第552回:北京モーターショー2018の展示内容に見た
中国の高級車ブランド・ホンチーの本気度!
2018.05.04
マッキナ あらモーダ!
中国とは「ラブ・アフェア」ではない
北京モーターショーが2018年4月25日に開幕した。同ショーが行われるのは今年で15回目だ。
展示面積は第2会場と合わせて、22万平方mに及ぶ。これは2017年の東京ショーの約2.5倍に相当する。
テーマは「Steering To A New Era」だ。中国政府が2019年度から各社に課すことになった一定比率のエコカー生産・販売義務化を前に、会場は電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、そして燃料電池車(FCV)――中国語で言うところの新能源汽車が百花繚乱(りょうらん)となった。
合弁生産車のなかで極めて強い存在感を誇るドイツのブランドも、その例外ではない。BMW(中国語で宝馬)は同ブランド初のピュアEV「コンセプトiX3」のワールドプレミアを行った。最高出力200kW(約272ps)以上を生み出すというモーターを備え、400km以上の航続距離を誇る。
BMWグループでセールス&ブランドおよびアフターセールス担当取締役を務めるピーター・ノータ氏にインタビューすることができた。
中国は外資企業の50%出資規制を2022年までに段階的に撤廃することをショー直前の2018年4月17日に発表した。それに関してノータ氏は「市場開放という観点で歓迎」と前向きだ。ただし、現在までに続けてきた現地ブリリアンス社(華晨汽車)との協業は、目下のところ変えるつもりはないと断言する。「ブリリアンスとの協業では、当局の規制への対応など、ジョイントベンチャーから得られるノウハウがあるから」というのがその理由である。
2018年夏からは「X3」も現地生産を開始する。「X3はアメリカ、南アフリカに次いで、中国でも大きな役割を担います」。その生産開始によってブリリアンスとの合弁車種は6モデルに達する。そして、ブリリアンスとの関係を「長い緊密な関係です。決してラブ・アフェアではありません」と締めくくった。
異業種からの参入組は何をもたらす?
世界的に若いジェネレーションに都市居住志向がみられるが、クルマが“要らなくなるかもしれない”社会に、BMWのモットーである「駆けぬける歓び」をアピールするのか。ノータ氏は語る。
「シェアリング・モビリティーサービスの『ドライブ・ナウ』、駐車場や充電ステーション予約システムの『パークナウ』『チャージナウ』を通じ、世界的規模で大都市における効果を計測しています。先ごろ発表したダイムラーとのサービス統合で、プレミアム・モビリティーサービスは、さらに進化していきます。つまり、所有するだけでなく、カーシェアリングも自動運転も、ドライビングプレジャーと考えます。自動車を売るのは収益の柱ですが、モビリティーサービスも、もうひとつの柱にしていきます。例えば、パークナウにはすでに2000万人の顧客があります」
話は変わる。ノータ氏はオランダに生まれ、ユニリーバで取締役、フィリップスで副社長という実績を積み、2018年1月にBMWにやってきて現職に就いた人物である。フォードのジム・ハケットCEOも家具産業からの転身だ。異業種から自動車産業への参加は、何をもたらすのか。
それに対するノータ氏の答えは、こうだ。「自動車産業は激動期にあります。顧客に焦点を当て、顧客主導の産業に変わっていきます。私たちBMWは、ナンバーワン・プレミアムブランドとして良質な商品があります。そうした中でデジタル化を推進し、カスタマーデータを駆使していきます」
それに関連して、今回の北京にもブースを構えたバイトンをはじめ、コネクティビティーに長(た)けた新興のEVブランドが次々と誕生しているが?
