メルセデス・ベンツGLC F-CELL(RR)/C300deステーションワゴン(FR/9AT)/E300e(FR/9AT)/S560e(FR/9AT)/スマートEQフォーツー(RR)
どんなニーズにも最良の選択肢を 2018.10.19 試乗記 2016年のパリモーターショーで発表されたメルセデスの「EQ」は、同社の電動化モデルに与えられるブランド名だ。プラグイン燃料電池車の「GLC F-CELL」を筆頭に、ディーゼルPHVの「C300de」やピュアEVの「スマートEQフォーツー」など全ラインナップの試乗インプレッションを報告する。いよいよ世に出るメルセデスの燃料電池自動車
メルセデス・ベンツが“Driven by EQ”と題して開催したプレス向けの国際試乗会では、2018年9月に発表されたメルセデス・ベンツ初の「BEV(Battery Electric Vehicle)」である「EQC」こそステアリングを握ることはかなわなかったものの、それ以外の現時点で用意されたほとんどの選択肢について実際に体感することができた。
目玉はGLC F-CELLだ。長年開発を続けてきたメルセデスの燃料電池自動車がついに世に出るのである。
GLC F-CELLの特徴はプラグインハイブリッドであることだ。現状の水素ステーションの設置状況を鑑みて、外部充電により最大51kmの距離を走行可能とする容量13.5kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載することで、高い効率性と利便性を両立させようとしている。
駆動用電気モーターはリアに積まれていて、最高出力211ps、最大トルク365Nmを発生する。700barの高圧水素燃料タンクの容量は4.4kgで、これら両方を併用するデフォルト設定の“HYBRID”モードでは、478km(NEDCモード)という航続距離を実現する。
その走りはインパクトたっぷりだった。バッテリーが十分に充電された状態であれば、通常走行の感覚はほぼBEVと変わらず、静かに、滑らかに、そして力強く加速していく。
バッテリー残量は走りのフィーリングに影響なし
試しに“F-CELL”モードに切り替えると、通常走行には不満はないものの、パッと踏み込んだ時の瞬発力がわずかに落ちる。これは燃料電池の特性で、例えばトヨタの「ミライ」も小容量のニッケル水素バッテリーを搭載し、発電した電気をいったんそこに蓄えてから使うことでそれを回避している。だが、GLC F-CELLはバッテリー容量が大きく、しかも電力の出し入れが素早いリチウムイオンということもあってか、こうした場面でも実用上申し分のないレスポンスを示すのだ。
走行モードは他にも完全に充電した電気だけで走行する“BATTERY”、充電優先の“CHARGE”が備わり、計4つから選べる。このあたりは内燃エンジンを使ったプラグインハイブリッド車と同様だが、GLC F-CELLの場合はどのエネルギーを使うのであれ、駆動はあくまで電気モーターで行われるというのが大きな違いとなる。つまりバッテリー残量が減ってきても、走りのフィーリングにはまったく変化はないのである。
燃料電池とプラグインハイブリッドの組み合わせは最高。内燃エンジン付きに乗ったらガッカリさせられてしまうかも……と、つい思ってしまった。しかし次に乗り込んだC300deは、そんな先入観を覆す、これまた爽快な乗り味を実現していた。
ディーゼル+電気モーターの力
メルセデスにとっては3世代目の90kW、440Nmを発生する高出力電気モーターを採用するプラグインハイブリッドシステムと、2リッターディーゼルターボエンジン、そして9G-TRONICを組み合わせたC300deのシステム出力は実に306ps、700Nmにも達する。そして13.5kWhという大容量のリチウムイオンバッテリーを搭載することにより、EV航続距離は最長57kmと長い。
C300deも通常はできる限りエンジンを始動させることなく電気モーターだけでパワフルかつスムーズに走行する。キックダウンさせるなど、大きな力を必要とした時にはエンジンが始動してふたつの動力源での加速が始まる。エンジン単体でも400Nmに達するトルクは強力で、決まり文句を使うならば大きな手で後ろから押し出されているかのような速度の高まりを体感できるのである。ディーゼル+電気モーターの力は、凄(すさ)まじいものがある。
こんなふうに走りはいいのだが、欠点も見つかった。ラゲッジスペースが狭いのだ。これは大容量リチウムイオンバッテリー搭載の弊害。セダンの苦しい部分といえる。
スムーズさではディーゼルPHVの上を行く
続いて試した「E300e」は、同じプラグインハイブリッドシステムを2リッターガソリンターボエンジンと組み合わせる。システム最高出力は320ps、最大トルクは同じ700Nmで、EV航続距離は50kmとされる。
こちらも基本的な走行ロジックは似通っているが、エンジンが始動した時の存在感はディーゼルほど大きくなく、スムーズさでは上を行く。分厚いトルクによりキック力では負けるが、代わりにトップエンドまでの伸びはやはり上回るから、加速感はより爽快といっていい。実際、0-100km/h加速はC300deと同じエンジンを積むE300deの5.9秒に対して、5.7秒とわずかながら速いのだ。
「S560e」が搭載するのは直列ではなくV型6気筒の3リッターツインターボエンジンと、やはりこちらも同様のプラグインハイブリッドシステムである。エンジン単体で367ps、500Nmの力を発生し、システム出力は476ps、700Nmに達する。EV航続距離は最大50km。従来モデルに用意されていたS550eに対して電気モーター出力、バッテリー容量、そして制御系を刷新することで、よりパワフルでEV航続距離の長い一台に仕立てている。
その走りは、電気モーター走行のスムーズさと「Sクラス」らしい高い静粛性が相まって、まさに滑空するような感覚。0-100km/h加速は5.0秒と俊足で、しかもマルチシリンダーとあって、つい右足に力が入りそうになるが、それでも静粛性は極めて高いから、エンジンの存在を忘れてしまいそうになるほどだ。
EQこそがスマート本来のあるべき姿
最後に乗ったのがスマートのEQである。2020年のヨーロッパを皮切りに、順次EVに特化したブランドに変革していく予定のスマートは、「フォーツー」「フォーツーカブリオ」「フォーフォー」の3モデルすべてにBEV版のEQを用意する。いずれも最高出力60kW、最大トルク160Nmの電気モーターと容量17.6kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載。家庭用ソケットでも充電可能で、航続距離は最長160kmとなる。
