第24回:教えて! ヤマダ先生
2018.05.09 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして![]() |
すべては「どうせなら、ほった氏のバイパーで行かない?」のヒトコトで始まった……。『webCG』でもおなじみのモータージャーナリスト、山田弘樹氏が、取材先までのアシとして「ダッジ・バイパー」に試乗。ぽんこつリポーター(webCGほった)では気付けなかった、このクルマの魅力(?)を語る。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
長く乗っててもクルマは飽きない
これはバイパーに限った話ではなくて、前に乗っていたミニも、バイクのトライアンフ号でもそうなのだけれど、ジドーシャというのは何年乗っていても、ふとしたきっかけで新しい発見があったりする。
車検をはじめとした定期点検の後の、操作感の変化なんかは最たる例。足腰やドライブトレインがしゃきっとしたクルマを走らせていると、「ああ、新車時のこのクルマって、こんな感じだったのかも」なんてタイムスリップした気分に浸れる。なにせ新車を買ったことがないのでね。
普段とは違う道を、違うペースで走るのも発見のきっかけになることが多い。過日、奥多摩周遊道路を助手席で居眠りする御仁を起こさぬようにしてドライブしたのは、非常に良い経験になった。
これらと並んで新しい発見が得られるのが、誰かと話をすること、人の運転を観察することである。
今回、普段はほとんどバイパーに人を乗せない記者が、ひょんなことからそのハンドルを人に預けることになった。それも、『webCG』でもおなじみの実践派モータージャーナリスト、山田弘樹氏にである。東京・世田谷-神奈川・観音崎間の珍道中で交わされた会話は示唆の宝庫で、かつて記者が記した“なんちゃって試乗記”(前編・後編)よりよっぽど有意義だった。私的に記録をとどめる意味でも、その内容をここに記しておこうと思う。
……何が言いたいかというと、「一通りトラブルが解消して、連載のネタが切れました。益荒男(ますらお)2人のもっさい会話で、お茶を濁させてください」ということである。今回もまた、大洋のごとく広い心でお付き合いください。
寝覚めのひと吠えがうるさすぎる
事の発端は、某タイヤメーカーが催した試走会である(当該記事その1・その2)。その取材と原稿の執筆を先述の山田氏に依頼したのだが、会場が郊外だったこともあり、「せっかくだし、ほった氏のバイパーで行こうよ」と相成ったのだ。
最近ハマっている鮎川哲也風に言うと、さて事件の開幕は、その日の朝六時半に、バイパーの寝覚めのひと吠(ぼ)えがけたたましく鳴ることによって告げられた。
山田氏(以下、山田):(デンワにて)いまどこ?
ほった:ご近所です。大通りから見て1本手前の裏路地に潜んでおります。
山田:見つけた、見つけた。
……うーわ。これはヒドい。これはないよほった君。自動車業界が一丸になってクリーンな未来を模索しているときに、こんな反社会的なクルマに乗ってちゃダメだよ。
ほった:(山田氏のガレージを見つつ)……山田さん、「同じ穴の狢(むじな)」って言葉、知ってます?
山田:うーん。エンジン音のせいでほった君がナニ言ってるか聞こえないなあ。
ほった:聞こえないんじゃしょうがないですね。……観音崎まで運転します?
山田:もちろん。
ほった:聞こえてんじゃねーかよ。
山田:やれやれ。そんな細かい事を気にしているようでは、まだまだビッグにはなれんよ。そんなことより、早く運転席を代わってくれたまえ。……ふむふむ。このクルマ、ステアリングはチルトしかないのか。ドラポジを合わせると、体育座りみたいな姿勢になるんだけど。
ほった:そういう「俺アシ長いんだよね」アピールは間に合ってますんで。ホントに気になるようでしたら、そのダイヤルをぐりぐり回してみてください。ペダル位置がどんどん引っ込んでいきますから。
とにかく、早くこの閑静な住宅街から脱出しましょう。爆音ゆえ、ご近所からクレームが来ます。
山田:そうだね。テロかなにかと間違われる前に退散しよう。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
加速に優しさを感じる
山田:このクルマ、走りだしちゃうと意外に静かだね。アイドリングはあんなにドスが利いてるのに。
ほった:窓を開けるとそこそこ爆音ですよ。
山田:ホントだ。
ほった:自分に優しく、まわりに厳しくがモットーです。
山田:根性ひん曲がってるなあ(笑)。それと、マニュアル車なのにギアが何速に入ってるか分からなくなる。
ほった:スキップシフトが利いたり利かなかったりしてドライバーを惑わせますし、何速に入ってても、取りあえず走れちゃいますからね。運転しづらいですか?
