ハスクバーナ・ヴィットピレン701(MR/6MT)
引き算の美学 2018.04.12 試乗記 北欧のバイクブランド、ハスクバーナから待望のロードモデル「ヴィットピレン701」が登場。700ccクラスのビッグシングルエンジンと、250ccクラスに比肩する軽さが織り成す走りとは? “白い矢”という名を冠したニューモデルの実力をリポートする。シンプルな構造で軽さを追求
スウェーデンで誕生し、二輪の生産を開始してから115年。前身となった銃器メーカーを含めると329年もの歴史を誇るブランドがハスクバーナだ。長年オフロード系のモデルを得意としてきたが、ここ数年は各国のモーターショーでオンロード向けのコンセプトモデルをたびたび披露。量産化への期待が高まる中、ついに発表されたのがこのヴィットピレン701である。
ベースになっているのはKTMの「690デューク」だ。ハスクバーナは2013年からKTMの傘下に入っているため、その車体の一部が流用されたわけだが外観に共通項はほとんどない。アグレッシブで若々しい690デュークに対してヴィットピレン701のたたずまいはグッと大人びているほか、スウェーデン語で“白い矢”を意味する車名の通り、細身でシャープな雰囲気が与えられているのが特徴だ。
それは雰囲気だけにとどまらない。水冷単気筒エンジンとクロモリパイプフレームの組み合わせは車体の軽量化に貢献し、692.7ccという排気量にもかかわらず、国産250ccクラスのスポーツバイクと同等の157kg(燃料なしの半乾燥状態)という車重を実現。高価な素材を使うことなく、シンプルなパーツ構成によってライトウェイトスポーツとしての資質が突き詰められているのである。
満足感の高いライディングを楽しめる
実際ハンドリングは軽い。ワインディングロードでも高速道路でも車体に身を預けておけばよく、姿勢のコントロールやサスペンションへの荷重といった小難しいことを意識しなくとも、サラサラと流れるように走らせることができる。
しかも、むやみに軽すぎないのがポイントだ。軽量スリムなこうしたモデルの場合、ヒラヒラとした動きと不安定さが紙一重だったりするものだが、ヴィットピレン701の足まわりからは常に高い接地感が伝わり、勝手に旋回したがるような先走り感はない。むしろ、わずかながらアンダーステア気味に仕立ててあり、コーナリング中に旋回力を引き出したくなった時は減速したり、バンク角を足したり、体重移動の量を増したり……とその状況に応じて入力できる余白が多く残されている。そのため、自分で操っているという満足感が得やすいのだ。
これがスーパースポーツだとそうはいかない。そのポテンシャルを引き出すにはピンポイントなライン取りや高いアベレージスピードが求められ、走るステージも制限されるが、このスポーツシングルにはそんなスキルもリスクも不要だ。たとえ手狭なワインディングだとしても、のびのびと走らせることができる自由度の高さが最大の魅力である。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
洗練されたビッグシングルの妙味
そうした手の内感はエンジン特性によるところも大きい。ピストン径がφ105mmに達し、排気量が700cc近いビッグシングルと聞けば、体をビリビリと震わせるような激しいガス圧トルクを想像するかもしれないが、バランサーが組み込まれたこの水冷OHCシングルにそれはない。そこにあるのは振動ではなく鼓動、バイブレーションではなくビートと呼べるものだ。ヴィットピレン701のエンジンには、どんな回転域にもそうしたまろやかさがあり、特に高いアベレージスピードで巡航している時の包み込まれるような心地よさは、そうそう他のエンジンで味わえるものではない。
端的に言えば極めて洗練されたエンジンながら、もちろんスロットルを大きくひねればパンチの利いた力強い加速を堪能することができる。その時に伝わってくる小気味いい爆発フィーリングと明確なトラクションはビッグシングルならではのもので、いわゆる「右手で乗る」感覚に誰もが浸れるはずだ。
ヴィットピレン701を構成するのは単気筒エンジンとパイプフレームという最もプリミティブなコンポーネントであり、そこには目新しい機構も過度な電子デバイスもない。現代の基準からすればなにもないに等しいが、横目に見ながら競争するライバルも持たず、下からの突き上げも目指すべき上もない。どこにも属していない、極めて自由なポジションにいるからこそ、他のモデルでは得られない楽しさが満ちているのだ。
(文=伊丹孝裕/写真=ハスクバーナ/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1434mm
シート高:830mm
重量:157kg(燃料を除く)
エンジン:692.7cc 水冷4ストローク単気筒 OHC 4バルブ
最高出力:76ps(56kW)/8500rpm
最大トルク:72Nm(7.3kgm)/6750rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:135万5000円
※価格を除き、数値は欧州仕様のもの。

伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】
2025.12.6試乗記マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。 -
NEW
レクサスLFAコンセプト
2025.12.5画像・写真トヨタ自動車が、BEVスポーツカーの新たなコンセプトモデル「レクサスLFAコンセプト」を世界初公開。2025年12月5日に開催された発表会での、展示車両の姿を写真で紹介する。 -
NEW
トヨタGR GT/GR GT3
2025.12.5画像・写真2025年12月5日、TOYOTA GAZOO Racingが開発を進める新型スーパースポーツモデル「GR GT」と、同モデルをベースとする競技用マシン「GR GT3」が世界初公開された。発表会場における展示車両の外装・内装を写真で紹介する。 -
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。











