第9回:カーアクションだってエコじゃなくちゃ。プリウス大活躍! − 『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事』
2011.08.10 読んでますカー、観てますカー第9回:カーアクションだってエコじゃなくちゃ。プリウス大活躍!『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事』
『俺たち』シリーズの最新作
『沈黙』シリーズというものがある。スティーブン・セガールが主演を務める一連の作品で、毎回彼が圧倒的な強さで敵を倒すものだから一切スリルを感じることがない。安心して観られるアクション映画という特異なポジションを獲得し、根強い人気を誇る。実はこれ、シリーズでもなんでもなくて、1992年の『沈黙の戦艦』がヒットしたものだから、以後の作品も「沈黙」の文字を入れたタイトルを付けるのが習いになってしまっただけなのだ。そもそも、元の作品だって原題は「包囲されて」という意味で、沈黙は関係ない。それでも20年にわたって『沈黙の陰謀』『沈黙の報復』『沈黙の鉄拳』などが続々と作られてきた。
もう一つ、『俺たち』シリーズというのもある。『俺たちは天使じゃない』や『俺たちに明日はない』といった名作のことではない。これも日本側の勝手な都合で、お馬鹿コメディ映画になぜか「俺たち」を入れたタイトルを付けるのが習慣化しているのだ。『沈黙』シリーズはまだ主演が同じ人というくくりがあったが、こちらはそれすらない。エドガー・ライトの怪作『ホット・ファズ 俺たちスーパー・ポリスメン!』はサイモン・ペグとニック・フロストのコンビだったし、ほかにもいろいろな俳優が演じている。
しかし、『俺たち』シリーズの大本命といえば、ウィル・フェレルである。『俺たちダンクシューター』『俺たちニュースキャスター』『俺たちステップ・ブラザース』『俺たちフィギュアスケーター』と、輝かしい作品が並ぶ。すべてに共通するのは、主人公が中年ダメ男だということ。そして、ギャグは下劣かつお下品で、中学生レベルの下ネタが満載なのだ。
『俺たち』シリーズ最新作も、ウィル・フェレルが主演である。『サタデー・ナイト・ライブ』以来の盟友アダム・マッケイが監督を務める『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』だ。
スーパー刑事はマッチョなクルマが大好き
アメリカの刑事映画といえば、派手なカーアクションと銃撃戦が付きものだ。『ダーティーハリー』なんて今思えばかわいいものだったわけで、どんどんアクションのインフレが進行していった。ついには、爆発シーンの回数で映画の価値が測られるような、頭の悪いことになってしまったのである。さすがにリアリティということではおかしなことになっていて、犯人を一人捕まえるために多くの善良な市民を危険にさらし、クルマはぶつけ放題、街は壊し放題というありさま。スター刑事は超人的な体力と知能を持ち、弾は決して当たらない。
この映画にも、タフガイの刑事2人組が登場する。これまでに何度も敏腕捜査官役を演じてきたサミュエル・L・ジャクソンと、ドウェイン・ジョンソン、すなわちWWEのカリスマプロレスラー、ザ・ロックである。百戦錬磨の老練な刑事と、マッチョな肉体で押しまくるヒーローとのコンビは最強で、悪党どもを次々に逮捕する。このコンビが出動する時、もちろんクルマだって男らしさがムンムンしていなければならない。バカでかいV8エンジンを積んだ「シボレー・シェベルSS」で、赤信号なんか気にせずにニューヨークを突っ走る。
しかしこの二人、あっけなく殉職してしまう。どうやって死んだのかは書けないが、ある意味、リアリズムである。スーパー刑事の行動を冷静に見れば、そりゃあ死ぬよな、ということなのだ。かくして、これまで日の当たらなかった「The Other Guys」たちにチャンスが訪れる。空席となったヒーローの座を狙って、アレン・ギャンブル(ウィル・フェレル)とテリー・ホイツ(マーク・ウォルバーグ)のコンビも立ち上がる。
だが、これがまったくダメ刑事なのだ。テリーは熱血漢の正義派なのだが、燃える気持ちが先行しすぎてヘタを打つことたびたび。ヤンキースのデレク・ジーターを誤って撃ってしまったことで、ニューヨーク中を敵にまわしている。アレンは根っからのインドア派刑事で、一日中デスクの前に座り、パソコンで書類を作成するのが大好き。これじゃあ、活躍するどころか、現場に行くことすらできない。
マーク・ウォルバーグは初めての本格的コメディ演技なのだが、いい味を出している。だいたいこの人は二枚目なんだかダサいとっちゃん坊やなのか判断がつきかねるところがあるのだ。『ザ・ファイター』のボクサー役でも、田舎くさいあんちゃんという感じだった。コメディ映画に出たことがないわけではなくて、『デート&ナイト』ではフェロモン丸出しのセクシーな男の役で、すべての出演シーンが上半身裸。淡々と演じるのが、よけいにおかしみを誘っていた。今回も、情けないダメ感がいいあんばいである。
エコカーに乗って悪人を追い詰める!
デスクワークにこだわり外に出ようとしないアレンだが、建築中のビルが足場の設置許可をとっていないという地味な事件に異様な興味を示し、テリーと捜査を始める。二人は建築主を逮捕するが、武装した連中に襲われて犯人を奪われてしまう。そして、署に帰ると上司から捜査の中止を言い渡されるのだ。実は、何やらきな臭い金融詐欺事件が絡んでいるらしい……。
アレンの愛車に乗って巨悪を成敗しようと出動する。これが、先代の「トヨタ・プリウス」なのだ。純正色ではないマットな赤に塗られていて、あまり威勢のいい感じはしない。カーオーディオでかけられるのは、リトル・リバー・バンドのメロウなメロディ。タフなスーパー刑事とはほど遠いイメージなのだ。
ハリウッドセレブの間でプリウスに乗るのが流行したが、あれはエコな姿勢をアピールする意味があった。アメリカじゃたくましい男はV8エンジンのでかいクルマに乗ることになっていて、エコを強調するのは民主党支持の軟弱なインテリというのが通り相場だろう。赤プリウスを見たテリーは、ガッカリして「女のアソコみたいだ」と悪態をつくのだ。
このプリウスがずいぶんひどい扱われようで、いきなりドアは吹っ飛ぶし、路上駐車している間にホームレスが中で乱交パーティーを始め、アライグマが出産する。しかし、最後にはちゃんと活躍のシーンが用意されているのだ。スキール音を響かせて街を疾走し、悪人を追い詰める。プリウスのカーチェイスも、なかなかの迫力である。
かくして「The Other Guys」のアレンとテリーは陰謀を阻止し、庶民のわずかな財産を食い物にする奴らを懲らしめる。これはもちろん架空の話だけれど、金融界の大物たちが詐欺まがいの手段で私腹を肥やしていたのは事実だ。その手口は、エンドクレジットで図解される。お馬鹿映画だけれど、志は高いのだ。
激しいカーチェイスの末、赤プリウスはあえなく廃車となった。一躍ヒーローとなったアレンとテリーは、その境遇にふさわしいマッチョなクルマを手に入れる。ただ、このマッチョカー、実はエコなクルマなのだ。狼の皮をかぶった羊ともいうべき妙なクルマを、ラストシーンでぜひ確かめてほしい。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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