第503回:日産のかつての姿を今日に伝える一台が復活
名車再生クラブが「TSサニー」のレストアに着手
2018.05.29
エディターから一言
拡大 |
往年のツーリングカーレースで輝かしい戦績を残した「日産サニー」。日産が保管していたその一台を、名車再生クラブがレストアすると発表した。「レース仕様なのにレースに出た様子がない」というその個体の来歴と、再生にかけるクラブの意気込みをリポートする。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
日産の誇る名車を1年に1台ずつ再生
日産自動車の開発の拠点となる、神奈川県厚木市の日産テクニカルセンター。その本館とも呼べるV1棟のエントランスを抜けると、すぐに2階に続くエスカレーターがあり、その上には少し開けたスペースがある。平日であれば、日産の社員やつきあいのあるサプライヤーの人間がひっきりなしに行き来する、にぎやかなエリアだ。しかし今日(2018年5月26日)は土曜日。休日ということもあって照明は落とされ、行き来する人もいない。広いだけに、余計寂しさが強調されるようだ。
しかし、そこからさらに奥へと進むと、そこでは数十名の人間が小さなオレンジ色のクルマを囲み、にぎやかに談笑していた。今日は、2018年の「名車再生クラブ キックオフ式」が開催されるのだ。
「名車再生クラブ」とは日産自動車の社内クラブである。活動は日産の有する名車の再生……すなわちレストアを、日産社員と関連会社のメンバーが業務外の時間を使って行うのだ。ここでいう“名車”とは、主に日産座間事業所の日産ヘリテージコレクションに収蔵される車両で、実に300台以上もある。それを「名車再生クラブ」は、毎年1台ずつ、クラブ活動としてボランティアでレストアしているのだ。
この活動は日産自動車の資産である名車が少しずつ復活するというメリットだけでなく、参加するメンバーの学びの場になっているのも特徴だ。メンバーは1年ごとに募集して、毎回80人ほどとなる。約半数が継続メンバーで、半分が新規だ。レストア作業を通して「先輩たちのクルマづくり」「技術的な工夫や考え方」を学べるだけでなく、「助け合う気持ちよさ」や「自由に技術論議ができる喜び」も、参加者が集う理由になっているという。
クラブの創立は2006年で、最初の1台となる1983年式「240RS モンテカルロラリー仕様車」を皮切りに、この12年間で13台のクルマをレストアしてきた。その中には1947年式「たま電気自動車」や1971年式「ダットサン240Z サファリラリー優勝車両」などの貴重な車両も含まれている。最初、周囲は「貴重なコレクションを持ち出すとはけしからん」という雰囲気だったが、徐々に信頼を獲得。今では、クラブの存在も社内で広く知られるようになり、温かい支援が集まるようになったという。
富士スピードウェイで戦うTS仕様のプロトタイプ
そんな彼らにとって13年目の課題となるのは、1972年式「サニー1200クーペGX-5 特殊ツーリングカー(TS)仕様」だ。「サニー」は1966年に初代が誕生した日産におけるエントリーモデルで、トヨタの「カローラ」と販売合戦を繰り広げたベストセラー車だ。当時は、セダンだけでなく2ドアクーペも用意されており、そのクーペはモータースポーツシーンでも大活躍する。富士スピードウェイを舞台とした「TSレース」では、1971~1974年、1977年、1979年、1980年、1982年にシリーズチャンピオンに輝いている。
今回の「サニー1200クーペGX-5」は、名称に「5」とあるように5段マニュアルトランスミッションを装備。当時は3段や4段が常識であったため、5段MTは非常にスポーティーな仕様であった。
レストアされる車両そのものは、1972年の東京モーターショーにTSレース仕様として出品されたもの。特徴はレースに参戦するためのスポーツオプションが満載されていることだ。派手なオーバーフェンダーといった外装パーツだけでなく、ボンネットやトランクリッド、ドアがFRP製になっており、窓もサイドとリアはアクリル製に交換されている。室内は、もちろん内装がすべて剝がされて鉄板がむき出し。ロールバーに特製のバケットシートも装備されている。A12型エンジンもチューニングされており、マフラーもサイド出し。ホイールはマグネシウム製という超本気のレース仕様だ。ただ、走行した形跡はあるものの、実際のレースには出場はしていない個体のよう。「たぶん、『スポーツオプションにはこんなものがありますよ!』とアピールするためのクルマだったのでしょう。今でいえば、『TS仕様コンセプト』ですね」と名車再生クラブのメンバーは説明する。
