フォードF-150ラプター(4WD/10AT)
荒野のヒーロー 2018.03.02 試乗記 これぞオフロードのスーパーカー! アメリカにおける不動のベストセラー「フォードF-150」のハイパフォーマンスバージョンにあたる「ラプター」を、まさかの日本で試乗。荒野を走破するためだけに開発されたモンスターの、意外な一面をリポートする。かの地における“本当の”ベストセラー
今回の取材は、私個人としては早くも“今年の重大ニュース”の上位に来ることは確実である。なにせ、憧れ(ても、やたらに乗れないクルマの代表格)のフォードF-150ラプターを1泊2日、自由に乗りまわせたからだ。私はなんたる果報者だろうか。
ご承知の向きも多いように、このクルマは米フォードが生産するF-150というフルサイズピックアップの1モデルである。
F-150はずばり、北米では不動のベストセラーカーだ。日本では「トヨタ・カムリ」や「ホンダ・アコード」を“アメリカのベストセラー車”と称することが多いが、じつはそこには“乗用車(北米ではオートモビル)として”という前提条件がつく。アメリカ=北米のクルマ市場で、そうした前提条件を省いた販売上位は、ピックアップトラックやSUVなどの“ライトトラック”が占める。
実際、昨2017年の北米の自動車販売ランキングも、1位はいつもどおりのF-150、続いて2位が「シボレー・シルバラード」、3位がクライスラーの「ラム」と、デトロイトスリーのフルサイズピックアップが毎年のお約束のようにならぶ。
オートモビル最上位のカムリは全体では6位。その上の4位と5位はそれぞれ「トヨタRAV4」と「日産ローグ(日本名エクストレイル)」、そしてカムリに続く7位が「ホンダCR-V」となっている。
北米は“自由貿易”を国是としており、自動車市場も基本的に世界に広く門戸が開かれている……というのが建前だが、F-150やシルバラードのようなピックアップトラックだけは25%(=普通の乗用車の10倍)という高い関税がかけられている。ここは、いわば、アメ車の聖域である。
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“走り”に特化したフルサイズピックアップ
閑話休題。今回はそんな政治的なキナくさい話をするつもりはなかった。私がいいたかったのは、北米でのフルサイズピックアップは日本におけるミニバンなみにポピュラーで定番的な存在であり、それを使ったスポーツもさかん。よって、そこに思いをはせるスーパーピックアップも存在するということだ。
そんなスポーツピックアップのなかでも、今回のF-150ラプターはカリスマ性が最も高く、しかも現行型は2017年モデルで新登場したばかりなので、圧倒的に新しくもある。
前記の関税問題を見ても分かるように、この種のピックアップは基本的に北米の“地産地消”グルマである。よって、この種のクルマを直系の日本法人が正規輸入した例はなく、なにより車体サイズが大きく、日本の交通環境に合わない部分があるのも事実だ。まして、F-150ラプターをつくっているフォードは日本から完全撤退してしまっている。
というわけで、この試乗車はwebCGでも先日リポートした試走会で使われた個体そのものである。トーヨータイヤでおなじみの東洋ゴム工業が所有する一台であり、今回の取材はそんなトーヨーさんの「自由に乗ってください」という太っ腹なご厚意によって実現したものだ。
車体にあしらわれた「TOYO TIRES」や「OPEN COUNTRY」といったロゴステッカーはもちろん試乗車特有のディテールだが、クルマ本体は北米での市販状態そのまま。唯一の相違点は、トーヨータイヤのオフロード車用タイヤ「OPEN COUNTRY R/T」を、ラグジーな18インチアロイホイールと組み合わせて履いている点のみである。
足もとのOPEN COUNTRY R/Tは、トーヨーブランドとはいってもサイドウオールにある“Made in USA”の刻印がなんともソソる。今回履いていた「R/T」は3種あるOPEN COUNTRYシリーズのなかでも、本格悪路と舗装路の両方をバランスさせた中間的なタイヤであり、ラプターに最適な銘柄である。
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ターゲットは荒野
車名のラプター(=Raptor)とは英語で猛禽類を意味する。猛禽類とはワシやタカ、コンドル、フクロウ、ハヤブサなど、ほかの動物を捕食する鳥類の総称で、ミリタリーマニアなら米国ステルス戦闘機の「F22ラプター」を思い出すだろうし、ほかにもヤマハの四輪バギーなど多様な商品名に使われる。いずれにしてもラプターには“パワフルで機動性が高くて強い”といったイメージがあり、いわばカッコいいネーミングの典型である。
というわけで、実際のF-150ラプターもまさにラプターっぽい(笑)。つまり、いかにもカッコよくて強く、速くて、機動性に富む。
