ジャガーXKR-S(FR/6AT)【海外試乗記】
ポルシェターボがライバル 2011.08.17 試乗記 ジャガーXKR-S(FR/6AT)ジャガー史上最強、最速の量産型スポーツカーをうたう「XKR-S」に試乗。サーキットで見せた、そのパフォーマンスは?
タフなテストの意味
ユーラシア大陸の西の端に、まるで隣のスペインにしがみつくように位置するポルトガル。そんな国の首都リスボンから、さらに南へと飛ぶこと30分ほど。大西洋と地中海の分岐点を目の前としたファロの街を拠点に、「ジャガーXKR-S」の国際試乗会は開催された。
プログラムのひとつとして用意されていたのが、アルガルベサーキットでのテストドライブ。2008年秋に完成し、F1マシンのテストなども行われるという一周4.7kmにおよぶ起伏の激しいタフなコースがテスト走行の舞台に選ばれたという事実もまた、このモデルがいかにピュアなスポーツカーであるかを証明したいという、開発陣の思いが表れたひとつの結果であるようだ。
「ジャガー史上、最強かつ最速の量産型スポーツカー」をキャッチフレーズに、2011年春のジュネーブショーで披露されたこのモデルが、「XKRクーペ」をベースに開発されたものであることは、そのネーミングからも明らか。「燃料供給特性を見直し、専用のインタークーラーやアクティブエグゾーストシステムを採用」と報告される5リッターのルーツ式スーパーチャージャー付きV8エンジンが発する最高出力/最大トルクは、それぞれ40psと5.6kgmのアップ。剛性アップのためフロントナックルには新開発のアルミ製が採用され、「駆動力の向上ではなく、操縦の自由度を高めるのが目的」というトラクションコントロールの設定を含めたサスペンションセッティングの変更も行われている。シューズはXKR同様の20インチ径ながら、新設計ホイールの採用で、ばね下重量はトータル4.8kgのマイナスとのこと。そんなこのモデルが記録する4.4秒という0-100km/h加速タイムは、XKRのそれを0.4秒短縮している。
音色にやられる
はたして、そんなXKR-Sでのサーキットランは、これまでのジャガー車では味わったことのない、刺激に満ちたものだった。
たしかに、従来のXKシリーズが提供してくれた走りのテイストも、このブランドが「そもそもはスポーツカーのメーカー」であることをあらためて教えてくれる、全長が4.8m級というサイズを忘れさせる、軽快で自在な操縦感覚が特徴的なものだった。なかでも、オーバー500psをマークする心臓をすでに搭載していたXKRは、フェラーリやポルシェのハイパフォーマンスモデルに乗る人にさえ一泡吹かせることのできる、絶対的にも素晴らしい“速さ”の持ち主。しかしこのXKR-Sが、そんなモデル以上の刺激を味わわせてくれた理由は、ひとつには間違いなくその“音色”にある。前述のようにアクティブエグゾーストシステムを採用するこのモデルが発するV8サウンドは、たとえばサーキットのメインストレートを駆け抜けて行く際などには「まるでレーシングマシンそのもの」と思えるほどに図太い音色と大きなボリュームで、周囲の空気を震わせるのだ。
幸いにしてドライコンディションの下でテストドライブを行うことができたゆえ、大パワーFR車のウイークポイントと数えられるトラクション能力に、今回は不満を感じる事は全くなかった。こうなると、前後バランスにたけたFRレイアウトの持ち主というのは、さまざまな走りのシーンでのコントロール性の高さが大きなメリットとして実感できるようになる。事実、このXKR-Sでのサーキットランも、まさにそうしたイメージでのドライビングを楽しむことができた。なかでも、ダイナミックスタビリティコントロールのセッティングを、多少のテールアウトの姿勢は許容する「Trac DSC」のモードに合わせた際のドライビングの自在度の高さは、特筆に値するものだった。
両刀遣い
一方、そんなこのモデルでサーキットを離れ、一般道へと舞台を移すと、そこでは今度は望外なまでにしなやかな乗り味に感心させられることに。フロント255/35R20、リア295/35R20というファットなタイヤは、さすがに路面凹凸への当たり感こそそれなりに強いものの、それでも快適性に対する不満は全くない。こうした“両刀遣い”の能力の高さもまた、XKR-Sというモデルならではの魅力となっているのは間違いない。
これまでのジャガー車にはない、“ちょい派手”なエアロパーツに身を包んだXKR-S――「911ターボやSL63AMGがライバル」と自らを紹介するこのモデルは、これまでのジャガーのユーザー層とは一線を画す、硬派のスポーツドライバーにも訴えかける1台なのである。
(文=河村康彦/写真=ジャガー・ランドローバー・ジャパン)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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