第571回:フィアットの御曹司が家電をプロデュース!
デザインのシンプル化の是非を考える
2018.09.14
マッキナ あらモーダ!
ラポの“ピンク洗濯機”
ガレージ・イタリアとは、フィアットの創業者ジョヴァンニ・アニェッリ(1世)の玄孫(やしゃご)、ラポ・エルカンが率いるデザインファクトリーである。それについては2015年の本稿第421回もご覧いただきたい。
2018年7月には、往年のイタリア製ビーチカーのイメージを踏襲した「フィアット500スピアッジーナ58」をリリースして話題を呼んだ。
そのガレージ・イタリアが2018年8月30日、ドイツ・ベルリンのエレクトロニクスショー「IFA」で、洗濯機「ミレニアル・ピンク」を発表した。イタリアの有名家電メーカー、キャンディとのコラボレーションによるものだ。
既存のキャンディ製ドラム式洗濯機「ビアンカ」をもとに、ボディーカラーにピンク色を採用。投入口のドアに偏光処理を施したものである。クロームパーツも追加した。
ベースとなった洗濯機ビアンカはキャンディの最先端モデル。スマートフォンを介した音声コマンドのほか、ディスプレイを兼ねたタッチ式「スマートリング」による操作を特色とする。
このミレニアル・ピンクは限定販売される予定である。
ピニンファリーナ×シャープのプレミアム
同じIFAショーでは、トリノのデザインスタジオであるピニンファリーナが、日本のシャープと共同開発したテレビ&オーディオプレミアムコレクションを参考出品した。
これらの製品をピニンファリーナは「スポーツカーのデザインで培ったアイデンティティーを、プレミアム性と革新という要素の基盤として表現した」と説明。「イタリアンデザインと日本の最先端技術を完璧に融合させたコラボレーション」と語る。
シャープのヨーロッパ法人CEOアスラン・カブリエフ氏は、「デザインは、テレビやオーディオ製品を購入する際に重要な要素となる。そうした製品はマンションや家の中で、中心的な位置づけとなる」としたうえで、「だからこそわれわれは、ピニンファリーナとフルレンジの製品を共同開発できたことに満足している」とデザインの重要性を強調している。
2018年8月30日付の米国ウェブサイト『ギアブレイン』によれば、製品は2019年前半に発売予定という。
思い出すあの論争
この2つのプロダクトを見たとき、筆者が思い出したのは、20世紀に活躍した2人の建築家、ミース・ファン・デル・ローエとロバート・ヴェンチューリの論争である。
モダニズムを代表する建築家であるファン・デル・ローエは、「Less is more(単純化は豊かである)」を主張した。それに対し、ポストモダンの旗手であるヴェンチューリが「Less is bore(単純化は退屈である)」と皮肉を交えて言い返した、というものだ。
ピニンファリーナ×シャープのテレビ&オーディオのシンプルな造形は、自動車で培った理性的な緊張感によるものとみることができる。
いっぽうキャンディのミレニアル・ピンクの色や偏光ガラスは「洗濯機はこうあるべき」と決めつけようとする単純さからの逃避だ。
単純を豊かとみるか、退屈とみるかというのは、神学論争にも近い終わりなきものである。しかも、今回ゼロからデザインしたピニンファリーナと、既存製品をもとにモディファイを試みたガレージ・イタリアを同じ土俵で評価するのは難しい。ただし……!?
挑発する白物
一見シンプルに映るピニンファリーナのシステム全体をしばらく見ていると、いくつかの矛盾が気になってくる。
一番右側のテレビの下部フレームに見られるU字シェイプ(2ページ目の写真でご覧いただきたい)は、モチーフとしてサウンドバーなどに反復されている。そのいっぽうでスピーカーはオクタゴン(八角形)を反復するなど統一感に乏しい。コンポーネントのひとつにある前面の丸ダイヤルも唐突である。また3タイプあるうちのテレビのひとつは、スタンドがシャンパンゴールドに近い色に仕上げられているのも、見る人によっては違和感をもって捉えるだろう。
それらを見ると、ピニンファリーナ作品を手がけたデザイナーは、「単純化は豊かである」と「単純は退屈だ」という2つの意識の間で揺れ動いた、つまりブレがあったのではないかと思われる。
いっぽうガレージ・イタリアは、洗濯機使用中に内部をあまり観察することがないことに気づき、思い切ってスタイリッシュなガラスを採用してしまった。それは、同じくエルカンがプロデュースするイタリア・インディペンデントのサングラスをも想起させる。
同時に洗濯機をバスルームや、時にオーブンに並んでキッチンに設置することも少なくないヨーロッパである。日本以上に、本体色が白であることが暗黙のうちに求められる。その常識を破ることは、限定生産とはいえかなり挑発的だ。
参考までにガレージ・イタリアによると、そのピンクは微妙にトーンが異なる100種類以上から選択したという。「かわいい家電」などという安易なポリシーとは別次元である。
そうした意味で、既存製品をベースにしながらも「単純」を打ち破ろうと腐心したガレージ・イタリアに、今回は軍配を上げようではないか。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=ピニンファリーナ、キャンディ、Akio Lorenzo OYA/編集=藤沢 勝)
【ラポ・エルカン自ら熱演する「ミレニアル・ピンク」のプロモーションビデオ】

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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