ちなみにドアなどに貼られているのは日産サニーのマスコットである「サニーちゃん」。ほかにもエンジンオイルのフィラーキャップの「エレファントオイル」や「カンガルーウオッシャータンク」などもあり、1970年代における日産の販促の様子がうかがえる。「たぶん、東京モーターショーの展示の後は、全国のディーラーのイベントを巡っていたのではないだろうか」とのことだった。
名車再生クラブの活動は6月より本格化し、8月いっぱいをかけてクルマをバラバラにして各パーツを修復。9月に組み立て直し、10月にテスト走行を実施。そして11月末に富士スピードウェイで開催される、ニスモフェスティバルでお披露目になるという。「サーキットを全開走行できるくらいまでに復活させます!」とクラブ代表の木賀新一さんは言う。その雄姿を目にしたい人は、秋のニスモフェスティバルに足を運んでほしい。
(文と写真=鈴木ケンイチ/編集=堀田剛資)
◆「サニー1200クーペGX-5 特殊ツーリングカー(TS)仕様」のより詳しい写真はこちら
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
-
第858回:レースの技術を市販車に! 日産が「オーラNISMO RSコンセプト」で見せた本気 2026.1.15 日産が「東京オートサロン2026」で発表した「オーラNISMO RSコンセプト」。このクルマはただのコンセプトカーではなく、実際のレースで得た技術を市販車にフィードバックするための“検証車”だった! 新しい挑戦に込めた気概を、NISMOの開発責任者が語る。
-
第857回:ドイツの自動車業界は大丈夫? エンジニア多田哲哉が、現地再訪で大いにショックを受けたこと 2026.1.14 かつてトヨタの技術者としてさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さん。現役時代の思い出が詰まったドイツに再び足を運んでみると、そこには予想もしなかった変化が……。自動車先進国の今をリポートする。
-
第856回:「断トツ」の氷上性能が進化 冬の北海道でブリヂストンの最新スタッドレスタイヤ「ブリザックWZ-1」を試す 2025.12.19 2025年7月に登場したブリヂストンの「ブリザックWZ-1」は、降雪地域で圧倒的な支持を得てきた「VRX3」の後継となるプレミアムスタッドレスタイヤ。「エンライトン」と呼ばれる新たな設計基盤技術を用いて進化したその実力を確かめるべく、冬の北海道・旭川に飛んだ。
-
第855回:タフ&ラグジュアリーを体現 「ディフェンダー」が集う“非日常”の週末 2025.11.26 「ディフェンダー」のオーナーとファンが集う祭典「DESTINATION DEFENDER」。非日常的なオフロード走行体験や、オーナー同士の絆を深めるアクティビティーなど、ブランドの哲学「タフ&ラグジュアリー」を体現したイベントを報告する。
-
第854回:ハーレーダビッドソンでライディングを学べ! 「スキルライダートレーニング」体験記 2025.11.21 アメリカの名門バイクメーカー、ハーレーダビッドソンが、日本でライディングレッスンを開講! その体験取材を通し、ハーレーに特化したプログラムと少人数による講習のありがたみを実感した。これでアナタも、アメリカンクルーザーを自由自在に操れる!?
-
NEW
クルマの乗り味の“味”って何だ?
2026.1.20あの多田哲哉のクルマQ&A「乗り味」という言葉があるように、クルマの運転感覚は“味”で表現されることがある。では、車両開発者はその味をどう解釈して、どんなプロセスで理想を実現しているのか? 元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
プジョー208 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2026.1.20試乗記「プジョー208」にマイルドハイブリッド車の「GTハイブリッド」が登場。仕組みとしては先に上陸を果たしたステランティス グループの各車と同じだが、小さなボディーに合わせてパワーが絞られているのが興味深いところだ。果たしてその乗り味は? -
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。









































