軽商用車戦線に異状アリ!?
「ホンダN-VAN」がもたらした“革命”
2018.07.18
デイリーコラム
ホンダの「N」シリーズ第5弾は商用車
軽自動車は薄利多売のもうかりにくい商品だが、軽商用車にはこの傾向が特に強い。そこで三菱と日産は、軽乗用車の「eK」&「デイズ」シリーズを共同開発しながら、軽商用車はスズキ製のOEM車を扱う。スズキの「エブリイ」と「キャリイ」は日産と三菱のほか、マツダにも供給され、乗用車を手がける国内大手8社のうちで4社が扱う。「ダイハツ・ハイゼット カーゴ」も、トヨタとスバルに供給されて、計3社が販売する。
OEM車を含めたエブリイの2017年度の月販平均は1万2139台になり(ワゴン仕様を含む)、「スズキ・ワゴンR」&「マツダ・フレア」や「ダイハツ・タント」&「スバル・シフォン」といった軽乗用車の販売台数を上回る。これくらいの規模で販売しないと軽商用車は成り立たない。
その点でホンダは独自性が強く、OEM関係を持たず、これまで軽商用車の「アクティ」を製造・販売してきた。そして2018年7月13日には、「アクティバン」の後継モデルとして「N-VAN」を発売した。
N-VANは、アクティバンとは開発方法を大幅に変えている。軽商用バンでありながら、軽乗用車の「N-BOX」をベースにした。先代(初代)N-BOXから数えると、Nシリーズとして5番目の車種になる。
N-VANは、N-BOXをベースにしながら、異なる点も多い。最も注目されるのは、助手席側のセンターピラー(天井を支えるボディー中央の柱)を前後のドアに組み込んだことだ。いわゆるピラーレス構造で、前後のドアを両方とも開いた時の開口幅は1580mmに達する。タントも似た構造だが、開口幅は1490mmだから、N-VANはかなりワイドに開く。
シートアレンジについては、後席に加えて助手席も床面へ落とし込むように格納できる。運転席を除いた車内全体がフラットな荷室になるから、荷物の収納性に優れている。ワイドな開口部を持つボディー左側から積む時も便利だ。
ルーフ形状もN-BOXとは異なり、N-VANは背が高い。N-BOXの全高は1790mm(2WD)だが、N-VANはロールーフでも1850mm、グレード数の多いハイルーフは1945mmに達する。荷物をたっぷりと積むことが可能だ。
エンジンはN-BOXと同じ「S07B」型で、自然吸気とターボを用意した。トランスミッションは、CVT(無段変速AT)に加えて、自然吸気エンジンでは6段MTも選べる。「S660」の6段MTをベースに、ギア比をワイド化。発進時は低いギア比で駆動力を高め、高速域では高いギア比によってエンジン回転数を抑えられる。
4WDはすべての仕様に用意されており、N-BOXに比べると、ビスカスカップリングのトルク容量を1.5倍に増やしている。デファレンシャルギアも1.5リッタークラスのものをベースに開発するなど、重い荷物を載せる商用車としての変更を加えている。
N-BOXがベースだから、外観がオシャレなことも特徴だ。特に「+STYLE FUN」や「+STYLE COOL」といった仕様については、内外装の質を高めて快適装備も充実させている。
弱点に見る“N-VAN”の真実
N-VANのライバル車は、先に述べた軽商用バンのスズキ・エブリイとダイハツ・ハイゼット カーゴ、そしてそのOEM車になる。
ライバル車との最も大きな相違点は、N-VANがエンジンを前側に搭載して前輪駆動としたのに対し、エブリイやハイゼット カーゴは、エンジンを前席の下に搭載した後輪駆動車になることだ。
N-VANは前輪駆動だから床が低く、荷物の収納がしやすい。リアゲート部分の荷室床面の地上高は525mmだから、ライバル2車に比べて100mm以上低い。床が低ければ、荷室高にも余裕が生じる。また低重心になり、走行安定性と乗り心地にも優れた効果をもたらす。
