BMWアルピナD5 Sビターボ リムジン アルラッド(4WD/8AT)
上質な自動車のお手本 2018.06.14 試乗記 アルピナ初となる四駆のディーゼルセダン「BMWアルピナD5 Sビターボ リムジン アルラッド」に試乗。0-100km/h加速4.9秒、最高巡航速度275km/hを誇るスポーツリムジンの実力は? 特別な藍色をまとう俊足の一台で、箱根を目指した。ずっとユニーク
もともと孤高の存在だったアルピナだが、近頃ますますそのユニークなポジショニングが際立っているようだ。例えばメルセデスAMGやBMW Mに負けないほど高性能であることは言うまでもないのだが、他のプレミアムブランドの高性能派生モデルが軒並み荒々しい野性的なパフォーマンスをアピールするのに対して、アルピナはあくまでエレガントな立ち位置を崩さずに、“やんちゃ系”とは一線を画している。
また他のブランドが隙間のないモデルラインナップを構え、どのようなカスタマーでも取りこぼさないよう手を広げているのとは対照的に、アルピナは相変わらず自然体というか、無理に手を広げようとはしていない。そもそも供給できる台数には限りがある。近年は年間1500台前後、最大でもおよそ1700台にすぎない。
これまでにも説明してきたことの繰り返しになるが、アルピナはBMWの単なるチューニングファクトリーではなく、小さいながらもれっきとした独立メーカーである。今や、すべてのプレミアムブランドが、それこそベントレーやランボルギーニから、あのロールス・ロイスまでが台数を追うことが目的ではないと言いつつもSUVに手を染めている中、自らの本業にこだわる世界で最も規模の小さいメーカーと言ってもいい。
といって、メルセデスAMGやBMW Mのように特別なモデルを担当するグループ内の子会社でもない。1965年の創業以来、BMW本社と密接な関係を維持しているいっぽうで、両社の間に資本関係はない。正式社名「アルピナ・ブルカルト・ボーフェンジーペンGmbH+Co.KG」は、端正で高性能なスペシャルBMWを製造販売する独立した自動車メーカーとして、極めてユニークなポジションを占めているのである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
サラリと上品に速い
アルピナD5 Sは新しいG30型「BMW 5シリーズ」をベースにしたアルピナの最新ディーゼルセダンで、2017年の東京モーターショーが日本初お披露目だった。4.4リッターガソリンV8ツインターボを搭載する「B5ビターボ」同様「アルラッド」、つまり「xDrive」システムをベースにアルピナ専用チューニングを施した4WD車である。4WDのディーゼルセダンはアルピナ初だという。
3リッター直6ツインターボディーゼルユニットのスペックは326ps(240kW)/4000-4600rpmと700Nm(71.4kgm)/1750-2500rpmというもので、B5ビターボ(608ps/800Nm)ほどの怒涛(どとう)のパワーを発揮するわけではないが、強大なトルクを適切に路面に伝えるためにはもはや4WDは必須ということなのかもしれない。
もちろん、アルピナだからディーゼルといっても鈍足であるはずはなく、0-100km/h加速は4.9秒、最高巡航速度は275km/hを誇るという。ちなみに本国にはツインではなくトリプルターボを備えたさらに強力な仕様のD5 Sも設定されているというが、右ハンドル市場には導入予定がない。700Nmもの逞(たくま)しいトルクのおかげでいつでも力強い加速が手に入るのは言うまでもないが、それよりも打てば響くスロットルレスポンスとそれに対応する軽やかな身のこなしが素晴らしい。
ディーゼルエンジンであることも車重2t近い4WDセダンであることも感じさせず、ごく普通にスロットルを踏むだけでスイッと動き出す反応が見事である。ガバッと踏んで勢いよくスタートするのは当たり前、ちょっと踏んでも踏んだ分だけスルリと応える繊細なレスポンスが上質感を左右するのだ。ただし、エンジン音は外から聞くと多少ガラガラといかにもディーゼルらしい。低速では遠くでうなるようなビートも伝わってくるが、いったんスピードに乗ればまったく気にならなくなる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
涼やかに曲がる
高性能車はガッチリ硬い足まわりが当たり前と考えている人も少なくないと思うが、B5ビターボもこのD5 Sもまったくスパルタンな感じはしない。その点がとにかくガツガツ硬派な「M5」や「AMG E63S」とは異なるところ。むしろスタンダードのBMW 5シリーズよりもしなやかで快適な乗り心地かもしれない。
能役者のように腰の位置が動かず、路面をなめるように移動するその挙動は上述したようにエレガントである。アルピナにとってはサーキットでのタイムアタックなどより、グランドツアラーとしての日常的な性能が第一なのである。
ハンドリングも妙にキレッキレを追うことなく、適切にスポーティーである。ひとことで言えばリニアなのだが、意のままの走り、と言うはやすいが実際には気持ち良いと感じるほど、狙ったポイントめがけて正確に糸を引くように軌道を整えられる車は少ない。つばめの飛ぶ姿のように、鋭く美しくコーナリングできる。
D5 Sにはオプションでリアステアシステムも用意されているが、私はまったくその必要性を感じなかった。このすがすがしいハンドリングなら、4WDであることに気づかないまま乗っている人もいるのではないかと妙な想像をしてしまう。
いつかはアルピナ
ベースモデルの5シリーズのモデルチェンジに伴ってメーターはフルデジタルに変更されたが、スポーツモード以上を選ぶとアルピナのコーポレートカラーのブルーとグリーンのメーター表示に変化するところにアルピナのこだわりがうかがえる。
木目が美しい艶々したクラシックなウッドパネルも今では貴重だ。もちろんアルピナの場合も望めばどのような仕様にも応えてくれるはずだが、あえてアルミでもカーボンファイバーでもなく、伝統的なウッドパネルにこだわっている。
中には古臭いと思う人もいるだろうが、現代ではこちらのほうが贅沢(ぜいたく)だ。エクステリアも抑制されたスタイルが特徴的、迫力を前面に押し出す派手なデザインはアルピナの流儀ではない。例えば20インチの鍛造ホイールは、以前のようにエアバルブをセンターキャップの中に隠すタイプではなくなったが、従来からの端正な20本スポーク・デザインを踏襲している。
