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第503回:日産のかつての姿を今日に伝える一台が復活
名車再生クラブが「TSサニー」のレストアに着手

2018.05.29 エディターから一言 鈴木 ケンイチ
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名車再生クラブのメンバーと、2018年のレストア車となる1972年式「サニー1200クーペGX-5 特殊ツーリングカー(TS)仕様」。
名車再生クラブのメンバーと、2018年のレストア車となる1972年式「サニー1200クーペGX-5 特殊ツーリングカー(TS)仕様」。拡大

往年のツーリングカーレースで輝かしい戦績を残した「日産サニー」。日産が保管していたその一台を、名車再生クラブがレストアすると発表した。「レース仕様なのにレースに出た様子がない」というその個体の来歴と、再生にかけるクラブの意気込みをリポートする。

名車再生クラブの代表を務める木賀新一さん。普段は日産でパワートレイン系の開発に携わっている。
名車再生クラブの代表を務める木賀新一さん。普段は日産でパワートレイン系の開発に携わっている。拡大
キックオフ式の様子。名車再生クラブのメンバーは毎年80人ほどで、そのうちの約半数が継続メンバーで、残りの半分はその度ごとに募集して集めるという。
キックオフ式の様子。名車再生クラブのメンバーは毎年80人ほどで、そのうちの約半数が継続メンバーで、残りの半分はその度ごとに募集して集めるという。拡大
1972年に登場した「日産サニー1200クーペGX-5」。2代目ことB110型のサニーは、4代目のB310型ともども当時のツーリングカーレースで大活躍を見せた。
1972年に登場した「日産サニー1200クーペGX-5」。2代目ことB110型のサニーは、4代目のB310型ともども当時のツーリングカーレースで大活躍を見せた。拡大
2代目「サニー」のなかでも「1200GX」はエンジンにSUツインキャブレターを装備した高性能スポーツグレードであり、セダンとクーペの両方に設定された。
2代目「サニー」のなかでも「1200GX」はエンジンにSUツインキャブレターを装備した高性能スポーツグレードであり、セダンとクーペの両方に設定された。拡大
フロントグリルを飾る「GX 5SPEED」のエンブレム。「サニー1200クーペGX-5」には、クロスレシオの5段MTが搭載された。
フロントグリルを飾る「GX 5SPEED」のエンブレム。「サニー1200クーペGX-5」には、クロスレシオの5段MTが搭載された。拡大

日産の誇る名車を1年に1台ずつ再生

日産自動車の開発の拠点となる、神奈川県厚木市の日産テクニカルセンター。その本館とも呼べるV1棟のエントランスを抜けると、すぐに2階に続くエスカレーターがあり、その上には少し開けたスペースがある。平日であれば、日産の社員やつきあいのあるサプライヤーの人間がひっきりなしに行き来する、にぎやかなエリアだ。しかし今日(2018年5月26日)は土曜日。休日ということもあって照明は落とされ、行き来する人もいない。広いだけに、余計寂しさが強調されるようだ。

しかし、そこからさらに奥へと進むと、そこでは数十名の人間が小さなオレンジ色のクルマを囲み、にぎやかに談笑していた。今日は、2018年の「名車再生クラブ キックオフ式」が開催されるのだ。

「名車再生クラブ」とは日産自動車の社内クラブである。活動は日産の有する名車の再生……すなわちレストアを、日産社員と関連会社のメンバーが業務外の時間を使って行うのだ。ここでいう“名車”とは、主に日産座間事業所の日産ヘリテージコレクションに収蔵される車両で、実に300台以上もある。それを「名車再生クラブ」は、毎年1台ずつ、クラブ活動としてボランティアでレストアしているのだ。

この活動は日産自動車の資産である名車が少しずつ復活するというメリットだけでなく、参加するメンバーの学びの場になっているのも特徴だ。メンバーは1年ごとに募集して、毎回80人ほどとなる。約半数が継続メンバーで、半分が新規だ。レストア作業を通して「先輩たちのクルマづくり」「技術的な工夫や考え方」を学べるだけでなく、「助け合う気持ちよさ」や「自由に技術論議ができる喜び」も、参加者が集う理由になっているという。

クラブの創立は2006年で、最初の1台となる1983年式「240RS モンテカルロラリー仕様車」を皮切りに、この12年間で13台のクルマをレストアしてきた。その中には1947年式「たま電気自動車」や1971年式「ダットサン240Z サファリラリー優勝車両」などの貴重な車両も含まれている。最初、周囲は「貴重なコレクションを持ち出すとはけしからん」という雰囲気だったが、徐々に信頼を獲得。今では、クラブの存在も社内で広く知られるようになり、温かい支援が集まるようになったという。

