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第542回:日本人が見てもインパクト大
これがパリのポップカルチャーイベントだ!

2018.02.23 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ

冬のパリには欠かせぬイベント

前回お伝えしたフランス・パリのヒストリックカーイベント、第43回レトロモビルの入場者数が明らかになった。その数10万5000人で、前年比11.2%の減少だった。主催団体は、前半3日間の雪とあわせて、一般入場料を前年の18ユーロから2ユーロ高い20ユーロ(約2600円)に値上げしたことも影響したと分析している。

ところで毎回レトロモビルとほぼ同時期に、これまた同じポルト・ド・ヴェルサイユ見本市会場で開催されるのが「PARIS MANGA & SCI-FI SHOW(以下、PARIS MANGA)」である。日本を中心とするポップカルチャーを題材としたイベントだ。

ボクが最初に訪れて、本エッセイの第231回にてリポートしたのは2012年だから、かれこれ6年も通っていることになる。もはやボクの冬期パリ訪問においては、往年の2本立て映画『男はつらいよ』『釣りバカ日誌』のような恒例イベントになってしまった。

PARIS MANGAは年2回開催で計4日間、レトロモビルは年1回で計5日間なので、容易に比較はできない。だがレトロモビルが会場面積6.9万平方メートルで10万5000人なのに対し、PARIS MANGAはその3分の1以下の2万平方メートルで年間15万人の集客がある。かなりの好成績だ。

2018年2月3日から4日にかけて開催されたPARIS MANGA会場で。
2018年2月3日から4日にかけて開催されたPARIS MANGA会場で。拡大
フィギュア入りキャンドル。「M2Dクレアシィオン」という家族経営の工房による。
フィギュア入りキャンドル。「M2Dクレアシィオン」という家族経営の工房による。拡大
イベントで扱われるジャンルは年々細かくなっている。ボーイズ・ラブ系翻訳出版社のエディター、アントニー・グラシ氏(中央)とスタッフ。
イベントで扱われるジャンルは年々細かくなっている。ボーイズ・ラブ系翻訳出版社のエディター、アントニー・グラシ氏(中央)とスタッフ。拡大

コスプレのエレクトロニクス化が進む!?

第25回を迎えた今回のPARIS MANGAは、レトロモビルが始まる4日前の2018年2月3~4日に開催された。

今年会場で真っ先に気がついた前回との違いは、「福袋の多さ」である。日本のデパートにおける初売りの模様を模倣したのであろう。

このイベントには毎回日本からのゲストがやってくる。今回は『北斗の拳』などを手がけたアニメーター羽山淳一氏、『名探偵コナン』で知られるアニメーターの久保田誓氏などが招かれた。

会期中、パリの気温は零下になることがあった。にもかかわらず一部のコスプレイヤーたちは薄着のコスチュームに身を包んでいた。 

そのコスプレにおける、今年の流行は“電飾”。背景にはLED照明の価格低下と普及があることは明らかだ。ある少女コスプレイヤーに電池の持続時間を聞くと、そばにいたボーイフレンドが代わりに「2時間はもつよ」と教えてくれた。そしてリュックの中をゴソゴソまさぐり、四角い9ボルト電池を見せた。こうしたイベントにおいて、コスプレイヤーの彼氏には「自分もコスプレの相方」になるか「着替えの持ち運び役」になるかという選択肢があったが、今やそれに「バッテリー管理」も加わったわけだ。

極寒の屋外でコスプレの準備をする来場者たち。
極寒の屋外でコスプレの準備をする来場者たち。拡大
彼女らの耳と頭に注目。今年の流行はLEDイルミネーションである。
彼女らの耳と頭に注目。今年の流行はLEDイルミネーションである。拡大
BENTO人気に乗って作られた弁当箱は「メイド・イン・フランス」。こちらの人の食べる量に合わせ、日本のものよりやや大きい1リッターの容量を確保したとのこと。
BENTO人気に乗って作られた弁当箱は「メイド・イン・フランス」。こちらの人の食べる量に合わせ、日本のものよりやや大きい1リッターの容量を確保したとのこと。拡大

新宿の次は「太久保」

同じパリで夏に開催される「Japan Expo」と異なり、PARIS MANGAは中国系や韓国系の出展者や団体に門戸を広く開いているというか、ゆるい。事実、今回も武道実演チーム3つのうち2つは韓国系となった。

加えて、近年の傾向として「なんちゃって日本」系の増加がある。結果は写真でも示すとおりだ。

チキンカレー丼に餃子がぶち込まれているのを見たときは、思わず「別皿にしてくれ!」と叫びたくなった。ただ、写真にはないのだが、「アップル餃子」なる商品はそれほど悪い組み合わせではないように思えた。

グッズの「なんちゃって」は、さらなるインパクトがある。

「オリンピック」のつもりが「オリンピク」になっていたり、「大久保」がよく見ると「太久保」だったりする。

それを見て、かつて東京郊外に「Itaria」と記された中古車販売店の“のぼり”があったのを思い出した。ボク自身も、フランス語のアクセント記号をたびたび間違える。決して笑えない。

「相撲・横綱」もナイスだが、「先輩」という、欧州の教育機関になじみのない概念をプリントした商品も……。いずれも東京に持っていけば、ウケること間違いなし。思わず買ってしまいそうになるものばかりである。