山田:そんなことないよ。こんなぶっといタイヤ履いているのに、思っていたほどワダチにアシを取られないし。(サスペンションが)ちゃんと動いている証拠だね。ハンドルも軽くて、切るとノーズがクックッて動く。クルマの動きは素直だよ。運転してみるとすごくコンパクトに感じる。
ほった:降りるとギョッとしますよ。「こんなイカツいクルマ運転してたのかよ!」って。
山田:そうかも(笑)。……もう高速の入り口だけど、加速しちゃっていい?
ほった:もちろんです。フル加速時はスキップシフトは機能しないので、遠慮なくやっちゃってください。
山田:じゃあ、遠慮なくガバチョ。
ほった:……コレはわれながら、変な汗と笑い(奇声)が出ちゃいますな。
山田:普段から運転してる自分のクルマなのに、助手席で笑いが出ちゃうってすごいコトだよ。ほった氏ももっと踏まなきゃ! もったいない。
ほった:そんで中央道あたりでスピード違反で逮捕されるんですね。分かります。
山田:「チャレンジャー」なんかに負けてちゃだめだよ!
ほった:ヘンなことあおらないでください。そんなことより、どうでしょ? パワーがドライブトレインのあちこちから逃げている感じとかしません?
山田:そんなことないよ。といっても、初代バイパーの完調状態なんて知らないから、ナンとも言えないけど。
ほった:山田さん、前に「昔、某編集部が借りてたバイパーに乗ったことがある!」って言ってませんでしたっけ?
山田:「そんな昔のことは覚えていないな」
ほった:……見たことあるんですか? その映画。
山田:いんや、ない。
それよりこのクルマ、加速の仕方が優しいね。いまどきのターボ車みたいに、いきなりガーンってシートに打ち付けられるんじゃなくて、ふわんふわんの特大ベッドに背中から受け止められるような、そんな感じでシートに押し付けられる。“根は優しくて力持ち”だ。やっぱり大排気量NAはこうでないと。
ほった:最近のクルマには、あんまりない感じですよね。
山田:確かに。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
なんだかんだで“18年落ち”ですから
山田:今、4速で1800rpmくらいなんだけど、これでももうトルクは「何が起きても十分!」って感じだね。このクルマは3、4、5速だとアイドリング+αで勝手に加速してっちゃうけど、6速だけがすごくハイギアードで、離れてる。
ほった:アイツは下の子と仲が悪いんですよ。
山田:ただのオーバードライブでしょ。
ほった:そうとも言います。……気を付けてくださいね。こやつ、このくらいの速度で6速だと、「ほな減速」ってアクセル抜いても全然エンブレ利かないですから。6速でもアイドリングで加速します。
山田:うーわ。まじかよ(笑)。それと、この車速域で6速だとエンジンの回転数が低くなりすぎる。クルマの健康を考えると5速で走りたくなる。
ほった:そうですね。自分はけっこう6速を使う方なんですけど、それでもやっぱり、低回転域では負荷をかけないように気を使います。ダウンシフトしなくてもいいような上り坂でも、5速に落としてちゃんと踏むとか。その方が、エンジンもすっきり気持ちよさそうなんで。
山田:やっぱり気を使うんだね。
ほった:なんだかんだでジジイでポンコツですから。そういえば、山田さんも「ハチロク」と油冷ポルシェのオーナーですけど、なにかアドバイスありませんか?