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富士スピードウェイで戦うTS仕様のプロトタイプ

そんな彼らにとって13年目の課題となるのは、1972年式「サニー1200クーペGX-5 特殊ツーリングカー(TS)仕様」だ。「サニー」は1966年に初代が誕生した日産におけるエントリーモデルで、トヨタの「カローラ」と販売合戦を繰り広げたベストセラー車だ。当時は、セダンだけでなく2ドアクーペも用意されており、そのクーペはモータースポーツシーンでも大活躍する。富士スピードウェイを舞台とした「TSレース」では、1971~1974年、1977年、1979年、1980年、1982年にシリーズチャンピオンに輝いている。

今回の「サニー1200クーペGX-5」は、名称に「5」とあるように5段マニュアルトランスミッションを装備。当時は3段や4段が常識であったため、5段MTは非常にスポーティーな仕様であった。

レストアされる車両そのものは、1972年の東京モーターショーにTSレース仕様として出品されたもの。特徴はレースに参戦するためのスポーツオプションが満載されていることだ。派手なオーバーフェンダーといった外装パーツだけでなく、ボンネットやトランクリッド、ドアがFRP製になっており、窓もサイドとリアはアクリル製に交換されている。室内は、もちろん内装がすべて剝がされて鉄板がむき出し。ロールバーに特製のバケットシートも装備されている。A12型エンジンもチューニングされており、マフラーもサイド出し。ホイールはマグネシウム製という超本気のレース仕様だ。ただ、走行した形跡はあるものの、実際のレースには出場はしていない個体のよう。「たぶん、『スポーツオプションにはこんなものがありますよ!』とアピールするためのクルマだったのでしょう。今でいえば、『TS仕様コンセプト』ですね」と名車再生クラブのメンバーは説明する。

ちなみにドアなどに貼られているのは日産サニーのマスコットである「サニーちゃん」。ほかにもエンジンオイルのフィラーキャップの「エレファントオイル」や「カンガルーウオッシャータンク」などもあり、1970年代における日産の販促の様子がうかがえる。「たぶん、東京モーターショーの展示の後は、全国のディーラーのイベントを巡っていたのではないだろうか」とのことだった。

名車再生クラブの活動は6月より本格化し、8月いっぱいをかけてクルマをバラバラにして各パーツを修復。9月に組み立て直し、10月にテスト走行を実施。そして11月末に富士スピードウェイで開催される、ニスモフェスティバルでお披露目になるという。「サーキットを全開走行できるくらいまでに復活させます!」とクラブ代表の木賀新一さんは言う。その雄姿を目にしたい人は、秋のニスモフェスティバルに足を運んでほしい。

(文と写真=鈴木ケンイチ/編集=堀田剛資)

「サニー1200クーペGX-5 特殊ツーリングカー(TS)仕様」のより詳しい写真はこちら

レストア車となる1972年式「サニー1200クーペGX-5 特殊ツーリングカー(TS)仕様」のインテリア。床張りなど、レースに不要なものはすべて撤去されている。
レストア車となる1972年式「サニー1200クーペGX-5 特殊ツーリングカー(TS)仕様」のインテリア。床張りなど、レースに不要なものはすべて撤去されている。拡大
5メインベアリングの採用による吹け上がりの良さなどで高い評価を得た、A12型1.2リッター直4 OHVエンジン。ソレックス製キャブレターの採用をはじめ、各所にレース向けの改良が施されている。
5メインベアリングの採用による吹け上がりの良さなどで高い評価を得た、A12型1.2リッター直4 OHVエンジン。ソレックス製キャブレターの採用をはじめ、各所にレース向けの改良が施されている。拡大
ドアやボンネットには、「日産サニー」のマスコットである「サニーちゃん」のデカールが貼られていた。
ドアやボンネットには、「日産サニー」のマスコットである「サニーちゃん」のデカールが貼られていた。拡大
エンジンオイルのフィラーキャップにはゾウのイラストとともに「日産純正」「エレファントオイルを注入してください」の文字が。
エンジンオイルのフィラーキャップにはゾウのイラストとともに「日産純正」「エレファントオイルを注入してください」の文字が。拡大
「サニー1200クーペGX-5」のレストアについては、2018年6月に本格的な活動をスタート。作業を済ませた後、10月にテスト走行を実施し、11月末のニスモフェスティバルにて一般向けにお披露目するとしている。
「サニー1200クーペGX-5」のレストアについては、2018年6月に本格的な活動をスタート。作業を済ませた後、10月にテスト走行を実施し、11月末のニスモフェスティバルにて一般向けにお披露目するとしている。拡大
鈴木 ケンイチ

鈴木 ケンイチ

1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。

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