ポルシェ・マカンGTS(4WD/7AT)
まさしくスポーツカーの味 2018.08.08 試乗記 ポルシェのSUV「マカン」に、装備充実のスポーティーモデル「マカンGTS」が登場。ボディーの大きさや車重を忘れさせるその走りは、往年のFRポルシェにも通じる“小気味よさ”が感じられるものだった。いわば純正チューニングカー
なんでこのスポーツカーはスポーツカーのくせに着座位置が高いのだろう……? だってポルシェ・マカンなんだから、とわかってはいるけれど、そう自問したくなるモノがマカンGTSにはあった。
マカンは2013年に本国で発表された。その開発の際、ポルシェは“ありふれたコンパクトSUV”ではなく、“心を高ぶらせるスポーツカー”の創造を目標とした。5枚のドアと5座、4WDシステム、そして高いシートポジションを特徴とする“比類なきスポーツカー”はかく生まれた。そのマカンに2015年、マカンGTSが追加された。それは最もスポーティーな仕立てのマカンといっていいマカンだった。
GTSはそもそもの由来を1964年にレースデビューした904こと「カレラGTS」にさかのぼるとされる。ポルシェ自身がそう言っているのだから、そうなのである。次にこの3文字の組み合わせが世に現れたのが2007年の「カイエンGTS」であったことは誠に象徴的で、ポルシェ初のSUVであるカイエンの後期型で設けられたこれは、「カイエンS」の4806cc V8の最高出力を385psから405psに強化し、「カイエン ターボ」をベースにした専用エクステリアを与えるという、いわばメーカー製チューンドカスタムだった。
21世紀に復活したGTSはつまり、シュトゥットガルトが手がけたストリートチューニングカーと解釈できるところが最大の目玉であり、それゆえそのシリーズが一通り発表されたあとで出てくる必然性がある。そして、あとから加えられることでそのシリーズにあらためてスポットを当てる役割をも担うわけである。
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スポーツカー好きはたまらない
さて、マカンGTSは兄貴分のカイエンがそうであったように、「ターボ」と「S」のあいだに置かれる。と書くと話がややこしくなるので、話をマカンに絞る。マカンGTSの3リッターV6ツインターボは、「マカン ターボ」の3.6リッターではなく「マカンS」のエンジンをベースに、最高出力は340psから360psに、最大トルクは460Nmから500Nmに引き上げられている。400psと550Nmを誇るターボの絶対値には及ばないものの、排気量が600cc小さい分、より小気味よい吹け上がりが期待できる。2997ccのV6はボア×ストローク=96.0×69.0mmと、ターボの同96.0×83.0mmよりストロークが短いぶん、高回転向きといえる。スポーツカーとは心情的な乗り物だと考えるひとにとって、一考に値する選択肢であろう。
スポーツシャシーが与えられた足まわりは、スタンダードより15mm低い車高を実現。試乗車は「PASM(ポルシェ・アクティブサスペンション・マネージメントシステム)」が組み込まれたエアサスを装備しているため、さらに10mmシャコタンになっている。しかも、ホイールは20インチの「RSスパイダーデザイン」と呼ばれる、クモの巣のような意匠のサテンブラック仕上げ。マカンSの標準は18インチだから2階級特進の上、本来はひとに見せびらかす金ピカのその階級章ならぬホイールが黒く塗りつぶされているところにある種の迫力というものが醸し出される。タイヤは前265/45、後ろ295/40という前後異形の極太偏平サイズである。
でもって「スポーツデザインパッケージ」と称されるフロントエプロン、マットブラックのエアインテークのグリル、サイドスカートが視覚的にいっそう低く見せている。もともとこのパッケージはオプションのはずだけれど、GTSの場合は標準となる。
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プライスタグには納得できる
オプションといえば、テスト車のボディー色「カーマインレッド」は43万円もするオプションで、前述のPASMが26万8000円、テスト車の場合、27万1000円の「ポルシェ・トルクベクタリング・プラス(PTV Plus)」、145万9000円の「ポルシェセラミックコンポジットブレーキ(PCCB)」、インテリアに目を転じると、29万6000円の「GTSレザーパッケージ ブラック」、8万円の目にも鮮やかな「カレラレッド・シートベルト」等が選ばれている。19万9000円の「スポーツクロノパッケージ」、しかも6万3000円の「スポーツクロノ ストップウオッチダイヤル シルバー」も付いている。
これら魅力的な装備を足していくと340万円ほどにもなる。GTSの車両本体価格981万円と加えると、合計1321万2000円。699万円から始まるマカンはポルシェで最もお求めやすいモデルだけれど、GTSともなると「911カレラ」(1244万円)よりも高価になる。もっとも、911カレラにオプションを足していくと、1244万円ではとうてい購(あがな)えないことは読者諸兄の先刻ご承知の通りである。
さはあれど、いいものは高い、というのは世のつねである。これら340万円にもおよぶオプション装備がもたらしたものは大きい、と筆者は考える。まずもって、走りだした途端、その乗り心地の快適さに驚嘆した。こんなにでっかくて太いホイール&タイヤを履いているシャコタンのSUVなのに、極低速ではむしろ、タイヤの縦剛性が柔らかい印象を受ける。それこそロクマルぐらいの偏平率みたい、と思うほどに。
