第513回:日本にクラシックカー文化を根付かせるか?
「ヤナセクラシックカーセンター」が秘めた可能性
2018.06.30
エディターから一言
拡大 |
長年にわたり輸入車ビジネスを手がけてきたヤナセが、ついにクラシックカー事業をスタート。メーカー、ユーザーともに信頼を寄せる巨人の挑戦は、日本にクラシックカー文化が根付くきっかけになるか? 開所式の様子から、彼らのポテンシャルを探った。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
対象車種は“ヤナセ取り扱い”に限らない
いつもは整備を待つクルマが整然と、しかし殺風景に並んでいる場所に、今日は着飾ったように磨き上げられたクルマが展示されている。その顔ぶれは1951年式の「メルセデス・ベンツ170S(W136)」を筆頭とするクラシックカーだ。ガレージの奥には祝いの花。梅雨の合間の、夏のように強い日差しの2018年6月22日、ヤナセは「ヤナセクラシックカーセンター」の開所式を実施した。
私たちは、同センターが開設されたヤナセ横浜ニューデポーを訪れた。第三京浜道路・港北インターの最寄りに位置する横浜ニューデポーは、関東地区のヤナセのアフターサービスの中核拠点であり、すぐ隣には、横浜の誇る崎陽軒の工場がある。また、ヤナセの販売拠点である「ヤナセブランドスクエア横浜」も直近。ただし住宅街というよりも工場や自動車販売店が並ぶエリアで、クルマ通りは多いけれど、近隣住民は少ない。普段は、どちらかといえばひっそりとした場所だろう。しかし開所式ということで、その日のクラシックカーセンターのガレージは人がひしめきあっていた。軽く見積もって150名。その半数がメディアで、残りがヤナセと取引のある関係者たち。祝いの席ということもあり、みなスーツをきちんと着用しており、凛(りん)とした雰囲気が漂う。暑かったがジャケットを忘れずに持ってきてよかったと、ほっと胸をなでおろすほどだ。
ヤナセクラシックカーセンターは、古い輸入車の修復・復元を目的に、同年4月5日にオープンしている。驚くべきは、扱うのがヤナセの取り扱い車種に限らないこと。できるものであれば、なんでもレストアするという。また、将来的には輸入車のクラシックカーの売買も行いたいというから、さらに驚かされる。
クラシックカービジネスに乗り出す4つの理由
「レストアビジネスは、今までも行ってきましたが、専門の組織を設立して行うのは初めてのこと。(設立に踏み切った)その理由は、4つあります」
主催者あいさつに立ったヤナセの井出健義社長は、そう説明した。
井出社長の言う4つの理由のひとつは、「クルマはつくらない。クルマのある人生をつくっている。」というヤナセのコーポレートスローガンだ。“足グルマ”ではない、人生を彩るクラシックカーは、「クルマのある人生」そのもの。それを支えるのがヤナセクラシックカーセンターだという。2つ目の理由は、創業100年を超えるその実績である。海外自動車メーカーとの付き合いは長く、ユーザーからの信頼も得ている。ヒストリックカー文化の日本導入を担う資格を、ヤナセは備えるという。3つ目は技術の伝承だ。クラシックカーのレストア作業には、普段の修理とは異なる技術が求められる。古い技術を持ったエンジニアがヤナセに在籍している今こそ、若い世代にそうした技術を伝承しておかねばならぬという。そして最後の理由が社会貢献。ヒストリックカーを支えることが、クルマのファンを増やすことにつながるとヤナセは考えている。
また、そうしたヤナセの意気込みを後押しするかのように、開所式ではテュフ ラインランド ジャパンによる「クラシックガレージ認証」取得の認証授与式も行われた。テュフ ラインランドは145年の歴史を持つ世界的な第三者検査機関だ。自動車関連では整備工場の監査・認証サービスを提供しており、クラシックカーの評価・査定サービスも行っている。その中には、クラシックカーガレージ認証もあり、修理・整備の技術や品質、運営・管理など、11カテゴリー150項目の基準に基づいた監査を行っている。そんな認証システムにおいて、ヤナセクラシックカーセンターはメルセデス・ベンツのクラシックカーガレージとして、基準をクリアしていると認定されたのだ。
蓄えられたリソースを存分に生かす
4月にオープンしたばかりのヤナセクラシックカーセンターであるが、すでに全国からの問い合わせは100件を超えており、作業に入っている車両も数台あるという。
