第6回:ボルボXC40(後編)
2018.10.03 カーデザイナー明照寺彰の直言![]() |
好評を博す「ボルボXC40」の造形について、前編では全幅の広さや斜め後方の視界の悪さを指摘した明照寺彰氏。やはり、実用性を犠牲にした部分に関しては疑問もあるという。しかしディテールを見ていくと、その狙いや技巧にはうならされるところが確かにあったようだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
グローバル化が招いた全幅のチキンレース
明照寺彰(以下、明照寺):今は、どこのクルマもグローバルでの販売を考えているので、車幅は広がる方向なわけです。日本車だって、多くのモデルがあらゆる国で売られるようになっていますから、やっぱり幅は広がる方向にあるわけですけど。
ほった:グローバルというのは、主にアメリカや中国なんでしょうか。
永福ランプ(以下、永福):まぁそうですよね。そのあたりの国のユーザーは、全幅をそんなに気にしませんし。
ほった:世間的には「1900mmぐらいまでならいいだろう」という感じなんですかね? 「ジャガーEペース」なんて、コンパクトSUVとか言っときながら幅が1900mmなんですけど。
明照寺:もうすでに、1900mmを超えるか超えないかっていうところまで来ちゃってますよね。自分が自動車デザイナーになった頃は、まだ「5ナンバー枠内で!」という国内市場の要求が、かなり大きかったんですが。
永福:それにしても、5ナンバー枠の全幅1700mm未満と、今の目安の1900mm未満じゃ、200mmも差があるわけで、まさかこんなに急激に肥大化するとは思ってませんでした。
明照寺:国内市場でも、5ナンバー枠にこだわる人があまりいなくなってきているのは確かですけど、それでもCセグで1800mm後半というのは、さすがにやり過ぎな気がするんです。ボルボもそうですが、ブランドによっては一応エントリーモデルじゃないですか。それがそこまで行くというのは、ちょっとどうなのかなぁ。
永福:このまま全幅の拡大が続くかと思うと、怖くなりますよ。果たして揺り戻しはあるのか……。
ほった:あってほしい気もしますね。
永福:「バイパー」の全幅がフツーになっちゃったら、日本の道路は破滅するもんね(笑)!
前と後ろの“オーバーハング”に見る狙い
明照寺:全幅はともかく、XC40のデザインはすごくキレイだと思います。たとえばリアゲートの下のほう、“オーバーハング”になってるじゃないですか。他のクルマには、ちょっとこういうのはない。
ほった:えぐれてますね。
明照寺:たぶん狙いとしては、フロントのオーバーハング――逆スラントのフロントマスクとあわせて、ウエストラインあたりからタイヤに向かってボディーがすぼまっていくように見せたいんでしょう。軽快感を出そうとしているのだと思います。
永福:下を軽く見せようとしているんですね。
明照寺:スケッチ段階では、そういうデザインはよく描かれますけど、量産になるまでそのままというのは、なかなかないですよ。なぜなら、どうしてもバランスが取れなくて、頭でっかちで重たい感じになってしまうからです。だけどこいつは、その下のボリューム感が強いので、それを支えられている。
永福:フェンダーを強く張り出すことで、バランスを取っている?
ほった:だから全幅がこんなに広くなっちゃったのかな。
明照寺:それもあるかもしれませんね(笑)。いずれにせよ、とにかくそのあたりの処理がすごくうまい。今どき、スラントが逆のクルマなんてないじゃないですか。空力用件を考えると確実に不利ですから。歩行者保護を考えても不利になる。
永福:ほとんど消えてしまったからこそ、逆スラントの力強さには、魅力を感じますねー。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
このデザインは“タイヤの踏ん張り”があればこそ
明照寺:さらに、いわゆるバンパーの出っ張りが明確なんですよ、このクルマ。
永福:うーん、言われてみれば。
明照寺:最近のデザインは、「極力バンパーっぽさをなくそう」という方向に向かっているんですけど、これはいわゆる“普通のバンパー”っぽい。前後とも逆スラントで、自然とバンパーの上に棚(たな)ができてしまうのでこうなるわけです。普通にやると古臭さが出ちゃうんですけど、そこもうまいこと処理されている。そういうところにも感心しますね。まあそれも、車幅がこれぐらい広いから成立しているんでしょうけど。なにはともあれタイヤが支えてくれますからね。
永福:重量ではなく、カタチをですよね。
明照寺:クルマって、タイヤ基準でデザインを考える側面があるので。タイヤの踏ん張り感はすごく重要なんですよ。だからこそ、フェンダーの強さってどんなクルマでも欲しいものなんです。
永福:デザイナーが全幅を余分にもらえたら、基本的にフェンダーのふくらみに使うんでしょうか?
明照寺:ドアに使うのもありますけど、でもまあ、極力フェンダーに使いたいな。
永福:なるほど。ではそろそろ、まとめとしてXC40のデザインについてひと言でお願いします。
明照寺:うーん、「その全幅、私にもよこせ!」って感じですね。
永福:デザイナーとしては、そういう言葉になるんですね~。
ほった:ちょっと思ったんですけど、デザイン画を最初に起こすときにはもう、細かいサイズとかは決まっているんですよね?
明照寺:決まっていることが多いですよ。クルマを造るときは、最初にまずパッケージが決まるんです。乗員の位置関係とか全長、全幅、全高、それと視界関係。それがすべて図面になっていて、それに沿ってデザインをするんです。まあ、場合によっては寸法を変えられないか相談したりもしますね。大きく変わらないことが多いですが。
ほった:じゃあXC40の場合も、デザイン以前の段階からこのべらぼうな全幅は決まっていたんですかね? 誰が言い出して決まったんですかね、この幅。
明照寺:どうでしょう。それはわからないなぁ(笑)。
(文=永福ランプ<清水草一>)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

明照寺 彰
さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。
永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。
webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。
-
第41回:ジャガーIペース(後編) 2019.7.17 他のどんなクルマにも似ていないデザインで登場した、ジャガー初の電気自動車「Iペース」。このモデルが提案する“新しいクルマのカタチ”は、EV時代のメインストリームとなりうるのか? 明照寺彰と永福ランプ、webCGほったが激論を交わす。
-
第40回:ジャガーIペース(前編) 2019.7.10 ジャガーからブランド初の100%電気自動車(EV)「Iペース」が登場。SUVのようにも、ハッチバックのようにも見える400psの快速EV。そのデザインに込められた意図とは? EVデザインのトレンドを踏まえつつ、現役の自動車デザイナー明照寺彰が語る。
-
第39回:アウディA6 2019.7.3 アウディ伝統のEセグメントモデル「A6」が、5代目にモデルチェンジ。新世代のシャシーやパワートレインの採用など、その“中身”が話題を呼んでいる新型だが、“外見”=デザインの出来栄えはどうなのか? 現役のカーデザイナー明照寺彰が斬る。
-
第38回:三菱eKクロス(後編) 2019.6.26 この“顔”はスポーツカーにもよく似合う!? SUV風のデザインが目を引く、三菱の新しい軽乗用車「eKクロス」。迫力満点のフロントマスク「ダイナミックシールド」の特徴とアドバンテージを、現役の自動車デザイナー明照寺彰が語る。
-
第37回:三菱eKクロス(前編) 2019.6.19 三菱最新のデザインコンセプト「ダイナミックシールド」の採用により、当代きっての“ド迫力マスク”を手に入れた「三菱eKクロス」。そのデザインのキモに、兄弟車「日産デイズ」や同門のミニバン「三菱デリカD:5」との比較を通して迫る。
-
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。