ボルボXC40 T5 AWD R-DESIGN ファーストエディション(4WD/8AT)
原点回帰のたまもの 2018.05.24 試乗記 ライバルがひしめき合うコンパクトSUVの世界に現れた、ボルボ渾身(こんしん)のニューモデル「XC40」。そのデザインや走りは、北欧ブランドならではの個性にあふれていた。いまや充実の新ジャンル
鎌倉の海辺で撮影中、海でこんがり焼けたとおぼしきステキな女性がひとりごとを言いながら、とても楽しそうにこちらをチラチラと見ていた。思わずほほ笑み返そうかと思ったけれど、目線の先は筆者ではなかった。同行の編集部S氏でもなければ、カメラマンのK氏でもなかった。白いボディーに黒いルーフの四角いボルボXC40なのだった。
XC40が海辺に止まっていると、材木座海岸の海が北極海に見えた。北欧のクールな風が吹いている。夏はいいでしょうなぁ、涼しげで。小麦色のその女性は、近くのサーフショップの駐車場にとまっていた白い「ジープ・コンパス」のオーナーで、次のクルマの候補についてXC40を見ながら、あれこれ携帯で話していたのだった。
次のクルマをなににするか、具体的に考える時間ほど楽しいひとときはない。まして自分の使い方にピッタリ合いそうな新型が出てきたとあってはなおさら。未舗装路でもさほど気を使うことなく行けて、アウトドアでのスポーツ用具が載せられ、少なくともカップルで移動できる。旧来の価値観から離れた自由気ままな都会のライフスタイル……を象徴しているのがコンパクトSUVである。
最近のその充実ぶりたるや、ドイツ御三家の「X1」「Q3」「GLA」に「レンジローバー イヴォーク」、あるいは大型化した「MINIクロスオーバー」、はたまた「ジャガーEペース」ときて、このボルボXC40と、ともかくつい10年ほど前には存在しなかったセグメントにプレミアムブランドが次々と参入し、大いなる活況を呈している。セグメントが新しいだけにいずこもまだチャンスがある。と思っているから、参入するわけである。
市場の反応も上々
このような群雄割拠時代にあって、2017年欧州で発売となったXC40は2017-2018年の欧州カー・オブ・ザ・イヤーを、ボルボとしては初受賞し、ここニッポンでも、発売記念モデルであるT5 AWD R-DESIGN ファーストエディションが、車両価格559万円もするわけだけれど、2018年3月28日に正式発表になって、4月上旬のプレス向け試乗会の時点ではやソールドアウトと発表されるという幸先のよいスタートを切った。市場は大いなる好感を持って迎え入れたのである。
2010年にフォードから中国の吉利汽車資本に変わったボルボは、これを奇貨として中長期計画をゼロから練り直した。エンジンは4気筒以下に絞り、独自のプラットフォームを開発、デザインも刷新して、新型「XC90」に始まる新型車攻勢を開始、2017年の全世界での販売台数は57万台を数えた。いまや成長の真っただ中にある。当面の目標として掲げる年産80万台も、早晩達成しそうな勢いである。
彼らの新計画の根本に原点回帰があったことは積年のボルボファンにとって、「待ってました、大統領!」というような掛け声は似つかわしくないので出さないにせよ、歓迎すべきであったに違いない。ごく簡単に申し上げれば、70~80年代の四角いボルボが帰ってきたのである。
以下、肝心のXC40に的を絞ろう。その成り立ちを簡単におさらいしておくと、プラットフォームはCMA(コンパクト・モデュラー・アーキテクチャー)と呼ばれる新開発で、次期「S40/V40」とも共有することになる。リアに特徴的な1枚式板バネを使う「60シリーズ」「90シリーズ」のSPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)とは異なり、前マクファーソンストラット、後ろマルチリンクで前後コイルという、ごく一般的なサスペンション形式を採用している。
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SUVらしからぬ瞬発力
エンジンは当面、最高出力190psのT4と同252psのT5、同じ2リッター直噴直4ガソリンターボのチューン違いが2種類。グレードは、「モメンタム」と高級革仕様の「インスクリプション」、それにスポーティー仕様の「R-DESIGN」の3種類に加え、単に「XC40 T4」と呼ばれるスタンダードモデルの設定がある。
T4はFWDのみ、T4モメンタムはFWDと4WDの両方の駆動方式が選べる。それ以外はすべて4WDである。また、モメンタムはオシャレな白いルーフの2トーンをオプションで選ぶことができる。どこか50~60年代の郷愁を誘う色の組み合わせだ。
将来は3気筒やプラグインハイブリッド、フルEVの追加もある。環境問題はボルボにとって安全性と並ぶ最重要課題である。限られた資本と資源しか持たない中、「選択と集中」の決断を迫られた彼らが「北欧らしさ」を判断の根拠にすえたのは至極当然のことのように思われる。
ボルボXC40 T5 AWD R-DESIGN ファーストエディションがスッと動くことは、箱根での試乗会で確認していた。なので今回、撮影日前日の夜、webCG編集部にピックアップに行って走り始めたとき、ああ、確かにこうだった、と思った。252ps、350NmというT5の高出力、大トルクのターボエンジンと、このクラスのグラスサンルーフ付きにしては比較的軽い車重1710kgと車重の組み合わせ、なによりそれに8段ATとアクセルペダル、それにステアリングのセッティングがタメをつくらない味付けになっている。SUVというとモッサリしがちだけれど、XC40はそうではない。小型車らしい瞬時のレスポンスがある。
ドイツコンプレックスのない走り