逆にライバル2車が優れているのは、まず荷室長が長いことだ。エンジンを前席の下に搭載したから、ボンネットに相当する部分が短く、カタログ記載の荷室長(最大値)はエブリイが1910mm、ハイゼット カーゴは1860mmになる。ホンダ・アクティバンも、エンジンを荷室の下に搭載して1725mmを確保していた。それがN-VANでは1510mmになってしまう。
商用車にとっては前輪駆動も不利な要素になり得る。荷物を積載した状態で坂道を発進する時は、車両全体の荷重が後輪に偏るからだ。後輪駆動であれば駆動力の伝達効率を高められるが、前輪駆動では、特に積雪時の坂道発進が不安定になりやすい。
しかしこの欠点にこそ、N-VANの真実がある。他社とOEM関係を結ばないホンダは、もはやアクティバンのような独自のプラットフォームを使う軽商用バンを自社開発できない。そこでN-BOXと共通化したが、荷室長はライバル車に比べて300~400mmも短く、前輪駆動の採用という不利も背負わされてしまう。この問題は回避のしようがない。
そこでライバル2車では得られない特徴として、左側のドアをピラーレス構造にして開口幅をワイドに広げ、助手席も小さく畳めるようにした。このあたりは先に書いたとおりである。
特に助手席を格納した時は、細長い部分ではあるが、荷室長が2635mmに達する。荷物の種類によっては、ライバル2車よりも収納しやすい。また荷室長ではなく「荷室面積」という見方をすれば、さほど不利にならない。
前輪駆動の不利については、先に述べたように強化した4WDで対応した。しかも4WD車の価格をFF車と比べて10万9080円の上乗せに抑えたから、ほかの車種の13~14万円アップと比べて安い(N-BOXでも13万0680円の上乗せだ)。「駆動力の伝達効率に不安を感じるユーザーは、渾身(こんしん)の開発を行った買い得な4WDを選んでほしい」というメッセージが込められている。
このようにN-VANは、N-BOXをベースに開発されたことの不利を工夫して、メリットに変えている。N-BOXと同様、すごみを感じさせるクルマ造りだ。
緊急自動ブレーキなどの安全装備も充実しており、N-BOXと同じく「ホンダセンシング」をすべてのグレードに標準装備した。ハイゼット カーゴの「スマートアシストIII」も歩行者を検知して緊急自動ブレーキを作動できるが、N-VANのCVT仕様には、車間距離を自動制御できる運転支援機能のアダプティブクルーズコントロールが搭載される。エブリイの緊急自動ブレーキは歩行者を検知できず、作動速度の上限も30km/hと低い。
価格の一例を挙げると、「N-VAN L・Honda SENSING」が134万1360円。これに相当するライバル車は、「スズキ・エブリイ ジョイン」のレーダーブレーキサポート装着車が123万9840円、「ダイハツ・ハイゼット カーゴ クルーズ“SAIII”」が124万2000円といったところ。N-VANの価格は少し高いが、それに見合うだけの機能を備えている。
このように軽自動車は、乗用車、商用車ともに、ライバル車と競いながら進化を重ねていく。小型/普通車が軽自動車に追い付くのは、もはや容易なことではないだろう。
(文=渡辺陽一郎/写真=本田技研工業、ダイハツ工業、スズキ、webCG/編集=藤沢 勝)

渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。 1985年に出版社に入社して、担当した雑誌が自動車の購入ガイド誌であった。そのために、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、車買取、カーリースなどの取材・編集経験は、約40年間に及ぶ。また編集長を約10年間務めた自動車雑誌も、購入ガイド誌であった。その過程では新車販売店、中古車販売店などの取材も行っており、新車、中古車を問わず、自動車販売に関する沿革も把握している。 クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。
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