それに対してノータ氏は、「私たちはデジタライゼーションに多大な投資を行っています。生産、サプライヤーのネットワークにおいても十分にコンペティティブです。すでに『BMWコネクネッド』サービスは中国ですでに130万人が加入し、『アリババ』ともリンクしています」と自信のほどをみせた。異業種からの参入組の力で、自動車ビジネスはさらに面白い次元に入っていくと読んだ。
中国新ブランドに日本人デザイナーあり
中国メーカーに話を移そう。ここ数年彼らは、高級SUVや電動化車両向けのサブブランドを構築してきた。あまりに多くのブランドが誕生するものだから、2007年に奇瑞汽車が創ったプレミアムカー専用ブランドであるクオロスなどは、気がつけばかなりの先輩格となってしまった。
今回の北京でも、そうした新ブランド創設の流れは続いた。そのひとつ「ORA(オーラ)」は、グレートウォール(長城汽車)がローンチしたシティーEV用ブランドである。会場では「R1」「R2」の2車種が公開された。
デザインを担当したのは、日本人デザイナー、鳥飼啓介氏である。1961年生まれの鳥飼氏は日産自動車にデザイナーとして28年間勤務したのち、日系の内装サプライヤーを経て、2年前に長城が横浜のデザインセンターを立ち上げたのに合わせて移籍した。
上層部からは、「『iPhone』のようなクルマを作れ」と指示があったと振り返る。鳥飼氏は「シンプルで、なんでもない。にもかかわらず、いいものを持っている、豊かな気持ちになる」とiPhoneを評し、それをクルマに反映させることを模索したという。
同時に、「ダイソンの扇風機に代表されるようなモダン家電が、上海・北京に住む80年代・90年代生まれのモダンな若者に受け入れられているのにも注目しました」と語る。そのうえで「エッジの効いたプレスラインをキャラクターラインにするのではなく、塊で表現しました」と説明する。
同時に鳥飼氏は「中国では、日本では不可能だったデザインやパッケージングができる」と話す。 日本では安全基準がネックとなり、車両のオーバーハングをなかなか短くできなかった。しかし長城では、問題をクリアしながら一部のドイツ車をベンチマークにし、タイヤを可能な限り四隅に配置した。
R1、R2の生産開始は2019年。商品企画担当者とともに、ブランドを一から創っていくのも、グレートウォールにおける仕事の醍醐味(だいごみ)であることを語ってくれた。
模倣ではなく新解釈!?
中国といえば、高級車ブランド「紅旗(ホンチー)」である。“日本を代表する紅旗ファン”を自称する筆者としては、ランボルギーニやマセラティを飛ばしても、欠かすわけにいかない。
紅旗ブースにたどりつき、メインのターンテーブルを見た途端、ド肝を抜かれた。その名を「E境(Jing)GTコンセプト」という。2016年にペブルビーチで発表されたコンセプトカー「ビジョン・マイバッハ・メルセデス6」なしには誕生しなかったデザインであることは明らかだ。だが、フロントマスク両端の切り立ったエッジをはじめ、ディテールではかなり違った挑戦を試みている。ボンネットに走る赤いラインは、明らかに紅旗の一族であることを示している。ボディーカラーは、数年前のクオロスで試みたのと同様、陶磁器を模したのが明らかである。
コピーと片付けるのは簡単だ。しかし、模倣と新たな解釈を繰り返しながら発展していく美術になぞらえるなら、このE境GTは、まさに意義あるものだ。何より、公用車を起源とする紅旗にクーペが登場した。これは事件ともいえる。「ラグジュアリークーペといえば輸入車」の中国で、概念車(コンセプトカー)とはいえ、この企画を立ち上げた人物は、かなりのファンタジーの持ち主である。会場内に展示されていたSUV版紅旗とともに、毛 沢東や周 恩来は、あの世で驚いていることだろう。
コンパニオンから中国語レッスンを受ける
紅旗ブースでの驚きは、まだ続いた。コンセプト・コックピットだ。近年他社がCESなどで盛んに展開しているものに近似するが、紅旗も開発するとは。アイデンティティーである赤いラインも忘れていない。近くにいたコンパニオンに聞けば、「小旗(シャオチー)」という名前だという。もはや過去の名声や既存の高級車メーカーであることに甘んじない、製造元・中国第一汽車の本気度を見た。
なんとロボットもあった。ダミーではなく、きちんと話しかけに応じている。再びコンパニオンに聞けば、こちらは「旗宝(チーバオ)」という名だそうだ。乳児のことを宝宝(バオバオ)というから、紅旗の子どもといった感じなのだろう。
後日中国メディアを確認したところ、「小旗」「旗宝」の名前を記していない。しっかり取材しろよ……と言いたいところだが、実は現場では意外な展開があった。
コンパニオンは、ボクの「qi(チー)」の発音が気になるらしく何度も訂正し、ボクがうまく発音できるまでなかなか解放してもらえなかった。ああ、そういえば以前習っていた中国語の先生からも、qiをひたすら直された。進歩のない自分が悲しくなった。
「ランボルギーニ・カウンタック」の正しい呼び方“クンタッシュ”をうまく発音できないのはどうでもいいが、自分が愛好するブランド・紅旗をちゃんと読めないのは情けない。まあ、トヨタ「ミレル」や日産「ミスフェアレディ」がここまで熱烈指導してくれないことを思えばありがたいではないか。
世界のモーターショーが飽和期にあっても、いまだ学びと驚き、そしてお笑いが次々と訪れる。だから中国ショーは面白いのである。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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