日産GT-R50 by Italdesign(4WD/6AT)
歴史を飾る一台になる 2018.09.15 試乗記 「日産GT-R」とイタルデザインのコラボによって誕生した、両者の“アニバーサリーイヤー”を祝う記念モデル「GT-R50 by Italdesign」(以下、GT-R50)。販売台数は50台以下、価格は「おおむね90万ユーロから」という希少なGT-Rのプロトタイプを、ラグナセカで試した。いささか不思議な組み合わせ
「1億円のGT-Rが販売される」
そう聞いたとき、日本車にもいよいよそういう時代がやってきたのかと、ちょっとうれしくなった。と同時に、それがかのイタルデザインとのコラボレーションだと聞いて、「なんで?」とも正直思った。
公式の説明には、2018年にイタルが、そして2019年にGT-Rが、それぞれ生誕50周年を迎えるという、ちょっとこじつけのような気もしなくはない理由が挙げられてもいた。GT-Rとイタルデザイン? 一歩譲って、「スカイライン」と? 百歩譲って、日産と? マエストロが聞いたら何と言うだろう? 1億円もするからには、そこにはクルマ好きを納得させるだけのストーリーが必要だ。それが希薄なような気がしてならなかった。
今年の夏も、恒例のモントレー・カーウイークを見物しに出掛けた(仕事じゃなくなった気分になって久しい。年に1度の桃源郷で英気を養っている。そんな感じ)。今年2018年は、全米アマがペブルビーチで開催されたため、いつもより1週間後ろ倒しで開催されたが(来年は再び戻って8月13〜18日となるそうだ)、相変わらずの盛況ぶり。日曜日に開催されるペブルビーチの“コンクール・デレガンス”をトリに、今年も多くのギャザリングイベント、ドライブツアー、オークションが開かれ、世界中からやってきたクルマ好きの目を楽しませてくれた。
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見るものを引き込む力がある
中でも日本人としてうれしくてしようがなかったのが、カーウイーク唯一のサーキットイベントである、ラグナセカの“モータースポーツ・リユニオン”にて、そのメインフィーチャーブランドに「日産とダットサン」が選ばれたことだ。以前にはトヨタが「2000GT」やF1を積極的に走らせてアピールしていたが、結局、メインには扱われなかった。アメリカ人にとって日本のスポーツカーといえば、やっぱり“ダッツン”なのだ。いや、ひょっとして「フェアレディZ」あたりは日本のクルマだなんて思ってないかもな……。
金曜日。今やカーウイークで最もチケットの取りづらい(そして最も高額。一日だけの通常入場料が650ドル!)といわれている“モータースポーツギャザリング”@クエイルロッジに行く。このイベントのハイライトのひとつが、昼ごろに爆音をとどろかせてラグナセカからやってくる、レーシングカーのパレードだ。バリバリのレースカーが、警察先導のもと、山を越えて一般道をやってくるというのだから、さすがアメリカ、スケールというか理解が違う。
今年のパレードは、当然、メインフィーチャーの“日産&ダットサン”。懐かしの“510ブル”や“ダッツンZ”が、爆音を響かせてイベント会場の中を通り抜け、整列した。そして、その先頭に、一部が妖しく金色に輝くGT-R50が止まっていたのだった。
初めて間近に見たGT-R50は、ただならぬ存在感を放っていた。もちろん、「イタルデザインとどうして?」というわだかまりは、まだあった。それでもなお、見る者を、GT-R好きをぐいぐいと引き込む力がこのクルマにはあった。
飾っておくためのクルマではない
日産デザインの関係者が、見学者たちと雑談している。どうやら、オーダーしたカーマニアもその中にいたようだ。レクサスの役員も興味深く観察している。これが1億円のGT-Rか。乗ってみたいという衝動に駆られた。
願いは通じる。それも意外に早く。
翌日、ラグナセカに向かった筆者は、再びGT-R50とまみえた。メインフィーチャーブランドとして多くの歴史的レーシングカーを展示したエリアの一角に、「GT-R NISMO」とともにそれはたたずんでいた。多くのクルマ好きがカメラを向けている。ふと見れば、旧知の人たちがいた。
イタルデザインのフィリッポ・ペリーニ氏だ。アルファ・ロメオでは「8Cコンペティツィオーネ」のエクステリアを担当し、その後アウディへと移籍。ランボルギーニでチーフデザイナーを務めた人物で、今や同じグループとなったイタルデザインのデザイントップという重責を担っている。日産のデザイントップ、アルフォンソ・アルバイサ氏や、元トップの中村史郎さんの姿も見えた。GT-Rに関わった世界的なデザイナーたちが、GT-R50を囲んでいたのだ。
ひとしきりあいさつを済ませると、史郎さんがGT-R50の助手席に乗り込み、アルフォンソのドライブでラグナセカのコースへと、GT-R NISMOとともに飛び出していった。メインフィーチャーブランドの特権である、デモンストレーションランだ。筆者はフィリッポと雑談を続ける。
