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第516回:電動化は? スピードスターの発売は?
ポルシェ911の気になる“これから”をキーマンに聞いた

2018.08.09 エディターから一言 藤野 太一
ポルシェミュージアムで発表された「ポルシェ911スピードスター コンセプト」。
ポルシェミュージアムで発表された「ポルシェ911スピードスター コンセプト」。拡大

満を持して“ピュアEV”の市販車名を発表すると同時に、古典的な走る楽しさを追求した「911スピードスター」の発売も示唆。未来を見据えつつ、クルマ本来の魅力も大切にするポルシェの“これから”を、スポーツカー戦略のキーマンに聞いた。

ポルシェのスポーツカー誕生70周年に合わせ、シュトゥットガルトのポルシェミュージアムでは、特別展を含むさまざまなイベントが行われた。
ポルシェのスポーツカー誕生70周年に合わせ、シュトゥットガルトのポルシェミュージアムでは、特別展を含むさまざまなイベントが行われた。拡大
特別展が行われた館内の様子。写真手前に写るのは、1948年に誕生したポルシェ初のスポーツカー「356」の“第1号車”である。
特別展が行われた館内の様子。写真手前に写るのは、1948年に誕生したポルシェ初のスポーツカー「356」の“第1号車”である。拡大
70周年イベントでは、これまで「ミッションE」と呼ばれていたピュアEVの市販車名が、「タイカン」となることがアナウンスされた。
70周年イベントでは、これまで「ミッションE」と呼ばれていたピュアEVの市販車名が、「タイカン」となることがアナウンスされた。拡大
「911スピードスター コンセプト」について、ポルシェは「反響によっては市販化するかもしれない」としているが……。
「911スピードスター コンセプト」について、ポルシェは「反響によっては市販化するかもしれない」としているが……。拡大

70周年に合わせて発表された2つのサプライズ

2018年6月8日、ドイツ・シュトゥットガルトにあるポルシェミュージアムで、ポルシェのスポーツカー誕生70周年を記念したイベントが盛大に行われた。そこでは、2つのサプライズが用意されていた。

70周年イベントでポルシェAGのオリバー・ブルーメ社長が発表した1つ目のサプライズは、ポルシェ初の純粋な電気自動車「ミッションE」の市販車名が「Taycan(タイカン)」であることだった。そして2つ目は、イベントの終盤で行われた「911スピードスター コンセプト」のワールドプレミア(世界初公開)だった。

“スピードスター”は単なるオープンカーではない。オープントップと優れたドライビングダイナミクスを兼ね備えた特別なモデルにのみ与えられる名称だ。1952年に誕生した「356 1500アメリカロードスター」を起源とし、1957年の「356A 1500GSカレラGTスピードスター」、1988年の初代「911スピードスター」、2010年に356台のみ生産された“タイプ997”の「911スピードスター」など、過去に8つのモデルが“スピードスター”の名で造られた。

最新の911スピードスター コンセプトは、傾斜が強くなったフロントウィンドウや縮められたサイドウィンドウ、ダブルバブルのリアカバーなど、356にはじまる過去のスピードスターの特徴を再現。徹底した軽量化のため、リアカバーはカーボンファイバー製で、内装からはナビゲーションやラジオに加え、エアコンまでもが省かれている。

シャシーやエンジンは「911 GT3」に由来するもので、最高出力500psを発生する水平対向6気筒に6段マニュアルトランスミッションを組み合わせる。そして、伝統的なフックスデザインのセンターロック式21インチホイールや、チタン製マフラーを装着していた。

会場を訪れていた“ミスター911”と呼ばれる911、718モデルライン担当副社長アウグスト・アッハライトナー氏に、このコンセプトカーに込めた思いを聞いた。

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タイカンには911に通じるものがある

————スピードスターのリリースはいつ頃になりそうでしょうか? また限定販売といううわさもありますが、どれくらいの数になりそうでしょうか?

アッハライトナー:皆さんの反応をみた上で量産化が決まりますが、この感じだとおそらく量産化はされると思います。市販化に向けては、コンセプトカーのままでは認可されない箇所もたくさんあるので、それらの修正が必要になりすし、リリースは早くても来年になります。台数についてはまだ正式には決まっていません。

————スピードスターはそもそも特別なモデルですが、特にこのモデルはGT3のパワートレインを用いたさらにスペシャルバージョンと聞きました。なぜ、ベースにGT3を選ばれたのでしょうか?

アッハライトナー:だって、GT3のオープンに乗ってみたくないですか?(笑) 個人的には、夢のクルマが実現した思いです。このスピードスターは私が担当している911の生産車部門と、モータースポーツ部門(レースカーやGT系のマシンの開発部門)が一緒になって開発したものです。GTモデルの責任者には以前から、「オープンのGT3を造ろうよ」と言ってきました。それがようやく叶ったのです。

———ちなみに、今日はタイカンという名のお披露目の場でもありましたが、アッハライトナーさんは、タイカンのテスト車両にも乗られているのでしょうか?