夜の試乗会で初めて気づいたのが、グラブボックスの前と、サイドのドアノブ近辺に貼られたデコレーションパネルの光のマジックだ。小さな正方形の凹凸の連なりが室内のLEDライトを反射して、控えめにキラキラ光る。アンビエントライトがオレンジのフロアを浮かび上がらせ、かんきつ類の好きな筆者としてはなんとなくうれしい。細かいことだけれど、こういう見せ方は新型車をいっそうフレッシュに感じさせる。
それとフツウに走っているときの乗り心地のよさに感心する。ファーストエディションの特徴のひとつは245/45R20という大径の偏平タイヤを標準装備することである。フツウのR-DESIGNは19インチの235/50だから1サイズアップである。テスト車の履いていた銘柄は「ピレリPゼロ」で、そのせいかタイヤのあたりは硬い。
けれど、足まわりがしなやかに動くおかげで、極太偏平タイヤの存在をほとんど意識しないですむ。ボルボは乗り心地の面でも、ドイツコンプレックスをスッパリやめて、原点回帰した、ということが言えるのではあるまいか。速度無制限にチューニングするのではなくて、EUの制限速度130km/hあたりをターゲットにしているように思われる。
内径×行程=82.0×93.2mmのロングストロークから最高出力252psを5500rpmで、最大トルク350Nmを1800-4800rpmで発生するT5の2リッター直4直噴ターボは、ふだんはもう1500rpmぐらいでひっそりと回っている。8枚のギアを持つオートマチックはともかく高いギアを保ちたがるし、エンジンは静かに回りたがる。2000rpmぐらいからエンジンがうなり始めるけれど、それは海峡をわたる風の音みたいで、心躍る内燃機関の爆発音とはちょっと違う。むしろ爆発音を押し殺すような音で、エンジンを高回転まで回すなどという反社会的行為は自制することになる。
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まるでオシャレなキッチン
全長4425mm、ホイールベース2700mmという、1875mmの全高を別にすれば、「フォルクスワーゲン・ゴルフ」ぐらいのサイズのコンパクトさである。ただし、全幅は1875mmもあるので、パーキングメーターの白線の中におさめるのに苦労する。それ以外、ボルボXC40の欠点をあげつらうことはむずかしい。
よく考えられた北欧のオシャレなキッチンみたいなクルマである。室内にはティッシュボックスを入れる小物入れだけでなくて、使ったティッシュを捨てるゴミ箱の用意までしてある。まるで日本の軽自動車づくりみたいな心配りだけれど、日本の軽だってここまではやっていない。ボンネットの端からスウェーデン国旗が飛び出ているところもカワイイ。
衝突回避・軽減フルオートブレーキシステム等、16種類以上の先進安全装備はボルボの自慢だ。「インテリセーフ」と呼ばれるこの最新システムを、ボルボXC40は最廉価版ですら省略することなく標準で備えている。箱根での試乗会のとき、ボルボ・カー・ジャパンのひとが後席のヘッドレストが背もたれの後ろではなくて前に倒れているのを起こしながら、こう誇らしげに言った。
「後席にひとが乗らない場合、ドライバーの後方視界を確保するため、ヘッドレストは倒れるようになっています。ではなぜ、これが後ろではなくて前に倒れるのか。ヘッドレストは快適装備ではなくて、安全装備だからです」
ヘッドレストが前に倒れていると、後席に乗るひとはジャマだから起こさざるを得ない。ボルボの安全思想は単にハイテクだけではない。感心しました。
それと、前述したようにXC40のファーストエディションは売り切れだし、いまディーラーに行ってもXC40の即納車はないかもしれない(たまたまあるかもしれない)。そこでボルボが考案したのが「ブリッジSMAVO(スマボ)」という新制度である。新型XC40を購入すると、その車両が届くまでのあいだ、つなぎで、例えば「新車のV60ディーゼル、499万円を月々、車両価格の1%、4万9900円で貸し出します」というのだ。つなぎのクルマは赤字だけれど、客を囲い込む初期投資と考えれば1勝1敗という新戦略だそうである。明言しておきますが、筆者は一銭もいただいておりません。ただ、最近のボルボは面白いことを考えるなぁと感心したのです。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
ボルボXC40 T5 AWD R-DESIGN ファーストエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4425×1875×1660mm
ホイールベース:2700mm
車重:1710kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:252ps(185kW)/5500rpm
最大トルク:350Nm(35.7kgm)/1500-4800rpm
タイヤ:(前)245/45R20 103V/(後)245/45R20 103V(ピレリPゼロ)
燃費:12.4km/リッター(JC08モード)
価格:559万円/テスト車=561万5000円
オプション装備:“Lava”オレンジカラー・フロアカーペット&ドア内張り(2万5000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:2592km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:294.5km
使用燃料:32.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.1km/リッター(満タン法)/9.1km/リッター(車載燃費計計測値)
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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