餃子も載っかっている。“ハイブリッ丼”といったところか。
餃子も載っかっている。“ハイブリッ丼”といったところか。拡大
「オリンピク」。そして「相撲・横綱」。
「オリンピク」。そして「相撲・横綱」。拡大
よく見れば「太久保」。惜しい。
よく見れば「太久保」。惜しい。拡大
「先輩」専用バッグ?
「先輩」専用バッグ?拡大

ヒトもクルマもコスプレ

通路で会った青年に「君はクルマを持っているのか?」と聞くと、「まだ17歳だから運転しません」と言う。ヨーロッパの例にもれず、来場した若者たちは大人っぽく見えるが、実は運転免許取得年齢よりも前、もしくは達していてもこれから教習所、という世代がほとんどとみた。

その彼が「でも父は古いクルマを持ってます」と言うので、「おおッ!! 『シトロエン2CV』とか『SM』か?」と思い前のめりになって聞くと、「1990年型のルノー」と答える。彼らにとって「古いクルマ」とはその程度なのである。

会場内で最初に“クルマ”を見つけたのは、ポスター屋さんだった。「シェルビーGT500」である。複数の来場者や出展者の話を総合すると、ゲーム『ニード・フォー・スピード』に登場するからという。ちなみにポスターで見られた自動車系のイメージはそれだけだった。

しばらく歩くと、やがてあるブースを発見した。第437回でも紹介した「劇中車のレプリカと写真が撮れるコーナー」が今回も設営されていたのだ。冒頭に記したとおり「Sci-Fi(サイファイ)もアリ」ということから『バック・トゥ・ザ・フューチャー』風の「デロリアンDMC12」が今回もきていた。パリのアトラクション会社によるものだ。それなりに待ちの列ができていている。根強い人気だ。

デロリアンに加えて、今回は『ハリー・ポッター』でおなじみの「フォード・アングリア」も加わっていた。 

2台の隣のブースには、さらに数台が展示されている。こちらはそれぞれにオーナーがいて、必要に応じてデロリアンやアングリアを所有する会社にクルマを貸しているらしい。

うち1台は、米国のホラーサスペンス『スーパーナチュラル』における劇中車と同型の1967年「シボレー・インパラ」だ。オーナーによると、カリフォルニアにあったものを入手して、こつこつと改造を重ねてきたのだという。

ポスター専門店。クルマものは「シェルビーGT500」ばかり。それにはワケがあった。
ポスター専門店。クルマものは「シェルビーGT500」ばかり。それにはワケがあった。拡大
「デロリアンと写真を撮ろう」コーナーは健在。前回いたドク役が欠席した代わり、今回はガールフレンドのジェニファー役が加わっていた。
「デロリアンと写真を撮ろう」コーナーは健在。前回いたドク役が欠席した代わり、今回はガールフレンドのジェニファー役が加わっていた。拡大
今回は『ハリー・ポッター』をイメージした「フォード・アングリア」も登場。
今回は『ハリー・ポッター』をイメージした「フォード・アングリア」も登場。拡大
米国のホラーサスペンス『スーパーナチュラル』における劇中車と同型の1967年「シボレー・インパラ」、そしてオーナー。
米国のホラーサスペンス『スーパーナチュラル』における劇中車と同型の1967年「シボレー・インパラ」、そしてオーナー。拡大

お手軽でよく効く“変態マスク”

ひときわ目立っていたのは、『トランスフォーマー』に“バリケード”というキャラクターとして登場する、「マスタング」を模したクルマである。オーナーのフロラン氏は「2006年にベース車を手に入れてから、改造に3年かけたよ」と熱く語ってくれた。結婚式をはじめ、イベントへの貸し出しも大歓迎という。ご本人もコスチュームに身を包んでいる。クルマとの総合点で見れば、「氷点下での薄着コスプレ」に勝る。

そんなことを考えながら場内をチェックしていたら、「マスク専門店」を見つけた。

欧州でマスクの着用は一般的ではない。それだけに日本カルチャーファンにとって、人気アイテムのひとつなのだ。実際には、明らかに美少女と思われる来場者がマスクをしていて「惜しい!」と思うときもあるが。

陳列商品を見ると、なぜか「紳士(hentai)」と書かれたマスクがある。「紳」の文字が簡体字になっているところから、作り手は想像できた。

間もなく、実際にそのマスクを着用している若者に出くわした。念のため声をかけて「君ィ、意味をわかった上で買ったのか?」と文字の示す内容を教えようとすると、相手はひょうひょうとした表情で「知ってるよ」と答えた。

思わず呆気(あっけ)にとられたのだが、寒さに弱く、かつマスタングを買う財力もない筆者がもしもコスプレに興じるならば、その“変態紳士マスク”こそが最も手っ取り早く、しかもふさわしいグッズになるに違いない。

(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=関 顕也)

人もクルマもコスプレ。フロラン氏と彼の力作、トランスフォーマー風「マスタング」。
人もクルマもコスプレ。フロラン氏と彼の力作、トランスフォーマー風「マスタング」。拡大
“変態紳士マスク”を購入した若者と、その仲間たち。
“変態紳士マスク”を購入した若者と、その仲間たち。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナ在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、22年間にわたってリポーターを務めている。『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。最新刊は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。

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