ルノー・ウインド(FF/5MT)【試乗記】
さりげないホンモノ 2011.07.25 試乗記 ルノー・ウインド(FF/5MT)……255万円
「トゥインゴ」をベースに作られた2シーターオープンカー「ウインド」が日本に上陸。ルノースポールの手になるフレンチコンパクトの、第一印象をリポートする。
「アウトソーシング」の第一弾
作り手が楽しいクルマを作ろうとしたことは、このスタイリングを見た瞬間からすぐにわかる。ベースはスモールカーの「トゥインゴ」だが、その面影はほとんどない。キャビンを小さく仕立て、ボディ後部をかつてのV8フェラーリのようなシュガースコップ型にして、ミドシップカーのようなデザインにまとめている。まるで、“だまし絵”のよう。エスプリが利いている。
開発はルノーのモータースポーツ部門であるルノースポールが行った。ルノースポールが開発し、ルノーブランドで売られる、いわば「アウトソーシング」プロジェクトの最初の例という。エンジンは「トゥインゴ ゴルディーニRS」に搭載される1.6リッター直4(134ps)で、組み合わされる5MTも同じものだ。ギア比と最終減速比も変わらない。
シャシーについても、スタビライザーやブレーキなど、トゥインゴ ゴルディーニRSと共通の部品が多く見られる。ただし70kg増加した車重を補いつつ、2シーターオープンらしいスポーティな走りを実現するために、スプリングとダンパーはウインド専用のチューニングになっている。方向性としては、スポーティでありながら、日常の使い勝手も考慮した、いくぶんソフトな「シャシースポール」セッティングに近い感触にまとめられているという。加えてステアリングのギア比も、トゥインゴ ゴルディーニRSよりスローな設定(15.9→16.5)とされている。
いまどきのオープンカー
さっそくこのクルマの見どころのひとつである、電動ルーフを開けてみることにしよう。ルームミラーの近くにあるハンドル型のロックを右方向に回して外し、シフトレバーの前にあるスイッチを下げる。するとメーターに「ROOF OPENING」と表示され、キャビン後端を軸にしてルーフが起き上がる。これがぐるりと回転したら、トランクフードの下にきれいに収まり、ピーッという電子音が鳴ったら作業終了。その間わずか10秒ちょっと(メーカーいわく12秒)。とても速い。
一連の動作はかなり派手だが、時間が短いので、そのぶん周囲に対する気恥ずかしさみたいなものも少なくて済む。いや、これに気恥ずかしさを感じているようでは、ウインドに乗る資格はないのかもしれない。こういうことは、「みんな、ちょっと見て見て!」ぐらいの気持ちでやらないと。でも、筆者みたいなオヤジが「どやー」ってな顔でやるのは、もっと問題があるが……。
オープン時の開放感は、そこそこといった感じ。ウインドスクリーンが寝ていて、その上端(切り口)がドライバーの方に迫ってきており、またボディのサイドラインが比較的高いために、たとえばかつての「ユーノス・ロードスター」のような、危ういと表現できるまでのオープン感覚はない。“守られ感”が強い、いまどきのオープンカーである。
シートの背後にはバルクヘッドが迫ってきており、それが衝立(ついたて)になっているおかげか、走行風の巻き込みは少ない。サイドウィンドウを上げて走れば、髪の毛の乱れもだいぶ気にならなくなるはずだ。また、ルーフを開けているときに時折見せるウィンドウフレームの震えは、クローズ状態ではほとんど感じられなかった。これらは、タルガ的なオープンカーならではの美点といえそうだ。
走りはしっかりルノースポール
ウインドはスポーツカーか、それともスポーティカーか? その答えは、乗る人がクルマとの対話を通じて決めるべきだと思うが、筆者はどちらかといえば後者という印象を持った。その理由は、ひとつには着座位置が高いため。スポーツカーならもうちょっとダッシュボードの下に滑り込むような低いポジションをとりたいところ。もっとも、そうは言いながら、この体を包み込むような大ぶりで座り心地のいいシートは捨てがたいものがある。
一方でエンジンの印象は、当然ながらトゥインゴ ゴルディーニRSにとてもよく似ている。中低速のトルクに不満はないが、どちらかといえば回してこそ面白みが感じられるセッティングである。このエンジンの良さをより引き出すためには、やはり5段のMTでは少々力不足に思えた。もう1段ほしいところだ。4速から6速までをクロースさせても面白いだろうし、6速を高めに設定して「燃費ギア」にすればツーリングの能力も高まるだろう。
そしてウインドで感心させられたのは、小型車らしからぬスケール感の大きな足まわりである。路面の不整に対する“当たり”はマイルドでありながら、シャキッと締まってフラット感が高い乗り心地が演出されている。また、ルノースポールらしくチャキチャキと曲がれるが、ピーキー過ぎないテンポのいいハンドリングが実現されている。
ルノーとルノースポールのタッグで生まれた製品だけあって、ウインドはスポーティカーのツボを外してない気持ちのいい仕上がりを見せている。ウインドが本当に格好いいところは、これぐらいユニークなカタチにしておきながら、中身はさりげなくホンモノというところにあるように思う。
(文=竹下元太郎/写真=高橋信宏)

竹下 元太郎
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。