ジャガーFタイプ Rダイナミック コンバーチブルP300(FR/8AT)
ちっちゃいことはどうでもいい 2018.10.03 試乗記 ジャガーのオープントップモデル「Fタイプ コンバーチブル」に、2リッター直4ターボエンジン搭載モデルが登場。ダウンサイジング化したジャガーにピュアスポーツカーを駆るよろこびはあるのか? 高速道路からワインディングロードまで、さまざまな道で吟味した。“屋根なし”こそオリジナル
2013年に初めて登場したジャガーFタイプは、「コンバーチブル」だった。2座オープンボディーはオールアルミのモノコック。これはひょっとして“ジャガーの「ロータス・エリーゼ」”のようなクルマになるのか、と思ったら、1年後に「クーペ」が加わった。わざわざコンバーチブルと名乗るようになったのはそれ以来である。
ふつうオープンモデルというのは、クローズドボディーのあとから出る。上屋を取り払った分の剛性補強と、オープン機構の追加のために、車重は少なからず重くなる。
でも、青天井を楽しむぜいたくのためなら、仕方ない。といったあきらめは、Fタイプ コンバーチブルでは不要だ。グレードを問わず、車重はクーペより10kgしか重くない。さすがFタイプの“オリジナル”である。
今回試乗したのは、2018年からFタイプシリーズに加わった「インジニウム」エンジン搭載モデル。「Eタイプ」直系のジャガースポーツカーを2リッター4気筒で走らせる。試乗車はスポーティー仕上げの「Rダイナミック」(2018年型/1026万円)である。
パンチに欠けるがおいしいエンジン
後ろ開きのボンネットを開けると、ジャガー・ランドローバーの直噴2リッター4気筒ターボ、インジニウムが現れる。ここには最大5リッターV8スーパーチャージャーまで搭載されるが、2リッター4気筒も不思議とあつらえたように収まっていて、スカスカな感じは見えない。樹脂のエンジンカバーには “JAGUAR”と書いてあるが、中をのぞき込むと、部品の多くにはジャガーとランドローバーのメーカーロゴが横並びに打刻されている。
Fタイプのインジニウムユニットは最高出力300ps。340ps/380psの3リッターV6スーパーチャージャー付き、550ps/575psの5リッターV8スーパーチャージャー付きという現行ラインナップのなかではもちろん最も控えめだ。
直近で経験したFタイプというと、数カ月前に乗った「スポーツ400クーペ」である。スーパーチャージャー付きの3リッターV6を400psにまで高めた、2018年モデルの限定車だ。
こちらは100ps少ないのだから、比べればパンチには欠けるが、不満はない。むしろ動き出しは「トヨタ86」のように軽い。車重1670kgのこのクルマも0-100km/hをクーペと同じ5.7秒でこなす。走り味の“芯”に軽やかさを感じるのは、アルミボディーのなせるわざかなと、Fタイプに乗るたびにいつも思う。
アイドリングストップ機構を備えるが、回っているとアイドル回転数でもけっこう存在感がある。低速域での排気音はV8的な低音だが、回すとハイレヴではスポーティーな4気筒らしいイイ音になる。2リッターでもFタイプをFタイプらしく楽しめるエンジンである。
気軽に開けて楽しめる
試乗したのは、南から台風が近づきつつある日だった。陽が差していたかと思うと、ときどきシャワーのような雨が降ってくる。
そんな状況でありがたかったのは、使い勝手にすぐれる電動ソフトトップだ。ATセレクターより近い位置にあるスイッチを操作すると、開けるのに10秒、閉めるのに13秒。もちろん手動ロックなど不要の全自動だ。しかも「50km/h未満のときに作動できます」とトリセツに書いてあるとおり、開閉可能速度域が異例に高い。止まったら開け閉めしようと思っているうちに、結局、今日も開閉しなかったという宝の持ち腐れに陥らないオープンである。
畳まれたソフトトップはシート背後の長さ40cmほどのスペースにトランクルームを犠牲にすることなく収まる。クーペと違って、Fタイプ コンバーチブルの2座キャビンは、ミドシップのスーパーカー同様、モノを置くスペースがない。深いところで50cmある、スポーツカーとしては広めのトランクを備えるのはありがたい。
Fタイプのコンバーチブルに乗ったのは、今回が初めてだった。車重わずか10kg差で、動力性能の公称値もクーペと変わらないのがコンバーチブルの売りだが、しかし運転していると、クーペより少し重心感覚が高い印象を受けた。ピュアなスポーツカーとしての魅力はクーペがわずかに勝ると思う。そのかわり、上を開けて青天井にしたとたん、「そんなちっちゃいことはどうでもいいか」と思わせてくれるのがコンバーチブルである。
悩ましいのは価格
コンバーチブルは、同グレードのクーペに対して一律165万円高。なかなかの価格差だが、逆に登場時から価格競争力をアピールしていたのがクーペである。インジニウム搭載のベーシックグレードだと、2019年モデルで806万円だ。
1962年4月に出た『カーグラフィック』誌創刊2号の巻頭ジャガー特集で、小林彰太郎編集長が「ジャガーの伝統は常に“よいものを安く”という事であった」と書いている。思わず目をみはるようなジャガー観だが、「同等の性能を持つ『メルセデス300SL』や『フェラーリ400』の半分以下の値段でEタイプが買えたことを考えれば、やはりEタイプは驚くべき“安価な性能”を持っていたといわざるを得ない」という続きを読んで納得がいった。
Fタイプの変速機は8段ATだが、最新の日本仕様でも380psの3リッターV6モデルで6段MTが選べる。決してカタログモデルではなく、中古車市場にも出回って「希少なMT!」なんて惹句(じゃっく)をつけられている。2リッター4気筒までダウンサイジングを果たしたのだから、700万円をきるようなMTモデルを仕立てて、間口の広さをアピールしてみたらどうだろう。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=ダン・アオキ/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
ジャガーFタイプ Rダイナミック コンバーチブルP300
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4480×1925×1310mm
ホイールベース:2620mm
車重:1670kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:300ps(221kW)/5500rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2000rpm
タイヤ:(前)255/35ZR20 97Y/(後)295/30ZR20 101Y(ピレリPゼロ)
燃費:12.2km/リッター(JC08モード)
価格:1026万円/テスト車=1434万9000円
オプション装備:メタリックペイント(16万9000円)/Meridianデジタルサウンドシステム(37万2000円)/パフォーマンスシート(33万円)/インテリアムードライト<5色>(6万2000円)/フロントパーキングコントロール(5万5000円)/リアビューカメラ(5万5000円)/パークアシスト(10万5000円)/20インチ スタイル6003アロイホイール(32万5000円)/InControlセキュリティー(9万7000円)/InControlプロテクト(4万6000円)/ジャガースマートキーシステム<キーレスエントリー&スタート>(8万2000円)/イルミネーテッドメタルトレッドプレート(4万9000円)/ウインドディフレクター(13万7000円)/ジャガースーパーパフォーマンスブレーキシステム(44万7000円)/デジタルテレビチューナー(12万9000円)/レッドブレーキキャリパー<ジャガーロゴ入り>(4万9000円)/エクステンデッドレザーパック(12万1000円)/InControlコネクトプロパック(5万7000円)/コールドクライメイトパック2(29万2000円)/エクステリアデザインパック(32万8000円)/ブライトメタルペダル(2万3000円)/シートメモリーパック2(16万4000円)/プレミアムレザーインテリア(59万5000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:1681km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:376.2km
使用燃料:42.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.8km/リッター(満タン法)/7.8km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。
























































