第98回:カーマニアのクリスタルな恥ずかしい過去
2018.07.10 カーマニア人間国宝への道原点は日産ガゼール
先日、日産ヘリテージコレクションを見学する機会がありました。
このコレクションは、日産座間事業所(元座間工場)内の広大な空間に、300台もの日産車が展示されているもので、その大部分が動態保存、つまり動く状態で維持されておるそうです。
「日産ヘリテージコレクションは、日産自動車が今までに生産してきたクルマ、技術力、デザイン力の全てがつまったまさにNISSAN DNAそのものです」(日産自動車のホームページより)
実を申しますと、カーマニアとしての私のDNAにも、日産の血が流れております。
18歳で免許を取り、31歳で初めてフェラーリを買うまで、私は主に日産車を乗り継いでおりまして、何を隠そう日産党だったのです!
自分のカネで最初に買ったクルマは、座間工場製の「日産サンタナXi5 アウトバーンDOHC」(5MT)ですが、18歳で最初に乗り回したのは、姉のB210「サニークーペGL」(ド中古)。その翌年、主に親のスネかじりで買ってもらったのが、S110「日産ガゼール ハードトップ」(1800cc)だったのであります。
当時のS110「シルビア/ガゼール」は、デートカーの先駆け的存在とでも言いましょうか? 「サニー/バイオレット」系のシャシーに、アメ車っぽい皮をかぶせた、なんとなくクリスタルなハードトップ(クーペ)/ハッチバックは、お安い割に大変にカッコよく、私はその後の学生生活を、ガゼールで燃焼し尽くしました。
ちなみに田中康夫先生の名著『なんとなく、クリスタル』が出たのは1981年。まさに私がガゼールを買った年です! 読んでないけど。
ガゼールと駆け抜けた青春
ドラテク本を読んでヒール&トウを練習しまくったのもガゼール。チェーン装着で関越道を時速〇〇〇kmでブッ飛ばし(マネしないでください)、スキーに向かったのもガゼール。交差点にオーバースピードで突っ込んで、初めて自然ドリフトしたのもガゼール。東名高速の下り坂でメーター読み時速〇〇〇kmをマークし、絶頂に浸ったのもガゼール。ありとあらゆる青春の蹉跌(さてつ)が詰まったガゼールでした。いま思えば一応、FRのMT車だし。
日産ヘリテージコレクションには、なんと、そのS110型ガゼールが展示されておったのです! ハッチバックだけど。
シルビアはその後、「S13」という名車を生み出したことで、今でも名前が残っていますが、ガゼールは2代で消えちゃったので、それがほとんどない。私もその後の人生において、ガゼールと接する機会はほぼなかったので、コレクションで不意にガゼールと再会した時は、衝撃を受けました。
よく、青春時代に乗っていたクルマと再会すると、初恋の人と再会したような甘酸っぱい気持ちになり、泣きそうになるなどと聞きます。
が、私はそうはならず、よみがえったのは羞恥(しゅうち)だけでした。
そのあと乗った日産サンタナに関しては、初恋のような思いが今でも濃厚で、中国でまだ現役で走っているサンタナを見るたびに鼻血が出るほどコーフンし、車内をのぞき込んだり踊ったり歌ったりするのですが、ガゼールではまったくそれがナイ。
いったいナゼだろう……。
カーマニアゆえの黒歴史
理由はおそらく、その後私がカーマニアになったからです。
19歳で乗ったガゼールは、クルマのことを何も知らず、「うわ、これ、カッコイ~! ほしい~!」という、赤ん坊のような衝動で選んだのみ。それは、カーマニアとしての黒歴史。
なにしろその後私は、自動車界の頂点であるフェラーリにまで昇り詰めるわけです。そんな者がですよ、学生時代、キャッキャ言ってガゼールでデートしてたなんて、恥ずかしいじゃないですか!
でもサンタナは恥ずかしくない。アレはフォルクスワーゲン車のノックダウン生産という超希少な存在だったし、カーマニア的マイナー志向にズバリはまる。
実際私はサンタナで、ドイツ車的(日産車だけど)直進安定性の良さを初めて体感して大感動、「これがアウトバーン生まれの実力か!」と恐れ入りました。これはカーマニアとして胸を張れる過去なので、中国でサンタナを見つけると、大喜びするのです。
サンタナの次に乗ったのは、Z32「フェアレディZ」で、その次は「ADワゴン」。ZからADワゴンに乗り換えたのは、ちょうどそのころ池沢早人師先生のフェラーリを初めて運転させていただいて大衝撃を受け、「フェラーリじゃなけりゃなんでもいっしょだ! もうこんなサツマイモみたいなクルマ乗ってられっか!」と思ったからなのですが、結局何が言いたいかというと、
「日産ヘリテージコレクションにサンタナがなかったのは残念だ~~~~~~!」
そういうことですかね?
