キーワードは“MaaS”
フォードとフォルクスワーゲンの提携を読み解く
2018.07.09
デイリーコラム
「F-150」一本足打法からモビリティー企業への転換
2018年6月19日、フォードとフォルクスワーゲン(以下VW)が、商用車を軸とした各種事業で協業すると発表した。
両社はこれまで、さまざまな企業との連携を模索してきた。ただ、フォードはトヨタとハイブリッド車技術で、また日産と燃料電池車技術での提携を目指していたが、いずれも断念。そしてVWはスズキとの包括的な連携交渉が突如中止になるなど、ともに“失敗続き”といった印象が強い。
そうした2社がなぜ、商用車という枠組みを持ち出して連携することになったのか? なぜ、このタイミングなのか? その答えを探るために、まずは2社の現状を整理してみたい。
まず、フォードだが、俯瞰(ふかん)で見ると事業内容はシンプルだ。同社幹部が自ら認めるように、フルサイズピックアップの「F-150」にあまりに頼り過ぎているのが実情である。ピックアップトラック市場は北米型と欧州・東南アジア型と大きく2つに分類でき、フォードはそれら両方にモデルを投入しているが、セールスボリュームは北米型のF-150に大きく偏っている。基本的にF-150は商用車だが、北米市場では1990年代からは乗用が急増。さらに、ラダーフレームを共用するフルサイズSUVの売り上げも北米で好調に推移している。
一方、乗用車では主流の小型・中型車であるC・Dセグメントセダン市場で、トヨタの「カムリ」「カローラ」、ホンダの「アコード」「シビック」に大差をつけられている。また近年は北米市場でのセダンからSUVへのシフトが鮮明となっていることから、フォードは北米セダン市場からの撤退を決定した。将来的に、フォードの乗用車は、ヘリテージ(伝統)をマーケティング用語として前面に押し出す「マスタング」が主役となる。
さらに、マーク・フィールズ前CEO時代からフォードが強調している、「モビリティーカンパニーへの移行」では、通勤用小型バスのライドシェアサービス企業「チャリオット」を買収するなど、積極的な投資を続けている。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
将来のデファクトスタンダードを狙う
次にVWだが、周知の通り、同社は2015年に排出ガス規制に関してディーゼルエンジン等の制御で不正行為があったとして大きな打撃を受けた。今年になってからも、6月に同グループの1社であるアウディの会長がドイツ当局に拘束されるなど、本件はいまだに解決していない。
そうした中で、2016年に公開した中期経営計画「TOGETHER - Strategy 2025」で、排出ガス不正によるイメージダウンからのV字回復を狙うための大胆なEVシフトを明言した。これに伴い、リチウムイオン2次電池やモーターなどを6兆円規模で調達するとして、これまでに韓国のサムスンSDIとLG化学、また中国のCATLと総額4兆円強の契約を結んだ。こうした自らの巨額投資によってEVの量産効果を生み出し、中国市場を中心としたEVシフトのトレンドを作り出すことに成功している。
さらに、レベル4(高速道路など特定の場所に限り、システムが運転操作のすべてを担う段階)の自動運転による公共交通向けの新サービスにも巨額投資を行うことを決定しており、ドイツ国内各地やフィンランドで実用化を目指した実証試験を行うとしている。ここでも、VW自らの巨額な先行投資によって、事実上の標準化であるデファクトスタンダードを狙う動きがはっきりと見て取れる。
こうした実情をかかえるフォードとVWの共通項、両社が注力している事業で重なっている箇所を探すと、それが新しいモビリティーサービスであることが分かる。この分野は乗用と商用の中間に位置しており、現行の自動車産業界においては商用車のくくりに入ることが多い。MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)と呼ばれる分野である。
以上のように、フォードとVWは、電動化、自動化、コネクテッド化という3つの先進技術領域を十分に踏まえた上で、お互いの強みを生かしながら、MaaSにおける世界戦略を練っていくものと考えられる。
(文=桃田健史/編集=堀田剛資)
![]() |
![]() |
![]() |

桃田 健史
東京生まれ横浜育ち米テキサス州在住。 大学の専攻は機械工学。インディ500 、NASCAR 、 パイクスピークなどのアメリカンレースにドライバーとしての参戦経験を持つ。 現在、日本テレビのIRL番組ピットリポーター、 NASCAR番組解説などを務める。スポーツ新聞、自動車雑誌にも寄稿中。
-
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える 2025.10.20 “ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る!
-
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する 2025.10.17 改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。
-
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか? 2025.10.16 季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。
-
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか? 2025.10.15 ハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。
-
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する 2025.10.13 ダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。