第483回:海洋レースの醍醐味ここにあり!
ボルボ・オーシャンレースの魅力とブランド戦略を考察する
2018.02.17
エディターから一言
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試合期間は9カ月! フルカーボンのレーシングヨットで5つの海を渡る、過酷で熾烈(しれつ)な世界一周レース「ボルボ・オーシャンレース」。この大会をオーガナイズするボルボのブランド戦略を、他の競技にはない海洋レースならではの魅力とともに紹介する。
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レースの舞台は地球です
手元の資料をもとに電卓をはじいてみたところ、1シーズンにおけるF1世界選手権の走行距離は、2017年を例にとると合計で6091.164kmだった。伝統のルマンを含む世界耐久選手権では、各レースの優勝車の走行距離を合計すると、1万3173kmとなる。
レースという極限状態でこれだけの距離を走るというのだから、レーシングドライバーのメンタルとフィジカルには恐れ入るよりほかにないが、同じ1シーズンでそれよりはるかに長い距離を、しかもエンジンやモーターといった動力に頼らずに走破する競技が存在する。それが、ボルボ・オーシャンレースである。
アメリカズカップやオリンピックと並び、世界3大ヨットレースに数えられるこのイベントの航行距離は、過去最長となった今大会(2017-2018大会)で、実に8万km。クルーたちは9カ月という時間をかけて地球2周分の海を走破し、雌雄を決する。
「スエズ運河も、パナマ運河もなかった時代の航海を味わいたい」
そんなセーラーたちの冒険心から、この地球一周レースが誕生したのは1973年。当初は好事家たちの冒険といった意味合いの強いイベントだったが、かつてのラリーがそうだったように、やがて競技として先鋭化。多くの観客を集め、有力チームを世界の一流企業がスポンサードする一大イベントとなって現在に至っている。
今日、そんなボルボ・オーシャンレースをオーガナイズしているのが、スウェーデンを代表する複合企業のボルボグループと、私たちもよく知るボルボ・カーズである。
単なる冠スポンサーではない
今回、私たちが取材したのは、これがボルボ・オーシャンレース初開催となる香港でのレースである。香港は今大会における4番目の寄港地であり、九龍湾(カオルーンベイ)で開催されるインポートレースと香港島一周レース(HongKong Around the Island)といったスプリントレースの舞台となる。その拠点となるのが、啓徳跑道公園に設置されたレースビレッジだ。
ちなみに啓徳跑道公園とは、1998年に閉港した啓徳空港の跡地、かつての滑走路の先端部に位置している。香港に詳しい人なら、この説明でその場所や周辺環境を想像してもらえることだろう。そこに設けられたレースビレッジには、ライブステージやレースの内容を紹介するテント、クライアント企業のブースなどが軒を連ねており、レースが行われていない間も時間を持て余すことはない。
さらに奥に位置しているのが、オーガナイザーであるボルボグループとボルボ・カーズのパビリオンである。彼らは企業としてたもとを分かつ前の1998年からこの海洋レースを後援しているのだ。
興味深いのは、ボルボが単に冠スポンサーとなっているだけではなく、今や下部組織を介して大会の組織・運営を担っている、文字通りオーガナイズしている点にある。競技そのものの運営やルール作りに加え、イベントを介した環境保護活動や教育支援に至るまで、その活動は多岐にわたる。セーラーの間では、ボルボ・オーシャンレースのことを単に「ボルボ(The Volvo)」と呼んでいるそうだが、彼らの間では、それほどまでに両者のイメージは一体化しているのだ。
パビリオンの周辺ではボルボ・オーシャンレースの歴史やオーガナイザーを務める両企業が拠点を構えるスウェーデンの紹介に加え、大型SUV「ボルボXC90」とVR技術を駆使したアトラクションや、ボルボ・カーズの最新モデルの展示なども行われていた。中でも新型SUVの「XC40」は、これがアジアで初披露とのこと。ボルボがこのイベントをいかに大事にし、同時に期待を寄せているかをうかがわせた。
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根気強いブランディングのたまもの
それにしても、スウェーデンに居を構えるボルボが、なぜイギリス発祥の海洋レースを20年にわたり支援、そして運営するのに至ったのか。
ひとつは当然のことながら、3大ヨットレースの一つに数えられる同大会の人気が理由だろう。今大会においても、これまでにすでに40万人がレースビレッジに訪れ、ソーシャルメディアのビュー数は700万を数えている。もっとわかりやすい数字を上げると、ボルボパビリオンの来場者数は10万人とのことだ。権威あるイベントのオーガナイザーであるというブランド価値に加え、ホスト国や“観客”の間でボルボの認知度を高めるという点でも、ボルボ・オーシャンレースは重要な存在となっているのだ。
そしてもう一つの理由として、ボルボ・オーシャンレースのコマーシャルディレクターであるカリン・バックランド氏が挙げたのが、このイベントとボルボの持つイメージの親和性である。海洋レースならではの冒険心や探究心、限界に挑戦する選手たちの姿勢、チーム競技に求められる信頼関係、フルカーボンのレーシングヨットや通信技術を駆使した視聴サービスに宿る先進性など、このイベントにはボルボの掲げる企業理念や、訴求したいブランドイメージが詰まっているという。
もちろん、この海洋レースが最初からそうした側面をすべて持ち合わせていたわけではないし、これほど多くの人に訴求するイベントであったわけでもない。いずれも長年にわたるオーガナイザーの取り組みあってのもので、そしてその歴史の半分をボルボが担っているのだから、ある意味、近視眼的な戦略に陥らなかった彼らの根気強いブランディングの成果ともいえるだろう。ありきたりな上にちょっと古くさい言葉で恐縮だが、典型的なwin-winの関係ではないだろうか。
今日に受け継がれる“冒険”の醍醐味
一方で、セーラーや私たち観客からすれば、当然のことながらボルボ・オーシャンレースには全く違った意義がある。
スペインの有力チームであり、今シーズンもポイントランキングのトップを走るマフレのスキッパー、ザビ・フェルナンデス氏によると、ボルボ・オーシャンレースには他のヨットレースにはない魅力があるのだとか。いわく「インショアレースは競技が終わったら家に帰るだけだけど、ボルボ・オーシャンレースはずっとレースをしていられるからね」。
過酷な南極海での航海を含め、長期間にわたり大洋での戦いが繰り広げられるこのレースでは、他のチーム以前にまずは強大な自然を相手にしなければならず、超ハイカロリーな食事を取っていてもなお、選手たちはシーズンが終わると十数kgも痩せるという。その過酷さゆえ、「一度参加したら、二度と参加したくなくなるか、病み付きになるか」といわれるボルボ・オーシャンレースだが、フェルナンデス氏はどっぷり後者だったようだ。
また私たちにとっては、外洋セーリングならではの迫力あるレースの模様と、大洋の美しさをソーシャルメディアを通して味わうことができる。これもまたインショアレースのアメリカズカップやオリンピックにはない、世界一周レースならではの醍醐味(だいごみ)だろう。
もちろん、実際にレースビレッジに赴き、インポートレースなりを観戦するのが望ましいのだが、あいにくボルボ・オーシャンレースのホストシティーに日本の都市は含まれていない。
ただ、かつては日本のチームや日本人セーラーが挑戦したこともあるようだし、フェルナンデス氏も「コージロー(白石康次郎、単独世界一周ヨットレースに挑戦し続ける日本の海洋冒険家)みたいなセーラーがいるじゃないか」と言っていた通り、この国にも世界的なセーラーはいる。いつか、このイベントが日本にも来てくれることに期待したい。
(文=webCG ほった/写真=ボルボ・カーズ)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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