ラプターはF-150をベースに、エンジンはフォード最新鋭最強となる3.5リッターV6エコブースト(=直噴ターボ)から450hp/691Nmを絞り出している。
フロントが独立懸架、リアがリーフリジッドの独立スチールフレーム……というシャシー構造は標準のF-150と基本的に同じだが、ラプターは専用ワイドボディーにしてトレッドも大幅拡大。さらにレーシーなFOXレーシング製の調整式ダンパーを前後に採用。このダンパーは大容量の別体タンクをもつ本格派で、もちろんラプター専用設計である。
ラプターはF-150の単なるスポーツ風味グレードではなく、欧州フォードでいう「RS」、ホンダなら「タイプR」、BMWだと「M」、ポルシェ的には「GTなんちゃら」に相当する特殊部隊的カリスマスポーツ商品である。ただ、世にあるスポーツSUV(SUVのSもスポーツだから変な表現ですね、失礼)とは正反対に、ラプターの車高はローダウンの正反対。つまり、リフトアップしている。
具体的には、ラプターの最低地上高は標準のF-150より2インチ(約50mm)拡大されており、さらにフロントバンパーもアプローチアングルを拡大した専用デザインとしている。ラプターが想定するスポーツの典型例のひとつが、伝統の“バハ1000”に代表される砂漠レースである。
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巨大なボディーとは裏腹に
ただでさえ大きなF-150をさらに幅広くしてリフトアップしたラプターは、間近で見ると、まさしく小山のように大きい。これを日本で乗ると、ちょうど1/24スケールのジオラマに、自分だけ1/20スケールで降り立ったような感覚といえばいいか。日本では道幅や駐車場など、あらゆるインフラ寸法がギリギリである。
ただ、F-150はシートはもちろん、ステアリングやペダル位置までがフル電動で調整可能。しかも、その調整幅がいちいちたっぷり確保してあるのがフォードの美点。胴長短足の典型的日本人体形の筆者でも、アップライトでコンパクトなドラポジをぴたりと決められて、とにかく車体の四隅がピタリとイメージできるのが素晴らしい。
ほかにも質感の高いインテリア調度、日本人には過剰なくらいに広い後席、走行中に笑ってしまうほど風通しがよくなる電動引き戸式のリアウィンドウ……などなど、隅々まで配慮されたキメ細かいつくりこみは、さすが不動のベストセラー。スキのない商品力である。
さらにカメラ関連も、真上からのアラウンドビューだけでなくあらゆる方向に取り付けられているし、日本ではめずらしいほどの高ハイトタイヤ+リフトアップのシャシーなので、少々の段差や障害物などは「いっそ乗り越えてしまえ!」と開き直ることもできる。じつのところ、F-150ラプターを日本で取り回すのも意外なほどストレスは小さい。
また、取り回しのストレス軽減に役立っているのが、リアがリーフリジッド……というかつての常識からは想像ができないほどに、素晴らしくしなやかな乗り心地、正確であいまいさのない挙動、そしてリニアそのもののステアリングである。
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本格オフローダーとしては屈指の快適さ
拡大した地上高とFOXレーシング大容量ダンパー(そしてトーヨータイヤ)の効果だろうか、ほどよく整備された舗装路でのF-150ラプターの乗り心地は、一般的なスポーツカー的な硬さとは正反対である。
本格オフロード車ならではの豊富なサスストロークを存分に使って、ラプターはゆったりと潤いのあるフラットライドを披露する。そのシャシーチューンにマッチした路面での高速クルーズは、いやホント、体がとろけそうなほど気持ちいい。リアアクスルの位置決めも高精度かつ滑らかで、日本で普通に乗っているかぎり、リジッド特有の“横ズレ”のクセもほとんど感じ取れない。
直径40cmを超える大径ステアリングホイールに、ほどよくスロー(ロック・トゥ・ロック3.3回転)なレシオを組み合わせたステアリングも絶妙そのもので、クルマ全体のリズム感にピタリとハマっている。これほどの本格オフローダーながら、ステアリングが直進状態に戻る復元力も適度に強い。
F-150ラプター各部の味つけや調律はまさしくフォードの美意識をすべて融合したかのようだが、さらにこの巨大トラックが、「エクスプローラー」どころか「フォーカス」くらいのイメージで運転しても、即座になじめてしまったのには驚いた。独立フレームとリジッドサスをもつ本格オフロード車としては、ラプターは世界で最も快適で正確、そして乗用車に最も近い運転感覚をもつ一台だと思う。
ダウンサイジングV6エコブーストは先代の6.2リッター、あるいは競合するシボレーの6.2リッターにダッジの5.7リッターHEMIといったV8のお歴々より、出力/トルクとも明確に上回っている。しかも、それを10段ATという細かいギアで緻密に引き出す。