エンジン車より格段にスムーズな走りは、このスマートEQこそがスマートの本命と実感させる。車重の重さも乗り心地を落ち着かせていて、これまた悪くない。160kmという航続距離は判断が分かれるが、スマートの使われ方を考えれば大抵は十分なはずだ。
冒頭に示したメルセデス・ベンツの見立てによれば、2025年にはBEVが販売全体の15~25%を占めるだろうという。15~25%というのは実際のところ随分幅が広いが、いずれにしても言えるのは、実は大半を占めるのは依然として内燃エンジンを併用するマイルドハイブリッドとプラグインハイブリッドになる、と彼らが見ていることだ。
だからこそ彼らは内燃エンジンの開発の手を緩めることはないし、マイルドハイブリッド、プラグインハイブリッドも単なる橋渡しの技術と捉えず、これだけ力を入れたラインナップをそろえてきた。それも、やみくもに何でも手を広げるのではなく、モジュラーユニット化の推進で開発工数をできるだけ低減しつつ実現しているあたりに、スマートさを感じる。
電動化は避けられない道だとして、その中でどのパワーユニットを選ぶのかはメーカーがではなくユーザーが決めること。どんなニーズにも最良の選択肢を用意するというのが彼らの哲学なのだ。
(文=島下泰久/写真=ダイムラー/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツGLC F-CELL
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4671×2096(ミラー含む)×1653mm
ホイールベース:2873mm
車重:--kg
駆動方式:RR
モーター:交流同期電動機
最高出力:211ps(155kW)/--rpm
最大トルク:365Nm(37.2kgm)/--rpm
タイヤ:(前)-- /(後)--
最大走行可能距離:478km(NEDCモード)
価格:--万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--kg(水素)
参考燃費:--km/kg
![]() |
メルセデス・ベンツC300deステーションワゴン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:--mm
車重:--kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4ディーゼル
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:194ps(143kW)/3500rpm
エンジン最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1600-2800rpm
モーター最高出力:122ps(90kW)
システム最高出力:306ps(225kW)
システム最大トルク:700Nm(71.4kgm)
タイヤ:(前)-- /(後)--
燃費:1.4-1.6リッター/100km(約62.5-71.4km/リッター、NEDC複合モード)
価格:--万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
![]() |
メルセデス・ベンツE300e
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:--mm
車重:--kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:211ps(155kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:350Nm(35.7kgm)/1200-4000rpm
モーター最高出力:122ps(90kW)
システム最高出力:320ps(235kW)
システム最大トルク:700Nm(71.4kgm)
タイヤ:(前)--/(後)--
燃費:2.0リッター/100km(50.0km/リッター、NEDC複合モード)
価格:--万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
![]() |
メルセデス・ベンツS560e
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:--mm
車重:--kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッターV6
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:367ps(270kW)/5500-6000rpm
エンジン最大トルク:500Nm(51.0kgm)/1800-4500rpm
モーター最高出力:122ps(90kW)
システム最高出力:476ps(350kW)
システム最大トルク:700Nm(71.4kgm)
タイヤ:(前)--/(後)--
燃費:2.5-2.6リッター/100km(約38.4-40.0km/リッター、NEDC複合モード)
価格:--万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
![]() |
スマートEQフォーツー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:--mm
車重:--kg
駆動方式:RR
モーター:交流同期電動機
最高出力:81.5ps(60kW)/--rpm
最大トルク:160Nm(16.3kgm)/--rpm
タイヤ:(前)--/(後)--
一充電最大走行可能距離:154-160km(NEDCモード)
交流電力量消費率:20.1-12.9kWh/100km(5.0-7.8km/kWh、NEDC複合モード)
価格:--万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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