ランドローバー・レンジローバー イヴォーク コンバーチブルHSEダイナミック(4WD/9AT)/レンジローバー オートバイオグラフィー(4WD/8AT)/ジャガーFペース35t Rスポーツ(4WD/8AT)
開放感は天井知らず 2017.02.28 試乗記 レンジローバーの走破性能の高さは誰もが知るところ。今回の舞台はスノーロード、「レンジローバー イヴォーク コンバーチブル」で雪上のオープンカードライブに出掛けた。また、特設コースで「レンジローバー オートバイオグラフィー」と「ジャガーFペース」の走破性をチェックした。こんな車はほかにない
誰も踏んでいない雪野原を見ると、つい引き寄せられてしまうのはこの年になっても変わらない。前々世ぐらいはキタキツネだったのかもしれない。それは車に乗っていても同じ。夜の間にうっすらとさらに積もった新雪を、ゆっくりと踏んで別荘地の林の中を進む。カリッと引き締まった朝の空気を浴びて、固く締まった雪道の上を走るのはまことにウキウキする。もちろん、しっかり足ごしらえをした車があっての話ではあるが、これはそのうえオープンカーである。これはもう、バックカントリースキーと同じぐらいの爽快感である。
トヨタのスローガンじゃないけれど、思わずワオ! と声が出るのはこういう車のことだ。これまでほとんど誰もやらなかった意表を突くフルオープンの4座4WDオープンカー、それが昨年レンジローバー イヴォークに追加されたコンバーチブルだ。ユニークな価値を備えているということでは、これぞ本当のプレミアムSUVである。
イヴォーク コンバーチブルは「HSEダイナミック」グレードのみ、価格は765万円と最上級グレードの「オートバイオグラフィー」(832万円)に次ぐモデルだ。パワートレインは他モデルと同じ240ps(177kW)/5500rpmと34.7kgm(340Nm)/1750rpmを生み出す4気筒2リッター直噴ターボエンジンと9段ATを搭載、大きく異なるのは車重とモード燃費である。例えば「クーペHSEダイナミック」の車重は1760kgだが、それに対してコンバーチブルは2020kgと200kg以上重くなる。それに伴ってJC08モード燃費も10.7km/リッターから9.6km/リッターへ下がっているのは仕方のないところだろう。加えてラゲッジスペースは251リッターへ当然ながら小さくなっているが(クーペは550リッター)、ソフトトップの開閉状態に影響されない構造で、オプションではトランクスルーになるスキーハッチも用意されており、思ったよりも使えるはずだ。
オープンなら他にも多数あるけれど、スキーに出掛ける道具をのみ込む4WDとなると見当たらない。屋外に駐車してソフトトップの上に大雪が積もるのはちょっと心配だが。イヴォーク コンバーチブルは今最も注目されるスキーエクスプレスだろう。
露天風呂気分
一般道を走る程度ではサイドウィンドウを上げておけば、少なくともフロントシートへの風の巻き込みはほとんどない。シートヒーターと強力な空調のおかげでオープンにするのをためらうどころか、まるで雪見露天風呂のような開放感は抜群だ。もちろん天候と道路コンディション次第ではあるが、屋根を閉めたい場合にはわずかな時間(開閉ともに20秒前後)で電動トップを閉じることができるし、およそ50km/hまでなら走行中でも作動するので安心だ。一見最も場違いのように思える雪道のオープンカードライブは、予想以上に快適なのである。
2t以上もの車重を感じさせないのは、低速から十分なトルクを生み出すエンジンと洗練されたATのおかげである。ただし、下り坂のコーナーなどでは注意が必要なことは言うまでもない。軽快なハンドリングに気をよくして試しにDSCを切ってみたら、ズルッとフロントが外に逃げてヒヤリとした。いつの間にか日が射(さ)して圧雪路面が磨かれていたせいもあるが、内輪のブレーキングによってラインが膨らまないようにアシストしてくれていた証拠でもある。いったん滑ると重さはそのまま跳ね返ってくることを覚悟しなければならない。試乗車は245/45R20サイズの「ピレリ・スコーピオン ウインター」を装着していたが、これは日本でいう一般的なスタッドレスではなく、オールシーズン的なタイヤであり、スピードレンジがV(240km/hまで)と高い代わりに氷雪上性能は日本の環境に特化したスタッドレスに及ばない。柔らかな圧雪路ではかなりの性能を発揮するようだが、気温と雪面のコンディションには細心の注意を払うべきである。
雪道でも扱いやすいFペース
昨年、日本のジャガーセールスは前年の1349台から2883台へ倍増したという。「XE」などのディーゼルモデルの追加とともに、ジャガー初のSUVたる新型Fペース投入の効果が大きかったに違いない。もっとも、現在の製品の出来栄えからするともっと売れてもいいと思うが、そのためには一時大きく減ったディーラー数を増やしていかなければならないだろう。
Fペースとレンジローバーはクローズドの雪上コースで試乗した。Fペースも車重はほぼ2tに達するが、雪の上でも非常に扱いやすかったのは前後の重量バランスに優れているうえに、やはり後輪駆動ベースという理由もあるはずだ。Fペースは通常ほとんどの駆動力を後輪に伝え、滑りやすい路面など必要な場合にフロントにも配分する4WDシステムを備えるが、フラットな雪面で急発進を試みても前輪が遅れて回るというタイムラグはまったく感じられなかった。フロントのグリップ状態もつかみやすく、安心して振り回すことができた。雪道で楽しいSUVの最右翼と言えるだろう。
レンジローバーにも限界はある
もはやリムジンのように巨大な現行レンジローバーは、言わずと知れた万能4WDではあるが、雪の丘を越える特設モーグルコースではたとえレンジローバーであっても、やはり限界はあるということが明らかになった。レンジローバーを含めランドローバー各車には(Fペースにも)下りだけでなく、上りでも賢いシステムが駆動力を最適制御し、ドライバーがスロットルを操作することなく一定速度で走れるオールテレイン・プログレス・コントロールが備わるが、ゆっくり上ろうと試したら、柔らかな雪が掘れてしまった上り坂で動けなくなってしまったのだ。レンジローバーならどんな悪路でもへっちゃら、と頭から決めつけてはいけない。柔らかい雪にタイヤの半分ぐらいまで埋まってしまえばどうしようもなくなる。