年間わずか1500台前後だからこそ、少しもぶれずに流儀を守ることができるのも事実。その“専門店”ならではのこだわりに惹(ひ)かれる日本のファンは多い。何しろ多い時には年間400台が売れるというのだから、割合を考えれば日本市場は非常に重要だ。クルマ好きなら一度は「ポルシェ911」、と同じように、いつかはアルピナと憧れる人の気持ちはよく分かる。
節度と気品とともに高性能を備えたディーゼルセダンのD5 S、その本体価格は1299万円、「レクサスLS500h」と比べると、意外に安いじゃないか、と感じるのは私だけだろうか。
(文=高平高輝/写真=池之平昌信/編集=大久保史子)
テスト車のデータ
BMWアルピナD5 Sビターボ リムジン アルラッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4960×1870×1485mm
ホイールベース:2975mm
車重:1940kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ディーゼル ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:326ps(240kW)/4000-4600rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)255/35ZR20 97Y/(後)295/30ZR20 101Y(ピレリPゼロ)
燃費:--km/リッター
価格:1299万円/テスト車=1504万3000円
オプション装備:ボディーカラー<アルピナ・ブルー>(59万8000円)/ステアリング・ホイール・ヒーティング(5万4000円)/アラーム・システム(0円)/オートマチック・トランクリッド・オペレーション(7万6000円)/ソフトクローズ・ドア(9万6000円)/ガラス・サンルーフ(16万8000円)/ノンスモーカー・パッケージ(0円)/スルー・ローディング(0円)/ランバー・サポート(3万8000円)/レザー・フィニッシュ・ダッシュボード(16万8000円)/ドライビング・アシスト・プラス(23万2000円)/パーキング・アシスト・プラス(7万円)/ヘッドアップ・ディスプレイ(16万円)/harman/kardonサラウンド・サウンド・システム(12万8000円)/Apple CarPlayプレパレーション(3万8000円)/ジェスチャー・コマンド(3万8000円)/ルーフライニング・アルカンタラ・アンソラジット(18万9000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:5733km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:275.4km
使用燃料:27.8リッター(軽油)
参考燃費:9.9km/リッター(満タン法)/10.8km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
-
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】 2026.6.2 かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.6.1 「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。
-
トヨタRAV4 GRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】 2026.5.30 新型「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッド車ではEV走行換算距離が約150kmにまで到達。もちろん電池容量の拡大によるところも大きいが、何よりも最新のハイブリッドシステムによる効率向上が効いている。「GRスポーツ」をドライブした印象をリポートする。
-
キャデラック・リリックV(4WD)【試乗記】 2026.5.29 キャデラック初の電気自動車(BEV)「リリック」に、最高出力646PSのハイパフォーマンスモデル「リリックV」が登場。“ブランド史上最速”をうたう豪速SUVだが、実際に乗ってみると、高い動力性能がもたらすゆとりや心地よさにも魅力を感じる一台となっていた。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD)【試乗記】 2026.5.28 前衛を身上とするフランスのラグジュアリーブランド、DSオートモビルから、新たなハイエンドモデル「DS N°8(ナンバーエイト)」が登場。当代屈指の性能を誇る電気自動車であり、かの地では大統領専用車にも選ばれる一台の、独創の魅力に触れた。
-
NEW
第290回:商用バンで砂漠を行く親子が向かうのは天国か地獄か 『シラート』
2026.6.4読んでますカー、観てますカー失踪した娘を探して親子はモロッコの砂漠へ。砂漠で開催されていたレイブパーティーが最高潮に達した頃、軍隊がやってきて中止させられる。親子が乗るFFの商用バンは次のパーティー会場にたどり着けるのか……。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(前編)
2026.6.4あの多田哲哉の自動車放談ひさびさに日本市場に戻ってきた、ホンダを代表するSUV「CR-V」。最新世代の仕上がりを、トヨタの車両開発者だった多田哲哉さんはどう評価する? まずは、ワインディングロードを走らせた第一印象から。 -
NEW
第964回:フィアットグッズのコレクターから学ぶ人生訓
2026.6.4マッキナ あらモーダ!イタリア在住の大矢アキオが、トリノで著名なフィアットグッズのコレクターを取材。若き日の苦労を経て大成した人物が語る、人生で大切なものとは? フィアットやイタリアの歴史を物語る、貴重なコレクションの数々とともに紹介する。 -
NEW
気づけばすでに4モデル スバルのBEV戦略と水平対向エンジンの未来を考える
2026.6.4デイリーコラム「ソルテラ」に続き、「トレイルシーカー」「アンチャーテッド」「ゲッタウェイ」と、いつの間にか4モデルが顔をそろえたスバルのBEV。伝統的な水平対向エンジンやシンメトリカルAWDはこの先どうなるのか? スバルの未来戦略を探る。 -
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。




























