」と、そう感じることになった。
オフロードを楽しむなら、断然M/T
「究極のオフロード性能」とトーヨータイヤが紹介するM/Tが装着されたのは、アメリカのベストセラーモデルであるフォードFシリーズの中でも、最高450hpを発する心臓を搭載するなど、別格の走破性能を誇るF-150ラプター。見るからに強靭(きょうじん)そうなトレッドパターンが印象的なM/Tは、さすがに強力なグリップを発生。ドライのダート路面では、予想をはるかに超えるトラクション能力に驚かされることになった。
周方向に段差が設けられたスタッガードショルダーや、耐石がみ性と排土性を向上させるためにグルーブ底面に設けられた突起のストーンイジェクターなどは、いずれもオフロード性能を高めるためのもの。トレッドからサイドウオール側へとブロックが回り込んだバットレスデザインや、高強度のサイドウオールコンパウンドなども、耐外傷性をアップさせるためという、この種のタイヤならではのテクノロジーだ。
特設オフロードコースではR/Tとの差は歴然だった。ドライのダートコースでは前輪のグリップ力がはるかに高くてアンダーステアの弱さが明確だし、泥濘路面でもトレース性の自由度がR/Tの場合よりも確実に高いのだ。
そんな場面を抜けた時点での排土性の高さも印象に残った。速度が高まるにつれ、グルーブ内に詰まった泥が遠心力ではじけ飛んでいく量が多いことが、サイドウィンドウを通じて“目視”可能なほどだ。実際として、ドライダート路面でのグリップ力はたちまち復活してくれた。
実は、R/Tにはすでに2016年の秋から軽自動車向けサイズが設定されており、「ジムニー」はもとより「ハスラー」や「キャスト」のユーザーなどからひそかな人気を集めていたという。なるほど、SUVなど車高を上げたモデルでは、フェンダーとのすき間の大きさから、タイヤが丸見えになるもの。すなわち、こうした車両にとってはタイヤの持つファッションアイテムとしての効果も通常の乗用車以上に大きいのだ。今後の人気次第では国内で他ブランドからの追従者も現れそうなのが、昨今のオフロードタイヤなのである。
(文=河村康彦/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。