20インチの45、40なのだから、そんなわけはない。これこそオプションのエアサスの恩恵だろう。もちろん、ホイールも巨大なセラミック製のブレーキディスクも軽量に仕上がっていて、いわゆるバネ下が軽いこともあるだろう。全体がふにゃふにゃ、というわけではない。表面は硬いけれど、中身は柔らかい。誠に気持ちがいい。
でもって、電子制御の4WDシステムは常時前後のトルク配分をアクティブに変えているはずだけれど、後輪で大地を蹴っている感覚がある。同じことだが、フロントからの引っ張られ感がほとんどない。この点、プラットフォームを共有する「アウディQ5」とは大いに異なるように思える。
「さすがはポルシェ」の走りっぷり
低速ではヴォヴォヴォッと野獣の吐息を思わせるV6ツインターボは3000rpmから4000rpmあたりでシフトアップするたびに音質を変えてドライバーをもてなす。PASMをコンフォートからスポーツ、さらにスポーツプラスに切り替えると、乗り心地が硬くなってエンジンが快音を発し、7段PDKのシフトが電光石火になり、レスポンスが鋭くなる。コーナーが近づくと自動的に中ぶかしを入れてギアを落とし、SUVであることを忘れる。さすがポルシェだよなぁ。
硬めのシートはまさしくスポーツカーのそれである。「ポルシェ928」とか「944」の感覚をちょっと思い出させる。ボディー剛性が高くて乗り心地がよくて、後輪駆動っぽい。動きが俊敏である。どこまで働いているかは正直、不明ながら(なんせ乗り比べていないので)、コーナリングの際、都市内の四つ角とか首都高速とかの一般道でも、実に俊敏に感じる。マカンGTSは(車検証記載値で)全長4700×全幅1925×全高1610mm、ホイールベース2805mmと、コンパクトSUVといっても、新型カイエンに比してもちろん小さいことは小さいけれど、全長で20cmちょっと、全幅で6cm弱、ホイールベースで9cm異なるのだから、確かに小さいけれど、車重1950kgのヘビー級だ。
それがかくも小気味のよい反応を見せるのは電子制御技術が慣性の法則を文字通り制御しているからだろう。例えば、PTV Plusである。コーナリングの際、リアの内側のホイールに軽くブレーキをかけ、外側のホイールの回転を多くすることによって曲げる。そこに違和感がまったくないところがポルシェのポルシェたるゆえんというべきだろう。
新型カイエンは976万円。でもって、あっちはでっかい。しかも新型である。こなたマカンGTSは981万円。マカンGTSのほうが15万円高いのである。ディーラーに行って「マカンない?」と聞くのは自由であろう。関西方面でなら、場合によって勉強してくれるかもしれない(無責任な推測です)。カイエンはデカすぎてアカンひとは、いやそういう消極的意見ではイカンとしたら、ちょっと背の高い後輪駆動みたいな5枚ドアの“比類のないスポーツカー”にほれちゃったひとは、オカンがなんと言おうと、マカンなくてもマカンがいい。今回の試乗で944を思い出した筆者は、背の低い後輪駆動のコンパクトポルシェの復活をちらりと思ったけれど、いや、それはもう「718ケイマン/ボクスター」があるのだった。
(文=今尾直樹/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
ポルシェ・マカンGTS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4692×1926×1609mm
ホイールベース:2807mm
車重:1895kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:360ps(265kW)/6000rpm
最大トルク:500Nm(51.0kgm)/1650-4000rpm
タイヤ:(前)265/45R20 104Y/(後)295/40R20 106Y(ミシュラン・ラティチュード スポーツ3)
燃費:9.2-8.9リッター/100km(約10.9-11.2km/リッター、NEDC複合モード)
価格:981万円/テスト車=1321万2000円
オプション装備:ボディーカラー<カーマインレッド>(43万円)/GTSレザーパッケージ ブラック(29万6000円)/フロアマット(2万2000円)/エアサスペンション<PASM>(26万8000円)/ポルシェ・トルクベクタリング・プラス<PTV Plus>(27万1000円)/アルミルック燃料タンクキャップ(2万4000円)/シートヒーター<フロント>(7万6000円)/シルバー・メーターパネル(8万9000円)/LEDヘッドライト<PDLS+>(12万5000円)/カレラレッド・シートベルト(8万円)/ポルシェセラミックコンポジットブレーキ<PCCB>(145万9000円)/スポーツクロノパッケージ(19万9000円)/スポーツクロノストップウオッチダイヤル シルバー(6万3000円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1万1820km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:253.9km
使用燃料:33.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.7km/リッター(満タン法)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。