「ヤナセの、世界へのネットワークを利用してパーツを集めて修理を行います。内容はお客さまのご要望次第ですし、予算についてもご相談いただけます。また並行車でも可能であればレストアします」とヤナセのスタッフは言う。つまり、100万円で限定的に直すのもありだし、気のすむまでピカピカに仕上げることも可能ということだ。具体的な板金塗装やエンジン、トランスミッションなどのオーバーホールは、横浜ニューデポーにあるユニット部門や板金・塗装部門が担当する。つまり、関東全域のヤナセの重整備を受け持ってきた横浜ニューデポーの整備力を土台に、ヤナセのコネクションを使ってレストアが進められるというのだ。
きれいにリフレッシュしたクラシックカーを売買するというビジネスのスタートは「市場がどれだけあるのかわからないが、数年以内というのが目標」とのこと。設備と人員、技術があり、コネクションも看板も申し分ない。ヤナセのクラシックカービジネスは、想像していた以上にポテンシャルが高そうであり、欧州のようにクラシックカー市場が日本にも生まれる可能性を感じさせた。
(文=鈴木ケンイチ/写真=webCG/編集=堀田剛資)

鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
-
第858回:レースの技術を市販車に! 日産が「オーラNISMO RSコンセプト」で見せた本気 2026.1.15 日産が「東京オートサロン2026」で発表した「オーラNISMO RSコンセプト」。このクルマはただのコンセプトカーではなく、実際のレースで得た技術を市販車にフィードバックするための“検証車”だった! 新しい挑戦に込めた気概を、NISMOの開発責任者が語る。
-
第857回:ドイツの自動車業界は大丈夫? エンジニア多田哲哉が、現地再訪で大いにショックを受けたこと 2026.1.14 かつてトヨタの技術者としてさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さん。現役時代の思い出が詰まったドイツに再び足を運んでみると、そこには予想もしなかった変化が……。自動車先進国の今をリポートする。
-
第856回:「断トツ」の氷上性能が進化 冬の北海道でブリヂストンの最新スタッドレスタイヤ「ブリザックWZ-1」を試す 2025.12.19 2025年7月に登場したブリヂストンの「ブリザックWZ-1」は、降雪地域で圧倒的な支持を得てきた「VRX3」の後継となるプレミアムスタッドレスタイヤ。「エンライトン」と呼ばれる新たな設計基盤技術を用いて進化したその実力を確かめるべく、冬の北海道・旭川に飛んだ。
-
第855回:タフ&ラグジュアリーを体現 「ディフェンダー」が集う“非日常”の週末 2025.11.26 「ディフェンダー」のオーナーとファンが集う祭典「DESTINATION DEFENDER」。非日常的なオフロード走行体験や、オーナー同士の絆を深めるアクティビティーなど、ブランドの哲学「タフ&ラグジュアリー」を体現したイベントを報告する。
-
第854回:ハーレーダビッドソンでライディングを学べ! 「スキルライダートレーニング」体験記 2025.11.21 アメリカの名門バイクメーカー、ハーレーダビッドソンが、日本でライディングレッスンを開講! その体験取材を通し、ハーレーに特化したプログラムと少人数による講習のありがたみを実感した。これでアナタも、アメリカンクルーザーを自由自在に操れる!?
-
NEW
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
NEW
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
NEW
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。 -
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】
2026.1.17試乗記BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。 -
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る
2026.1.16デイリーコラム英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。