アッハライトナー:ええ、それは素晴らしいものでした。もちろん私は911が好きですし、最初はどんなものか不安もありましたが、プロトタイプを試乗して得た経験はとても興味深いものでした。クルマに乗り込んで、ドアを閉め、ステアリングの位置などの調整を終えると、とても落ち着きました(「Feel at home」)。

———その「Feel at home」という表現、昨年アッハライトナーさんにインタビューさせていただいた際に、911を表現する言葉として使われていたのがとても印象的だったので覚えています。

アッハライトナー:そう、911に通じる何かを感じました。もちろん、キーをひねってもエンジン音は聞こえません。ただ、照明が光るだけです。でもスポーティーでコンパクトで、ものすごい加速をし、大変すばらしいハンドリング性能をもったクルマでした。現段階ではまだ完成ではありませんしもう少し時間も必要ですが、間違いなく“ポルシェ”になるでしょう。(元レーシングドライバーでありポルシェアンバサダーの)マーク・ウェバーがプロトタイプをテストしていましたけど、とても感心していましたよ。

<アウグスト・アッハライトナーさんプロフィール>
1983年ポルシェAGに入社。当初はシャシーデザインに携わり、“タイプ993”のリアアクスルの研究開発に従事。“タイプ996”のフェイスリフト時に、「911」のすべてを統括する開発ディレクターに就任。現在は「718ボクスター/ケイマン」もあわせて担当している。ポルシェ社内で“ミスター911”と呼ばれる人物。


	<アウグスト・アッハライトナーさんプロフィール>
	1983年ポルシェAGに入社。当初はシャシーデザインに携わり、“タイプ993”のリアアクスルの研究開発に従事。“タイプ996”のフェイスリフト時に、「911」のすべてを統括する開発ディレクターに就任。現在は「718ボクスター/ケイマン」もあわせて担当している。ポルシェ社内で“ミスター911”と呼ばれる人物。
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「911スピードスター コンセプト」のリアビュー。同車には、「911 GT3」譲りのエンジンやシャシーが用いられている。
「911スピードスター コンセプト」のリアビュー。同車には、「911 GT3」譲りのエンジンやシャシーが用いられている。拡大
後日(2018年7月13日)公開された「タイカン」のプロトタイプの写真。
後日(2018年7月13日)公開された「タイカン」のプロトタイプの写真。拡大
ツッフェンハウゼンの試作車製造部門にて生産される、「タイカン」のプロトタイプ。
ツッフェンハウゼンの試作車製造部門にて生産される、「タイカン」のプロトタイプ。拡大
「タイカン」のパワープラントの透視図。床に敷きつめたバッテリーで2基のモーターを駆動する4WD機構は、「ミッションE」から受け継がれるようだ。
「タイカン」のパワープラントの透視図。床に敷きつめたバッテリーで2基のモーターを駆動する4WD機構は、「ミッションE」から受け継がれるようだ。拡大

現行型では難しいかもしれないが……

———一方で911も電動化に進むとうわさされています。新世代の“タイプ992”の発表も近いと思われますが、911も今後は電動化していくのですか?

アッハライトナー:現在の911にはあまりスペースがありません。準備をするには、まだ数年の時間が必要になります。私たちはもちろん、内燃エンジン、フラット6をできるだけ使いたい。それが911らしさですから。

———911のレース車両にはハイブリッドモデルもありましたが、ハイブリッドの可能性はないのでしょうか?

アッハライトナー:難しい質問ですね。現在はっきりとしたプランがあるわけではありませんが、将来的にはハイブリッドになるかもしれません。ホンダの「NSX」をご存じですよね、私の個人的な意見では、あれはとても良い仕事をしています。大変面白い。あれに近いものが911に起こる可能性はあります。

いろいろと話を聞いていると911のEV化はどうも一筋縄ではいかなそうだ。もちろんそこはタイカンが担うパートゆえ、911は911として進化していくだろう。しかし同時に、“ミスター911”がホンダNSXを高く評価し、「あれに近いものが911に起こる可能性はある」と語ったのはとても興味深いことだった。ポルシェの電動化戦略が、同社のスポーツカーにどのような影響を及ぼしていくのか。これからも注目していきたい。

(文=藤野太一/写真=藤野太一、ポルシェ/編集=堀田剛資)

2011年に登場したレーシングカー「911 GT3 Rハイブリッド」。後輪を480psのエンジンで、前輪を60kW(約82ps)の2つのモーターで駆動するハイブリッドモデルで、バッテリーではなくフライホイールジェネレーターが搭載されていた。
2011年に登場したレーシングカー「911 GT3 Rハイブリッド」。後輪を480psのエンジンで、前輪を60kW(約82ps)の2つのモーターで駆動するハイブリッドモデルで、バッテリーではなくフライホイールジェネレーターが搭載されていた。拡大
“タイプ991”こと現行型「911」の透視図(写真は「カレラS」)。アッハライトナー氏いわく、「現行型は電動化に使えるスペースがない」とのことだったが……。
“タイプ991”こと現行型「911」の透視図(写真は「カレラS」)。アッハライトナー氏いわく、「現行型は電動化に使えるスペースがない」とのことだったが……。拡大
2016年8月にデビューした現行型「ホンダNSX」。前輪を2つのモーターで、後輪をモーターとエンジンで駆動する3モーター式のハイブリッドシステムを搭載している。
2016年8月にデビューした現行型「ホンダNSX」。前輪を2つのモーターで、後輪をモーターとエンジンで駆動する3モーター式のハイブリッドシステムを搭載している。拡大
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