「完璧に走るプロトタイプにしたかったんだ。飾りじゃなくてね。それこそ、君たちジャーナリストにも乗ってもらいたかったからね」。フィリッポが何気なくつぶやいたひと言に、すかさず食らいつく。
「ボクも乗ってみたいんだけど?」
プロトタイプとは思えぬ完成度の高さ
翌日の朝。夢見心地でGT-R50のコックピットに収まる筆者がいた。昨日のフィリッポとのやりとりの後、あっという間に段取りが整って、試乗のチャンスが巡ってきたのだった。日曜の午前だから、本来なら早朝からペブルビーチに出掛けて、人混みと陽光でクルマの撮影がしづらくなる前にコンクール出展車両を見ておくというのが例年の習わしだったけれども、通い始めて22年。初めて日曜日の朝をラグナセカで過ごすことになったのだった。
イタルデザインの広報担当がドライブするGT-R NISMOに、ボクはついていくことに。たった1台しかないプロトタイプ。これから日本でのお披露目も待っている(近日来日予定!)。絶対に壊すわけにはいかない。肝に銘じてコースに繰り出せば、あれだけ“気をつけて、無理するなよ”と言っていたイタリア人のNISMOが、いきなり全開で走り去った。
NISMOのリアウイングにはカメラが付いていて、GT-R50の走る勇姿を記録することになっている。離されてしまったんじゃ、意味がない。ええいままよ、と、筆者も必死になって食らいついた。
プロトタイプだというのに完成度が高い。コックピットの様相はがらりと変わっているけれども、乗り味はGT-Rそのものだ。瞬く間に、ただGT-Rをドライブしている気分になった。そうだ、GT-Rなら何度もサーキットをドライブしているじゃないか。どこかで1億円にビビっていた自分がいたが、「ブガッティ・シロン」だって全開にしたじゃないか! と、少しだけ開きなおってみせる。
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歴史の誕生に立ち会う
GT-R50はGT-R NISMOよりはるかに高出力(720ps)で大トルク(780Nm)をうたっている。ビルシュタインのアシも併せて改良されているらしい。ノーマルとの差は歴然だ! と言い放ちたいところだけれども、正直言うと、あまり違いが分からなかった。何しろ、久しぶりのラグナセカで夢中になっていた。それにGT-Rはそもそも速いクルマだ。さらに実を言うと、速いモードにするにはどうすればいいのかも分からなかった。たった2周しかなかったのだ。
というわけで、GT-R50の初体験はあっけなく終わってしまったけれども、ひとつだけ言えることがある。プロトタイプというには、驚くほど完成度が高く、サーキットを真剣に走っても、何ら不満や不安を感じることはなかった。これだけユニークなデザインを限定モデルとはいえ生産車両として開発し、なおかつ5カ月という短期間で製作、これだけ走るようにできるというイタルデザインの技術には感服する。パフォーマンスはノーマルでも十分で、それに公式スペックとして驚くべき数字が与えられているのだから、1億円のスーパーカーとしては、それで十分だろう。ほぼ誰も、それを実際に試したりはしないのだから。
GT-R50 by Italdesignの本格生産は、2018年末から始まるという。来年のこの時期には、もう1号車が幸運なオーナーのもとへとデリバリーされることだろう。すでに引き合いも相当あって、日本人もオーダーしているらしい。ちなみに販売はイタルデザインで、コンフィギュレーションもイタリアに赴き、担当デザイナーと相談しながら好みの仕様にビスポークするのが望ましい、とイタルデザイン関係者は言っていた。
GT-Rにまたひとつ、新たな伝説が加わった。
(文=西川 淳/写真=日産自動車、イタルデザイン・ジウジアーロ/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
日産GT-R50 by Italdesign
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4784×1992×1316mm
ホイールベース:2780mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.8リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:720ps(530kW)/7100rpm
最大トルク:780Nm(79.5kgm)/3600-5600rpm
タイヤ:(前)255/35R21/(後)285/30R21(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:--km/リッター
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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