どんな分野でもそうだと思うが、上級者ほど用心深いし無理をしない。日本では人里離れたところでスタックして遭難状態になることはまず考えられないけれど、天候次第で地元の人でも立ち往生してしまうことは珍しくない。雪国の苦労を知らない都会モンが、と言われないようにするために過信は禁物。洗練されたフールプルーフな4WDシステムが当たり前になった今こそ自戒しなければならない。
(文=高平高輝/写真=田村 弥/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー イヴォーク コンバーチブルHSEダイナミック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4385×1900×1650mm
ホイールベース:2660mm
車重:2020kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:240ps(177kW)/5500rpm
最大トルク:34.7kgm(340Nm)/1750rpm
タイヤ:(前)245/45R20 103V/(後)245/45R20 103V(ピレリ・スコーピオン ウインター)
燃費:9.6km/リッター(JC08モード)
価格:765万円/テスト車=884万4000円
オプション装備:キーレスエントリー(10万2000円)/フロントシート・ヒーター&クーラー(15万5000円)/電動調整式14wayフロントシート+運転席・助手席シートメモリー+運転席・助手席マッサージ機能(25万9000円)/ウインドディフレクター(5万2000円)/オックスフォードレザー・インテリア(22万7000円)/アロイホイール 20インチ“スタイル504”(シャドークローム・フィニッシュ)(8万6000円)/アドバンスド・ドライバーアシスタンスパック(31万3000円)
テスト車の年式:2016年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ランドローバー・レンジローバー オートバイオグラフィー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5005×1985×1865mm
ホイールベース:2920mm
車重:2550kg
駆動方式:4WD
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:8段AT
最高出力:510ps(375kW)/6500rpm
最大トルク:63.8kgm(625Nm)/2500rpm
タイヤ:(前)275/45R21 110V/(後)275/45R21 110V(ピレリ・スコーピオン ウインター)
燃費:7.4km/リッター(JC08モード)
価格:1806万円/テスト車=1891万8000円
オプション装備:ブラインド・スポット・モニター<クロージング・ビークル・モニター/リバース・トラフィック・ディテクション機能付き>(9万3000円)/パークアシスト(10万2000円)/ラゲッジスペースレール(4万9000円)/リアシートエンターテインメントシステム 8インチ(32万9000円)/フルサイズ・スペア・アロイホイール(3万8000円)/ブラックデザイン・パック(24万7000円)
テスト車の年式:2016年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ジャガーFペース35t Rスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4740×1935×1665mm
ホイールベース:2875mm
車重:2000kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:8段AT
最高出力:340ps(250kW)/6500rpm
最大トルク:45.9kgm(450Nm)/3500rpm
タイヤ:(前)255/50R20 109V/(後)255/50R20 109V(ピレリ・スコーピオン ウインター)
燃費:10.1km/リッター(JC08モード)
価格:849万円/テスト車=1099万4204円
オプション装備:メタリックペイント(10万2000円)/パーフォレイテド・トーラスレザー・スポーツシート(28万1000円)/360度パークディスタンスコントロール(12万1000円)/アロイホイール 20インチBlade 5スポークホイール<グロスブラックフィニッシュ>(22万1000円)/レジャーアクティビティーキー(4万1000円)/スライド式パノラミックサンルーフ<電動スライディング/ブラインド付き>(23万8000円)/キュイールグレイン・インストゥルメント・ストッパー(5万円)/アダプティブクルーズコントロール<キューアシスト、インテリジェント・エマージェンシーブレーキ付き>(25万4000円)/ブラインド・スポット・モニター<リバース・トラフィック・ディテクション付き>(11万3000円)/レーンキープアシストおよびドライバーコンディションモニター(11万3000円)/プライバシーガラス(7万9000円)/ジェット・ヘッドライニングカラー(6万6000円)/アダプティブダイナミクスパック(20万5000円)/プラクティカリティーパック(6万8000円) ※以下、販売店オプション ディプロイアブルサイドステップ一式(46万0080円)/プレミアムカーペットマットセット<ジェット>(4万8924円)/ラゲッジコンパートメント プレミアムカーペットマット(4万3200円)
テスト車の年式:2016年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

高平 高輝
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。