しかし、まあ、ズロロロローというサウンドが快感なエコブーストも、さすがに車重2.5t超のヘビー級だけに単純な加速力は驚くほどではない。いや、動力性能の数値的には十分にスーパーカーだが、シャシーの絶大な安定感のおかげで、良くも悪くも粗暴な迫力には欠けるのだ。
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その満足度はスーパーカーに勝る
まるで2階席から見下ろすようなドラポジなのに、走っていると、まるで高重心感がないのがF-150ラプター最大の美点かもしれない。それも当然だ。近くで見ると見上げるように小高いラプターも、遠目でのプロポーションはどちらかというワイド&ロー系である。
また、現行でF-150のキャビンやベッド(荷台)はオールアルミ構造(一部外板は複合樹脂)となり、エンジンのダウンサイジングもあって車重は先代ラプターより200kg以上軽くなった。この巨体で2.5tとは、考えてみればけっこう軽い。しかも独立フレーム構造のまま上屋が飛躍的に軽量化されたのだから、重心も飛躍的に下がっているはずだ。
実際、ラプターを舗装された山坂道で走らせても、基本姿勢はあくまでフラットに安定したまま。ほぼどんな走りかたをしても、最初にタイヤが限界を超えるので、その兆候さえチェックしておけば危険な状態には陥りにくい。4WDを「AUTO」にしておけば、油圧多板クラッチによってほどよく前輪にトルク配分してくれるので、滑りやすい路面での安心感もずいぶんと高まる。
もっとも、エンジンはさすがの大トルクで、目地段差の通過とスロットルオンが偶然に重なったり、あるいは左右別々に揺すられるような路面では、盛大なショックと振動を伝えるリジッドのクセが発露する。そんなときには、ラプターの性能はやはりモンスター級であることをあらためて痛感するのだ。
まあ、トーヨーのOPEN COUNTRYでも、よりオンロード志向の強い「A/T」を履かせれば舗装路でのグリップも高まるだろう。ただ、今回のR/Tのほうが悪路の比重も高いのでラプターらしい。それに、ラプターは油断すると驚くほどの走行ペースになるので、絶対グリップは適度に抑制しておいたほうが、ペースも過剰になりすぎずに安全かもしれない。
ラプターの本国価格はベースモデルで約5万ドルから……と意外に手頃ではある。多くの並行輸入車ショップがベース価格で600万円程度をかかげているのだが、今回の取材車のように4ドアの「スーパークルーキャブ」に“らしい”装備を追加していくと、700万~1000万円強くらいになるケースが多い。
それにしても、今回の取材での周囲の注目度はマクラーレン、フェラーリ、ランボルギーニをも軽くしのぐものがあった。さらに100km/h以下での豊かな気持ちよさは、これらオンロード専用スーパーカーに勝る部分もある。さらに、わずかでも路面が荒れれば、まさにラプターの独壇場。そんなスーパーカーだと考えれば、1000万円なんて安い!?
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
フォードF-150ラプター
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5890×2459×1994mm
ホイールベース:3708mm
車重:2584kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:10段AT
最高出力:450hp(336kW)/5000rpm
最大トルク:691Nm(70.5kgm)/3500rpm
タイヤ:(前)35×12.50R18LT 123Q 10P.R./(後)35×12.50R18LT 123Q 10P.R.(トーヨーOPEN COUNTRY R/T)
燃費:シティー=15mpg(約6.4km/リッター)、ハイウェイ=18mpg(約7.7km/リッター)、複合=16mpg(約6.8km/リッター)(米国EPA値)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
※数値は米国仕様のもの。
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:3166km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:684.8km
使用燃料:107.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.4km/リッター(満タン法)/15.2リッター/100km(約6.6km/リッター、車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。