第564回:夏休みシーズン到来!
VWグループのシュコダを自由研究
2018.07.27
マッキナ あらモーダ!
日本では無名でも世界展開中
筆者の知人マッシミリアーノ氏は、長年トヨタのセールスマンであった。
彼はトヨタの思想に心からほれ込んでいた。なにしろ左腕に「改善」の漢字タトゥーまで彫り込んで、座右の銘としていたほどだ。
しかし昨2017年、販売グループ内で、サラリーマンの宿命である人事異動が行われた。マッシミリアーノ氏の新たな持ち場は、トヨタショールームの隣に新設されたシュコダのショールームであった。
読者諸兄はシュコダをご存じだろうか。
フォルクスワーゲン(VW)グループを構成する12ブランドのひとつであり、チェコ共和国のムラダー・ボレスラフを本拠とする。現行ラインナップは7モデルで構成されている。日本ではなじみがない同ブランドだが、販売エリアは約100の国と地域に及ぶ。
生産はチェコのほか、VWグループのもと中国、スロバキア、ロシア、そしてインドで行われている。さらに現地企業との協力体制により、ウクライナ、カザフスタン、アルジェリアでもつくられている。
2017年の新車引き渡し台数は、全世界で前年比6.6%増の約120万台を記録した。販売台数トップは中国の32.5万台で、以下ドイツ17.3万台、チェコ9.5万台、英国8万台と続く。
ヨーロッパではタクシーやライドシェア車の需要も増えているから、すでに出張などの際にシュコダの最高級車「シュパーブ」のお世話になった読者もいるはずだ。
創業者は書店主
シュコダの起源は1895年、オーストリア-ハンガリー帝国時代のボヘミアで、書店主であり自転車ファンであったヴァーツラフ・クレメントが興した自転車修理業にさかのぼる。クレメントはのちに技術者ヴァーツラフ・ラウリンと出会い、1899年、ラウリン&クレメントのブランドで自転車製造を開始。1899年にはモーターサイクル製造に進出する。
1905年には初の四輪車を製造。1924年には航空エンジン製造も手がける。
ここまで飛ぶ鳥を落とす勢いで躍進を続けたラウリン&クレメントだが、転機が訪れた。同年に見舞われた工場火災で立て直しが必要となった同社は1925年、プルゼニの重工業メーカー、シュコダに資本協力を仰ぐ。それを機会に、ラウリン&クレメントの名称は消滅し、代わりにシュコダブランドで自動車製造が継続された。
1926~29年には、フランスの高級車メーカー、イスパノ-スイザのモデルもライセンス生産。同モデルはチェコ=スロバキア共和国大統領にも納められている。参考までに、第2次大戦後に社会主義に転換する前のチェコは、欧州屈指の工業先進国であったことを忘れてはいけない。第2次大戦中は他の自動車メーカーと同じく、兵器や航空機の部品、軍用車両などの生産にあたった。
戦後、シュコダの自動車部門は国営化され、新たな歩みを始めることになった。ただしその製品は、周辺の社会主義国のみならず、西側自由諸国にも輸出された。
やがて1989年のベルリンの壁崩壊で共産党政権が崩壊すると、翌1990年、新政府はVWグループとの資本提携を決める。その後VWは徐々に出資比率を高め、2000年には100%を達成。現在に至っている。
ローコストブランドにあらず
先日、冒頭のマッシミリアーノ氏が勤務するディーラーを訪れてみた。あれだけトヨタの精神に熱を入れていた人物だけに、どうなってしまったのか心配だったが、そこはさすが長年にわたる販売のプロ。
人々の購買意欲が後退する夏休み期間を克服しようとするかのように、夫妻で訪れた顧客を相手に積極的にトークを繰り広げていた。手があいてから聞いてみると、「トヨタで学んだ精神を忘れず」に、日々シュコダの拡販に励んでいるのだという。
彼いわく、目下シュコダは「ライバルがひしめく中で決して不利ではない」そうだ。その理由は?
「まずは、お客さんに対して訴求力がある商品構成であることだな」
現在一番人気は、VWの「ティグアン」の姉妹車といえるミッドサイズSUV「コディアック」で、バージョンによっては7カ月待ちという。
従来のブランド概念にとらわれない、若い世代がクルマに乗り始めていることも追い風のようだ。
しかしながらシュコダというと、高齢者の中には、社会主義時代のクルマのイメージを引きずっている人がまだいるのでは?
「それはもはや少数派だ。特にこの地域は、これまでシュコダを本格的に売ったディーラーが皆無だった。だから、固定観念がないし、売るほうも開拓しがいがあるんだよ」
主な下取り車をマッシミリアーノ氏に聞くと、「メルセデス、BMW、アウディが多い」という。しかし最も多いのはシュコダで、「リピーターの多さが満足度を物語っているね」と解説する。
シュコダ各車は、プラットフォームやエンジンをVW/アウディと共用している。
いっぽう価格でいえば、同じセダンでガソリン1リッター・6段手動変速機のベースモデル価格は、姉妹車の「アウディA3セダン」(116ps)の2万8100ユーロに対して、「シュコダ・オクタヴィア」(115ps)は、2万0670ユーロと、7430ユーロ(約96万円)も安い。マッシミリアーノ氏によると、定期点検の基本料金も、アウディより安く、VWと同等という。
しかしマッシミリアーノ氏が強調するのは、「シュコダは決してVWやアウディのローコストブランドではない」ということだ。シュコダはVWやアウディとは異質のスローガン「SIMPLY CLEVER」のもと、「3つのポリシーに支えられている」という。
3つのポリシーとは「simplifying(シンプル化)」「surprising(意外性)」「human(人間性)」だ。要はユーザーの生活をより簡単にするアイデアに満ちた、魅力的かつ知性的な商品の提供である。このあたりは、写真で示したアイデア装備の数々をご覧いただこう。
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ロゴは「読み人知らず」
話は飛ぶが、日本に行ったときボクが困ってしまうのは、「クルマは何にお乗りですか」という質問だ。価値観の多様化が進むヨーロッパ諸国では、この手の質問は「結婚してますか?」に次いで古くさい問いである。
もはや自動車ブランドのヒエラルキーと、オーナーの知的レベルの高さは一致しない。経済学者で欧州委員会でも長い経歴をもつマリオ・モンティ元首相(在任2011年11月~2013年4月)の自家用車は、車齢が優に15年を超える1995年型「ランチア・デドラ」だった。
そうした新たな時代に、シュコダはなかなかいい選択ではないか。ついでにいえば、日本でも「乗ってるクルマはシュコダです」と答えることができれば、旧態依然とした日本的ブランドの序列に巻き込まれずに済むかもしれない。
最後に、シュコダのロゴである通称“羽根が生えた矢”について記しておこう。その起源は、1926年にまでさかのぼる。
シュコダの社内公募で、ある工場従業員の案を採用したものだった。ただし本人の名も、モチーフが何であったかについても記録はない。
「当時社内に掲げられていた、羽根を抱いたネイティヴアメリカンのレリーフを参考にした」説のほか、「第1次世界大戦に活躍した『ラファイエット連隊』による、これまたネイティヴアメリカンを模したシンボルを見たのでは」という説がある。
マッシミリアーノ氏の販売店は、2017年に230台のシュコダを売った。さらなる販売拡大を図るべく、彼は奮闘する。
彼の腕に、“羽根が生えた矢”マークのタトゥーが入る日も、いずれやってくるのかもしれない。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、Skoda/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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