でも、ガゼールに再会できてよかったです。日産さんありがとう!
(文と写真=清水草一/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第343回:おやじ、涅槃で待つ 2026.8.31 清水草一の話題の連載。ちまたでの評判がよく、売れ行き好調の新型「日産キックス」に試乗した。その出来はカーマニアをも満足させる評判どおりのもので、新車購入のきっかけにもなった。え? 購入したのはキックスではない?
-
第342回:どうしてこんなに高いんですか 2026.8.17 清水草一の話題の連載。BYDが日本の軽自動車市場に向けて独自開発した電気自動車「ラッコ」が上陸した。早速、愛車「ダイハツ・タント」の後継として検討すべく、近所のディーラーで試乗することに。果たしてその印象は?
-
第341回:「スカイアクティブZ」は大丈夫か 2026.8.3 清水草一の話題の連載。夜の首都高に新型「マツダCX-5」で出撃した。マイルドハイブリッドのパワートレインと進化したシャシーが織りなす走りを確かめつつ、ディーゼルエンジンがラインナップから消えた3代目CX-5について考えた。
-
第340回:一にエンジン、二にカッコ 2026.7.20 清水草一の話題の連載。マツダ渾身(こんしん)のラージ商品群を応援するカーマニアのひとりとして、「CX-60」と「CX-80」の動向は常に気になっている。3列シートSUV、CX-80の最新モデルにあらためて試乗して感じたこととは?
-
第339回:駆けぬけるヨロコビは安くない 2026.7.6 清水草一の話題の連載。いつもの首都高で試乗した「BMW 120d Mスポーツ」の価格が540万円ってマジか! と思っていたら、本国ではなんと4万1750ユーロ(邦貨約770万円)⁉ 安かったころ、もっと小さかったころのBMWに思いをはせた。
-
NEW
新型「三菱パジェロ」の外装・内装を写真でチェックする
2026.9.2画像・写真5年間のブランクを経て、三菱のフラッグシップSUV「パジェロ」がついに復活! 「グランドカリスマ -泰然自若-」をコンセプトにデザインされた本格クロスカントリーモデルは、どのような姿をしているのか? 内外装の詳細を、写真で紹介する。 -
NEW
復活の決め手はこっくりさん!? 新生「三菱パジェロ」誕生の経緯とその狙い
2026.9.2デイリーコラム5年間の沈黙を経て、ついに登場した新型「三菱パジェロ」。スリーダイヤモンドが誇る荒野のフラッグシップは、いかにして復活を遂げたのか? 開発の経緯や内外装デザインの詳細、パワートレインに見るクルマの“狙い”をリポートする。 -
NEW
第127回:新型BMW X5(後編) ―迷走するBMW 結局アナタは“ノイエクラッセ”でなにがしたかったの?―
2026.9.2カーデザイン曼荼羅その姿が明らかとなるや、賛否両論を巻き起こしている新型「BMW X5」。このクルマは既存のBMW製SUVとはなにがちがうのか? そもそもBMWは“ノイエクラッセ・デザイン”になにを託していたのか? カーデザインの識者と、迷走するBMWの明日を探った。 -
NEW
BMW X1 sDrive20iオリジナル(FF/7AT)【試乗記】
2026.9.2試乗記BMWのコンパクトSUV「X1」に新グレードの「オリジナル」が登場。走りの楽しさをはじめとしたBMWらしさをキープしつつ、装備の厳選によって価格抑制を図った新たなエントリーグレードだ。都市部におけるドライバビリティーとユーザービリティーをリポートする。 -
スポーツカーに未来はあるか?
2026.9.1あの多田哲哉のクルマQ&A年々、開発環境が厳しくなるといわれるスポーツカーは、この先も存在しうるのか? トヨタのエンジニアとしてさまざまなスポーツカーを開発してきた多田哲哉さんに“未来のスポーツカー像”を聞いた。 -
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】
2026.9.1試乗記2020年のデビュー以来、間断なく進化を続けてきたコンパクトスポーツの「トヨタGRヤリス」。一般ユーザーの間ではもちろん、コンペティションの世界でもチューニングのかいわいでも光を放つ一台は、2026年モデルでどう進化したのか? その走りを報告する。





