山田:ではポンコツ仲間同士ひとつアドバイスを。……うーん。まず停車時にはトランスミッションをニュートラルにすることかな。クラッチ切ってるだけだと熱を持っちゃうから。あとは“据え切り”厳禁。このコはSタイヤを履いているけど、タイヤをいたわるうえでも足まわりをいたわるうえでも、ハンドルを動かすときはちょっとでもクルマを前後させたほうがいいよ。
ほった:関節に来るお年頃ですもんね。
山田:人もクルマもね。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
ボディーとアシに整合性が取れている
山田:あと、これは事故回避とかスムーズな運転にもつながるんだけど、もう少し遠くまで視野を広げて、見るともナシに見る感じで運転することかな。とっさの急ブレーキや急ハンドルを避けられれば、それだけシャシーへの負担も減らせるから。
ほった:ちょっとした軽い事故でも、そろそろ交換部品が怪しくなるお年頃ですしね。
山田:別に、新しいクルマならどんどんブツけていいってわけでもないんだけど。
ほった:心得ました。キモに銘じておきます。……冷静に考えたら、「肝に銘じる」ってなかなかにグロい表現ですよね。
山田:君は本当に、変なところで想像力豊かな男だねえ。それより、助手席に乗った感じはどう? 自分のクルマの助手席に乗るなんて、なかなかない体験なんじゃないの?
ほった:そりゃもう、ワタナベ女史の運転を助手席で体験したとき以来ですわ。
山田:で、どんなカンジ?
ほった:まあギシギシうるさい! ボディーパネルに応力はかからないから大丈夫って、頭では分かっていても恐怖ですね。なんというか、「俺って普段、こんなクルマ乗ってるのか……」って笑えてくる。
山田:なるほどね~(笑)。でも、この怖さでバランスが取れてるところもあるよね。例えば今の「コルベット」なんかだと、ボディーはカチっとしているのにアシが柔らかくて、なーんかアメ車のスポーツカーらしくないというか、整合性が取れていないというか、そんな気がしちゃう。このバイパーはボディーがギシギシいって怖いから、アシもこのくらい柔らかくていい。そして、そこがちょうどキモチイイ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
いろいろな言葉で表現したくなる
山田:MTも、癖はあるけどすぐに慣れるし、ハンドルは素直だし。ナリは『マッドマックス』の劇中車みたいにアレな感じだけど、慣れれば意外と気のおけないヤツでしょう。
……んでも、どう? 他の人が自分のクルマをスイスイ走らせていると、カノジョを取られちゃったみたいな感じしない?
ほった:ああー。うーん。……このクルマに関しては全然ナイですね。そもそもバイパーって「彼女」って感じがまったくしないじゃないですか。なんというか、相棒とか男友達というか。
山田:分かる! クラスにいた“いいヤツ”だよね。
ほった:そうそう(笑)。男子から人望がある、男子に頼られる系の。それと、これは自分が元ミニオーナーだから思うのかもしれませんが、このクルマって「ローバー・ミニ」に似てませんか? そこらじゅうがギシギシいう感じとか、OHVのにぎやかなフィールとか。
山田:分かる! 分かるね! プッシュロッドが一生懸命動いている感じとか、なんだかすごく動物っぽいんだよ。だから、普通にダラ~っと走っているだけでもキモチイイ。猛烈っていうより、力強いって言った方がしっくりくる加速もそうだけど、このクルマは癒やされるよ。癒やしのアメ車だ。
ほった:それ、いいですね。アメ車は癒やしだ。
山田:うん。癒やしだ。昔は本とかで、いろんな人がバイパーのことを「コスパがいい!」ってホメてたけど、僕はこのクルマは、そんな風にほかと比べなくてもいい気がするなあ。血統書なんてなくてもかわいい、ペットみたいなもんだ。
ほった:ペットですか。まあ、イヌネコというよりヒグマの類いではありますが。
山田:ヘビですらないのか(笑)。確かに、食費含めお金かかりそうだし。……そういえば、そろそろだったね。
ほった:何がですか?
山田:自動車税。
ほった:その話はやめましょう。
(語り=山田弘樹/文とまとめ=webCG ほった/写真=webCG)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。